異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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妖精の森編

一触即発 ②

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 「仮にも救世主の監視人としての立場がある私に対等に話せるとしたら、副支長に成ったロシル、それか、私の記憶のままであれば、タキア南部方面総憲長のホーデリーフェさん、参号隊隊長プルシラさんしか居られないと思いますが?」
 「そ、それは、そうですが……」
 「なのでホーデリーフェさんとプルシラさんが来たのではありませんか?」
 「ホーデリーフェちゃ~ん。エスカさんに~、口でも剣でも勝てないよ~」
 「何か言いましたかプルシラさん?」
 「い、い、いいえ~」
 
 先ほどまでの殺気に満ち満ちていた二人の姿はなく、飼い主に怒られている子犬のようになっていた。
 それを見ていた大三郎はメルロに耳打ちするように聞く。

 「あのさ」
 「ん? 何だろうか? 救世主様」
 「いや、あの。エスカって何者なの?」 
 「え? 救世主様はご存じないのか?」
 「ま、まぁ……。おっぱい大きいとしか」
 「……。救世主様」
 「じょ、冗談です。すみません」
 「さっきの一触即発をたった一言で治めた救世主様と今の救世主様は全くの別人に見えてしまう」
 「すみません。同一人物ですみません」

 メルロは大三郎でなければ呆れて軽蔑の目で見てしまうのだろうが、何故かこの救世主は何をしても憎めないのだった。寧ろ、伝え聞いていた後光がさす程の救世主より、大三郎と言う何だかんだ雑な救世主の方が接し易く安心するのだった。それはソフィーアも同じだろう。

 「どうした? 救世主様」
 「い、いや。何か今、凄い失礼な事を言われた気がして……」
 「誰にだ?」
 「い、いや。気の所為だ、気にしないでくれ」
 「ふむ」
 「それより、エスカって何者なんだ?」
 「ああ。そうだった。エスカ殿はエラルド帝国の聖騎士長だった人物だ」
 「は? 聖騎士?」
 「そうだ。歴史上、初でもある女性の聖騎士長。当時、それはそれは有名だった。その話を聞いた時、私もエスカ殿に憧れ日々精進したものだ。私もエスカ殿のように成りたいと」
 「国家だの聖騎士だのって……、マジで頭がごちゃごちゃしてきた」
 「何故だ? 救世主様」
 「何故って……。エスカがエリートなのは何となく感じてたけど、国家とか聖騎士とか馴染みが無いと言うか」
 「馴染み?」
 「んまぁ、何て言うか、俺の地元と言うか地球でも国家公務員さんは居たけど、知り合いには居なかったし、会社でもエリートなんて俺とは無縁だったしなぁ」
 「かいしゃ?」
 「あ~、働く組織みたいなとこ」
 「ほー。救世主様の青星での話は少々興味あるな」
 「あはは。大した話はないよ。まぁ~、一番の思い出は、新人の頃、たった300人で100万のアマゾネスと戦ったような出来事はあったけどね……」
 「ひゃ、ひゃく、100万!? た、たった300でか?」
 「ああ。何とか目標は達成したけど、終わって気づいたら体中が痛くてさ、打撲や擦り傷ひっかき傷、そして極め付けが肋骨一本骨折。シャレにならなかったなぁ~」
 「エスカ殿も凄い御仁だが、救世主様の事を改めて知るとやはり只者では無いな。そんな凄い戦いでそれだけで済むとは……」
 「んあ? ま、今は俺の話は置いといて、エスカね」
 「あ、あぁ。そ、そうだな」
 「昔はジャンヌダルクで今は国家公務員一種の超エリートさんって事なのは理解した」
 「じゃ、じゃん、ぬ?」
 「あ~、青星で有名な女性。まぁ、聖騎士じゃなくて聖女なんだけどね。ま、言葉の語呂で言っただけだから」
 「ほー。聖女か。ふむ、エスカ殿にピッタリだな」
 「自分で言っといてなんだけど、そうかぁ? どちらかと言うとエスカはセミラミスって感じだけどな。それに聖女ってんなら、やっぱりソフィーだろ?」
 「ふむ、ソフィーは聖女にぴったりだ。ところで、そのセミなんとはどう言った人物なのだ?」
 「ん~、美人で頭が良くて、んで」
 「ほうほう」
 「贅沢好きで好色で、且つ! ここの部分が一番エスカにぴったりだろ? あはは」

