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妖精の森編
嵐の前の静けさ
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大三郎達はマリリアンとの一時的な謁見を終え中央の島を離れた。森の中を暫く歩いていると、小さめな公園ほどの少し開けた場所に出る。妖精の森特有の物なのか、ベンチの形をした木の根やテーブルのような石があり、大三郎達はそこで休憩がてら今後の事を相談する。
「それにしてもあれだな~」
「何ですか?」
「いや~。サノスのために妖精の粉を貰いに来ただけなのにさ、色々とクエスト増えた上に野宿する事になるなんてな~と思って」
「そうですね。妖精の粉が二の次になっていますから」
「す、すまない。救世主様やエスカ殿には迷惑を掛ける」
メルロとソフィーアは申し訳なさそうに頭を下げた。それを見た大三郎は二人の事を言っている訳ではないと慌てる。
「いやいやいや! メルとソフィーの事を言っているんじゃないし、二人の事は迷惑とか思ってないから。な? エスカ」
「はい。神々からのクエストにも受諾されている事ですから、そこまでお気にされなくても宜しいかと思います」
「そゆこと」
「ありがとう。お二人には感謝している」
にかっと笑う大三郎に、申し訳なさそうな顔をしていたメルロとソフィーアは安堵し顔が綻ぶ。
「まぁあれだ、取りあえず今はメシと寝るとこだな」
「そうですね」
「そう言えばさ、メルとソフィーはここまで野宿だったのか?」
「ここまで? ああ、そんな時もあったが、大体は宿に泊まっていたぞ」
「んじゃ、野宿の経験があるってことね。エスカは野宿しても大丈夫?」
「はい」
「そっか。俺、無理だから寝とこ作るの手伝って」
「永遠の眠りにつきたいのですね? それなら喜んでお手伝いいたしますよ」
「お前は何故、すぐ俺を殺そうとするの? ストレス溜まってるのか? ……あ! そっか、アレが溜まってるんだな? 悶々としてるんだな?」
「ストレスは溜まりますね。原因が目の前に居ますから」
「目の前? おっぱい?」
「何故、そうなるんですか?」
「だって、俺達が視界に入る前に、自分のおっぱい見えるでしょ?」
「見えません」
「嘘つくとチクビ伸びるよ」
「伸びません。馬鹿馬鹿しい」
「伸びても心配しなくて良いよ。伸びた乳首で蝶々結びしてあげるから。ワンポイントで可愛い、キャハ」
大三郎は片方の肩を上げ、首を傾げながら口元に両手を当てて、永遠のアイドルが良くする仕草でおどける。が、エスカはそれに一切触れず、無表情のまま淡々とした口調でとある事を説明しだす。
「それより杉田様」
「なに?」
「余り水に濡れるのは避けてください」
「何で? 風邪ひくから?」
「そうではありません。言い忘れた事なのですが、救世主は体が丈夫になる反動で、濡れすぎるとアレが収縮して元に戻らなくなります。元から小さいと、収縮し過ぎてもげてしまいますからお気を付けください」
「アレ? ……アレってここ?」
「はい」
「嘘でしょ?」
「私の乳首は伸びましたか?」
「……。嘘だよね?」
大三郎は慌ててエスカ達に背を向けマントを捲りアレを確認する。
「あ! 少し小さくなってる!」
「元からですよ」
「そんな事は無い! 無いと言いたい! てか、何でそんな大事な事を言わないんだ!」
「言う訳がありません」
「何で!?」
「嘘ですから」
「嘘でも言わ、嘘?」
「はい」
「マジ?」
「本当です」
「どっち? どっちの本当?」
「さぁ?」
「教えて!」
「もげませんよ。冗談です」
「お前の冗談は怖いの! マジっぽくて怖いの!」
「怖くはありません」
「怖いわ! お前、約束とか言って呪いかけたじゃん! て、……あれも冗談?」
「あれは本当です。ご心配なく」
「ご心配します! 解いてよ! 今すぐ呪い解いてよ!」
「何故です?」
「おお? なぜ? ねぇ? 何故ってなに? ねぇ?」
「約束は守っていただけないのですか?」
「約束は守るよ。でも、呪いはいらないよね? 呪いかける必要ないよね?」
「ふぅ。分かりました。約束は守ってくださいね」
「頑張ります!」
「手を出してください」
「はい!」
大三郎が手を差し出すと、エスカは大三郎の手を取り呪文を唱える。
「我、エスカ・ぺルトルの名において御神々に進言いたします。今を持って救世主、杉田大三郎と交わした確約の儀を血の契約の儀とする事をここに誓う」
エスカが唱え終わると、大三郎とエスカの手が眩い光を放つ。
「何したの?」
「確約の儀を取りやめました」
「血って何?」
「血ですか? 生物の体内で流れる血液の事ですが?」
