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レアネー市救出作戦
レアネー市救出作戦⑦
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マリがテーザー銃の引金をひくと、パリパリと電撃の走る音が鳴り、セバスちゃんの側に立つ獣人が悲鳴を上げて倒れた。
「んんん!? 何で急に倒れた!? ワイヤーが刺さってるのか……?」
柱に縄で繋がれたセバスちゃんは、混乱した様に女とその身体に刺さったワイヤーを見比べている。無理もない。彼からこちらは見えないのだから。
「おい! 何やってやがる!?」
「何も無い空間から声が聞こえるようなぁ!? まさか幽霊!? ゴーストバスターさーーん!!」
偵察中は出来る限り静かに行動する事に決めていたのに、これでは台無しだ。だけど今はセバスちゃん以外に、自分達の声が聞こえる者はいないはず。ナスドを巻き込んで、セバスちゃんを連れ戻したい。
「あの男、私の執事なんだ。どうにかして連れ帰りたい。だからお願い。アイツにもインビジブルをかけてあげて」
ナスドは一度舌打ちして、後方を振り返る。
「クソ……ッ。おい、ユネ!」
「……しょうがないな」
ユネはセバスちゃんに近付き、杖を高く掲げる。彼女が早口で、呪文を紡ぐと、セバスちゃんはマリの姿をしっかりと見てくれた。彼にもインビジブルがかかったのだ。
「マリお嬢様っ! もうお会い出来ないかと……うぅ……」
「セバスちゃん……ほんとに良かった……」
マリはセバスちゃんの元に駆けてて行き、サバイバルナイフで、彼と柱を繋ぐ縄を切った。
「助けに来てくださったんですね。不甲斐ない自分を許してください」
「遅くなってごめん。痛いとこ無い?」
涙を流すセバスちゃんの肩をバシバシ叩き、再会を喜ぶ。
話したい事が山程あるけど、ここでダラダラとしているわけにもいかない。
「おい、お二人さん。そろそろ静かにしてくれ。異変に気付かれちまう」
ナスドは明らかににイラついている。予想外の出来事に焦っているのだろう。
(最初から言っとけばよかったのかな……。でも言えば連れてこなかっただろうしな)
ほんとのところ、マリはチャンスがあれば、行動するつもりでいた。偵察にノコノコ付いてきたのは、セバスちゃんを連れ戻す目的があったからだ。だが、当然の事ながら、余計な危険を招いてしまっている。
先程この建物を出て行った獣人達が戻ってくる前に、証拠を隠滅するため、マリは素早く、横たわる女性の身体から二本の針を引き抜く。心臓が縮む思いで彼女の首を触ると、脈があったので、ホッとする。
テーザー銃は生き物を気絶させる為の武器だが、使い方や、当たりどころの悪さで、殺してしまう可能性がなくもない。もしもの事があったらと思うと、気が気じゃなかった。
先に出て行ったナスドに続こうとすると、セバスちゃんがヨロヨロしているのに気がつく。長時間硬い地面に座らされていたからなのか、歩き辛そうだ。
肩を貸そうかと思ったが、そうするより早く、試験体066がセバスちゃんの前に屈んだ。
(え、おんぶしてやるつもりなの?)
セバスちゃんがどういう行動を取るのかと、興味深く成り行きを見守ると、彼は素直に少年の背中に乗っかった。
小声で「悪いな」などと言っているのが聞こえる。
(アイツ、自分の二倍ほども体積がある男をおんぶして、大丈夫なわけ? 腰痛めそー)
口出ししたくなる気持ちを抑え、建物の外に出る。戸口の脇に立つナスドは、口に人差し指を当てた後、その指で道の向こうを差す。
先程の獣人達が戻って来るのが見える。
(私が、彼女達の仲間を気絶させたって知ったら、魔人に伝わる?)
彼女達の行動を観察していると、建物に入った後、直ぐに出てきた。セバスちゃんが消えた事に焦ったのだろう。来た道とは逆側に走り去って行く。
(倒れてる仲間よりも、セバスちゃんが優先か。魅了の術にかかってるなら、しょうがないのかな)
その薄情さにモヤモヤしながらも、ナスド達と共に偵察活動を再開する。白髪の少年の背中に乗ったセバスちゃんが、魔人の拠点への案内を申し出てくれたので、闇雲に歩く必要がなくなった。
試験体066とコルルが結婚式に使用した場所の側を通り、北上する。
歩みを進めるごとに目つきのヤバイ獣人の姿が増えるので、偵察組は自分達の音が拾われない様に慎重に動く。
「魔人はあそこを拠点にしています」
セバスちゃんが小声で呟き、指を差す。
それは、他の住宅とは一線を画す大邸宅だった。
高く、長い塀に囲まれているのだが、その内側に幾つもの立派な塔が見える。貴人の持ち家だろうか?
