米国名門令嬢と当代66番目の勇者は異世界でキャンプカー生活をする!~錬金術スキルで異世界を平和へ導く~

だるま 

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水の神殿の事情

水の神殿の事情⑤

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 撤退を訴えたマリに視線が集まる。
 既に島のリザードマン達は矢を撃ち始めていて、それらは舟のすぐ近くに落ちている。奴等に攻撃の意思があるのは明らか。

「舟に居る間はアリアの障壁のお陰で、アイツ等の攻撃を防げるかもしれない! でも上陸してからは? 大量のリザードマン達に取り囲まれたら、どうなるか分かんないよ!」

 神殿騎士達はマリの言葉に、頷きかけるが、慌てた様にアリアの方を見る。彼等にとって従うべき上司はアリアなのだ。
 彼女は腕を組み、唇を噛む。だけど、シッカリと頷いてくれた。

「……そうね。そうしましょう。死傷者が出てからは遅いもの……。今から後方に水の流れを作るわ! 戻るわよ!」

「「「了解しました!」」」

 騎士達は身体の向きを変え、オールを漕ぐ。
 水の神殿の人々のお陰で、舟は徐々に島から遠ざかっていく。マリは安堵の息を吐いた。

(納得してくれてよかったー。後はプリマ・マテリアの人とかが、まだケートスの注意を引いててくれるのを祈るばかりだね)

 舟はそのまま、今来た海路を辿り、戻ると思われた。しかし、何故かグンッと横に殴られるかの様に嫌な揺れ方をした。

「え!?」

 横に流されている。アリアの魔法と騎士達の腕力を超える力が舟の側面にかかっているのだ。
 しかも均一ではなく、弱まったり、強まったりするので、予想出来ない衝撃に、マリは転がりそうになった。
 グレンに支えられ、海に落っこちずに済む。
 普通こんな抱き合う姿勢はあり得ないが、こんな状況なので、むしろ離れたくない。

「うあぁ……。離さないで。死んじゃう!」

「しっかり掴まってて」

 マリは何度も頷く。嫌がらずに、支えててくれるグレンに感謝だ。

「潮の流れが強すぎないか!?」

「いや、渦だ! 島を中心に大渦が発生してるんだ!」

 騎士達が言う様に、島を中心として、白い波と深い海の色がマーブル状に混ざり、グルグル巻きになっていた。
 その回転する動きはみるみるうちに速くなり、バイクの中速レベルの風圧を感じる。
 舟はあっという間にリザードマン達が居た場所から、90度程流されてしまう。
 大波が舟の中に打ち寄せたために、水浸しになるし、右へ左へと揺らされるしで、阿鼻狂乱の騒ぎだ。

 そんな中、マリは信じられない光景を目にする。
 いつしか、渦は上昇し、舟を上空へと持ち上げていた。島の岩山が下に見える。
 こんなのは、自然に起こる現象じゃない。絶対に”ナニカ“が、海に干渉しているのだ。そして舟に乗るマリ達をターゲットにしている。

 マリは腹が立って仕方がなくなった。

「どこの誰か知らないけど! ふっざけんなーーー!!!」

 大声で叫ぶ。力の限り、全力でだ! 理不尽な嫌がらせを受けるのはウンザリなんだ!

 マリの非難が聞こえたのか、海は更におかしな動きをし、舟を回転させた。
 乗船している九人は宙に投げ出される。
 絶叫を上げる者。ブツブツと何かを言い始める者。
 人によってそれぞれだけども、全員等しく落下する。

 運命共同体と化したグレンがガッチリ抱き締めてくれる。マリは感謝したが、それと同時に、海面に叩きつけられるのはグレンの身体の方であってくれと、薄情にも願った。
 グレンは早口で何事かを呟く。その瞬間、二人の周囲を透明の膜が覆い、海面に叩きつけられる衝撃はそれが全て”無“にしてくれた。

 空気が満ちた狭い球の中に、二人はギュウギュウ詰め。そのまま水流に流される。

(せ、狭い!! びしょ濡れで生暖か!)

 グレンを下敷きにし、胸の鼓動を直に耳で聞くという、あり得なさを抜かせば、球の中は安全ではある。でも、周囲の光景は高速で流れ、根本的な解決には至ってないのだ。

「ほ……他の人達は大丈夫なのかな?」

「落下する直前、二人程、僕と同じ魔法を使ってたみたいだったけど……」

「よく確認できたな!」

 あの状況で冷静で周囲を見ていたグレンに絶句だ。今もマリの髪を無駄に撫でるのは、状況を理解しているのかいないのか……。
 その手をはたき落とし、周囲を見渡すと、マリ達が居る球と同じ様な物が水中を流れていた。その中に七人の姿を確認する。
 とりあえず胸を撫で下ろす。

「この渦、何が原因なんだろ? 止めないとずっとこのままだよ」

「別にこのままでも……」

「はぁ!?」

 マリは真剣に考えているのに、グレンは意味の分らない答えを返した。腹が立ち、胸を一発叩く。

「……痛い」

「アンタもちゃんと考える!」

「はい」

 苛つく相手に引っ付いているのも気に入らないので、ユックリと身を離してみると、空気の球はゆるゆると拡大した。
 それにすこし感動する。
 グレンも身体を起こし、二人で並ぶ様に座った。

 気がつくと空気の球は島にかなり接近していた。岩壁が間近に迫っている。
 海藻や貝類を大量につけたそれは、強い渦の流れにより、どんどん剥がれ落ちる。

(この剥がれ様……、渦は頻発してないみたいだね)

 その岩壁を辿る様にして、下に視線を向けると、海底の方から、大きな気泡がボコボコと上がっていた。
 何故そんな物が発生するのかと、マリは考える。
 思い至った時、肌がぞわりとした。

(やっぱり、“ナニカ”が居るんだ!)

 マリの考えを裏付ける様に、海底の方で、二つの黄色い光が瞬く。薄暗い中で、巨大な三角形の頭部の影がゆらりと揺れている。
 狙いを定められている気配がする。マリ達が上に居ると分かっているのだ。

「あそこに何かが居る!!」

「え……、ホントだ……。デカイね」

 焦るマリと違い、グレンは至って冷静。

「口から衝撃波を出そうとしてる。障壁を張るよ」

 化物は真上__つまりマリ達に向って口を大きく開けている。その中に不穏な光が溢れていき、今にも解き放たれそうだ。

「も、もう勘弁してよ……」

 色んな衝撃で頭がクラクラした時、海の向こうから、白く、巨体な何かが高速で近付いて来るのが見えた。


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