「知ってる。うん。それは知ってる」
「では、何でしょう?」
「気の所為かもしれないんだけど」
「はい?」
「バージョンアップした?」
「何がですか?」
「何が? 驚くことを聞き返すね? 流石の俺もびっくりだよ」
「さっきから、何が言いたいのか分かりかねますが?」
「分かりやすく言って差し上げますね」
「はい」
「お前、呪いを、強化したな?」
「はい」
「誤魔化すかと思ったら言い切った!」
「杉田様」
「なに!?」
「救世主とあろう者が、一々小さい事で騒がないでいただけませんか?」
「呪いって小さい事なの? 小さくないよね? 大ごとだよね?」
二人のやり取りを見ていたメルロは声を出し笑い、ソフィーアは肩を揺らして笑っていた。
「あははは! 二人は本当に面白いな。ソフィー」
ソフィーアは笑い涙を細い指で拭いながら頷く。
「メルロさんとソフィーアさんに喜んでいただいて良かったですね? 杉田様」
「え? 良いの? あれ? 良いのか? 呪われて良かったのか? 良くないよね? 良いの? あれ? 分かんなくなってきた」
素で混乱している大三郎を見て、メルロとソフィーアは更に笑い出す。
「スギター」
「お? パニティー。お前、どこ行ってたんだ?」
「野宿するんだろ?」
「そうなるね」
「寝るとこ作って来てやったぞ」
「マジか!?」
「うん。皆が手伝ってくれたんだ」
「皆って? もしかしてあの娘達のこと?」
木の後ろに隠れ、ひょこっと顔を出しこちらを見ている数人の妖精達に目をやる。パニティーは後ろを振り向き、自分の後を付いてきているとばかり思っていた仲間が居ない事に驚き、木の陰に隠れている仲間に声を掛ける。
「あれ? 居ない? ……あ! レイレー! 何してるんだよー。皆もスギタに紹介してあげるからそんな所に居ないでこっちおいでよー」
パニティーの呼びかけに妖精達はお互いの顔を見合わせるが、誰一人として木の陰から出てこようとはしない。
「んもー。何してるんだよぉ」
パニティーは妖精達が隠れている木まで飛んで行くと、隠れている一人の妖精の手を引っ張り大三郎の前に連れて来た。
「スギタ、この娘の事は覚えてるでしょ?」
「……んと。誰?」
「妖精の森の入り口で、スギタを変質者って言ったレイレだよ? 忘れた?」
「ちょ、ちょっとパニティー!」
先ほどまでモジモジしていたレイレだったが、パニティーの遠慮ない紹介の仕方に冷汗を垂らしながら慌てふためく。
「え? そうなの? レイレちゃんは俺を変質者って言ったの?」
「あ、いや、その……、ご、ごめんなさい」
「謝る必要はありませんよ」
「でた。小姑エスカ」
「何ですか?」
エスカは大三郎をギロリと睨む。
「いいえ~。何も言っておりません事よ、お母さま」
「また訳の分からない事を」
「あら? こんなところに埃が。杉子さんあーた、ちゃんと掃除したの? 掃除の一つも出来ないなんてエスカ家の恥ですわよ。おーほほほほほ」
「エスカ家って何ですか?」
「あ。チクビ家の間違いでした、ごめんなざ、ギぃやぁああぁあ!」
エスカのアイアンクローが、大三郎の頭蓋骨を粉砕する勢いで締め上げる。
「どこの家柄か知りませんが、杉子さんと言うのは杉田様の事ですよね?」
殺意の籠った笑顔と言うのは無表情より恐ろしいものだ。それは正しく死の宣告なのだから。
「ぃやめでぇえー! こめかみ、みしみし、ミシミシ言って、みしみし、つめ、爪が刺さってぇええぎぃやぁああ!」
大三郎は、アイアンクローをしているエスカの手を自分の顔から必死に引き剥がそうとするが、油圧で動く大型機械の如くびくともしない。
「エ、エスカ殿! も、もうその辺で良いのでは? それ以上やると本当に、その、やばい気がしてならないのだが……」
「砕いたら止めます」
「く、砕くって……、そ、それでは救世主様が死んでしまうのではないか?」
「はい」
「はいじゃない! おではじにだぐない! エスカの乳首を結ぶまではじにだぐ、ぎぃやぁああああ!」
「救世主様、何故、自ら死地へ赴くのだ……」
「おもむいてない! 俺はただ乳首を結ぶダぎぃやぁああ!」
大三郎が死地を彷徨っている一方で、パニティーはレイレや木の陰から出て来た妖精達に腰に手を当て胸を張りながら、大三郎の白髪で作ったベルトをドヤ顔で自慢していた。
「良いだろー? スギタの白髪で作ったベルトだぞー」
「マリリアン様が認めた救世主の?」「救世主の白髪?」「救世主のベルト?」「伝説のアイテムだ!」「すごい!」
妖精達はそれを見ながら口々に羨ましがり、白髪ベルトを触ろうとパニティーに群がる。その光景はまるで、スズメバチ一匹にミツバチが大勢で360度囲み撃退する時にやる必殺の陣そのものだった。
