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街の解放と魔王の目覚め
街の解放と魔王の目覚め③
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『ベルセアデス様……、ベルセアデス様……』
どこかから、艶やかな女の声が聞こえる。
ベルセアデスとは誰だったかと、寝ボケた頭で考え、やや暫くした後、自分の事だったと思い出す。
(誰かがオレを呼んでいるな。メンドクサイ。まだ寝ていたいんだ……)
魂が引かれる様な感覚が不快で、抵抗する。
この声に応じたら、闇の中から出て行かなくてはならないが、ベルセアデスは気が乗らなかった。
嫌な記憶がフラッシュバックする。
長い眠りにつく前、“勇者”と呼ばれる男に聖剣で心臓を貫かれた。白い髪にアメジスト色の瞳。自信満々に笑うその顔を思い出せば、イライラした感情を思い出す。
(あーゆう、心を病んでるくせに、正義漢ぶる奴、ほんっと胸糞わりー)
心根が黒く染まった男だったのに、“勇者”というだけで、人々に支持されていた。
人間はどいつもこいつも、肩書きを重視しすぎるあまり、内面を軽視するのだ。バカバカしいにも程がある。
前の“器”が破壊された時も、“勇者”は仲間を捨て駒にして、自分をおびき寄せた。あんな奴に破壊された事に、白けてしまい、虚無感が半端じゃない。
今、自分を引っ張る力はとても弱い。使用した“贄”の質がイマイチなのだろう。これくらい微弱なら無視していい。
『ベルセアデス様。貴方様の為に用意した“器”は、極上の美少女でございます。黒髪に猫耳。きっと気に入って下さいますわ』
(むむ……)
なかなか魅力的な事を言ってくれる。
何を隠そう。ベルセアデスは美少女とモフモフが大好きなのだ。この二つを目の前に吊るされてしまうと、容易く心が揺らぐ。前回勇者の策略に嵌ってしまったのも、この二つにグラついてしまったからに他ならない。
(でも、なんで“器”をオレ好みに? オレ自身が可愛くなったら、存分に愛でれないような??)
若干モヤモヤしつつも、『極上』の容姿には興味津々だ。一目見たいと思ってしまう。
ウッカリそういう思考になったからなのか、ベルセアデスの魂はいとも容易く上昇を始める。
(あー、誘惑に負けてしまったな)
起こそうとしている者は、ベルセアデスの好みを調べ上げている様だ。少しだけ感心する。
魂はひたすらに上昇し、光の中に放り出される。すると急に、自由が制限される様な感覚になった。粘土かなにかの様に四肢が重く感じられる。腕や足に柔らかな布の感触があり、自分が横たわっているのを理解する。
硬く閉じられた目を苦労して開くと、眩しい光がベルセアデスの身体に降り注いでいた。
「朝の……光……?」
口から出た声音にギョッとして喉を抑える。鈴を転がす様な可愛らしい声。本当に自分が出したのだろうか?
「女の……声……。あぁ、今回は女の身体だったな」
独り言を呟く声にまだ違和感を感じつつ、身を起こし、視線を下に向ける。
漆黒のドレスを身に纏っていた。
そして胸は……無い。
「ツルペタッ! 鏡とか無いのか?」
キョロキョロと周りを見回すと、奥に姿見があった。
寝台を下り、動きの鈍い身体でそこまで歩く。自分の姿を映し、気分が高揚する。
艶やかな黒髪ロングに、吊り上がった目。頭部の黒い猫耳と、金色の瞳の組み合わせは、まるで黒猫だ。唇がアヒル口なのがとても可愛い。
ベルセアデスは身に纏うドレスの裾を持ち上げ、クルリと回転する。
「媚び媚びな感じがまたいいな。もっと胸が大きかったら最高だったが、まぁ、これはこれで__」
__ドガン!!
近くから聞こえてきた破壊音に、ベルセアデスは眉を顰める。人のお楽しみを邪魔するとは、無粋にも程がある。
「うるせーな」
足音はこちらに近付いて来ている。複数人居て、友好的な感じではない。
「そう言えば、オレを呼んだ奴ってどこに居るんだ?」
呑気に頭をボリボリかいているうちに、部屋の扉が吹っ飛んだ。礼儀という物を知らない奴等らしい。
「よーこそ」
女っぽく、足を引いてお辞儀してやると、入室してきた男女五人が、狐に包まれた様な顔をした。
先頭に立つのはつるっ禿げのオッサンで、後方に女の姿もある。色黒の肌に、綺麗な瞳をしていて美しいが、残念ながらベルセアデスの好みじゃなかった。
「もう五歳若かったら、いい線言ってたんだけどな」
「何言ってるんだぁ? お前、魔人の側近の獣人か? 魔人を倒したし、もう魅了の術は溶けてるはずなんだが」
つるっ禿げの男が、鋭い視線でベルセアデスを見ながら、近付こうとする。
「ナスド、近付かない方が良さそうだ。この娘の魔力と瘴気、ただ事じゃない……」
「た……確かに……。お前は一体?」
ベルセアデスの姿を観察し、困惑する人間達に、思わず笑いを漏らす。
「お前達、旨そうなエーテルを持ってるな。朝ご飯にちょうど良さそう」
「何だと!?」
「新しい器を得たベルセアデス様の、初めての飯になれるんだ。光栄に思えよ?」
「ベルセアデス!? ナスド! こいつは魔王だ! 下がれ!」
ベルセアデスが放った衝撃波は、女が咄嗟に張ったバリアに防がれる。ぶつかり合う二つの力の余波で、窓や壁がビリビリと悲鳴を上げる。
