米国名門令嬢と当代66番目の勇者は異世界でキャンプカー生活をする!~錬金術スキルで異世界を平和へ導く~

だるま 

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魔人襲来

魔人襲来③

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 市庁舎のほど近くに停められた馬車にマリ達三人は乗り込む。客車にはマリと試験体066が、御者台には公爵が座った。平常時には下の者に馬を御させるであろう公爵が巧みに運転する。それだけ深刻な事態なのだ。
 マリは客車の窓から外を見てみた。大通りに面する多くの建物からゾロゾロと市民が出て来てくる。全員がマリ達を狙っているとでもいうのだろうか? ドヨンとした目はこちらを向いている様に見えて不気味だ。

 しかし襲い来る市民達が追いつく事も出来ぬ程のスピードで馬車は爆走し、今のところ追いつかれそうな感じはない。方向はレアネー市南側の城門の様だ。
 一度この街を離れるつもりなのかもしれない。

 マリは自分の無力感が悔しくなる。事態を考えるとセバスちゃんの救出は簡単にはいかないだろうし、当然自分一人で魔人やその配下をやっつけるなんて無理だろう。ちょうどゴールドインゴッドの換金でまとまった現地通貨を持っているので、傭兵等、腕の立つ者達を雇い、万全の体制を整えてから戻って来る方がいいのかもしれない。

 焦りの感情で行動したら良くないだろうと、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 騒々しい車輪の音とは裏腹に、馬車の中は静寂に包まれている。斜め向かいに座る白髪の少年の端正な顔を盗み見る。マリの気のせいじゃないなら、彼はこの世界の諸々について知りすぎている。彼とは確かにニューヨークのセントラルパーク近くで出
会ったし、一緒にこの世界に来たはずだ。
 勝手にお互い初めての異世界だと思っていたけど、もしかすると以前にも来た事があるのだろうか?

 顔を見続けていると、アメジストの瞳がこちらを向く。

「何……?」

「アンタって、過去にこの世界に来た事あるの? 詳しすぎる様な気がするんだけど……。魔法の使い方も、以前から使ってたみたい」

「来たこと無いよ。記憶としてあるだけ」

「はぁ?」

「記憶を移されただけだ」

「誰に?」

「……」

 少年は軽くため息をつき、喋らなくなってしまった。彼と話していると、爽快感が無く、モヤモヤする。伝えたく無い事なら、気になる様な言い方をしなければいい。マリは眉間に皺を寄せた。だが、今日彼が巻き込まれた事の一因がマリにある点を考えると、咎められない。しょうがなく、話題を変えてあげる事にする。

「結婚式での事、正直よく分かってない。アンタとコルルを結婚させようとしたから、魔人に目を付けられたの?」

「いや……。魔人は以前からこの街に潜伏していたんだと思う。コルルさんの母親の姿を借りて……。コルルさんを使って、魔力量の多い人間を探していたんだろう。エサか、兵にする為に。僕たちが通って来たあの道は、この世界の冒険者と呼ばれる者達が良く使うから、僕がターゲットにならなくても、他が犠牲になったはず……」

「コルルは魔人に操られていたのか……」

 思えば、彼女は不審だった。移動手段も限られたこの地で、たった一人街から離れた場所に居た。試験体066が言うように、ターゲットを見つけるために彷徨っていたのかもしれない。

「彼女はマインドコントロールされてそうだった。随分思考の幅が狭く感じられたから……。何かしらの術中にあったのかも。もっとも、僕は状態異常についてはあまり詳しくないから、単に知能が低い生き物なのかもしれないけど……」

 今話してて思ったが、この少年、無自覚に他人を評価するくせがありそうだ。このぶんだとマリも色々思われているだろう。
 元の世界にもたまにいる、モテそうなのに、時々辛辣な事を口走るなどして、軽く嫌われてそうなタイプだ。

 客車の中に影が落ちる。窓の外を確認してみると、ちょうど城門を通り抜けようとしていた。
 御者台に座る公爵が、衛兵に声をかける。

「街の中に魔人がいる。広範囲に魅了の術を展開しているよ。君たちも今すぐにここから街の外に逃げた方がいい」

「なっ!? いつのまに、そんな上級魔族に入られたのでっ!? 逃げます、逃げます。今すぐにでも!」

 衛兵は転がる様に走り、城門付近の仲間に大声で事態を伝える。ここの様子を見るに、魔人の術はまだ及んでいないようだ。
 彼等が城門から離れて行くのを見送り、公爵は御者台を下りる。そして城門の窪みに手を入れた。

 ガラスが軋む様な音の後、何か透明な物が後方に現れていた。

「公爵、何をしたんだろ……」

「城壁に仕込んでいる、結界を起動させたんじゃないかな。内側の魔人や、術にかかった人達を外に出さない様にしたんだと思う」

「意外と凄い人なんだ……。公爵」

 美味しい物を食べるのが好きな人という印象しか無かったのだが、実力がある人なのかもしれない。

「領主は、ウチの一族の中から魔法に秀でた者が選ばれる事になっているからね」

 マリの言葉は公爵の耳に届いていたようだ。御者台に戻って来た公爵が得意気に笑う。

「さて、これから隣の村にでも行くかな」

「あ! ちょっとこの近くに寄ってもらい所があるんだけど!」

 マリは慌てる。一度キャンプカーに寄ってもらいたいのだ。というか隣の村に行くなら、キャンプカーで移動したらいいのではないかと思う。





 
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