異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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妖精の森編

小さくても大志を抱け

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 黒髪のロングヘアー。
 長いまつ毛に潤んだ瞳。
 妖艶ようえんな唇をいろどる赤い口紅。
 たわわな胸。
 背中がセクシーに開いたドレス。
 足元を強調するハイヒール。
 
 「何故、こうなった?」
 
 大三郎は女装をしている。
 
 「飲食店と聞いてたけどさ」
 「はい、飲食店です」
 「確かに飲食店だよ。大雑把に分類すればな」
 「何か納得がいかない事でも?」
 「ここ」
 「こことは?」
 「”ここ”と言ったら何処? ねぇ? バカっぱいの”ここ”って何処の事を言うの? ここはここって意味じゃないんですか?」
 「お詫びも出来て賃金も頂ける。一石二鳥、いえ、働いたお金で食事も出来て宿屋にも泊まれる。一石四鳥ではないですか。それでも、ご不満ですか?」
 「逆にご不満以外の何があると思いますか?」
 「働かざる者食うべからずです」
 「異世界に連れて来るんなら、衣食住ぐらい用意しとけよ、このバカっぱい!」

 先日のクエストの件で、サノスは部屋から出て来なくなってしまった。
 流石に罪悪感を感じた大三郎はサノスが働いている店を手伝う事に。

 「も~ね。分かった」
 「何がですか?」
 「サノスが男に見えない訳が」
 「そうなんですか?」
 「エスカさんには分からないんですか?」
 「ええ、とんと」
 「見た目は頭脳明晰に見えて、頭の養分は無駄に大きいおっぱいに行ったんですね」
 「失礼ですよ」
 「失礼もクソもあるか! 周りを見てみろ! 店員さんは全員、新しい半分の人ばかりじゃねーか!」
 
 エスカは周りを見渡し、たった一言だけ言う。

 「そーですね」
 「長者番組だったお昼の合言葉みたいに言うな! 何で俺がこんな格好をしなきゃならないんだ!」
 「お似合いですよ」
 「ありがと。でも言うと思ったかスカタン!」
 「仕方ないじゃありませんか。元はと言えば、杉田様がサノスさんをあんな目に合わせたのが悪いんです」
 「おう元凶。どの口がそんな事を言うんだ?」
 「この口ですが? 何か?」
 「ああそうですか。サノスの時、あーしろこーしろと大興奮だったエスカさんは、一切関係ないと仰るんですね?」
 「杉田様のやり方は美しくありませんでしたのでつい」
 「ついじゃねーよ! この腐れ女子! その前に何でお前が飲んでんだよ?!」
 「私は客なので、飲んでて当り前ではありませんか」
 「お前も働けよ」
 「私はちゃんと職に付いて働いているので、ここで働く理由はありません」
 「職に付いてるだぁ、あ? 何だ、人さらいか? それとも詐欺師かペテン師か?」
 「杉田様と一緒にしないでください」
 「俺は人さらいでも詐欺師でもないわ!」
 「そうですね。人をさらう度胸も詐欺師ができる頭もありませんものね」
 「ひどい! 本当に酷い」
 「それより、御代り頂けませんか?」
 「水割りか?」
 「はい」
 
 大三郎は手際よく水割りを作る。
 それを見ていたエスカは、少し感心する表情をした。

 「ほら」
 「有難うございます。それにしても手際が良いですね」
 「取引先の接待やら上司のご機嫌取りで身に付いただけだ」
 「杉田様も普通に人並み程度な事はしていたんですね」
 「貴女は普通に人並み程度な褒め方は出来ないんですかね?」
 「そんな事はありませんよ。褒める時は素直に褒めます」
 「んじゃ、普通に褒めろよ」
 「誰をです?」
 「俺を」
 「貴方のどこを?」
 「もうヤダこの子」
 
