あたしは蝶になりたい

三鷹たつあき

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あたしが成長したわけではない

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 中学生としての生活が始まったけど、日常が大きく変わったという気はしなかった。新しい友達も増えたけど相変わらず果歩ちゃんと一緒にいる時間が長い。 
 
 全校生徒がなにか部活に入らなくてはいけないという校則だったから、吹奏楽部に入ることにした。たいして興味もなかったけど果歩ちゃんがやってみたいというので付いていっただけ。ピッコロという楽器に興味をもち、はじめることにした。小さくて愛おしい形と可愛らしい音色が好きになったよ。
 
 亮君とは殆んど接触することがなかった。やっぱり彼は自分のペースを崩すことなくひとりで本を読んでいることが多かった。一緒に下校したあの日から少しは距離が縮まると思っていたのはあたしだけだったみたい。あの日には言えなかったけど、新しい友達とたくさん賑やかな時間を積んでいくつもりだよ。前向きに勉強も部活も頑張るよって伝えたかったけど、機会はなかなか訪れなかった。
 
 一方で家の中で暮らすあたしは大分開き直った気色をするようになっていた。
 毎晩幻影を目にすることには変わりはないのだが、あれは自分の寿命とは関係ない。仮になにか関係あるとしても、なにも抵抗することは不可能だと執着しないように心がけていた。
 
 随分神経が太くなったのだなって?ううん。そんなことないよ。人間はみんないつかは死ぬのだし、そのことばかりに気を揉んでいてもおもしろいことはないと諦めただけ。それに自分の死期が夢に出るなんてことは非科学的だし、信じられない。精神が病んでいるのは間違いないかもしれない。そのせいで毎晩悪夢を見るのは仕方ないかもしれない。だからと言って自分が遠くない未来に死ぬのだと嘆くのは正しい判断とは思えない。
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