 無邪気に笑う大三郎を見ながらメルロはエスカに聞こえてない事を祈るのだが、タイミングが悪いと言うか運が悪いと言うか、無邪気に笑う大三郎の横にエスカが無表情で立っていた。
 
 「エスカさんは残虐非道ですか?」
 「あはは! そうだろ~? あいつほど残虐非道が服着て歩いてるって言っても過言では、あはは、ない、あは、ことも、ないと思われ……美人だな~と思う、今日この頃で、お日柄も良く……」

 目と目が合うエスカと大三郎。無表情からにこりと笑うエスカ、ナイアガラの滝のような汗を吹き出している大三郎。
 
 「続けてください」
 「な、なにをでしょう?」
 「お話の続きです」
 「む、む、むかしむかし、ある所に……」
 「それで?」
 「おじーさん……と、おばーさんが……居ました」
 「それで?」
 「め、めでたしめでたし」
 「それで?」
 「あ、あの、その」
 「それで?」
 「ご、ごめんなさい」
 「それで?」
 「あ……ぅ、ぁぅ」
 「それで?」

 流石のメルロも居た堪れなくなり助け舟を出す。

 「エ、エスカ殿」
 「何でしょう?」

 一切メルロを見ず、滝のような汗をかき目がバタフライしている大三郎の顔を凝視しながら返事をする。

 「い、いや。救世主様が言っていたのはエスカ殿は聖女だと」
 「聖女?」
 「そ、そうだ。救世主様の後の言葉は照れ隠しみたいなもの。そこは察してやってはどうだろうか?」
 「……。私が聖女。照れ隠し」
 
 エスカは大三郎の顔を凝視しながら暫し考える。

 「ま、良いでしょう」

 エスカはそう言いくるりと背を向ける。

 「そ、そうか。良かったな、救世主様」
 「あうあぅ……うぅ」
 
 大三郎は泣きそうなくしゃくしゃな顔で声にならない声のままメルロに礼を言っている。

 「救世主様。余程怖かったのだな……。だが、もう大丈夫だ。エスカ殿は怒っておられん」
 「あうあ……うぅ」

 失禁寸前だった大三郎に背を向けたままのエスカにロシルが心配そうに駆け寄る。

 「ね、姉様! 大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですよ? 少しお休みなってください」
 「だ、だだ、大丈夫です。顔など赤くはありません」
 
 心配してくれるのだがロシルの空気の読めない言葉に動揺してしまうエスカ。

 「赤いんですか?」
 「え? ええ」

 今の今まで産まれたての小鹿のように震えていた大三郎は、歴戦の軍人のようにピシリと背筋を伸ばしロシルに凛々しい真顔で聞く。ロシルもホーデリーフェ並みに豹変する大三郎に驚きながら返事をした。

 「赤いんですか。そうですか。時にエスカさん」
 「……。何でしょう? 変な事を一言でも言ったら即ライトニングなのをお忘れなく」
 
 ”大三郎に振り向きもせず背を向けたまま、たわわな爆乳の下で腕を組み、たわわな爆乳を組んだ腕で持ち上げるような形で、たわわな爆乳、しかり、たわわな爆乳と言う胸を張る。SO、爆乳なのである”

 「何故あんたは変なナレーションを付けるの? 合ってるけど……、うん、合ってる。うん、良いかも。うん」
 「ほぅ。ロシル君。これが分かるとは君は中々のセンスの持ち主のようだ」
 「姉様の事なら任せなさい」

