異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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妖精の森編

神技! ゴットフィンガー

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 その足は、冒険者らしく筋肉は付いているが、それが余計にスラリとした足を演出している。
 そして、その足で幾多の旅をしてきたのが一目で分かる、引き締まったヒップは無駄な贅肉は無く、キュッと締まっていて美を感じさせる程だった。
 
 更に、くびれた腰は見事なまでに、上半身と下半身の美しさを別ける境界線の役目を果たしている。
 腹筋は数々の戦いを象徴するかのように鍛えられ、尚且つ、ボディービルダーのような筋肉ではなく、無駄な筋肉も贅肉も一切ない、まるで絵を見ているかのような美しさをかもし出している。
 
 その所為もあり、エスカ程ではないにしろ、張りのある胸は乳首をツンと上を向かせ、巨乳と言うよりまさしく美乳と呼ぶに相応しいものにしていた。


 「綺麗だな。悔しいが、妖精の私も見惚れてしまう」
 「そうですね。女性の私達でも見入ってしまいます」

 三人は草むらに隠れ、水浴びをしている冒険者を、覗き見するように観察していた。
 
 「ところで、スギタは何故、手で顔を覆っているんだ?」
 「余りの美しさに、汚れきった目が浄化されたのでしょう」
 
 大三郎はエスカとパニティーと一緒に草むらに身を潜めていた。
 しかし、目を皿にして裸体を見るどころか、しゃがんで手で顔を覆ったまま身動き一つすらしない。

 「スギタ? 大丈夫か? 何だ? 恥ずかしいのか?」
 「杉田様に羞恥心があったとは驚きです。喜び勇んでガン見するかと思ってました」
 「……。分からない」
 
 大三郎はボソッと呟くように言う。

 「何が分からないんだ?」
 「杉田様は何かを理解する方が少ないのでは?」
 
 何時もなら、エスカの罵詈雑言に似た言葉にツッコミを入れるのだが、それにすら反応しない。

 「スギタ?」
 「本当にどうされたのです?」
 「……。分からないんだ」
 「何が?」
 「仰って頂かないと、こちらも教えようがありませんよ?」
 
 大三郎は絞り出すような声で言う。

 「一瞬、見ただけで分かった。スタイルはエスカに負けないくらい良い。凄く良い」
 「そうだな」
 「そ、それは置いといて、何が分からないと?」
 「俺は動物マニアでもペットショップの店員でもない。分かる訳が無い。コモドドラゴンの良さなんか、俺には分からない」
 「コモドドラゴン? 何だそれ?」
 「まぁ、あの冒険者はリザードマン種の亜人みたいですからね」
 
 大三郎は体を震わせながら一言だけ呟く。

 「顔って大事なんだね……」

 エスカは溜息をつき、大三郎に尋ねる。

 「どうするのですか?」
 「……何が?」
 「ここでこのまま見ていても仕方ありません。一応、実力行使に出る前に、立ち去るよう交渉しますか?」
 「言葉が通じるかすら分からないのにですか?」
 「それについては大丈夫です」
 「何で?」
 「言葉が通じなければ、杉田様が襲われるだけなので大丈夫です」
 「何一つ大丈夫じゃないよね?」
 「お、おい、誰か来たぞ」

 パニティーが慌てた様子で二人の会話を制止する。
 大三郎とエスカが再びそっと草むらから見ると、水浴びをしている冒険者の近くの木の陰から、もう一人の金髪美女が裸体で現れた。

 「――ッ!?」
 「あら? 二人組でしたか」
 「前は一人だけだったけど、今度は仲間を連れて来たか。くそ」
 「杉田様、どうしますか?」
 「……」
 「杉田様?」

 大三郎は、木の陰から現れた、もう一人の裸体の金髪美女を見て固まった表情のまま凝視している。
 そして、両腕をYの字に広げ、草むらからガバッと立ち上がり叫ぶ。

 「ビバ! 裸体!」

 全員の時が止まる。
 大三郎は叫んだ後、無言のまま素早く草むらに引っ込んだ。

 「あ、貴方は、一体……何を?」
 
 エスカは呆れる事も忘れて真顔で聞く。
 パニティーは目を丸くして大三郎を見ていた。

 「出ちゃった……」
 「な、何がです?」
 「思わず飛び出ちゃった。どうしよう……」
 
 流石のエスカも言葉を失う。
 その時、裸体の女性が居た方から大声で叫ぶ声が聞こえた。

 「そ、そこに居るのは誰だ! 姿を現せ!」
 
 裸体の女性二人は川から上がり、リザードマン種の亜人の女性を庇うように金髪美女が前に立ち、裸体を隠すように片手で服を持ちながら、もう片方の手で剣を構えていた。

 「杉田様。呼んでますよ」
 「……何も聞こえない」
 「そこに隠れているのは分かっているんだ! 出て来い!」
 「ご指名されてますよ」 
 「……分かったよ。行けば良いんだろ? 行けば」

