異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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妖精の森編

一触即発 ①

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 静まり返る森の中、メルロの堂に入る立ち姿に息を飲むのもはばかれる程の張り詰めた緊張が漂う。
 
 「副支長。あの女騎士さんはかなりの手練の者と見受けられます。それでもお相手されるつもりですか?」
 「ぐっ……。だったら、あんたも手伝いなさいよ!」
 「嫌ですよ」
 「どうしてよ!?」
 「どう見ても非があるのは副支長ですもの」
 「なっ! 何で私が悪いのよ!?」
 「副支長の救世主様に対する態度は非礼すぎますし、それを咎めた者達に逆切れしているだけですから。どう見ても、どの角度から見ても、百歩譲っても、悪者は副支長です。悪者の肩を持つのはまっぴらごめんです」
 「プルシラも~、そ~思うな~」
 「ひ、酷くない? あんた達、酷くない?」

 ホーデリーフェは今にも泣き出しそうなロシルに溜息をつきながらメルロに問う。

 「女騎士殿、非礼は詫びます。それでも副支長を斬るとなれば、私達も黙ってはいられません」
 「そちらの出方次第だ。パニティー殿には指一本触れさせん」

 ちょっとした一触即発な状況の中、何となく面倒臭かったので我関せずだった大三郎が立ち上がり、ゆっくりとした口調で話し出す。

 「あの~、すみませんが~」
 
 ロシル達もパニティー達も大三郎を見るが、メルロだけはロシル達から視線を外さず柄に手を添えたまま姿勢を崩さずに大三郎に聞き返す。

 「どうかしたか? 救世主様」
 「いや~、メル達にじゃなくてね。そこのお三人さんに聞きたい事がってね」
  
 ロシル達は不意に自分達に聞きたい事があると言われ、少し不思議そうな顔をし、ホーデリーフェが大三郎に尋ねたい事は何なのか尋ねる。
 
 「私達に聞きたい事とは何でしょうか? 答えれる範囲であればお答えしますが?」
 「うん。三つだけだから」
 「はい」
 「君達はとある妖精とエスカに用事があるんだよね?」
 「そうですが?」
 「そっか。んじゃ、君達が俺の仲間に危害を加えようとしているのは、それも用事なのかな? 違うよね?」
 「え? ……はい、違います」
 「んじゃ、用事を済ませて穏便に帰ってくれないかな?」
 「すみません。そのつもりでした」
 「そっか。それなら良かった」

 ホーデリーフェは申し訳なさそうな顔をし、それを見た大三郎はにこりと笑い、争いも何も無かったように済ませようとした。
 だが、ロシルが言い返す。

 「私が何をしようとあんたに言われる筋合いはないのよ! この、クソ男!」
 
 穏便に済ませれたはずの機会を一瞬にして台無しにするロシルの言葉に、今の今までエスカのように冷静沈着だったホーデリーフェが本性を現す。

 「おいロシル? 私は救世主の話に乗っかって穏便に済ませようとしたのが分かんねーのか? お?」
 「え? いや、その」
 「はっきり言えや? どーすんだ? ここに居る奴、皆殺しにするのか? 救世主以外、全員殺せば良いのか? 良いんだな?」
 「え? いや、そ、その」
 
 ホーデリフェーの二重人格に近い豹変ぶりに、メルロは只ならぬ殺気を感じ剣を抜き正眼の構えをとる。

 「あっちは殺る気だぞ? ロシルゥ、テメーも救世主相手に啖呵切ったんなら腹ぁ括ってんだよな?」
 「え? い、いや、あの」
 「も~、ロシルちゃんは~、ホーデリーフェちゃんの言う事を聞かないから~、怒らせちゃうんだよ~」
 「プ、プルシラ、ど、どしよう」
 「ん~、そうだね~。殺るしかないかな~?」
 「え? ちょ、ちょっとプルシラ」

 プルシラはそう言うと両の腰に下げていた二本のシミターを同時に抜く。

 「良いね~。久しぶりに殺し合いと行こうか? なぁ?」
 「そうだね~。斬り殺すのは久しぶり。うふふ」
 「ちょ、ちょっと二人とも、私が悪かったから止めなさいな」
 「うるせーよ。ロシルゥ、テメーが始めた喧嘩だろーがぁ? 今更、芋引くんじゃねーよ」
 「そ~だよ~。あ、でも、エスカさんには手を出しちゃダメよ?」
 「分かってら~。勝てる相手じゃねーからな。ま、その内、けり付けるけどな」
 「じゃ~、殺し合いしましょ」
 「おう、私の分を取るんじゃねーぞ?」
 「うふふ。早い者勝ちだよ~」
 「チッ。ま、久しぶりだし、しゃーねーな」

