米国名門令嬢と当代66番目の勇者は異世界でキャンプカー生活をする!~錬金術スキルで異世界を平和へ導く~

だるま 

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土の神殿の大神官

土の神殿の大神官⑧

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「私の作る料理が、誰かにとって、忘れない一皿に出来たらって……ずっと思ってきたんだ! 出来るだけ多くの人に影響を与えたい。だから作りたい。任せて、公爵!」

 マリは手を握りしめ、公爵に訴える。

 六歳の頃。入学したてのエレメンタリースクールで目立つ存在になっていたマリは、同級生に良く悪口を言われた。東洋人の血が混じっているから顔面がシンプルだとか、母親が敗戦国出身なのに、マリが偉そうだとか、どれもこれもくだらない内容だった。
 だけど、当時は今よりもずっと繊細で、言われるたびに傷ついた。
 馬鹿にされる事二週間程で、マリはぶち切れた。悪口を言っていた男子に飛び蹴りをかまし、髪をむしってやった。教師に親を呼ばれるし、男子の親からは裁判を起こすと脅されるし、最悪だった……。

 反省とかはしなかった。母親を馬鹿にされて、大人しくしていられるわけない。今でもああやって立ち向かった自分を褒めてやりたいくらいだ。

 マリの起こした小さな事件が解決した後、お母さんが作ってくれた料理がある。元々日本で生まれた料理が、アメリカに渡って魔改造されたやつだ。

 その時食べた料理の味は、きっと一生忘れられない。

 どっちの文化も捨てなくていいというお母さんの想いが伝わったからだ。

 味以上の価値有る一品。

 自分も誰かにとって、記憶に残る料理を作りたいと、強く思えた。

 マリの決意の言葉を受け、公爵はハシバミ色の目を細めた。

「そこまで言うのなら、甘えちゃおうかな。でも、絶対に無理はしないこと! いいね?」

「有難う! 頑張る!」

 元気よく宣言したマリを、エイブラッドは興味深そうに見つめる。

「口止めの為に金を払うと言っていたから、随分ひねくれた子だと思ったのだが……。熱い想いを秘めているのだな。正直驚いた」


「マリちゃん、さっき落ち込んでたのって、その事だったか。この男は結構裕福だから、買収には応じないよ」

 自分のセコイ解決法を暴露され、少しきまりが悪い。しかめっ面でそっぽを向くと、白髪の少年を目が合った。

「僕も協力する……。簡単な事しか出来ないと思うけど、自分の関わった事が、どんな風に他人に影響するか見てみたいんだ……」

「うん。手伝って! 一緒にやろう」

 多くの人達に料理を配りたいのだから、二人でやれるなら心強い。少年と頷き合うと、不思議な連帯感が生まれる。悪くない感じだ。

「エイブラッド、そろそろ君も決断すれば? マリちゃんは一瞬で心を決めたのに、情けないよ」

「うぅむ……。そうだな……。我々の上に立つであろう者が率先して手を挙げているのだから、動かないわけにもいかないのかもしれない……」

 公爵に煽られ、エイブラッドはふわっとした答えをくれた。なんだそれは、どっちなんだ? 白黒つけたい。というか、最高神官になる気は皆無だ!

「土の神殿の人達も協力してくれるって思ってもいい!?」

「……ああ。協力しよう……」

「やった!」

 漸く引き出せた合意に、マリは軽く飛び跳ねた。

「有難うエイブラッド。君のような友人を持てて、僕は幸せだよ」

「貴様の為じゃないぞ! あくまでもレアネー市の民と神殿の為だ! というか、貴様とは絶縁したはずだ!」

「つれないなぁ……」

――バタン!!

 騒々しく扉が開き、四人の目はそちらを向く。

「大神官殿! 大変です!」

 駆け込んで来たのは鎧を着た男。先程ここまで案内してくれた神殿騎士だ。
 漸くまとまりかけていた空気が壊れる。

「何だ? 今話し合い中なんだが」

「申し訳ありません! ですが、森にキングクレイフィッシュが現れたのです!!」

 神殿騎士は平謝りするも、出て行く事なく、報告を続ける。それだけ緊迫した事態なのだろう。

「キングクレイフィッシュだと!? なんでそんなモンスターが土の神殿近くにいる!?」

「それは分かりません! ですが、巡礼者に襲い掛かっているようです! 捨て置けませぬ! どうか神殿騎士の出動の命をくだされ!」

「チッ! 次々と面倒事が湧いてくるな! 仕方がない。騎士達を現場に向かわせろ!」

「御意!」

 状況をちゃんと理解していないが、この近くに危険なモンスターが現れた様だ。間が悪いにも程がある。

「キングクレイフィッシュって、どんなモンスターなの?」

「巨大なザリガニみたいなモンスターだよ。ランクとしてはB-。程々の強さかな。本来なら水の神殿の管理下に置かれてるみたいだけど、なんでここまで来たのかな」

 そういえば、さっき試験体066は森方面を気にしていた。もしかすると、キングクレイフィッシュの気配を感じ取っていたのかもしれない。彼をジロリと見ると、相変わらずのボンヤリ顔だ。

「ザリガニって……、確かカニの味に近いよね……」

 彼の言葉を聞き、マリは名案を思い付いてしまい、ニヤリと笑った。

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