暫くすると必殺の陣が解け、ボロボロになったパニティーがひゅるひゅると落ちていく。
その頃大三郎は、ソフィーアの必死な懇願のお陰で、エスカのアイアンクローから頭蓋骨粉砕直前で解放され地面に転がっていた。
妖精達は、虫の死骸のように転がっている大三郎の頭に群がり白髪を探し始め、見つけると容赦なく抜き始める。
「ん? 君たちは俺の頭で何して――痛っ! な、なに? なになに? 痛っ! ちょちょちょっ痛い痛い! 止めて! 禿げるから禿げちゃうから! 痛っ!」
大三郎は堪らず飛び起き逃げ出すが、妖精達は獲物を狩る獣の如く追いかける。頭を押さえ後ろを振り向くと先ほどまでの可愛らしい妖精の顔ではなく、年末バーゲンセールの品に群がるアマゾネスの群れ。
大三郎が新入社員だった頃、大手デパート内にある取引先の年末バーゲンセールに応援スタッフとして召喚され、人生初の大怪我をした時の事を思い出す。
開始直後、たった300人で100万人の大軍を相手に戦ったスパルタン兵士の気持ちを味わった。正しく、今がそれと同じ状況だと悟り、”このままだと殺やれる”と顔を青くし悲鳴を上げながら必死に逃げまどう。
「エスカー! エスカー!」
大三郎は森の中を逃げながらエスカの名を必死に呼ぶ。
「何でしょ?」
木の根のベンチに座りながら全く心配していない顔で答える。
「助けて!」
「何故です?」
「そー言うと思った! だが敢えて言おう!」
「はい」
「助けてください! お願いします!」
「無理です」
「そー言うと思った! だから敢えて言おう!」
「はい」
「一つだけ何でも言う事を聞くから助けてください!」
「……。ではお聞きしますが」
「はい!」
「杉田様は私に何か買ってくれると約束していましたよね?」
「な、何だ? な……あ! 4つ! 4つにします!」
大三郎の叫びに近い言葉に無反応なエスカ。それを見た大三郎は更に大声で叫ぶ。
「分かったよ! 皆の分のエクレール買うよ! シュークリームも付けてやる!」
「良いでしょう」
エスカはそう言うとスクッと立ち上がり大三郎達に向かって呪文を唱える。
「ライトニング!」
「あばばばばばばばば!!」
逃げまどう大三郎に落雷が直撃し頭から煙を出して倒れる。それを見た妖精達は驚きの余り我に返り追いかけるのを止めた。
「……。だ、れ、が、ライトニングしろと言った!!? 乳首吸うぞコノヤロー!!」
ライトニングを見事に喰らった大三郎は頭から煙を出しながら立ち上がり、カエルの軍曹にも負けず劣らずなサタデーナイトフィーバーなアフロヘア―で怒り狂っていた。
「エクレールとシュークリーム一週間分、お忘れなく」
「聞けよ! 俺の怒りの声を聞けよ! って、一週間分てなに? おいバカっぱい、なにさらっと増やしてるの?」
「杉田様は、メルロさんソフィーアさんパニティーさんの分は買わないと仰るのですか?」
「そんな事は言ってない」
「では、何の問題もありません、ね?」
「ね? じゃねーよ」
「約束は守らないと?」
「おいバカっぱい。俺の言葉は通じないのか? 俺は人数を言ってんじゃねーよ、日数を言ってんだよ」
「妖精の皆さま。救世主である杉田様の白髪は何も頭だけではありませんよ?」
「おい」
エスカの言葉を聞き、追いかけるのを止めていた妖精達が騒めく。
「毛は何も、頭だけに生えている訳ではありませんから」
「おい。ほんと、やめて」
エスカの言葉を聞き、騒めいていた妖精達は更に騒めく。
「これ以上は私の口からは言えませんが、”毛は上だけではない”とだけ、お教えしておきますね」
「お前、ほんと、ガチで覚えとけよ」
エスカの言葉を聞き騒めいていた妖精達が静まり返る。
大三郎は恐る恐る妖精達を見ると、自分のとある部分をロックオンしていた。
「ここはダメ……。ほんと、だめ。まだ、ここには白髪ないから……。お願い、ここは、だめ」
泣いているのか笑っているの分からない顔で頭を小刻みに振るう。
しかし、妖精達は大三郎の心情などお構いなしににじり寄る。
その時だった。
「ダメだよ!」
パニティーが大三郎の股間の前に両手を広げ妖精達の前に立ちはだかる。
「パ、パニティー」
大三郎は今にも泣き出しそうな顔で自分の前に両手を広げながら立つパニティーの後姿を見る。
「スギタのちんちんは私のなんだからね!」
「んん!?」
流石の大三郎も驚きの声を出す。
「ちょっとパニティー。独り占めは良くないんじゃないの?」
レイレがそう言うと他の妖精達も一様に頷く。
「駄目だよ! スギタのちんちんは私のなんだから!」
「んん!?」
「パニティー、忘れたの? 皆で分け合うのが妖精のルールってこと?」
「んん!?」
「忘れてないよ。でも、スギタのちんちんは私が治すの!」
