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脱走した魔法使い
脱走した魔法使い①
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キャンプカーは王都を目指して西に向かって爆走を続ける。
途中何度か厄介なモンスターに絡まれつつもイヴンナ山やドワーフの里での防衛戦を経たお陰か、全員レベルが上がり、難なく突破出来ている。
道中での五度目の戦闘を終えると、マリのレベルはついに30になった。
今こそやってみたいと思っていた事を試す時だ。
マリはポケットの中からスマートフォンと取り出し、アレックスの名前を表示する。
レベル30になったらもしかすると、別の世界に連絡を送れるようになるのではないかと予想を立てていたわけだが、果たしてどうだろう?
マリは両手を使って文章を打ち込む。
”今ニューヨークに居るでしょ? 何で風の神を連れて行ったの? こっちの世界の人間がどうなってもいいわけ?”
若干攻撃的な雰囲気になったが、気にせず送信する。
3分、5分と待ってみても、以前の様なエラーは表示されない。もしかしたらちゃんと送れたのかもしれない。
マリはレベルが30まで上がった喜びを噛みしめつつ、母や友人達にもメッセージを送る。
勿論異世界に来ているとは書かない。南米で食材探しをしている事にしてしまった。
(この内容でも、心配かけてしまうかもね。でも異世界に来ているなんて伝えたら、頭がおかしくなったと思われるだろうし、仕方ない)
アドレス帳を上から下へとスクロールしているうちに、父の名前を見つける。
あの人とはもう前みたいに接する事が出来ないかもしれない。
ニューヨークに戻ったら、グレンの件で衝突は避けれないだろう。というか避けたくない。
決意を新たにし、スマートフォンをポケットにしまう。
時刻は夜の10時を回っている。
そろそろセバスちゃんとキャンプカーの運転を交替しなければならない。
本来であれば、どこか安全な場所に停車し、全員で休むのだが、今は一刻を争う。全員二時間ずつ運転し、距離を稼ぐ予定だ。
マリはコーヒー入りのマグカップを持ち、運転席まで足を運ぶ。
「セバスちゃん。交替の時間だよ」
「もうそんな時間ですか。マリお嬢様、身体が辛くなったら遠慮なくおっしゃってくださいね。私が運転しますから」
「大丈夫大丈夫。アンタは何も気にせず朝まで寝てて」
「うぅ……お優しい……」
キャンプカーを路肩に停め、セバスちゃんに運転席を譲ってもらう。最近はセバスちゃんや公爵に運転をお願いしていただけに、若干の不安はあるが、そのうち思い出すだろうとポジティブに考える。
ギアを『D』に入れて発車させると、グレンがやって来て、助手席に腰を下ろした。
「寝てなくて大丈夫なの?」
「さっき少し横になったから平気」
「ちゃんと寝た方がいいと思うけどね」
これから王都でモンスターと戦うだろうから、休める時に休むべきだと思うのだが、無理強いもしたくない。
「二手に分かれるべきだと言ったら、マリさんはどう思う?」
「え? 私達の話?」
急に言われた言葉を直ぐに理解出来ず、聞き返す。
「うん。僕と公爵は王都へ。マリさんとセバスさんは水の神の元へ向かったらいいんじゃないかと思うんだ」
実はマリもそれを考えていた。
自動浄化システムも、王都の防衛も緊急性を要する。もし四人で行動し、どちらかの対応を終えた後にもう片方へと行ったら、手遅れになるんじゃないだろうか。
マリが返事をしないのを、拒否したいからだと思ったのか、グレンはさらに言葉を続ける。
「アースドラゴンとの戦いで分かったけど、マリさんはちゃんとカリュブディスに守られている。君達はもう僕一人よりもずっと強いよ。たぶんセバスさんを守れるくらいに」
「……ちょっとの間考えさせて」
「うん」
直ぐに答えが出せないので、運転している二時間だけでも悩む事にした。
グレンと当たり障りのない料理の話をしながら30分程キャンプカーを走らせると、ヘッドライトが道のど真ん中に立つ不審な影を照らした。距離は充分あるが、マリは慌てて急ブレーキを踏む。
黒いローブを着ている人間なのだろうが、死神の様にもみえ、ゾッとする。
牽いてしまったら、呪われてしまいそうだ。
「あれ? あの人って、王城に居た魔法使いのお爺さんなんじゃ……」
グレンにそう言われてみると、確かにそんな気もしてくる。だが何故こんな辺鄙な場所に立っているのだろうか。
途中何度か厄介なモンスターに絡まれつつもイヴンナ山やドワーフの里での防衛戦を経たお陰か、全員レベルが上がり、難なく突破出来ている。
道中での五度目の戦闘を終えると、マリのレベルはついに30になった。
今こそやってみたいと思っていた事を試す時だ。
マリはポケットの中からスマートフォンと取り出し、アレックスの名前を表示する。
レベル30になったらもしかすると、別の世界に連絡を送れるようになるのではないかと予想を立てていたわけだが、果たしてどうだろう?
