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土の神殿へ
土の神殿へ①
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公爵を連れてレアネー市から馬で2日程の距離にある土の神殿に行く事になったものの、当事者である彼は、広大な領地を統治しており、しかも拠点にしているレアネー市は魔人に占拠され、完全に放置して行く事は出来ない様だった。
彼は一度冒険者ギルドの野営地に赴き、従者であるチェスター氏や親戚達に街の正常な住人達の事を任せていた。
一緒について行ったマリはキャンプカーに積んであった果物やクラッカーを冒険者ギルドに寄付した。当然街の人全員には行き渡らないだろうから少々心配だったが、冒険者ギルドでも貯め込んでいる保存食があるらしく、それを公爵が買い取り、市民分は確保出来た様だ。
他にも、点在する住人達の野営地を回っている間に夕方になってしまっていたが、時間が惜しいので、マリ、試験体066、公爵の三人で出発した。
ギルドマスターをしているシルヴィアは、冒険者ギルドの冒険者達や、街の住人達の世話、王都から来る予定のSランク冒険者を迎える為に、残るらしい。
別れ際、今朝のビッグバッド討伐の報酬として、金貨二十枚と、羽根の買い取り分の金貨十六枚を受け取った。冒険者ランクはマリとセバスちゃんの二人ともGからFに上げてくれたらしい。こんな時なのに、仕事を怠らない彼女の律儀さに、珍しく感動したマリだった。
◇
フロントウィンドウ越しに見える夕暮れの空は、バレンシアオレンジみたな色に染まり、昼食を抜かしたマリのお腹は空腹を訴える。
助手席で道案内をしてくれている公爵のしょうもないギャグに適当な相槌をうちながら、マリはハンドルを握り続けている。かれこれ一時間程運転しているのだが、朝からの騒動で、疲労感が半端じゃない。
隣の彼に道案内してもらっているとは言っても、実はカーナビの画面に土の神殿までの道のりが表示される様になり、電子音声でナビゲートされていたりする。
(このカーナビ、一体どうなってるわけ? 昨日までは二箇所しか選択肢がなかったのに……)
いっそ不気味ですらあるのだが、この現象を公爵に話してみても、イマイチ共感を得られなかった。そもそも彼にとっては、このキャンプカー自体が新鮮な驚きに満ちているみたいだし、電子音声でガイドするカーナビに至っては、何か音が鳴るたびに大爆笑しているのだ。この中に妖精か何かが入り込んでいると考えていそうだ。
彼と数時間過ごしてみて分かったのだが、笑いのツボがズレているのはストレスがたまる……。
(こういう時、セバスちゃんが居てくれたらいいんだけど……)
彼はアニオタではあるものの、一人のニューヨーカーとして一般的な感覚を持ち合わせており、話し相手としてはちょうど良かった。彼を早く取り戻さなければと、改めて決意を固める。
(それにしても、お腹が減ったな……。はぁ……)
ゴタゴタ続きだったため、昼食を抜いてしまっている。毎日三度の食事をしているマリとしては、若干辛い状況だ。自分達分の果物やクラッカーを残しておいていたら良かったのだろうが、車内に積んでいた物は全て提供してきた。
(食べる物、作らないとないな……)
そうは思うが、料理のために停車する気にもならない。
「この乗り物、スピードがかなり出ているし、道がデコボコしている割に揺れなくて、本当に素晴らしいよ。マリちゃん、運転していて楽しい?」
「普通の時に自動車の運転するのは結構好き。でも今は特に……、楽しくはないかな」
キャンプカーの運転に興味を示す公爵に返事をしながら、マリはとある事を思いついてしまった。
(そうだ! 公爵に運転させよう! そうしたらキャンプカーを走らせたまま、料理出来るじゃん!)
マリとは違い、公爵は当然免許を持っていない。それなのに運転させたら、無免許運転になる。しかしここは異世界。道の角に潜み、取り締まる者は居ないのだ!