「んん!?」
「何? 救世主のちんちんは悪いの?」
「んんん!!?」
「そうだよ。だから私が治してあげるの」
「うそ?! お、俺のアレ、わ、悪いの? え? 何時から?」
「産まれた時からではありませんか?」
「うるせーよバカっぱい! お前こそ、その変な乳首を治してもらえ!」
「ライトニング!」
「あばばばばばばば!!」
「スギター!!」
いつもの売り言葉に買い言葉でライトニングを喰らい倒れる大三郎にパニティーはすかさず治癒の祈りをする。それを見た他の妖精達も我先にと大三郎の股間に集まり治癒の祈りをする。
「ん”ん”ー! き”も”ち”い”い”-!!!」
犬と少年を迎えに来た天使達のような涙の感動は無いが、大三郎の股間だけ妖精達の祈りで神々しさを醸し出していた。
「こう言った光景を見る事など滅多に無いのだろうが……何と言うか、救世主だからと言うか、あの方だからと言うか……」
妖精に会う事もそうだが、何より妖精の治癒の祈りなど滅多に見られる事では無い。パニティーと出会うまでメルロは妖精の祈りなど一生涯お目にかかる事など無いと思っていた。が、妖精王マリリアンと出会え、おとぎ話のように聞いていた妖精達の祈りを目の当たりにした。
だが、祈りを捧げている場所が場所だけに感動していいのやら出来ないのやらで複雑な心境だった。
「メルロさんのお気持ちは分からくも無いですが、杉田様ですから」
エスカのさらっとした言葉に妙に納得がいき、何故か心が救われた気がして苦笑いをする。
その横でソフィーアは両膝をつき、股間を清められている大三郎に向かい両の手を合わせ組み、祈りの姿勢で頭を垂れる。
「ソフィー……、お前は真面目だな」
メルロがそう言いうとエスカはくすりと笑う。
「元気一杯のだーいざーぶろー! ここに復活!」
無駄に股間を元気にさせられた大三郎がまた訳の分からない事を叫びながら大地に立つ。
「おバカが復活しましたね」
「あはは……」
エスカが溜息交じりに言うとメルロは苦笑いで答え、ソフィーアは笑顔で大三郎を見る。
「メル、ソフィー! 心配かけてごめんね! そして、パニティー、妖精の皆! おふねのアイドル那珂ちゃんばりにお礼を言わせてもらおう! ありがとー!」
左手を腰に当て、右手のピースサインを横にし右目にあてがいながら永遠のアイドルの仕草でお礼を言う。
「そしてそしてエスカ!」
「はい」
「君にもお礼をしなきゃ」
「結構です」
「結構ですじゃねーですよ」
「いえ、心の底から遠慮します」
「いえいえ。いつもいつも苦労しているからね。俺が!」
「そうですか?」
「そうですね。なので、お礼を参らせていただきます」
「電気治療が必要らしいですね?」
「妖精さん達に囲まれている俺に電気治療をやれるものなら、どうぞ?」
エスカは憎たらしい顔で言う大三郎を鋭い視線で睨むが、怯むどころかがに股になりマントの裾を軽く捲る。
「何をする気ですか?」
「え? カルピスご馳走しようと思って」
「杉田様の真似をして言いますが。敢えて聞きます、カルピスなんて持参してましたか?」
「はい。体内製造です」
「……。汚らわしい」
「汚らわしくはありません。普段なら頑張らないと出ませんが、今なら頑張らなくても貴女にぶちまけられるのでぶちまけたいと思います」
「それ以上、近づいたら――」
「僕の周りには妖精さん達も居ますが?」
「くッ……」
「なので、ぶちまかれてください」
「心の底から遠慮します」
良く分かっていない妖精達を従えた大三郎と、何時になく真剣な面持で対峙するエスカ。
先に動いたのは大三郎。飛び掛かりながらマントの裾を捲ろうとするが、捲らせまいとその手をエスカが掴む。
「エスカさん、手を離していただけませんか?」
「お断りいたします」
「発射秒読みを開始しているので諦めてください」
「永遠に数えていてください」
ある意味、手に汗握る攻防が続く中、不意に聞き慣れない声が聞こえた。
「なな、何をしているの?」
大三郎達は聞き慣れない声の方を見ると、エスカと似た服装をした数人の女性が立っていた。その中の一人がこちらを見て驚愕している。
「な、何故、姉様が……。私の姉様が……糞な男と一緒に」
「ロシル副支長。鬱陶しいので少し落ち着いてください」
「なっ!? ホーデリーフェ! 鬱陶しいとは私のこと!?」
「他に誰が居ます?」
「あ、あんたねぇ!」
「まぁまぁ、落ち着いてよぉ~二人とも~。のんびりいきましょ~?」
「貴女はのんびりし過ぎなのよ。プルシラ」
「あれ~? プルシラが怒られてるぅ? なんでぇ?」
「ふん」
ロシルと呼ばれる女性はふんと鼻を鳴らしそっぽを向く。その仕草はどことなくエスカが良くする仕草に似ていた。