 大三郎は意を決して立ち上がる。

 「貴様は何者だ!? 答えろ!」
 「……。こんにちは。通りすがりに裸体を見た者です」
 「嘘をつけ! そこに隠れて我々を襲うつもりだったんだろ?! 正直に言え!」
 「すみません。嘘をつきました」
 「や、やはり……」
 「ここに隠れて裸体を見てました」
 「は?」
 「とても美しい裸体でしたので、森の女神かと思い、見惚れてしまいました」
 「な、何を言っている? さては……貴様、詭弁きべんをぬかし油断させるつもりだな?!」
 「いいえ。あまりの美しさに、思わず声を上げてしまい、貴女方を驚かせてしまったようなのでお詫びします。すみませんでした」
 
 大三郎は深々と頭を下げ、競歩な歩き方をしながらスタスタと近づいて行く。
 
 「お、おい貴様! 不気味に近づくな! 止まれ!」
 「いえいえ。裸体を見てしまったので、ちゃんとお詫びをしないと」

 大三郎はそう言い、頭を下げた姿勢のまま、スタスタと歩きながら服を脱ぎ始めた。
 
 「なっ!? く、来るな! 斬り伏せるぞ!」

 その言葉を聞いた大三郎は歩くのを止め、ゆっくりと顔を上げながら言う。

 「俺を斬り伏せる?」
 「そ、そうだ! それ以上近づいたら斬る!」

 裸体の金髪美女は構えた剣先を大三郎に向ける。

 「そう……か。この俺を斬り伏せるか」
 「そうだ!」
 「そうかそうか。救世主の俺を斬り伏せるか」
 「き、救世主?」
 「青星からこの世界に来て、神々から救世主の任をたまわった俺を……、斬る、か?」
 「あ、青星? 出鱈目でたらめを言うな! 貴様が救世主様の訳が無い!」
 「何故、そう思う?」
 「貴様のような変態が、救世主様な訳が無いだろ!」
 「はぐふぅ! ……な、泣くな俺。ま、まだ、大丈夫……だ。見た目を言われたわけじゃ……ない」
 「顔がブサイクで、見た目がそのまま変質者の男が、救世主を名乗るな!」
 「ぎゃふん!」