「公爵の邸宅だね……」
シルヴィアがボソリと漏らした情報にズッコケそうになる。
(うわぁ……。エグいなぁ)
温厚な公爵だけど、この事を知ったら、きっとブチギレる。マリだったら癇癪を起こしてしまうかもしれない。
「そろそろ戻らないとインビジブルが切れる」
ユネの警告を受け、マリ達は引き上げる事にした。
偵察の成果は上々だ。マリ個人としてはセバスちゃんを取り戻せたし、全体としてなら、魔人の拠点を突き止められた。
セバスちゃんが細かい情報を持っているようだし、公爵は、自分の家の内部構造に詳しいだろう。戻った後、彼等を加えてミーティングする流れになった。
「んんん!? 何で急に倒れた!? ワイヤーが刺さってるのか……?」
柱に縄で繋がれたセバスちゃんは、混乱した様に女とその身体に刺さったワイヤーを見比べている。無理もない。彼からこちらは見えないのだから。
「おい! 何やってやがる!?」
「何も無い空間から声が聞こえるようなぁ!? まさか幽霊!? ゴーストバスターさーーん!!」
偵察中は出来る限り静かに行動する事に決めていたのに、これでは台無しだ。だけど今はセバスちゃん以外に、自分達の声が聞こえる者はいないはず。ナスドを巻き込んで、セバスちゃんを連れ戻したい。
「あの男、私の執事なんだ。どうにかして連れ帰りたい。だからお願い。アイツにもインビジブルをかけてあげて」
ナスドは一度舌打ちして、後方を振り返る。
「クソ……ッ。おい、ユネ!」
「……しょうがないな」
ユネはセバスちゃんに近付き、杖を高く掲げる。彼女が早口で、呪文を紡ぐと、セバスちゃんはマリの姿をしっかりと見てくれた。彼にもインビジブルがかかったのだ。
「マリお嬢様っ! もうお会い出来ないかと……うぅ……」
「セバスちゃん……ほんとに良かった……」
マリはセバスちゃんの元に駆けてて行き、サバイバルナイフで、彼と柱を繋ぐ縄を切った。
「助けに来てくださったんですね。不甲斐ない自分を許してください」
「遅くなってごめん。痛いとこ無い?」
涙を流すセバスちゃんの肩をバシバシ叩き、再会を喜ぶ。
話したい事が山程あるけど、ここでダラダラとしているわけにもいかない。
「おい、お二人さん。そろそろ静かにしてくれ。異変に気付かれちまう」
ナスドは明らかににイラついている。予想外の出来事に焦っているのだろう。
(最初から言っとけばよかったのかな……。でも言えば連れてこなかっただろうしな)
ほんとのところ、マリはチャンスがあれば、行動するつもりでいた。偵察にノコノコ付いてきたのは、セバスちゃんを連れ戻す目的があったからだ。だが、当然の事ながら、余計な危険を招いてしまっている。
先程この建物を出て行った獣人達が戻ってくる前に、証拠を隠滅するため、マリは素早く、横たわる女性の身体から二本の針を引き抜く。心臓が縮む思いで彼女の首を触ると、脈があったので、ホッとする。
テーザー銃は生き物を気絶させる為の武器だが、使い方や、当たりどころの悪さで、殺してしまう可能性がなくもない。もしもの事があったらと思うと、気が気じゃなかった。
先に出て行ったナスドに続こうとすると、セバスちゃんがヨロヨロしているのに気がつく。長時間硬い地面に座らされていたからなのか、歩き辛そうだ。
肩を貸そうかと思ったが、そうするより早く、試験体066がセバスちゃんの前に屈んだ。
(え、おんぶしてやるつもりなの?)
セバスちゃんがどういう行動を取るのかと、興味深く成り行きを見守ると、彼は素直に少年の背中に乗っかった。
小声で「悪いな」などと言っているのが聞こえる。
(アイツ、自分の二倍ほども体積がある男をおんぶして、大丈夫なわけ? 腰痛めそー)
口出ししたくなる気持ちを抑え、建物の外に出る。戸口の脇に立つナスドは、口に人差し指を当てた後、その指で道の向こうを差す。
先程の獣人達が戻って来るのが見える。
(私が、彼女達の仲間を気絶させたって知ったら、魔人に伝わる?)
彼女達の行動を観察していると、建物に入った後、直ぐに出てきた。セバスちゃんが消えた事に焦ったのだろう。来た道とは逆側に走り去って行く。
(倒れてる仲間よりも、セバスちゃんが優先か。魅了の術にかかってるなら、しょうがないのかな)
その薄情さにモヤモヤしながらも、ナスド達と共に偵察活動を再開する。白髪の少年の背中に乗ったセバスちゃんが、魔人の拠点への案内を申し出てくれたので、闇雲に歩く必要がなくなった。
試験体066とコルルが結婚式に使用した場所の側を通り、北上する。
歩みを進めるごとに目つきのヤバイ獣人の姿が増えるので、偵察組は自分達の音が拾われない様に慎重に動く。
「魔人はあそこを拠点にしています」
セバスちゃんが小声で呟き、指を差す。
それは、他の住宅とは一線を画す大邸宅だった。
高く、長い塀に囲まれているのだが、その内側に幾つもの立派な塔が見える。貴人の持ち家だろうか?
「公爵の邸宅だね……」
シルヴィアがボソリと漏らした情報にズッコケそうになる。
(うわぁ……。エグいなぁ)
温厚な公爵だけど、この事を知ったら、きっとブチギレる。マリだったら癇癪を起こしてしまうかもしれない。
「そろそろ戻らないとインビジブルが切れる」
ユネの警告を受け、マリ達は引き上げる事にした。
偵察の成果は上々だ。マリ個人としてはセバスちゃんを取り戻せたし、全体としてなら、魔人の拠点を突き止められた。
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