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火の神殿へ
火の神殿へ②
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夕食後、各々就寝の準備をしている時に異変は起きた。
何故かキャンプカーが斜めに傾いている感じなのだ。しかもその傾斜はきつめになったり、緩くなったり、ゆっくりと変化する。
ソファに座って寛いでいた公爵も違和感に気付いたようで、立ち上がり、首を傾げている。
「あれ? 何かおかしいね」
「そうなんだよね。車体が変な動きしてる」
「キャンプカーは平坦な場所に停めたはずなのにな」
窓を開けて外を見てみるが、地面は何もおかしくないようだ。
「マリお嬢様、タイヤがパンクしているかもしれないので、外に出て見て来ます」
「え、これパンクなの?」
セバスちゃんは縞柄の寝間着姿で外に出て行く。そのプクプクした背中を見ながら、マリはそれはないだろうと、首を傾げる。
この世界は当然ながら自動車用に道が舗装されているわけではない。今まで走って来た道の中には、タイヤに悪そうな地形が幾らでもあったのに、タイヤも車体もダメージを食らう事はなかった。それどころか、ガソリンのメーターもビクともしないし、走行中の揺れもほとんどなくて、日本車も真っ青な性能なのだ。
それはすべてマリのスキル『キャンプカーマスター』の影響によるもののようなので、今の状況もパンクが原因ではない様に思われる。
「セバス君だけだと、モンスターが現れた時に危険だから僕も見に行こう」
窓の外の様子を見ていた公爵は、セバスちゃんの事が心配になったのか、彼の後を追った。マリも気になるので、付いて行く。
何故かグレンも窓から下りて来て、結局4人でキャンプカーの周囲を見て回った。
「パンクではなさそうですね」
「あそこを見て。地面の一部が盛り上がっているよ。ここに停まっている間に地形が変わってしまったのかな?」
セバスちゃんと公爵が言う様に、キャンプカーの下の地面が部分的に盛り上がっていた。
しゃがみ込んで、そこを見てみると、その部分はさらに上昇した。
「むむ……」
地面が隆起する現象があるのを知っているが、こんな局所的に、しかも短時間で見てわかる程に変化するなんて普通じゃない。何が起こっているかは不明だが、取りあえずここを離れるべきだろう。
「キャンプカーをバックさせて、ここから動かしてみよう」
「……マリさん、ちょっと待って。これ、もしかしたらモンスターかもしれない」
キャンプカーに戻りかけたマリに待ったをかけたのはグレンだった。
「え!? モンスター!?」
「うん。岩の姿をした奴がいるんだ。ボールダーというんだけど……」
「あぁ、確かにボールダーはこの付近を生息地にしていたかもしれない。マリちゃんとセバス君、ちょっとキャンプカーから離れてくれるかな。僕とグレン君で処理しよう」
「分かった。二人ともよろしく!」
マリ達が遠ざかると、公爵は手に持つ杖で凸部分をつつき始めた。
すると……。
キャンプカーの周囲がボコボコと波打ち始める。
異様すぎる光景だ。
地面から飛び出して来たのは、沢山の丸っこい岩。普通の岩と違い、人間の顔の様な造作で、目や口とおぼしき部分を開閉している様子があまりにシュール。
動きは鈍そうだが、防御力が高いようで、激しい攻撃を受けても直ぐに壊れない。
「くぅ……。銃火器を持ってキャンプカーを出るべきでした」
「しょうがないよ。流石にキャンプカーの下にモンスターが潜んでいるなんて想像出来ないし」
加勢出来ないもどかしさはあるが、ここは仕方がない。
それにしても、グレン達は随分慎重にボールダーを相手どっている様に見える。一個一個確実に壊していくという動きをしているのだ。何か気を付けなければならない事でもあるのだろうか?