「誰? エスカの知り合い?」
「ロ、ロシルさん。何故、貴女がここに?」
割と冷静沈着なエスカが驚きを隠せない表情をしている。
大三郎は何となく、また面倒臭い人物の登場なのかな? と思うのだった。
「それにしてもあれだな~」
「何ですか?」
「いや~。サノスのために妖精の粉を貰いに来ただけなのにさ、色々とクエスト増えた上に野宿する事になるなんてな~と思って」
「そうですね。妖精の粉が二の次になっていますから」
「す、すまない。救世主様やエスカ殿には迷惑を掛ける」
メルロとソフィーアは申し訳なさそうに頭を下げた。それを見た大三郎は二人の事を言っている訳ではないと慌てる。
「いやいやいや! メルとソフィーの事を言っているんじゃないし、二人の事は迷惑とか思ってないから。な? エスカ」
「はい。神々からのクエストにも受諾されている事ですから、そこまでお気にされなくても宜しいかと思います」
「そゆこと」
「ありがとう。お二人には感謝している」
にかっと笑う大三郎に、申し訳なさそうな顔をしていたメルロとソフィーアは安堵し顔が綻ぶ。
「まぁあれだ、取りあえず今はメシと寝るとこだな」
「そうですね」
「そう言えばさ、メルとソフィーはここまで野宿だったのか?」
「ここまで? ああ、そんな時もあったが、大体は宿に泊まっていたぞ」
「んじゃ、野宿の経験があるってことね。エスカは野宿しても大丈夫?」
「はい」
「そっか。俺、無理だから寝とこ作るの手伝って」
「永遠の眠りにつきたいのですね? それなら喜んでお手伝いいたしますよ」
「お前は何故、すぐ俺を殺そうとするの? ストレス溜まってるのか? ……あ! そっか、アレが溜まってるんだな? 悶々としてるんだな?」
「ストレスは溜まりますね。原因が目の前に居ますから」
「目の前? おっぱい?」
「何故、そうなるんですか?」
「だって、俺達が視界に入る前に、自分のおっぱい見えるでしょ?」
「見えません」
「嘘つくとチクビ伸びるよ」
「伸びません。馬鹿馬鹿しい」
「伸びても心配しなくて良いよ。伸びた乳首で蝶々結びしてあげるから。ワンポイントで可愛い、キャハ」
大三郎は片方の肩を上げ、首を傾げながら口元に両手を当てて、永遠のアイドルが良くする仕草でおどける。が、エスカはそれに一切触れず、無表情のまま淡々とした口調でとある事を説明しだす。
「それより杉田様」
「なに?」
「余り水に濡れるのは避けてください」
「何で? 風邪ひくから?」
「そうではありません。言い忘れた事なのですが、救世主は体が丈夫になる反動で、濡れすぎるとアレが収縮して元に戻らなくなります。元から小さいと、収縮し過ぎてもげてしまいますからお気を付けください」
「アレ? ……アレってここ?」
「はい」
「嘘でしょ?」
「私の乳首は伸びましたか?」
「……。嘘だよね?」
大三郎は慌ててエスカ達に背を向けマントを捲りアレを確認する。
「あ! 少し小さくなってる!」
「元からですよ」
「そんな事は無い! 無いと言いたい! てか、何でそんな大事な事を言わないんだ!」
「言う訳がありません」
「何で!?」
「嘘ですから」
「嘘でも言わ、嘘?」
「はい」
「マジ?」
「本当です」
「どっち? どっちの本当?」
「さぁ?」
「教えて!」
「もげませんよ。冗談です」
「お前の冗談は怖いの! マジっぽくて怖いの!」
「怖くはありません」
「怖いわ! お前、約束とか言って呪いかけたじゃん! て、……あれも冗談?」
「あれは本当です。ご心配なく」
「ご心配します! 解いてよ! 今すぐ呪い解いてよ!」
「何故です?」
「おお? なぜ? ねぇ? 何故ってなに? ねぇ?」
「約束は守っていただけないのですか?」
「約束は守るよ。でも、呪いはいらないよね? 呪いかける必要ないよね?」
「ふぅ。分かりました。約束は守ってくださいね」
「頑張ります!」
「手を出してください」
「はい!」
大三郎が手を差し出すと、エスカは大三郎の手を取り呪文を唱える。
「我、エスカ・ぺルトルの名において御神々に進言いたします。今を持って救世主、杉田大三郎と交わした確約の儀を血の契約の儀とする事をここに誓う」
エスカが唱え終わると、大三郎とエスカの手が眩い光を放つ。
「何したの?」
「確約の儀を取りやめました」
「血って何?」
「血ですか? 生物の体内で流れる血液の事ですが?」
「知ってる。うん。それは知ってる」
「では、何でしょう?」
「気の所為かもしれないんだけど」
「はい?」
「バージョンアップした?」
「何がですか?」
「何が? 驚くことを聞き返すね? 流石の俺もびっくりだよ」
「さっきから、何が言いたいのか分かりかねますが?」
「分かりやすく言って差し上げますね」