 二人の居るカオスなボックス席に声を掛ける人物がいた。

 「失礼します」
 「あら? ミュールさん。お得意様は帰られたのですか?」
 「ええ、先ほど帰られましたわ。私も同席して宜しいかしら?」
 「はい」
  
 ミュールは二人の席へ腰を掛けた。

 「どう? 少しは慣れた?」
 「え? 慣れと言われても……ね」
 「ふふふ。最初は誰でも緊張して上手くいかないものよ」
 「はあ。(緊張はしてないけど女装に慣れたくない)」
 「ミュールさんも何か飲みますか?」
 「頂いても宜しいのかしら?」
 「どうぞ」
 「それじゃ、同じものを頂きますわ」
 「杉田様、私と同じのをミュールさんに差し上げてください」
 「へいへい」
 
 大三郎は手際よく水割りを作り、ミュールに差し出す。

 「はいどうぞ」
 「ありがとう。随分、手際が良いのね? どこかのお店で働いてたのかしら?」
 「いえ、店では働いてませんよ。職業柄、身に付いただけです」
 「あら? そうなの?」
 「杉田様も人並み程度の事は出来るみたいですから」
 「そうだね。おっぱいしか取柄の無い人も居るからね」
 「そうですね。水割りを作るのは人並み程度に出来ますが、他は何の取柄も無い、杉田様みたいな人もおられますからね」
 「ひどい! 本当に酷い」
 「ふふふ。随分、仲が良いのね」
 「仲良くはありません。仕方なく、杉田様の面倒を見ているだけです」
 「仕方なくで殺そうとしたり、異世界に連れて来られても困るんですけどね」
 「異世界?」
 「あ、こちらの杉田様は神々から選ばれた救世主です。
 「一応を強調しなくても良いんじゃないのエスカさんよ」
 「救世主? ……様?」
 「はい。杉田様は”こう見えて”救世主です」
 「エスカさんには、こう見えてってどう見えているんですかね?」
 「どう見えて、ですか? 女装をしている救世主は初めて見たので上手く感想を言えませんが、それでも宜しければ、見たままを包み隠さずオブラートにも包まずハッキリと感想を言いますが?」
 「言わなくて良い。あんた絶対、立ち直れない事を平気で言うから」
 
 大三郎の落ち込んだ雰囲気をしり目に、エスカは水割りを飲む。
 ミュールは、エスカにさらっと大三郎が救世主だと紹介され驚いている。

 「大三郎さん、あ、いえ、救世主様は、サノスちゃんとお知り合いでしたの?」
 「知り合いと言うか……知り合ったと言うか……てか、名前で呼んでくれた方が――」
 「そうですね。杉田様とサノスさんはお尻合った仲ですね」
 「人が喋ってるのに被せて喋んなよ! てか、言葉じゃ分からないと思って言ってると思うが、お前、絶対違う意味で言っただろ」
 「なんの事でしょう?」
 「そこまでしとらんわ! お前見てただろうが!」
 「ええ。無抵抗のサノスさんを川のほとりで手籠めにしている一部始終を拝見させていただきました」
 「誤解を招くような言い方をするな!」
 「まぁ、川のほとりで手籠めに、大胆ですわね」
 「はい。杉田様は抱いたんです」
 「お前ホントいい加減にしろよ! 絶対違う意味で言ってるだろ?!」
 「まぁまぁ、大三郎様、落ち着いてくださいな。他のお客様も居ますから。ね?」
 「す、すみません」
 「正直、困っていたんです。サノスちゃんが部屋から出て来ないって知った時はどうしたものかと」
 「う……」
 「あの子、ここでは人気がある子ですから」
 「人気あるでしょうね」
 「ええ。サノスちゃんのファンクラブがあるほどですから」
 
 ミュールは困り顔でそう言いうと、頬に手を当て溜息をついた。
 大三郎は気まずそうに俯く。

 「そのファンクラブの方々が、杉田様に手籠めにされたと知ったらどうするんでしょう?」
 
 エスカはしれっとした顔で追い打ちを掛ける。
 
 「どうもしないで欲しいですね……」

 大三郎はびくりと体を小さく動かし、額に汗をかきながら呟く。
 そのやり取りを見ていたミュールはクスクスと笑う。

 「ふふふ。本当に仲が良いこと」
 「先ほども言いましたが、仕方なく、杉田様の相手をしているだけです」
 「そりゃどうも有難うございますね、エスカ・オパイ・デカナールさん」
 「勝手に名前を作らないでください」
 「なんだかんだ言っても、大三郎様の事が心配なのですね。ふふふ」
 「え? どゆこと?」
 