マリの疑問は直ぐに解けた。
公爵の攻撃を受けていたボールダーが一瞬のうちに真っ赤に染まり、爆発した。
しかも一個だけで終わらず、周囲に転がるボールダーに飛び火し、爆発が伝染していく。
「うわ!? グレン! 公爵!」
二人の状況を心配し、マリはもうもうと煙が立ち込める中に飛び込もうとしたが、セバスちゃんに腕を掴まれ、止められる。
「危険すぎます。まだボールダーとやらが残ってるかもしれませんよ!」
「でも……」
「大丈夫。生きてるよ」
マリの心配を他所に、グレンと公爵は咳き込みながら煙の中から出て来てくれた。
見たところどこも怪我をしていないようなので、マリは胸を撫でおろす。
「あー良かった」
「……数日前から風の魔法が使えなくて、煙を払えない」
風の神の事はマリから他の三人に伝えているので、たぶんグレンの発言は、それを前提にしているのだろう。
自然界の風も吹かないため、煙は暫くこのままだ。
「ボールダーの欠片って、火薬としての需要が結構あるから、拾っていったら結構な額で売れるよ」
「そうなんだ。じゃぁ、拾っておこうか」
公爵が言うくらいだから、かなりいい値段で売れるのかもしれない。金の用途は幾らでもあるし、そのうちの一つは自分達で稼いだ金の方がいいのは明白なので、稼げる時に稼いでおきたい。
暫くすると、煙が薄くなり、キャンプカーの無事が確認出来た。
車体の下のボールダーも爆発したのか、綺麗に無くなっていたし、キャンプカー自体も走行出来たので、もう何の問題もない。
ニューヨークから食料を持って来る時に使用した段ボール箱を運び出し、四人がかりでボールダーの欠片を拾い集める。全部で10箱分になったので、結構場所をとってしまった。
まぁ、早めに売り払ったらいいだけだ。
その後の道中も厄介なモンスターにちょいちょい絡まれ、旅程は予定通りとはいかなかった。
火の神殿付近まで辿り着いたのは、結局王都を出発してから二日後の午後。
事前にモイスに予定を入れていたわけだが、大丈夫だろうか?
青空を貫く様にそびえる火の神殿の尖塔を眺めながら、マリは固まった筋肉をストレッチで伸ばす。
隣で、マリの真似をして体を動かしていた公爵は、楽しそうに道の向こうに視線を向けている。
「さ~て、モイスは僕達に気付いてくれているかな?」
公爵の心配は杞憂だったようで、道の向こうから赤毛の男性が乗る馬がこちらに向かって走って来た。
何故かキャンプカーが斜めに傾いている感じなのだ。しかもその傾斜はきつめになったり、緩くなったり、ゆっくりと変化する。
ソファに座って寛いでいた公爵も違和感に気付いたようで、立ち上がり、首を傾げている。
「あれ? 何かおかしいね」
「そうなんだよね。車体が変な動きしてる」
「キャンプカーは平坦な場所に停めたはずなのにな」
窓を開けて外を見てみるが、地面は何もおかしくないようだ。
「マリお嬢様、タイヤがパンクしているかもしれないので、外に出て見て来ます」
「え、これパンクなの?」
セバスちゃんは縞柄の寝間着姿で外に出て行く。そのプクプクした背中を見ながら、マリはそれはないだろうと、首を傾げる。
この世界は当然ながら自動車用に道が舗装されているわけではない。今まで走って来た道の中には、タイヤに悪そうな地形が幾らでもあったのに、タイヤも車体もダメージを食らう事はなかった。それどころか、ガソリンのメーターもビクともしないし、走行中の揺れもほとんどなくて、日本車も真っ青な性能なのだ。
それはすべてマリのスキル『キャンプカーマスター』の影響によるもののようなので、今の状況もパンクが原因ではない様に思われる。
「セバス君だけだと、モンスターが現れた時に危険だから僕も見に行こう」
窓の外の様子を見ていた公爵は、セバスちゃんの事が心配になったのか、彼の後を追った。マリも気になるので、付いて行く。
何故かグレンも窓から下りて来て、結局4人でキャンプカーの周囲を見て回った。
「パンクではなさそうですね」
「あそこを見て。地面の一部が盛り上がっているよ。ここに停まっている間に地形が変わってしまったのかな?」
セバスちゃんと公爵が言う様に、キャンプカーの下の地面が部分的に盛り上がっていた。
しゃがみ込んで、そこを見てみると、その部分はさらに上昇した。