 大三郎は、エスカとの売り言葉に買い言葉のやり取りで言われる罵詈雑言ではなく、初対面の女性に素で言われ真っ白になった。

 「それ以上近づくのであれば容赦なく斬り伏せる! そうでなければ、とっとと立ち去れ! この変質者!」

 そのやり取りを草むらで聞いていたエスカとパニティーは、女性の言い分はもっともだと思いつつ、少しだけ大三郎に同情した。

 「あぅぁ……ぅあ……ぅぅあぁ」

 真っ白になった大三郎は、自分の中の何かが弾け飛び、変な声を出しながらガクガクと震えだした。

 「な、何だ貴様? ……ま、まさか、変身するのか?」

 裸体の金髪美女は、大三郎がワーウルフのような変身をするのかと思い身構える。

 「ぅぁぁああぁぁあぁあああ!!」
 「くっ!」
 「あああったま北あっしは南、どうも変態おじさんです。てへぺろ」
 「は?」
 
 意味不明な事を言いだす大三郎を、裸体の金髪美女は驚きキョトンとした顔で見る。
 壊れかけた大三郎が、今度は真顔になり、金髪美女を見据え大声で驚く事を言い放つ。

 「神から授かりし力、今こそ示す時がきた!」
 「な、何!?」 
 
 大三郎は右手を前に出し、手のひらを上にした後、何かを掴むように指先を曲げ、更に大声で言う。

 「俺の右手が真っ赤に萌える! 乳首をつまめととどろき叫ぶ! ばぁ~くれつ……ゴッド・フィンあばばばばばば!!!」
 
 いつの間にか、草むらから出て来ていたエスカのライトニングが、大三郎にクリティカルヒットする。
 大三郎は丸コゲになりプスプス言いながら倒れる。
 
 「大丈夫ですか?」

 エスカが裸体の女性達に声を掛ける。

 「あ、ああ。すまない……って、あ、貴女は?!」
 「はい?」

 エスカを見て驚く金髪美女。
 金髪美女に心当たりがないエスカはキョトンとする。

 「……また、電撃やりやがったな。……こんのぉ~、バカっ――」
 「ライトニング」
 「あばばばばばば!!!」

 立ち上がりかけた大三郎は再び頭から煙を出し、電撃を喰らった時にする由緒正しいポーズで倒れる。

 「な、何と!? エスカ殿のライトニングを喰らって……生きているなんて」
 「まぁ、一応、杉田様は神々がお認めになった救世主ですから。そう簡単には死にません」
 「え?! こ、この男。本当に救世主様?」
 「はい。一応」

 金髪美女は余りの驚きに言葉を失ってしまった。

 「エスカ……」
 「あら? 会心の一撃でしたのに流石は救世主。丈夫ですね」
 
 大三郎はゆっくり立ち上がる。

 「やりすぎだと思いませんか?」
 「あのくらいしなければ、杉田様を止める事など出来ませんから」
 「……。そうだね」
 「あら? 文句を言うと思ったのですが?」
 「いや。俺の方がちょっとやり過ぎた。エスカの手もわずらわせてしまった。反省する意味を込めて、今回ばかりはエスカに謝るよ」
 「あら? 殊勝な心がけですね」

 そう言いながら、エスカの下まで行き大三郎は頭を下げた。
 エスカも、今回ばかりは素直に大三郎の謝罪を受ける。
 
 「エスカ。すまなかった」
 「ま、良いですよ。今後、気を付けていただければ」 
 
 エスカはそう言い、いつものようにツンとした表情で胸を張る。
 その時、大三郎の目が光る。

 「トルネード・バカっぱい!」

 ――スパスパーン!!

 頭を上げる勢いのまま、右手の手のひらと左手の甲の部分で一回転しながら、エスカの胸を二度叩く。

 「いったーーい!!」
 「これが対エスカ用に開発した必殺技、トルネード・バカっぱいだ! 思い知ったか! バカっぱい!」
 
 エスカは叩かれた胸を押さえ、怒りでふるふると震えている。

 「おお? バカの一つ覚えのライトニングですか? やれるもんならやってみろ!」
 
 大三郎の煽りにも似た挑発に、発動しかけている電撃魔法が今にも爆発しそうになり、その所為で、大気中に含まれる成分や地面の土や砂などがお互い振動し合い、怒りが最高潮に達した時にする、あの由緒正しい効果音のような地鳴りがエスカの周囲からする。

 「覚悟は、出来ている、みたいですね。……分かりました」

 エスカの本気を目の前に、大三郎はゴクリと息をのみ、対エスカ用の最終奥義をくり出すため身構える。
 そして、エスカは渾身の力を込め大声で呪文を唱える。

 「ライトニ――」

 大三郎はエスカが呪文を唱えた瞬間、ゴキブリの瞬発力の如くエスカに飛びついた。
 

 =ここからは、0,00秒から2,00秒の二人の世界をお楽しみください=

 (え? 私に飛びついてくる?) 

 (ふふふ。バカっぱいめ。いつもいつも俺一人だけ電撃を喰らうと思うなよ)

 (まさか……、私ごとライトニングを?)

 (対エスカ用最終奥義。『エスカの奴、一緒に感電するってよ。ザ・死なば諸共』だ!)

 その時だった。
 エスカは瞬時に発動しかけた魔法を解除し、飛びついて来る大三郎を迎え撃つように腰を落とし、大三郎の顎に左ショートアッパーを入れ、顔をかち上げた刹那、右のジャンピングアッパーを多段ヒットさせた。 

 空中を舞う大三郎。

 エスカは着地と同時に片足立ちをし、空中を舞う大三郎が落ちてくる地点へと滑るように移動する。
 そして、大三郎とエスカがまじわったその瞬間、眩いばかりの閃光が走り、ドカドカバキドカグシャバキドカグシャ! と、言う音だけが無情に響き渡った。

