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今日は何も新しいニュースはございません

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次の朝、随分早くに目を覚ましてしまった。時計を見るとまだ朝の五時。起きていると不安や恐怖が襲ってくるかもしれないから、許されるだけ長く眠っていたいのだけれど、ベッドに潜っても頭が冴えてしまってどうしても眠れない。仕方がないので起き上がってリビングで時間を潰すことにした。TVをつけたがこの時間のTVはどこの局も同じようなニュース番組しかやっていなくてとてもつまらない。いつも思うのだけれどどうしてこの国はこう毎日ニュースにするような事故や事件があるのだろう。

「今日はなにも目新しいニュースはございません。」

という日があってもいいのではないだろうか。そんなくだらないことを考えて過ごす時間はとても長く感じた。いつの間に季節はこれだけ進んだのか、六時にもなると外は大分明るくなっていた。もう寒くて暗い冬も終わりなのだ。今朝は外もわりと暖かそうだったので散歩に出ることにした。多分、お父さんやお母さんにばれたら体にさわるからやめなさい、と言われると思って静かに玄関のドアを開けて外に出た。

この時間はまだ世界は静寂を保ったままだった。人間が動き出していないからざわざわとした騒音がしない。あたしは昔からこの朝の静けさが好きだ。人間の気配がしない世界が好きだったのだ。今日は出産予定日。それこそ万が一にも事故や事件に巻き込まれる訳にはいかない。あたしはゆっくりゆっくり地面を踏みしめながら歩みを進めた。今日は無事に産まれてきてくれるだろうか。お願いだからそうであって欲しい。昨日みたいにおなかの痛みを何度も繰り返すのは嫌だし、なによりあたしの命があるうちに産まれてきてもらわなくては。

 しかし、この日は正午を過ぎても、夕方になっても、待てども待てども陣痛がやってくることはなかった。もしかしたら、あたしがあの痛みに襲われるのが嫌だと思っているから体があの痛みを発するのを止めてしまったのか。だけど陣痛が来ないと産まれてくるものも産み落とすことが出来ない。あたしは心の中でどんな痛みにも耐えてみせるから早く陣痛がやってくるようにと望んだ。祈ることがちぐはぐだ、いつもあたしは。結局この日は夜遅くまで陣痛がやってくることは無かった。あたしの焦りはますます大きくなっていた。あたしの寿命よ、頼むからふうわを産むまではもってくれ。

あたしが長く生きられるか否かはこの際どうでもいい。あたしと道連れになってふうわがこの世に出てこられないのはどうしても避けたいのだ。彼女は絶対いい子になる。岳人みたいに優しさと可愛らしさを兼ね備えた天使のような子に間違いないのだ。この世界にどうしても必要な命なの。だからお願い。あたしの命よ、無事に産み落とすまでは最後の力を振り絞って生きながらえてくれ。

なんか息が苦しい。胸を圧迫されているような力を感じる。無理やり心臓マッサージをされているみたいだ。呼吸も不自由になる。まさかいよいよ死に逝くときがきてしまったのか。お願いだからそれだけはやめてくれ。祈りが必要ならどんなに時間をかけてでも、心を込めて祈るから。辛い。怖い。あたしがなにをしたっていうの。なにも命までとられる程悪いことをした覚えもないけれど。あなたはいつもこうやって無実な人間の命を奪い去っていくの?息を吸い込むことが苦しい。陣痛とは明らかに違う。おなかじゃなくて胸が苦しい。

お願いだから命だけは取らないで。あたしにはまだすべきことが残っているの。なんとか痛みがひくように大きく深呼吸を繰り返す。胸に手を当てて自分の胸を擦る。神様、なんとかこの痛みを取り去って下さい。もしも、この痛みを与えているのが悪魔なら悪魔様、どうにかあと一日だけ待って下さい。

声を出したいくらいの激しい痛みだったけど、あたしは声を押し殺した。深呼吸を続けた。落ち着けあたし。今一瞬だけ我慢をすればきっとこの痛みは消える。まずは気持ちを落ち着かせるのだ。あたしは胸を押さえ目を見開いてお腹に力を入れて、歯を食いしばり胸部の痛みに耐えた。ふうわ。大丈夫だよ。お母さん、この痛みに耐えて必ずあなたをこの世に産んでみせるからね。
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