「はい」
「お前、呪いを、強化したな?」
「はい」
「誤魔化すかと思ったら言い切った!」
「杉田様」
「なに!?」
「救世主とあろう者が、一々小さい事で騒がないでいただけませんか?」
「呪いって小さい事なの? 小さくないよね? 大ごとだよね?」
二人のやり取りを見ていたメルロは声を出し笑い、ソフィーアは肩を揺らして笑っていた。
「あははは! 二人は本当に面白いな。ソフィー」
ソフィーアは笑い涙を細い指で拭いながら頷く。
「メルロさんとソフィーアさんに喜んでいただいて良かったですね? 杉田様」
「え? 良いの? あれ? 良いのか? 呪われて良かったのか? 良くないよね? 良いの? あれ? 分かんなくなってきた」
素で混乱している大三郎を見て、メルロとソフィーアは更に笑い出す。
「スギター」
「お? パニティー。お前、どこ行ってたんだ?」
「野宿するんだろ?」
「そうなるね」
「寝るとこ作って来てやったぞ」
「マジか!?」
「うん。皆が手伝ってくれたんだ」
「皆って? もしかしてあの娘達のこと?」
木の後ろに隠れ、ひょこっと顔を出しこちらを見ている数人の妖精達に目をやる。パニティーは後ろを振り向き、自分の後を付いてきているとばかり思っていた仲間が居ない事に驚き、木の陰に隠れている仲間に声を掛ける。
「あれ? 居ない? ……あ! レイレー! 何してるんだよー。皆もスギタに紹介してあげるからそんな所に居ないでこっちおいでよー」
パニティーの呼びかけに妖精達はお互いの顔を見合わせるが、誰一人として木の陰から出てこようとはしない。
「んもー。何してるんだよぉ」
パニティーは妖精達が隠れている木まで飛んで行くと、隠れている一人の妖精の手を引っ張り大三郎の前に連れて来た。
「スギタ、この娘の事は覚えてるでしょ?」
「……んと。誰?」
「妖精の森の入り口で、スギタを変質者って言ったレイレだよ? 忘れた?」
「ちょ、ちょっとパニティー!」
先ほどまでモジモジしていたレイレだったが、パニティーの遠慮ない紹介の仕方に冷汗を垂らしながら慌てふためく。
「え? そうなの? レイレちゃんは俺を変質者って言ったの?」
「あ、いや、その……、ご、ごめんなさい」
「謝る必要はありませんよ」
「でた。小姑エスカ」
「何ですか?」
エスカは大三郎をギロリと睨む。
「いいえ~。何も言っておりません事よ、お母さま」
「また訳の分からない事を」
「あら? こんなところに埃が。杉子さんあーた、ちゃんと掃除したの? 掃除の一つも出来ないなんてエスカ家の恥ですわよ。おーほほほほほ」
「エスカ家って何ですか?」
「あ。チクビ家の間違いでした、ごめんなざ、ギぃやぁああぁあ!」
エスカのアイアンクローが、大三郎の頭蓋骨を粉砕する勢いで締め上げる。
「どこの家柄か知りませんが、杉子さんと言うのは杉田様の事ですよね?」
殺意の籠った笑顔と言うのは無表情より恐ろしいものだ。それは正しく死の宣告なのだから。
「ぃやめでぇえー! こめかみ、みしみし、ミシミシ言って、みしみし、つめ、爪が刺さってぇええぎぃやぁああ!」
大三郎は、アイアンクローをしているエスカの手を自分の顔から必死に引き剥がそうとするが、油圧で動く大型機械の如くびくともしない。
「エ、エスカ殿! も、もうその辺で良いのでは? それ以上やると本当に、その、やばい気がしてならないのだが……」
「砕いたら止めます」
「く、砕くって……、そ、それでは救世主様が死んでしまうのではないか?」
「はい」
「はいじゃない! おではじにだぐない! エスカの乳首を結ぶまではじにだぐ、ぎぃやぁああああ!」
「救世主様、何故、自ら死地へ赴くのだ……」
「おもむいてない! 俺はただ乳首を結ぶダぎぃやぁああ!」
大三郎が死地を彷徨っている一方で、パニティーはレイレや木の陰から出て来た妖精達に腰に手を当て胸を張りながら、大三郎の白髪で作ったベルトをドヤ顔で自慢していた。
「良いだろー? スギタの白髪で作ったベルトだぞー」
「マリリアン様が認めた救世主の?」「救世主の白髪?」「救世主のベルト?」「伝説のアイテムだ!」「すごい!」
妖精達はそれを見ながら口々に羨ましがり、白髪ベルトを触ろうとパニティーに群がる。その光景はまるで、スズメバチ一匹にミツバチが大勢で360度囲み撃退する時にやる必殺の陣そのものだった。
暫くすると必殺の陣が解け、ボロボロになったパニティーがひゅるひゅると落ちていく。
その頃大三郎は、ソフィーアの必死な懇願のお陰で、エスカのアイアンクローから頭蓋骨粉砕直前で解放され地面に転がっていた。
妖精達は、虫の死骸のように転がっている大三郎の頭に群がり白髪を探し始め、見つけると容赦なく抜き始める。