マリは悪い笑みを浮かべた。
「公爵、運転してみたい?」
「え!? いいのかい!?」
「全然いいよ! これも何かの縁だし、体験してみて!」
「有難う! 君みたいないい子、そうそう居ないよ!」
「よく言われる!」
マリはキャンプカーを停車し、公爵に座席を譲った。
「この棒、動くから、『D』に動かしてみて。あ! ヤバイ! 足を左奥の板ーーペダルを踏んで!」
「おお!! 簡単に動くね! 足も使うものなの!? うわわ! 止まった!」
普通であれば、道のど真ん中で自動車が動いたり急停車したりしたら大迷惑なのだが、この世界にはこのキャンプカーしか自動車は無いーーハズ……。誰にも迷惑はかからないだろう。幸い、今まで馬車とすれ違わず、馬が反対側からやって来ても道を譲ってもらっている。見知らぬ人間に弓を打ち込まれた事もあるのだが、キャンプカーを大型モンスターか何かだと勘違いされてそうで面白かった。
「右の奥のペダルが速度を上げるものなんだけど、スピードは出し過ぎないでね。ここにある丸い円盤がスピードメーターと呼ばれていて、これを、えーと……そうだな。100を超えそうになったら、左のペダルを踏んで!」
「おお! どんどん加速していくよ、これ! 面白いね! どこまで速くなるのか試してみたいよ!」
「ちょ!? 150キロになってる、スピード落として!」
意外にもスピード狂だった公爵は楽しそうにアクセルを踏む。前から何かが来たら轢き殺しそうで恐ろしい……。
彼は一度冒険者ギルドの野営地に赴き、従者であるチェスター氏や親戚達に街の正常な住人達の事を任せていた。
一緒について行ったマリはキャンプカーに積んであった果物やクラッカーを冒険者ギルドに寄付した。当然街の人全員には行き渡らないだろうから少々心配だったが、冒険者ギルドでも貯め込んでいる保存食があるらしく、それを公爵が買い取り、市民分は確保出来た様だ。
他にも、点在する住人達の野営地を回っている間に夕方になってしまっていたが、時間が惜しいので、マリ、試験体066、公爵の三人で出発した。
ギルドマスターをしているシルヴィアは、冒険者ギルドの冒険者達や、街の住人達の世話、王都から来る予定のSランク冒険者を迎える為に、残るらしい。
別れ際、今朝のビッグバッド討伐の報酬として、金貨二十枚と、羽根の買い取り分の金貨十六枚を受け取った。冒険者ランクはマリとセバスちゃんの二人ともGからFに上げてくれたらしい。こんな時なのに、仕事を怠らない彼女の律儀さに、珍しく感動したマリだった。
◇
フロントウィンドウ越しに見える夕暮れの空は、バレンシアオレンジみたな色に染まり、昼食を抜かしたマリのお腹は空腹を訴える。
助手席で道案内をしてくれている公爵のしょうもないギャグに適当な相槌をうちながら、マリはハンドルを握り続けている。かれこれ一時間程運転しているのだが、朝からの騒動で、疲労感が半端じゃない。
隣の彼に道案内してもらっているとは言っても、実はカーナビの画面に土の神殿までの道のりが表示される様になり、電子音声でナビゲートされていたりする。
(このカーナビ、一体どうなってるわけ? 昨日までは二箇所しか選択肢がなかったのに……)
いっそ不気味ですらあるのだが、この現象を公爵に話してみても、イマイチ共感を得られなかった。そもそも彼にとっては、このキャンプカー自体が新鮮な驚きに満ちているみたいだし、電子音声でガイドするカーナビに至っては、何か音が鳴るたびに大爆笑しているのだ。この中に妖精か何かが入り込んでいると考えていそうだ。
彼と数時間過ごしてみて分かったのだが、笑いのツボがズレているのはストレスがたまる……。
(こういう時、セバスちゃんが居てくれたらいいんだけど……)
彼はアニオタではあるものの、一人のニューヨーカーとして一般的な感覚を持ち合わせており、話し相手としてはちょうど良かった。彼を早く取り戻さなければと、改めて決意を固める。
(それにしても、お腹が減ったな……。はぁ……)
ゴタゴタ続きだったため、昼食を抜いてしまっている。毎日三度の食事をしているマリとしては、若干辛い状況だ。自分達分の果物やクラッカーを残しておいていたら良かったのだろうが、車内に積んでいた物は全て提供してきた。
(食べる物、作らないとないな……)
そうは思うが、料理のために停車する気にもならない。
「この乗り物、スピードがかなり出ているし、道がデコボコしている割に揺れなくて、本当に素晴らしいよ。マリちゃん、運転していて楽しい?」
「普通の時に自動車の運転するのは結構好き。でも今は特に……、楽しくはないかな」
キャンプカーの運転に興味を示す公爵に返事をしながら、マリはとある事を思いついてしまった。
(そうだ! 公爵に運転させよう! そうしたらキャンプカーを走らせたまま、料理出来るじゃん!)
マリとは違い、公爵は当然免許を持っていない。それなのに運転させたら、無免許運転になる。しかしここは異世界。道の角に潜み、取り締まる者は居ないのだ!
マリは悪い笑みを浮かべた。
「公爵、運転してみたい?」
「え!? いいのかい!?」
「全然いいよ! これも何かの縁だし、体験してみて!」
「有難う! 君みたいないい子、そうそう居ないよ!」
「よく言われる!」
マリはキャンプカーを停車し、公爵に座席を譲った。
「この棒、動くから、『D』に動かしてみて。あ! ヤバイ! 足を左奥の板ーーペダルを踏んで!」
「おお!! 簡単に動くね! 足も使うものなの!? うわわ! 止まった!」
普通であれば、道のど真ん中で自動車が動いたり急停車したりしたら大迷惑なのだが、この世界にはこのキャンプカーしか自動車は無いーーハズ……。誰にも迷惑はかからないだろう。幸い、今まで馬車とすれ違わず、馬が反対側からやって来ても道を譲ってもらっている。見知らぬ人間に弓を打ち込まれた事もあるのだが、キャンプカーを大型モンスターか何かだと勘違いされてそうで面白かった。
「右の奥のペダルが速度を上げるものなんだけど、スピードは出し過ぎないでね。ここにある丸い円盤がスピードメーターと呼ばれていて、これを、えーと……そうだな。100を超えそうになったら、左のペダルを踏んで!」
「おお! どんどん加速していくよ、これ! 面白いね! どこまで速くなるのか試してみたいよ!」
「ちょ!? 150キロになってる、スピード落として!」
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