あたしは蝶になりたい

三鷹たつあき

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あたしは蝶になりたい(花)

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先生はあたしの夢を本気で応援してくれた。校長先生や副校長はあたしが卒業式に参加することも反対だったみたいだが、大葉先生は出来る限りの支援はするから是非卒業式に参加するべきだと言ってくれた。

あたしはそんなに一生懸命になってくれる先生に甘えることにした。これまで色々あった関係だけど、最後の最後であたしを応援してくれる先生はすごく頼もしい大人に思えた。きっとあたしが勘違いしていただけなのだろう。先生はいつかあたしの夢がどんなものだって笑わないって言ってくれた。あたしはもっとその言葉を信じるべきだったのだろう。胸をはってあたしの夢は素敵なお嫁さんになることだって言えば良かったのだろう。多分、先生はそれを笑ったり否定しなかったのではないだろうか。

あたしが勝手に自分の夢と言うものはなにか立派な職業に就くものだと思い込んでいたのではないだろうか。誰もそんなことは言っていないのにね。勝手に先生の求める答えはそういうものだと推し量っていた。大葉先生の問うていた夢というものはもっと広々としたものだったみたい。だってあたしの子供を産みたいという気持ちを汲み取ってくれてこんなにも熱くなってくれるのだもの。

だけど先生覚えていますか?あたしは一度だけあなたにあたしがなりたいものを伝えたことがあるってことを。上手く気持ちは伝わらなかったけどね。今日は素直に思います。先生、どうもありがとうございます。お蔭でたくさんの思い出が詰まったこの学校の卒業式に参加できるようになったのだから。                  

とは言え、もう間もなく出産を控えたあたしひとりで登校するのは難しいという理由でお母さんが同伴することで卒業式には出席することとなった。もうこの頃になると本当に自分の体重を支えることが精いっぱいでひとりでまともに歩くことも難しかったの。だからお母さんが同伴してくれるのはとても有難かったが、幾分の恥ずかしさもあった。卒業式に親を連れてくるなんてあたしだけだし、お母さんに素のあたしの学校生活を見られることも恥ずかしかった。
これじゃあいつものように果歩ちゃんや美羽ちゃんと絡むこともしづらいなあ。亮君と話すなんてなおさらだわ。

そんなことを考えながらお母さんと一緒に登校しているといつも以上に学校に着くのが早く感じられた。体が重いから実際はおなかが大きくなる前の登校時間以上に時間がかかっているはずなのに。
我が校の校庭には入口に大きな桜の木が立っている。それも一本ではなく何本も。だけど桜が花びらを咲かすにはまだほんの少しだけ時期が早いようだった。あたしは桜の花がとても好きだった。だけど今年の桜はまだつぼみも十分に丸くもなっていない状態だ。

なぜあたしが桜の花が好きか。それは桜の花の儚さが妙に気に入っていたから。本当に桜の花びらの寿命は短い。満開になって10日もすればすでにほぼ花は散り始め、あっという間に葉桜になってしまう。輝かしく枝に花を咲かせている瞬間も好きだったけど、あたしは花びらを散らせるときの桜が好きだった。まだまだ枝にしがみ付いていれば人々を喜ばせることが出来るだろうに、そうはせず、散って歩道を桃色に染める桜の花びらが潔く見えた。だからあたしの一番好きな桜の花びらは散って大地を色づかせるそれ。だからあたしは毎年桃色に染められた歩道の写真を携帯のカメラで撮って記録に残していた。

桜の代わりに校庭を彩っていたのが木蓮の花だった。この時期あたし達の頭上に広がる空はまさに空色だった。青でもなく、水色でもなく、空色。目の前にある木蓮の花はすっかりその空色に溶け込んでいる。あたしの目の前のすぐ届くところに雲が近づいてきたように見えるのが木蓮の花の特徴だ。

どう。あたしはちょっと詩人ぽく見えないかしら。実は最近のあたしは趣味で詩を書いている。生きているうちになにかを残したくなったのかもしれない。それともただの気まぐれかもしれない。いずれか分からないが、感じることの多い最近の出来事を一言の詩で表現してノートに書き記してある。せっかくだからあたしの一番のお気に入りの詩をあなたにだけ見せてあげる。



あたしは荒野に咲いた一輪の花
そんなに美しくもない花だけど
干枯らびた地球から少しでも多くの養分を吸い上げて
いつまでも綺麗な花びらを力いっぱい開いている

荒野のずっと向うには
どこかにあたしと違う花が咲いていて
あたしと同じように咲き続けているこがいる

いつか荒野をあたしたちの仲間でいっぱいにして
お互いが隣同士に並んで
大きなお花畑を作りたい
それがあたしの夢なんだ

あたしたちがたくさんに増えても
それでも栄養を与えてくれる
そんな地球に咲くことが夢なんだ

ね。素敵な詩でしょ。他の詩は恥ずかしくて見せられないけど、この詩だけはみんなに見せたいんだ。込めた意味までは語れないけどね。シンプルな詩だから読んでもらえればあたしの言いたいことは分かってもらえるんじゃないかな。
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