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食材ゲット
食材ゲット⑤
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「可哀想……」
「娘! 分かってくれるか!」
思わず呟いたマリの言葉に、土の神の頰には再び涙が流れる。
「でもさ、長い間不味い料理を食べていたら、だんだん慣れるんじゃ?」
「たわけた事を申すな! 神の舌は高精度であり、だんだん誤魔化されていく様な物ではない!」
「そっか~。きつそう」
自分で美味しい料理を作れるマリとは違い、神様は信徒が作ったお供え物を食べなければならないみたいだ。その不味さから逃げられないのは、かなり辛いだろう。
少々シンミリとした気分になり、視線を下げると、自分の手に何か異物が握られているのに気がついた。
(んんん!? 何でこんな物持って来てんの!?)
どういうわけか、ラッピングされた、カップケーキを持っている。青いクリームにカラフルなカラースプレーがまぶされ、いい具合に破壊力高い見た目の物だ。無意識にティディベア代わりに、枕元に置き、夢の中にまで持ってきてしまったとでもいうのだろうか?
「それは何じゃ? 確かお主、昼にそれをエイブラッドに投げつけていたな? 武器か何かか?」
「武器じゃないよ! これはお菓子! 食べてみてよ」
そもそも食べれるのだろうか? と思いはしたが、武器と言われたままなのは心外なので、勧めてみる。
「むむ……。危険な雰囲気を醸し出しておるのぅ。気がすすまぬが……。まぁ良い。人間の作った料理の最底辺が気になる」
青いクリームにドン引きしているのか、可愛い顔を引攣らせる神様の手に、カップケーキを握らせ、黄金色の苔の上に三角座りする。
「ねぇ、ケレース。それを食べてみて、美味しいと感じたら、私を元の場所に連れて行ってくれない? ちょっと困ってる」
「自分でここまで来たくせに、戻れないとは、何とアホな娘じゃ。んと……この紐を解いて、中身を取り出すのか?」
「そうだよ」
「この包み、中が透けて見えて、洒落てるのぅ」
土の神は慎重な手つきでカップケーキを取り出し、小さな口でハムっと齧る。
神の舌に人間用のお菓子は合うんだろうかと心配だったが、その杞憂は不要だった。
彼女の顔がパァと綻んだからだ。
「美味しい! 美味しいぞ、これは! 何という名の食べ物なのじゃ!?」
「カップケーキって言うんだよ。気にいってくれたみたいだね」
「うむぅ!! 珍妙な見た目をしておると思ったのじゃが、これ程味が良いと、この不健康そうな見た目も可愛く思えてくるのじゃな。実に愉快!!」
ケレースが大笑いしながら足をバタつかせると、彼女の周りの空気がキラキラと輝く。
神を喜ばせると、こんなに幻想的な光景が見られるのかと、少し感動してしまう。
目の前の彼女はバグバグと勢い良く残りを食べきる。空になった手を残念そうに見つめ、バタリと倒れる神様の姿が、可愛くてしょうがない。
自分の作った料理をあれだけ美味しそうに堪能してくれたので、一気に彼女の事を好きになってしまった。
「はふぅ……。旨かった。妾の完敗じゃ。お主を元の場所まで送る約束だったな」
「宜しく!」
ムクリと身を起こす彼女に合わせ、マリは立ち上がった。
細い指先が、額の真ん中にピトリとくっつけられる。
「マリちゃんよ。また妾の為に、カップケーキとやらを馳走してくれぬか?」
薄れゆく意識の中で、土の神様は頰を染め、可愛らしくおねだりしたのだった。
「娘! 分かってくれるか!」
思わず呟いたマリの言葉に、土の神の頰には再び涙が流れる。
「でもさ、長い間不味い料理を食べていたら、だんだん慣れるんじゃ?」
「たわけた事を申すな! 神の舌は高精度であり、だんだん誤魔化されていく様な物ではない!」
「そっか~。きつそう」
自分で美味しい料理を作れるマリとは違い、神様は信徒が作ったお供え物を食べなければならないみたいだ。その不味さから逃げられないのは、かなり辛いだろう。
少々シンミリとした気分になり、視線を下げると、自分の手に何か異物が握られているのに気がついた。
(んんん!? 何でこんな物持って来てんの!?)
どういうわけか、ラッピングされた、カップケーキを持っている。青いクリームにカラフルなカラースプレーがまぶされ、いい具合に破壊力高い見た目の物だ。無意識にティディベア代わりに、枕元に置き、夢の中にまで持ってきてしまったとでもいうのだろうか?
「それは何じゃ? 確かお主、昼にそれをエイブラッドに投げつけていたな? 武器か何かか?」
「武器じゃないよ! これはお菓子! 食べてみてよ」
そもそも食べれるのだろうか? と思いはしたが、武器と言われたままなのは心外なので、勧めてみる。
「むむ……。危険な雰囲気を醸し出しておるのぅ。気がすすまぬが……。まぁ良い。人間の作った料理の最底辺が気になる」
青いクリームにドン引きしているのか、可愛い顔を引攣らせる神様の手に、カップケーキを握らせ、黄金色の苔の上に三角座りする。
「ねぇ、ケレース。それを食べてみて、美味しいと感じたら、私を元の場所に連れて行ってくれない? ちょっと困ってる」
「自分でここまで来たくせに、戻れないとは、何とアホな娘じゃ。んと……この紐を解いて、中身を取り出すのか?」
「そうだよ」
「この包み、中が透けて見えて、洒落てるのぅ」
土の神は慎重な手つきでカップケーキを取り出し、小さな口でハムっと齧る。
神の舌に人間用のお菓子は合うんだろうかと心配だったが、その杞憂は不要だった。
彼女の顔がパァと綻んだからだ。
「美味しい! 美味しいぞ、これは! 何という名の食べ物なのじゃ!?」
「カップケーキって言うんだよ。気にいってくれたみたいだね」
「うむぅ!! 珍妙な見た目をしておると思ったのじゃが、これ程味が良いと、この不健康そうな見た目も可愛く思えてくるのじゃな。実に愉快!!」
ケレースが大笑いしながら足をバタつかせると、彼女の周りの空気がキラキラと輝く。
神を喜ばせると、こんなに幻想的な光景が見られるのかと、少し感動してしまう。
目の前の彼女はバグバグと勢い良く残りを食べきる。空になった手を残念そうに見つめ、バタリと倒れる神様の姿が、可愛くてしょうがない。
自分の作った料理をあれだけ美味しそうに堪能してくれたので、一気に彼女の事を好きになってしまった。
「はふぅ……。旨かった。妾の完敗じゃ。お主を元の場所まで送る約束だったな」
「宜しく!」
ムクリと身を起こす彼女に合わせ、マリは立ち上がった。
細い指先が、額の真ん中にピトリとくっつけられる。
「マリちゃんよ。また妾の為に、カップケーキとやらを馳走してくれぬか?」
薄れゆく意識の中で、土の神様は頰を染め、可愛らしくおねだりしたのだった。
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