 只ならぬ雰囲気を醸し出す二人にメルロは全く動じず、正眼の構えのまま出方を伺う。 
 斬り合いが始まろうとしたその刹那、大三郎の大声が響き渡る。

 「今こそ神から授かりし新技を使う時!!」

 そこに居た全員が大三郎の言葉に驚愕する。

 「な、何と? 神から授かりし神技はゴッド・フィンガーだけでは無かったのか? 流石は救世主様」
 「スギター! すごいぞー!」

 メルロ達は新しい技と聞き驚きと興奮を隠せずにいる。

 「神から授かった技だと? そんな話、私は聞いてねーぞ」
 「プルシラも聞いてないな~? あの人~、本物の救世主様でしょ~? ちょっとやばくな~い?」
 
 大三郎が神技を使えるなどホーデリーフェ達は聞かされてはいなかったため、その驚きは尋常では無かった。
 

 神から授かりし技 『神技』
 それは、人が抗えぬ天災と等しき力であり人知を遥かに超えしもの。 
 それは、敵対する者全てを滅ぼし生きとし生ける者全てを救える神の如き力。
 それは、神々から救世主と認められた者だけが与えられる不死に近し者の証である。


 ホーデリーフェだけではなく、この世界に住む者なら誰でも知っている神技に伝わる言い伝えの一節。
 それ故、ホーデリーフェ達の尋常ではない驚きは当然でもあった。その上、新技と言う事は既に神技を使えると言うことでもある。
 
 「俺の仲間に手を出す者は誰であろうと許すことは出来ない。パニティー、メル、ソフィー、そしてエスカ。この中で一人でも傷つけてみろ? お前達だけじゃなく俺がこの世界そのものを滅ぼすぞ」

 救世主なのに大魔王の台詞を言う大三郎は膝上のマントから素足を出した見るからに変質者なのだが、その変質者な姿が見る者全てを大三郎は強者だと勘違いさせる。

 (ハッタリです! 新技なんてありません! 神技つったっておっぱい揉むだけだからね! 現に、ハッタリだと気づいてるエスカがまるでゴミを見るような目で俺を見ています! あの目は、SO! クエストじゃないのに、どさくさに紛れて俺があの娘達のおっぱいを揉む気満々な事に気付いている証拠!)

 大三郎の心の中の真実などホーデリーフェ達に分かるはずも無く、素で大三郎の言葉を真に受け顔面蒼白になる。
 
 「なっ!? 救世主自ら世界を滅ぼすだって!?」
 「ホーデリーフェちゃ~ん、ど~しよ~? それは本格的に~、やばいかも~」
 「チッ……。救世主相手に啖呵切ってるし剣も抜いちまってる。それに、救世主が世界を滅ぼすと宣言しちまった。……くそっ、世界を滅ぼさせる訳にはいかねーぞ」
 「そ~だね~。それだけは~、絶対、ダメな事だよ~。でもぉ、どうするの~?」
 「世界を救うはずの救世主に見捨てられただけでも世界は終わるってのに、見放されるどころか救世主自ら滅ぼすなんて想像もしていなかったぞ。……くそっ、救世主に対する考えが甘かった」
 「どぉ~しよぉ~? いっぱい謝ってもダメかなぁ~?」
 「滅ぼすとまで言った救世主の怒りに、今更平謝りしたところで許してもらえる可能性は無いに等しい。原因は私達だからな。……こうなったら、原因を作った私達の命で勘弁してもらうしかない」
 「そ~なるよね~。ふえ~ん。プルシラ~、帰ったら~、楽しみにしてたエクレール食べる予定だったのに~。ふえ~ん」
 「そ、そうなるわよね……。ごめんなさい、私が二人を巻き添えにしちゃった」
 「もう良いよ。私達は一連択所だ。こんな最後も悪くない」
 「ん~、エクレール食べたかったけど~、そ~だね~。三人一緒に~、死ぬもの悪くないね~」
 「そう言うこった」
 「ごめんなさい。まさか、神技を使える救世主だったなんて……。最後に姉様に別れを言いたかったな」
 「言えば良い。最後くらい救世主も許してくれるだろう」

 ホーデリーフェは剣を捨て、豹変する前の口調に戻し大三郎に懇願する。

 「救世主様。数々の無礼、許される事ではありませんが、私達の命でこの世界を滅ぼすのだけはお許してください。そして、願わくば最後にロシルの頼みを聞いてください。伏してお願いします」

 そう言い膝をつき頭を垂れる。

 (キターーーー!! 勘違いキターーー! ハッタリ大成功! ちょードキドキしたー! ちょー怖かったぁー! おっぱい揉めなかったけど、これはこれでOK! 俺良くやった! 俺すげー!)