 ロシルは大三郎にドヤ顔で答える。
 エスカは溜息をつき、一呼吸おいてから大三郎に振る向くとその刹那、大三郎が言い放つ。

 「聖女エスカ! 救世主一行の聖女、エスカ! 初めて会った時からお前は俺の聖女だ!」
 「なっ!」
 
 エスカは突然の言葉に再びボンと顔を真っ赤にさせる。

 「聖女……。うん、そうね。あんたも中々のセンスじゃない?」
 「ふふふ。こう言う事は俺に任せてもらおうか」
 
 ただ褒めたいだけのロシルと、ただ揶揄からかいたいだけの大三郎。目指す所は全く違うのだが、デコとボコで四角になるように変な所で気が合うようだった。

 「あ、あの。御取込み中、申し訳ないのですが」

 ホーデリーフェが申し訳なさそうに大三郎達に声を掛ける。

 「ん? どうした?」
 「い、いえ、あの……そろそろ」
 「そろそろ?」

 キョトンとする大三郎の前でエスカは自分の頬を両手でパンと叩き何時もの口調で説明しだす。

 「これからホーデリーフェさん達と行く所があるので、杉田様はロシルさん、……コホン。ロシルと私達が帰って来るまでご一緒していてください。ついでに用を済ませるのを手伝っていても良いですよ」
 「え? 何で?」
 「人助けだと思えば良いのではありませんか? それとも、私に何か意見でも?」
 「一つ聞いても良いか?」
 「はい」
 「僕が意見を言ったら、どうなのるでしょう?」
 「意見を言う前に体験したいのですか?」
 「あ。電撃ですね。理解しました」
 「結構」

 二人のやり取りを見ていたホーデリーフェはおずおずとエスカに尋ねる。

 「あ、あの、エスカさん?」
 「何でしょう?」
 「ほ、本当に、救世主様はお怒りになっておられないのですか?」
 「はい」
 「しかし……、自ら世界を滅ぼすとまで言って―――」
 「大丈夫です」
 
 エスカはホーデリーフェの言葉に被さるように言ってのけるが、然りとて覚悟を決める程の事をした自覚がある者には一抹の不安は消えない。それを察したようにエスカが言葉を足す。

 「怒りを鎮める魔法をかけましたから」
 「怒りを?」
 「はい。ある程度ですが、先ほど杉田様の”特徴”を説明したではありませんか」
 「そ、そうですね」
 
 エスカ達の会話を聞いていた大三郎はどうしても一つ納得がいかない事があった。

 「エスカ」
 「何でしょう?」
 「特徴は今は置いておこう。それよりも、怒りを鎮める魔法と言いましたね?」
 「はい」
 
 大三郎の言葉を聞きホーデリーフェや気配を消して極力目立たないようにしていたプルシラはびくりとなるのだが、大三郎の次の言葉を聞きキョトンとする。

 「呪いの間違えではないのでしょうか?」
 「何の事でしょう?」
 「……うん。そっか。分かった」
 「お分かりになっていただけましたか? それでは私達は用を済ませ――――」
 「爆乳は記憶力の無いバカで、本体がおっぱいだと言う事が分かりましダァアアー!!」
 
 大三郎が言い終わると同時にエスカは大三郎の耳を万力の如く指でつまみ捻り上げる。

 「すみません。聞こえなかったので、もう一度仰っていただけませんか?」
 「痛ダダだ! は、離せ取れるー! いダぎゃああー!」
 「何ですか?」
 「呪いかけたじゃねーか!? いダだダダ!」
 「ええ、そうですが何か?」

 ホーデリーフェとプルシラは本物の救世主を雑に扱い、その上、呪いまでかけているエスカに驚愕を隠せない。

 「わ、私達が救世主様にした事が可愛く思えてくる」
 「そ~だねぇ~。流石はエスカさんってとこだね~」

 驚愕を隠せない二人をよそにロシルだけは目を輝かせエスカを見ていた。

 「流石、私の、私だけの姉様。何て凛々しい御姿。救世主も神々も姉様の前では透けて見えてしまうわ」
 
 ロシルに対してもう何も言いたくないホーデリーフェとたわわな胸を揺らしクスクスと笑うプルシラであった。
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