「ん? 君たちは俺の頭で何して――痛っ! な、なに? なになに? 痛っ! ちょちょちょっ痛い痛い! 止めて! 禿げるから禿げちゃうから! 痛っ!」
大三郎は堪らず飛び起き逃げ出すが、妖精達は獲物を狩る獣の如く追いかける。頭を押さえ後ろを振り向くと先ほどまでの可愛らしい妖精の顔ではなく、年末バーゲンセールの品に群がるアマゾネスの群れ。
大三郎が新入社員だった頃、大手デパート内にある取引先の年末バーゲンセールに応援スタッフとして召喚され、人生初の大怪我をした時の事を思い出す。
開始直後、たった300人で100万人の大軍を相手に戦ったスパルタン兵士の気持ちを味わった。正しく、今がそれと同じ状況だと悟り、”このままだと殺やれる”と顔を青くし悲鳴を上げながら必死に逃げまどう。
「エスカー! エスカー!」
大三郎は森の中を逃げながらエスカの名を必死に呼ぶ。
「何でしょ?」
木の根のベンチに座りながら全く心配していない顔で答える。
「助けて!」
「何故です?」
「そー言うと思った! だが敢えて言おう!」
「はい」
「助けてください! お願いします!」
「無理です」
「そー言うと思った! だから敢えて言おう!」
「はい」
「一つだけ何でも言う事を聞くから助けてください!」
「……。ではお聞きしますが」
「はい!」
「杉田様は私に何か買ってくれると約束していましたよね?」
「な、何だ? な……あ! 4つ! 4つにします!」
大三郎の叫びに近い言葉に無反応なエスカ。それを見た大三郎は更に大声で叫ぶ。
「分かったよ! 皆の分のエクレール買うよ! シュークリームも付けてやる!」
「良いでしょう」
エスカはそう言うとスクッと立ち上がり大三郎達に向かって呪文を唱える。
「ライトニング!」
「あばばばばばばばば!!」
逃げまどう大三郎に落雷が直撃し頭から煙を出して倒れる。それを見た妖精達は驚きの余り我に返り追いかけるのを止めた。
「……。だ、れ、が、ライトニングしろと言った!!? 乳首吸うぞコノヤロー!!」
ライトニングを見事に喰らった大三郎は頭から煙を出しながら立ち上がり、カエルの軍曹にも負けず劣らずなサタデーナイトフィーバーなアフロヘア―で怒り狂っていた。
「エクレールとシュークリーム一週間分、お忘れなく」
「聞けよ! 俺の怒りの声を聞けよ! って、一週間分てなに? おいバカっぱい、なにさらっと増やしてるの?」
「杉田様は、メルロさんソフィーアさんパニティーさんの分は買わないと仰るのですか?」
「そんな事は言ってない」
「では、何の問題もありません、ね?」
「ね? じゃねーよ」
「約束は守らないと?」
「おいバカっぱい。俺の言葉は通じないのか? 俺は人数を言ってんじゃねーよ、日数を言ってんだよ」
「妖精の皆さま。救世主である杉田様の白髪は何も頭だけではありませんよ?」
「おい」
エスカの言葉を聞き、追いかけるのを止めていた妖精達が騒めく。
「毛は何も、頭だけに生えている訳ではありませんから」
「おい。ほんと、やめて」
エスカの言葉を聞き、騒めいていた妖精達は更に騒めく。
「これ以上は私の口からは言えませんが、”毛は上だけではない”とだけ、お教えしておきますね」
「お前、ほんと、ガチで覚えとけよ」
エスカの言葉を聞き騒めいていた妖精達が静まり返る。
大三郎は恐る恐る妖精達を見ると、自分のとある部分をロックオンしていた。
「ここはダメ……。ほんと、だめ。まだ、ここには白髪ないから……。お願い、ここは、だめ」
泣いているのか笑っているの分からない顔で頭を小刻みに振るう。
しかし、妖精達は大三郎の心情などお構いなしににじり寄る。
その時だった。
「ダメだよ!」
パニティーが大三郎の股間の前に両手を広げ妖精達の前に立ちはだかる。
「パ、パニティー」
大三郎は今にも泣き出しそうな顔で自分の前に両手を広げながら立つパニティーの後姿を見る。
「スギタのちんちんは私のなんだからね!」
「んん!?」
流石の大三郎も驚きの声を出す。
「ちょっとパニティー。独り占めは良くないんじゃないの?」
レイレがそう言うと他の妖精達も一様に頷く。
「駄目だよ! スギタのちんちんは私のなんだから!」
「んん!?」
「パニティー、忘れたの? 皆で分け合うのが妖精のルールってこと?」
「んん!?」
「忘れてないよ。でも、スギタのちんちんは私が治すの!」
「んん!?」
「何? 救世主のちんちんは悪いの?」
「んんん!!?」
「そうだよ。だから私が治してあげるの」
「うそ?! お、俺のアレ、わ、悪いの? え? 何時から?」
「産まれた時からではありませんか?」
「うるせーよバカっぱい! お前こそ、その変な乳首を治してもらえ!」
「ライトニング!」
