米国名門令嬢と当代66番目の勇者は異世界でキャンプカー生活をする!~錬金術スキルで異世界を平和へ導く~

だるま 

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レアネー市救出作戦

レアネー市救出作戦⑨

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 ナスドが振舞ってくれたコカトリス料理は、タンドリーチキンに似た味付けで、期待以上だった。夕食は意図せず親睦会染みた雰囲気になったため、食後の打ち合わせは、和やかに始められる事が出来た。

 口火を切ったのは、公爵だった。篝火の下に、大きな羊皮紙を広げる。

「チェスター君と協力して、僕の家の見取り図を描いたよ。好きに使ってほしい」

 魔人に自分の家が乗っ取られた公爵は、知らせを受けても怒りはしなかった。むしろ、何故か話のネタになるなどと、ヘラヘラしていたくらいだ。だが、屋敷の情報提供をする事には積極的で、夕食時は彼の従者と共にキャンプカーで見取り図を描いていてくれていたようだ。

「セバスちゃん。この見取り図に、魔人の居場所とか、他に危険な所を書ける? 覚えてる範囲だけでも」

 セバスちゃんは暫く魔人に連れ回されていた。だからもしかすると、魔人に乗っ取られた後の公爵の邸宅の情報を知っているかもしれない。

「そうですね……。この間取りは覚えがある気がします」

 彼は円らな目を開いたり、細めたりしながら見取り図を観察している。きっと記憶を辿っているのだ。

「ちょっと失礼しますね」

 セバスちゃんはポケットから紙みたいな物を取り出し、その表面からペリッと小さな物を剥がした。手元を覗き込むと、それはポケモンのシールだった。いつ何時でも遊び心を失わない男である。

 ピ○チュウのシール一枚と、ラ○チュウのシール五枚が、見取り図上で、『大広間』と書かれたスペースに貼り付けられる。

「ここに魔人と、彼女に能力を認められた獣人が五名います。そしてここに至るまでの階段と通路には、大広間に居る女性達より少し劣る獣人が……おそらく各層十人前後巡回していました。庭には、えーと……モンスターの名前を詳しく知らないんですが、羽根の生えた石のお化けが二十~三十体程、ですかね」

「羽根の生えた石のお化け? 硬そうだね」

 セバスちゃんの説明の中のモンスターにピンとこなかったため、マリは首を傾げる。

「恐らくガーゴイルだな。数が多いとなると、厄介だぜ」

「堂々と門扉を開いて入っても、コッソリ潜入しても、一斉に襲いかかってくるのかな。ゾッとするね」

 公爵とナスドはその生き物に心当たりがあるらしく、お互いに顔を見合わせて半笑いする。

「そんなにヤバイ生き物なんだ?」

「走る速度は馬より早く、飛行速度はツバメを凌駕する。それが三十体もいるとなると、魔人本体より厄介」

 マリの疑問にユネが答えてくれた。彼女の瞳は炎の光に照らされ、不思議な色合いになっている。

「ユネさんの魔法で何とかならない感じ?」

「アタシのインビジブルを潜入班にかけ、屋敷に忍び込んでもいいけど、例え魔人を倒せても、ガーゴイルは残る。最悪戦闘中に屋敷の家屋にガーゴイルを入れられたら、多勢に無勢というか……。最悪な展開を予想しちゃうよ。ガーゴイルに対処してから、屋敷に入る方が無難な気がする」

「そーだな。雑魚掃除を先にやるのは基本だ。獣人共を人質に取られてるようなもんだから、ガーゴイルに時間をかけすぎると、悲劇が起こりそうだけどな」

 ナスドはユネの考えに共感を示しつつも、リスクを提示する。獣人は、魔人の壁であると同時に、人質でもあるのを忘れてはならないのだ。

「ガーゴイルは雷属性の攻撃に弱い……が、アタシが使える唯一の雷属性の範囲魔法は、一発で半径十メートル内に強力なプラズマを放てるが、引き換えに魔力が八割程もっていかれる。庭でアタシを使い捨てすんならありっちゃありだけど」

「馬鹿言うな!」

 自らを物か何かの様に言うユネを、ナスドが叱りつける。彼等のやり取りを聞き、マリはある事を思いついていた。雷属性の攻撃に弱いと言うなら、時間稼ぎくらいは出来るかもしれない。

「私が囮になろうか?」

 全員がギョッとした顔でマリを見た。如何にも弱そうなのに、務まるわけがないと思ってそうだ。

「マリお嬢様! やめた方がいいですよ!」

「そうだよ、マリちゃん。ガーゴイルに飛びつかれたら石化してしまうよ」

「追いつかれる事はないよ。キャンプカーに積んできた、ホンダのバイクは時速三百キロ出るし、馬より早い程度なら逃げきれそう! セバスちゃん、アンタは電気柵を使って罠を作ってよ。私がそこまでガーゴイルを誘導する」

 セバスちゃんと公爵が止めようとするが、マリは何かに役立ちたい。

「ギェェ……、旦那様に叱られてしまいますっ! 考え直してくださいっ」

「嫌だね!」

「……たぶん、それだけではガーゴイルに対抗しきれないと思う。僕も若干詠唱に時間がかかるけど、雷属性の魔法を使えるから、協力する。マリさんが、ガーゴイルを誘導する間に個体数を減らしてみる」

「じゃあ、僕も撃ち落としに参加しようかな。固定砲台くらいなら役立てると思うから」

 試験体066と、公爵がヤル気を見せてくれる。何だか成功出来そうな気になってきた。セバスちゃんは額の汗をしきりに拭い、ゼエゼエ言いはじめた。

「……しょ、しょうがありませんね。私も罠でも、銃撃でもなんでもしますよ……」

「やった!!」

 この四人で力を合わせたら、成功間違いないだろう。マリは楽しみにすら思えてきた。

「ガーゴイルは何とかなりそうな感じだな。亀の甲羅団は、屋敷内の女共に専念しようぜ」

「では、レアネー市の冒険者ギルドは、広場に捕まってる住人達の保護に向かうよ。あの人らだって、人質なんだからね」

「土の神殿の術者の出番は、広場が安全になってからにさせてもらう。荒っぽい事は苦手なのでな」

 ナスド率いる亀の甲羅団と、シルヴィアが纏めるレアネー市の冒険者ギルド、エイブラッドと土の神殿の術者達の分担が決まった。
 
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