「むむ……」
地面が隆起する現象があるのを知っているが、こんな局所的に、しかも短時間で見てわかる程に変化するなんて普通じゃない。何が起こっているかは不明だが、取りあえずここを離れるべきだろう。
「キャンプカーをバックさせて、ここから動かしてみよう」
「……マリさん、ちょっと待って。これ、もしかしたらモンスターかもしれない」
キャンプカーに戻りかけたマリに待ったをかけたのはグレンだった。
「え!? モンスター!?」
「うん。岩の姿をした奴がいるんだ。ボールダーというんだけど……」
「あぁ、確かにボールダーはこの付近を生息地にしていたかもしれない。マリちゃんとセバス君、ちょっとキャンプカーから離れてくれるかな。僕とグレン君で処理しよう」
「分かった。二人ともよろしく!」
マリ達が遠ざかると、公爵は手に持つ杖で凸部分をつつき始めた。
すると……。
キャンプカーの周囲がボコボコと波打ち始める。
異様すぎる光景だ。
地面から飛び出して来たのは、沢山の丸っこい岩。普通の岩と違い、人間の顔の様な造作で、目や口とおぼしき部分を開閉している様子があまりにシュール。
動きは鈍そうだが、防御力が高いようで、激しい攻撃を受けても直ぐに壊れない。
「くぅ……。銃火器を持ってキャンプカーを出るべきでした」
「しょうがないよ。流石にキャンプカーの下にモンスターが潜んでいるなんて想像出来ないし」
加勢出来ないもどかしさはあるが、ここは仕方がない。
それにしても、グレン達は随分慎重にボールダーを相手どっている様に見える。一個一個確実に壊していくという動きをしているのだ。何か気を付けなければならない事でもあるのだろうか?
マリの疑問は直ぐに解けた。
公爵の攻撃を受けていたボールダーが一瞬のうちに真っ赤に染まり、爆発した。
しかも一個だけで終わらず、周囲に転がるボールダーに飛び火し、爆発が伝染していく。
「うわ!? グレン! 公爵!」
二人の状況を心配し、マリはもうもうと煙が立ち込める中に飛び込もうとしたが、セバスちゃんに腕を掴まれ、止められる。
「危険すぎます。まだボールダーとやらが残ってるかもしれませんよ!」
「でも……」
「大丈夫。生きてるよ」
マリの心配を他所に、グレンと公爵は咳き込みながら煙の中から出て来てくれた。
見たところどこも怪我をしていないようなので、マリは胸を撫でおろす。
「あー良かった」
「……数日前から風の魔法が使えなくて、煙を払えない」
風の神の事はマリから他の三人に伝えているので、たぶんグレンの発言は、それを前提にしているのだろう。
自然界の風も吹かないため、煙は暫くこのままだ。
「ボールダーの欠片って、火薬としての需要が結構あるから、拾っていったら結構な額で売れるよ」
「そうなんだ。じゃぁ、拾っておこうか」
公爵が言うくらいだから、かなりいい値段で売れるのかもしれない。金の用途は幾らでもあるし、そのうちの一つは自分達で稼いだ金の方がいいのは明白なので、稼げる時に稼いでおきたい。
暫くすると、煙が薄くなり、キャンプカーの無事が確認出来た。
車体の下のボールダーも爆発したのか、綺麗に無くなっていたし、キャンプカー自体も走行出来たので、もう何の問題もない。
ニューヨークから食料を持って来る時に使用した段ボール箱を運び出し、四人がかりでボールダーの欠片を拾い集める。全部で10箱分になったので、結構場所をとってしまった。
まぁ、早めに売り払ったらいいだけだ。
その後の道中も厄介なモンスターにちょいちょい絡まれ、旅程は予定通りとはいかなかった。
火の神殿付近まで辿り着いたのは、結局王都を出発してから二日後の午後。
事前にモイスに予定を入れていたわけだが、大丈夫だろうか?
青空を貫く様にそびえる火の神殿の尖塔を眺めながら、マリは固まった筋肉をストレッチで伸ばす。
隣で、マリの真似をして体を動かしていた公爵は、楽しそうに道の向こうに視線を向けている。
「さ~て、モイスは僕達に気付いてくれているかな?」
公爵の心配は杞憂だったようで、道の向こうから赤毛の男性が乗る馬がこちらに向かって走って来た。
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