「あばばばばばばば!!」
「スギター!!」
いつもの売り言葉に買い言葉でライトニングを喰らい倒れる大三郎にパニティーはすかさず治癒の祈りをする。それを見た他の妖精達も我先にと大三郎の股間に集まり治癒の祈りをする。
「ん”ん”ー! き”も”ち”い”い”-!!!」
犬と少年を迎えに来た天使達のような涙の感動は無いが、大三郎の股間だけ妖精達の祈りで神々しさを醸し出していた。
「こう言った光景を見る事など滅多に無いのだろうが……何と言うか、救世主だからと言うか、あの方だからと言うか……」
妖精に会う事もそうだが、何より妖精の治癒の祈りなど滅多に見られる事では無い。パニティーと出会うまでメルロは妖精の祈りなど一生涯お目にかかる事など無いと思っていた。が、妖精王マリリアンと出会え、おとぎ話のように聞いていた妖精達の祈りを目の当たりにした。
だが、祈りを捧げている場所が場所だけに感動していいのやら出来ないのやらで複雑な心境だった。
「メルロさんのお気持ちは分からくも無いですが、杉田様ですから」
エスカのさらっとした言葉に妙に納得がいき、何故か心が救われた気がして苦笑いをする。
その横でソフィーアは両膝をつき、股間を清められている大三郎に向かい両の手を合わせ組み、祈りの姿勢で頭を垂れる。
「ソフィー……、お前は真面目だな」
メルロがそう言いうとエスカはくすりと笑う。
「元気一杯のだーいざーぶろー! ここに復活!」
無駄に股間を元気にさせられた大三郎がまた訳の分からない事を叫びながら大地に立つ。
「おバカが復活しましたね」
「あはは……」
エスカが溜息交じりに言うとメルロは苦笑いで答え、ソフィーアは笑顔で大三郎を見る。
「メル、ソフィー! 心配かけてごめんね! そして、パニティー、妖精の皆! おふねのアイドル那珂ちゃんばりにお礼を言わせてもらおう! ありがとー!」
左手を腰に当て、右手のピースサインを横にし右目にあてがいながら永遠のアイドルの仕草でお礼を言う。
「そしてそしてエスカ!」
「はい」
「君にもお礼をしなきゃ」
「結構です」
「結構ですじゃねーですよ」
「いえ、心の底から遠慮します」
「いえいえ。いつもいつも苦労しているからね。俺が!」
「そうですか?」
「そうですね。なので、お礼を参らせていただきます」
「電気治療が必要らしいですね?」
「妖精さん達に囲まれている俺に電気治療をやれるものなら、どうぞ?」
エスカは憎たらしい顔で言う大三郎を鋭い視線で睨むが、怯むどころかがに股になりマントの裾を軽く捲る。
「何をする気ですか?」
「え? カルピスご馳走しようと思って」
「杉田様の真似をして言いますが。敢えて聞きます、カルピスなんて持参してましたか?」
「はい。体内製造です」
「……。汚らわしい」
「汚らわしくはありません。普段なら頑張らないと出ませんが、今なら頑張らなくても貴女にぶちまけられるのでぶちまけたいと思います」
「それ以上、近づいたら――」
「僕の周りには妖精さん達も居ますが?」
「くッ……」
「なので、ぶちまかれてください」
「心の底から遠慮します」
良く分かっていない妖精達を従えた大三郎と、何時になく真剣な面持で対峙するエスカ。
先に動いたのは大三郎。飛び掛かりながらマントの裾を捲ろうとするが、捲らせまいとその手をエスカが掴む。
「エスカさん、手を離していただけませんか?」
「お断りいたします」
「発射秒読みを開始しているので諦めてください」
「永遠に数えていてください」
ある意味、手に汗握る攻防が続く中、不意に聞き慣れない声が聞こえた。
「なな、何をしているの?」
大三郎達は聞き慣れない声の方を見ると、エスカと似た服装をした数人の女性が立っていた。その中の一人がこちらを見て驚愕している。
「な、何故、姉様が……。私の姉様が……糞な男と一緒に」
「ロシル副支長。鬱陶しいので少し落ち着いてください」
「なっ!? ホーデリーフェ! 鬱陶しいとは私のこと!?」
「他に誰が居ます?」
「あ、あんたねぇ!」
「まぁまぁ、落ち着いてよぉ~二人とも~。のんびりいきましょ~?」
「貴女はのんびりし過ぎなのよ。プルシラ」
「あれ~? プルシラが怒られてるぅ? なんでぇ?」
「ふん」
ロシルと呼ばれる女性はふんと鼻を鳴らしそっぽを向く。その仕草はどことなくエスカが良くする仕草に似ていた。
「誰? エスカの知り合い?」
「ロ、ロシルさん。何故、貴女がここに?」
割と冷静沈着なエスカが驚きを隠せない表情をしている。
大三郎は何となく、また面倒臭い人物の登場なのかな? と思うのだった。
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