 大三郎は、ミュールの言葉の意味が分からず、キョトンとした顔をする。その横で、エスカは平静を装ってはいるが、一瞬だけドキリとした顔は隠せなかった。

 「大三郎様がこの店で働いたその場で指名して、それからずっと一緒に居るじゃないですか?」
 「そう言えば、デカナール以外のお客さんに付いてないな?」
 「私はデカナールじゃありません」
 「ここはこの街で一番大きいお店ですから、色んなお客様がお越しになります。その分、トラブルも多くて……何時もエスカさんに助けてもらってますのよ」
 「へー。エスカが人助けね~」
 「何ですか?」
 「世も末だなと」 
 「杉田様がお困りの際は、笑いながら黙って見ていますからご心配なく」
 「笑わないで助けてよ」
 「知りません」
 「知れ! もっと俺の事を知れ!」
 「気持ち悪いから知りたくありません」
 「はぐふぅ! 気持ち悪いって……俺のメンタル砕くな!」
 「ふん!」
 「うふふふ」

 店員の一人がミュールを呼びに来る。

 「ミュールお姉様。そろそろ」
 「あら? もう、そんな時間?」
 「はい、準備よろしくお願いします」
 「分かったわ。有難う」
 
 店員は笑顔で去って行く。
 
 「エスカさん、ご馳走様でした」
 「はい。時間があったらまた来てください」
 「ありがとう。時間があったらまたご馳走になりに来るわ」
 「時間て何かあるんですか?」
 「ええ。大三郎様にもいずれやって頂くかもしれません。ふふ」
 「え? 何を?」
 「それでは」

 ミュールはスッと立ち上がり、一礼をして店の奥へと消えて行った。

 「俺にもやって貰うって何をだ?」
 「見てれば分かります」
 「なに見んの?」
 「すぐに分かります」
 「ふ~ん。それにしても、あれだな」
 「何ですか?」
 「ミュールさんもそうだけど、凄い綺麗な人が多いからさ。そうじゃない人も居るけど……」
 「ここはこの街だけじゃなく、この国一番のお店ですから」
 「へー。歌舞伎町みたいなもんか」
 「かぶきちょう? ああ、杉田様のお国にありましたね」
 「エスカってどのくらい知ってんの?」
 「何がです?」
 「地球の事」
 「杉田様のお国くらいしか知りませんよ」
 「そうなの?」
 「ええ。一応、救世主候補となる人物が居る国や場所の情報収集はしていますから」
 「そうなんだ。てか、エスカって何者なの?」
 「何者とは?」
 「俺の知ってる、って言ってもアニメや漫画の中での情報だけど、異世界に連れて来る人物って、女神様だったりするんだけど」
 「女神?」
 「そのくらいの力が無いと無理って事なんだろうけどさ」
 「女神……」
 「まぁ、実際は、人間が考えも及ばない高度な技術があったり、俺が想像も出来ない何かがあったりするんだろうけど、ってどした?」
 「私は女神です」
 「違うよね」
 
 間髪入れずにツッコむ大三郎。
 見つめ合う二人。

 「めが――」 
 「違うよね」
 
 今度は被さるようにツッコむ。
 見つめ合う二人。
 
 殆ど無表情なエスカだが、大三郎のツッコミにへそを曲げたのか、口を少しへの字に曲げる。

 「女神で良いじゃないですか?」
 「女神に失礼だからやめなさい」
 「何が失礼なんですか?」
 「女神は慈愛に満ち、慈悲深い美しい女の神様の事を言うのですよ? デカナールさん」
 「十分、私じゃないですか」
 「ごめん。泣きそうになるからやめて」
 「失礼極まりないですよ」
 「確かに、お前は見た目だけは綺麗だ。そこら辺の女性なんかより上位クラスだ」
 「べ、別に綺麗じゃありません」
 「胸もアホみたいに大きく尻の形も良い、スタイル抜群だ」
 「……そ、そうですか。でも、アホは余計です」
 