「いつまで防げるかな……?」
女の必死な表情を眺めながら、魔王ベルセアデスはニタリと笑った。
どこかから、艶やかな女の声が聞こえる。
ベルセアデスとは誰だったかと、寝ボケた頭で考え、やや暫くした後、自分の事だったと思い出す。
(誰かがオレを呼んでいるな。メンドクサイ。まだ寝ていたいんだ……)
魂が引かれる様な感覚が不快で、抵抗する。
この声に応じたら、闇の中から出て行かなくてはならないが、ベルセアデスは気が乗らなかった。
嫌な記憶がフラッシュバックする。
長い眠りにつく前、“勇者”と呼ばれる男に聖剣で心臓を貫かれた。白い髪にアメジスト色の瞳。自信満々に笑うその顔を思い出せば、イライラした感情を思い出す。
(あーゆう、心を病んでるくせに、正義漢ぶる奴、ほんっと胸糞わりー)
心根が黒く染まった男だったのに、“勇者”というだけで、人々に支持されていた。
人間はどいつもこいつも、肩書きを重視しすぎるあまり、内面を軽視するのだ。バカバカしいにも程がある。
前の“器”が破壊された時も、“勇者”は仲間を捨て駒にして、自分をおびき寄せた。あんな奴に破壊された事に、白けてしまい、虚無感が半端じゃない。
今、自分を引っ張る力はとても弱い。使用した“贄”の質がイマイチなのだろう。これくらい微弱なら無視していい。
『ベルセアデス様。貴方様の為に用意した“器”は、極上の美少女でございます。黒髪に猫耳。きっと気に入って下さいますわ』
(むむ……)
なかなか魅力的な事を言ってくれる。
何を隠そう。ベルセアデスは美少女とモフモフが大好きなのだ。この二つを目の前に吊るされてしまうと、容易く心が揺らぐ。前回勇者の策略に嵌ってしまったのも、この二つにグラついてしまったからに他ならない。
(でも、なんで“器”をオレ好みに? オレ自身が可愛くなったら、存分に愛でれないような??)
若干モヤモヤしつつも、『極上』の容姿には興味津々だ。一目見たいと思ってしまう。
ウッカリそういう思考になったからなのか、ベルセアデスの魂はいとも容易く上昇を始める。
(あー、誘惑に負けてしまったな)
起こそうとしている者は、ベルセアデスの好みを調べ上げている様だ。少しだけ感心する。
魂はひたすらに上昇し、光の中に放り出される。すると急に、自由が制限される様な感覚になった。粘土かなにかの様に四肢が重く感じられる。腕や足に柔らかな布の感触があり、自分が横たわっているのを理解する。
硬く閉じられた目を苦労して開くと、眩しい光がベルセアデスの身体に降り注いでいた。
「朝の……光……?」
口から出た声音にギョッとして喉を抑える。鈴を転がす様な可愛らしい声。本当に自分が出したのだろうか?
「女の……声……。あぁ、今回は女の身体だったな」
独り言を呟く声にまだ違和感を感じつつ、身を起こし、視線を下に向ける。
漆黒のドレスを身に纏っていた。
そして胸は……無い。
「ツルペタッ! 鏡とか無いのか?」
キョロキョロと周りを見回すと、奥に姿見があった。
寝台を下り、動きの鈍い身体でそこまで歩く。自分の姿を映し、気分が高揚する。
艶やかな黒髪ロングに、吊り上がった目。頭部の黒い猫耳と、金色の瞳の組み合わせは、まるで黒猫だ。唇がアヒル口なのがとても可愛い。
ベルセアデスは身に纏うドレスの裾を持ち上げ、クルリと回転する。
「媚び媚びな感じがまたいいな。もっと胸が大きかったら最高だったが、まぁ、これはこれで__」
__ドガン!!
近くから聞こえてきた破壊音に、ベルセアデスは眉を顰める。人のお楽しみを邪魔するとは、無粋にも程がある。
「うるせーな」
足音はこちらに近付いて来ている。複数人居て、友好的な感じではない。
「そう言えば、オレを呼んだ奴ってどこに居るんだ?」
呑気に頭をボリボリかいているうちに、部屋の扉が吹っ飛んだ。礼儀という物を知らない奴等らしい。
「よーこそ」
女っぽく、足を引いてお辞儀してやると、入室してきた男女五人が、狐に包まれた様な顔をした。
先頭に立つのはつるっ禿げのオッサンで、後方に女の姿もある。色黒の肌に、綺麗な瞳をしていて美しいが、残念ながらベルセアデスの好みじゃなかった。
「もう五歳若かったら、いい線言ってたんだけどな」
「何言ってるんだぁ? お前、魔人の側近の獣人か? 魔人を倒したし、もう魅了の術は溶けてるはずなんだが」
つるっ禿げの男が、鋭い視線でベルセアデスを見ながら、近付こうとする。
「ナスド、近付かない方が良さそうだ。この娘の魔力と瘴気、ただ事じゃない……」
「た……確かに……。お前は一体?」
ベルセアデスの姿を観察し、困惑する人間達に、思わず笑いを漏らす。
「お前達、旨そうなエーテルを持ってるな。朝ご飯にちょうど良さそう」
「何だと!?」
「新しい器を得たベルセアデス様の、初めての飯になれるんだ。光栄に思えよ?」
「ベルセアデス!? ナスド! こいつは魔王だ! 下がれ!」
ベルセアデスが放った衝撃波は、女が咄嗟に張ったバリアに防がれる。ぶつかり合う二つの力の余波で、窓や壁がビリビリと悲鳴を上げる。
「いつまで防げるかな……?」
女の必死な表情を眺めながら、魔王ベルセアデスはニタリと笑った。
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