 ザ・世界のような空間の中、時は動き出す……。


 「ぐはっ! ……き、貴様。真な龍が昇っちゃうアッパーと、間的に地に送っちゃう意に……め、目覚めた…技を。ガク」

 
 『それを見ていた三人は後にこう語る。

 「その威力は、月が代わってお仕置きするレベル。そう、まさにメテオだ」と……。
 
 その元凶であるエスカの姿はシルエットとなって、目だけが赤く光り、口からは白い息が漏れている。

 それを見たパニティーと裸体の金髪美女は、死の宣告を告げられた子羊のように震えていた』

 
 「杉田様。変なナレーションを付けるのはやめて下さい」
 「あれ? もうちょっと捻った方が良かった?」
 
 大三郎は何事も無かったかのように立ち上がる。
 その信じられない光景に、裸体の金髪美女は全身の力が抜けるほど驚愕していた。

 「いてて。もうちょい手加減しろよ」
 「人の胸を叩いておいて、手加減なんてよく言えますね?」
 「前触れも無く電撃してくる、だっちゃが悪い」
 「だっちゃって何ですか?」
 「今度からライトニングする時は、ダーリンのバカー! って言ってくれ。そうすれば、電撃を喰らう心構えができる」
 「嫌ですよ。何故、杉田様をダーリンと呼ばなきゃならないのですか?」
 「電撃っ娘の宿命です」
 「はぁ……。また、訳の分からない事を」
 「それよりパニティーは?」
 「草むらに隠れてますよ」
 
 大三郎は草むらに向かってパニティーを呼ぶ。

 「おーい! パニティー。出て来て良いぞー」
 
 大三郎は大声で草むらに隠れているパニティーを呼ぶが返事が無い。

 「あれ? どっか行っちゃったか?」
 「いえ。気配は感じるので草むらに居ますよ」
 「エスカ、気配とか分かるの?」
 「まぁ、多少は」
 「スゲーな! それは普通に凄いと思う」
 「そ、そんな、た、大した事ではありません」

 珍しく大三郎が感心しているので、エスカは思わず照れてしまった。

 「てか、本当にパニティー出て来ないんだけど」
 「すぐそこに冒険者が居ますからね」
 「ん~……。裸体の娘達は思いっきり驚かせたから、もう何もしてこないと思うんだけど、それでも警戒してるのかな?」
 「まぁ、仲間に瀕死の重傷を負わせた相手ですからね、警戒するのも当然かと」
 「そっか~。ちょっと迎えに行って来るよ」
 「はい。私は冒険者に話を聞いておきます」
 「あいよー」

 大三郎はパニティーが隠れている草むらに向かう。
 
 「おい、パニティー。もう大丈夫だぞ」
 「……。スギタ、お前は凄いな」
 「何が?」

 パニティーはとんでもない者を見ているような目で大三郎を見つめる。

 「あんなライトニングを喰らって生きてるなんて……」
 「救世主は異常なほど丈夫になるってエスカが言ってたからなぁ。んまぁ、でも、エスカも死なない程度にはしていると思うよ。でもな、マジで痛いんだぞ」
 「そうなのか?」
 「それより、冒険者も手を出してこないと思うからエスカの所へ行こうぜ」
 「あ、うん。冒険者はどうでも良いんだ。よ、良くないが……」
 「どうした?」
 「スギタが言ってた……」
 「俺が言ってた? 何?」
 「か、神様から授かった技! それは何だ?」
 「え? 何だと言われてもなぁ」
 
 大三郎はサノスのクエストを終わらせた時、紙に書いてあった最後の文を、どう説明して良いのか悩む。
 
 「み、見せてくれ! 頼む!」
 「は? 見せる?」
 「そ、そうだ! ダメか?」
 「見せるって……。まぁ、良いけど」
 「ほ、本当か? 神様の技を見たって皆に自慢できる!」
 「じ、自慢ねぇ……。それじゃ、神技スキルやりまぁ~す」
 「ああ! 頼む!」
 「スキル発動、ゴッド・フィンガー。……16連射」


               ◇


 エスカは冒険者の金髪美女と亜人の女性に服を着させた。
 
 「私の事を知っていたみたいですが、お二人のお名前は何て言うのでしょうか? 宜しければ教えていただけませんか?」
 
 金髪美女と亜人の女性は姿勢を正し名を告げようとした時だった。
  

 「アアーーーン!! ら、らめぇーーー!!」

 何かの声が森に響き渡る。
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