マリは両手を使って文章を打ち込む。
”今ニューヨークに居るでしょ? 何で風の神を連れて行ったの? こっちの世界の人間がどうなってもいいわけ?”
若干攻撃的な雰囲気になったが、気にせず送信する。
3分、5分と待ってみても、以前の様なエラーは表示されない。もしかしたらちゃんと送れたのかもしれない。
マリはレベルが30まで上がった喜びを噛みしめつつ、母や友人達にもメッセージを送る。
勿論異世界に来ているとは書かない。南米で食材探しをしている事にしてしまった。
(この内容でも、心配かけてしまうかもね。でも異世界に来ているなんて伝えたら、頭がおかしくなったと思われるだろうし、仕方ない)
アドレス帳を上から下へとスクロールしているうちに、父の名前を見つける。
あの人とはもう前みたいに接する事が出来ないかもしれない。
ニューヨークに戻ったら、グレンの件で衝突は避けれないだろう。というか避けたくない。
決意を新たにし、スマートフォンをポケットにしまう。
時刻は夜の10時を回っている。
そろそろセバスちゃんとキャンプカーの運転を交替しなければならない。
本来であれば、どこか安全な場所に停車し、全員で休むのだが、今は一刻を争う。全員二時間ずつ運転し、距離を稼ぐ予定だ。
マリはコーヒー入りのマグカップを持ち、運転席まで足を運ぶ。
「セバスちゃん。交替の時間だよ」
「もうそんな時間ですか。マリお嬢様、身体が辛くなったら遠慮なくおっしゃってくださいね。私が運転しますから」
「大丈夫大丈夫。アンタは何も気にせず朝まで寝てて」
「うぅ……お優しい……」
キャンプカーを路肩に停め、セバスちゃんに運転席を譲ってもらう。最近はセバスちゃんや公爵に運転をお願いしていただけに、若干の不安はあるが、そのうち思い出すだろうとポジティブに考える。
ギアを『D』に入れて発車させると、グレンがやって来て、助手席に腰を下ろした。
「寝てなくて大丈夫なの?」
「さっき少し横になったから平気」
「ちゃんと寝た方がいいと思うけどね」
これから王都でモンスターと戦うだろうから、休める時に休むべきだと思うのだが、無理強いもしたくない。
「二手に分かれるべきだと言ったら、マリさんはどう思う?」
「え? 私達の話?」
急に言われた言葉を直ぐに理解出来ず、聞き返す。
「うん。僕と公爵は王都へ。マリさんとセバスさんは水の神の元へ向かったらいいんじゃないかと思うんだ」
実はマリもそれを考えていた。
自動浄化システムも、王都の防衛も緊急性を要する。もし四人で行動し、どちらかの対応を終えた後にもう片方へと行ったら、手遅れになるんじゃないだろうか。
マリが返事をしないのを、拒否したいからだと思ったのか、グレンはさらに言葉を続ける。
「アースドラゴンとの戦いで分かったけど、マリさんはちゃんとカリュブディスに守られている。君達はもう僕一人よりもずっと強いよ。たぶんセバスさんを守れるくらいに」
「……ちょっとの間考えさせて」
「うん」
直ぐに答えが出せないので、運転している二時間だけでも悩む事にした。
グレンと当たり障りのない料理の話をしながら30分程キャンプカーを走らせると、ヘッドライトが道のど真ん中に立つ不審な影を照らした。距離は充分あるが、マリは慌てて急ブレーキを踏む。
黒いローブを着ている人間なのだろうが、死神の様にもみえ、ゾッとする。
牽いてしまったら、呪われてしまいそうだ。
「あれ? あの人って、王城に居た魔法使いのお爺さんなんじゃ……」
グレンにそう言われてみると、確かにそんな気もしてくる。だが何故こんな辺鄙な場所に立っているのだろうか。
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