 大三郎は飛び跳ねて喜びたいがそれをグッと押さえ、平静を装い静かな口調で話す。

 「分かった。お前達の態度次第で許すかどうか決める。メルもパニティーもそれで良いか?」

 メルロ、パニティー、そしてソフィーアと大三郎の一見したら変質者そのものの姿も”たった一言で治めた救世主の姿”と補正が掛かり、かなり美化されその目に映る。

 「う、うん。スギタがそう言うなら」
 「右に同じく、私も救世主様の仰せの通りにするだけ。ソフィーも同じだと思う」

 ソフィーアは両膝をつき神に祈るように大三郎に頭を垂れ祈りの姿勢で答える。
 
 「ありがとう。んじゃ、ホーデリーフェだっけ?」
 「はい」
 「君の願いを聞き届よう(こう言うセリフ、言って見たかった!)」
 「ありがとうございます。救世主様御一行にも感謝いたします」

 ホーデリーフェは大三郎達に礼を述べるとロシルに向かい、エスカに別れの言葉を言いに行くように勧める。

 「ありがとう。最後の最後まで迷惑かけたわね……」
 「もう良いですよ副支長」
 「プルシラも、ごめんね」
 「気にしなくて良いよ~。来世でエクレール奢ってね~? うふふ」
 「うん。好きなだけ買ってあげるわ」

 ロシルはそう言うとエスカの下まで歩いて行く。エスカの顔を直視できないのか俯いたまま何も言えず、少しの沈黙が続いた。そして、意を決し顔を上げ別れの言葉を言おうとした時、エスカは自分の人差し指をロシルの唇に当てる。
 突然の事にロシルは驚いた表情を浮かべた。
 
 (あぁ。姉様は私なんかの言葉などいらないのですね。仕方ない事、今までご迷惑をかけて何も返せなかったんですもの、嫌われて当然。でも、最後に姉様にお会い出来ただけでもロシルは満足です。お元気で姉様)

 ロシルは心の中でそう呟き、目を閉じ最後の覚悟を決める。が、エスカはロシルの唇から指を離すと大三郎の下までスタスタと歩いて行く。

 「別れの言葉ってやつ聞いてきたか? てか、どうやって追い返すかが問題なんだよな~? エスカ、お前なんか良いアイデアない? 勘違いしてくれたのは有り難いけど、なんか俺があの娘達を殺す事になってんだよ。嫌だよそんなの」

 真剣に悩んでいる大三郎をエスカはじっと見る。

 「どうしよっかな~? 何か適当な事を言って、用事済まさせて帰らそうかな? それが一番無難か。でも、あんまり適当な事を言えばまた変に誤解されそうだし……。てか、お前も黙ってないで何か考えろよ」

 アイデアを催促されるがエスカは何も言わず、ただただ、大三郎の顔をじっと見つめる。

 「何だ? 恋でもしたか? 惚れるなよ、火傷するぜ、俺が! ……って、おい。ツッコめよ。何だよ~、ハッタリかましてあの娘達のおっぱい揉もうとした事でも怒ってるのか? んも~、だったら手っ取り早く何時ものお仕置きしてくださいな。ったく、丈夫だってだけで痛いものは痛いんだからなぁ。はぁ……」

 エスカはおもむろに大三郎の手を取ると何かブツブツと言い出した。

 「な、なに? あ、新しい、か、関節技か?」
 「違います」
 「え? じゃ、じゃあなに?」
 「新しい呪いです」
 「そっか、新しい呪いか~」
 「はい」
 「って、ぅおい! 離せ! 俺の手を離せ! 離してぇええ!」

 大三郎が必死にもがいているとエスカと繋いでいた手が眩い光を放つ。

 「……。やりやがったな」
 「何をでしょう?」
 「ふふ。何を? ふふ。呪いですよ、エスカさん。それ以外に何かあるとでも?」
 「ありませんね」
 「もーね。薬漬けじゃなくて呪い漬けですよ。ノロイ漬け。ふふふ。俺は漬物か? 漬物にする気か?」
 「不味そうですね」
 「そうですね。って言うか貴様!」
 
 エスカは憤慨する大三郎を尻目にロシルに声を掛ける。

 「ロシルさん」
 「え? は、はい。姉様」
 「……。間違えました。ロシル、でしたね?」
 「は、はい! 姉様!」
 「それと、ホーデリーフェさんにプルシラさん」
 「はい」
 「は~い」
 「お二人は私に用があるのですよね?」
 「え? はい。……そうでしたが、救世主様の怒りを買ってしまい、責任を取って私達はここで死ななければなりません。エスカさんの用は後任の者が来ると思いますのでそちらでご確認ください」
 「そうですか」
 「はい」
 「エスカさ~ん。ごめんなさ~い」
 
 プルシラは明るく言うがその目は覚悟が決まっている目だった。
 エスカは口調を変えず淡々と話す。
 
 「ですが、後任者に私と対等に話せる資格のある者がこの地方に居るとは思えませんが?」
 「え?」
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