 エスカはツンとしているが、満更まんざらではない様子で、少し恥ずかしそうにチビリと水割りを飲む。

 「口は悪いが性格は悪くないとは思う。が、女性の三大武器の中でリーサルウェポンとも称される”笑顔”が無い。その所為で、女性の良い所を全て台無しにしている。もーね、全くもって終わってるの。ラブ・ドールでも笑顔だってのに、昔のダッチワイフ並みの無表情。お前はね、ダッチワイフ、ダッチだダッチ。せめてドーナッツみたいな口でもしてろ。少しはマシになる」

 エスカの持っているグラスにピシリと亀裂が入る。
 エスカは無言で大三郎の手を取り、手のひらをテーブルに置かせ、その上に勢いよくグラスをドンと置いた。
 
 「痛でっ! 何すんだよバカっぱい!」
 「死なす」
 「え? ちょちょ、ちょっと待って、じょ冗談だからね? エスカさんは凄い美人で女神様、ね? ちょ――」

 二人がじゃれ合って? いると、店の証明が消えアナウンスが聞こえた。

 『皆さまお待たせいたしました! 本日のメインショーの始まりです!』

 盛大な音楽が流れ、店の奥にあるステージにライトが照らされると大歓声が湧き上がる。
 そして、ステージの袖からミュールを筆頭に、見目麗みめうるわしい姿の踊り子たちが次々と姿を現した。
 
 『ミュール・サラトガ嬢と、当店自慢のマリスター達の入場でぇーす!』

 アナウンスと共に更なる歓声が湧き上がる。

 「す、凄いな。この歓声」
 「ええ。ここのステージに立つ事は、この国最大の名誉ですからね」
 「そうなの?」
 「杉田様の世界で、ニューハーフと申される方々は、この世界で”マイン”と呼ばれています」
 「へー」
 「そして、下積みを経て、晴れて”マリスター”と言うトップスターに選ばれると、男性女性種族関係なく憧れの的となります」
 「マジで?」
 「はい。特に、女性からの支持は圧倒的ですね」
 「何で?」
 「踊り、歌唱力は勿論の事、美を追求し、その頂点に立っていると言っても過言ではないからです」
 「ほへー。んじゃ、ミュールさんは凄い人だったのか?」
 「はい。そん辺の権力者程度では、ミュールさんの足元にも及ばないでしょう。と言うより、声を掛ける事すら許されません」
 「マジかよ!」
 「マジです」
 「確かに、えらいべっぴんさんだもんな~」
 「そうですね」
 「でも、付いてるんだよね?」
 「何がですか?」
 「あ、いや。俺と同じの」
 「何がです?」
 「もー、分かってるクセにぃ」
 「分かりません」
 「見る?」 
 「何をです?」
 「付いてるモノ」
 「見せれるほどの”モノ”なのですか?」
 「ほんと、素でメンタル砕きにくるね」
 「くだらない事ばかり言うからです」
 「俺のアレはくだらなくない!」
 「くだらない以下の粗チンには興味ありません」
 「ぎゃふん!! お、おま、お前、クリティカルヒットだけはやめろよ…」
 「フン!」
 
 二人が会話(大三郎が一方的に大ダメージを喰らった)をしている中、ステージ上では見事な歌や踊りが披露されていた。

 「粗チンだって頑張って生きてるんだ……」
 「あ。そう言えば」
 「ぐす……、なに?」
 「サノスさんはマリスターの卵なんですよ。それも金の卵」
 「そうでしょうね……」
 「杉田様が傷モノにしてしまいましたが」
 「違うでしょ?! 傷モノに何かしてないでしょ?!」
 「自室から出て来ないのが、その証拠ではありませんか?」
 「ぐっ……」
 「ミュールさんは、随分サノスさんに目を掛けてましたから、さぞ心配でしょうね?」
 「な、何で、今そんな話をぶり返すのですか? トドメですか?」
 「いえ。ミュールさんが杉田様に”いずれ”と、仰っていたのを思い出しただけです」
 「……言ってたね」
 「頑張るしかありませんね」
 「店が終わったら、サノスの様子を見てきます」
 「そうしてください」
 「はい……」

 ヘコむ大三郎とは真逆にステージは更に盛り上がっていた。
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