米国名門令嬢と当代66番目の勇者は異世界でキャンプカー生活をする!~錬金術スキルで異世界を平和へ導く~

だるま 

文字の大きさ
上 下
15 / 156
勇者もどき追放作戦

勇者もどき追放作戦⑩

しおりを挟む
 多種多様な野菜や果物に目を奪われる。ニンジンやタマネギの様な、元の世界でもお馴染みの野菜が揃っているみたいに見えるし、何やらクネクネとした植物の根っこ等も売られている。そういう生きた食材は、口らしき箇所に布を巻き、トドメを刺して、輪切りにしてから客に渡してくれているようだ。
 試食してみたかったのだが、有毒だと言われ、断念した。

「有毒って……、買って行った人は何に使うのって感じなんだけど……」

「魔法薬の作成ですかねぇ」

 セバスちゃんと二人、レアネーラズベリーのジュースを飲みながら歩く。気になる物や、ニューヨークでもお馴染みの野菜を買いまくっているので、いつのまにやらセバスちゃんが持つ籠は溢れそうになっている。

「不穏だなぁ。知らない食材を購入する時は店主にちゃんと成分的なのを質問してからじゃないと、コロッと死んじゃいそう」

「ですねぇ……。でもこのジュースに使われてるラズベリーはかなり美味しいし、疲労回復に高い効果があるらしいので、安心していただけますね」

「まとめ買いしたし、後でジャムにでもしてみようかな。それより肉コーナー行ってみない? さっき公爵からモンスターの肉を貰ったけど、この世界でどうやって食べられてるのか気になる」

「先程から、肉を焼くいい香りが……。たまりません」

 マーケットの奥の方に行くと、ピンク色の肉が店頭に並べられてたテナントが複数あった。腸詰は一つ一つが切り離されず、繋がった状態のまま紐でぶら下げられ、燻された巨大な肉も目の入る。氷漬けになっているのは、生肉なのだろうか? 霜の降り方や、肉の色、様々な生き物のものが並べられている。

「ここでモンスターの肉って食べられる?」

 マリの質問に、ガチムキの店主はニカリと笑った。

「何の肉をお望みだ?」

「えーと……。ゴブリンかオーク?」

 モンスターの種類に詳しくないマリは、この世界に来てから耳にした個体を挙げてみる。

「ゴブリンは不味いから、食用じゃねーな! オークは美味い。調理してやろう」

「二人分でお願い」

「あいよ! ちょっと待ってな」

「ゴブリンって、あのエイリアンみたいな奴ですよね。見た目に反せず不味いんですねぇ……」

「肌の色緑だし、カエルみたいな感じだと思ったんだけどなぁ」

「食べた事あるんですか!?」

「ふふん! 当然! 鶏肉に近い味だよ!」

 マリとセバスちゃとの適当な会話に、店主は豪快な笑い声をあげながら作業する。一際大きな氷漬けの肉塊を巨大な包丁でザクリと切り離し、脂身部分を除く。肉を小さめに切り分け、金属の棒に突き刺した後、岩塩をハンマーで叩いて肉の上にふった。竃か何かに入れて焼くのかと想像したのに、店主は袖を捲り、イキナリ手の平の上に炎を発生させた。

「え!? もしかしてそれで肉を焼くつもりなの!?」

「なんてワイルドな……」

「俺の体内で練りに練った魔力を使った炎で焼くんだ。美味く仕上がるぜぇ!」

「うわ……」

 何だか微妙に嫌な表現である。魔力とは何か分らないが、小汚いオッサンの身体から出てくる燃料と思えば、顔が引き攣る。
 マリの心境を他所に、店主は手に産み出した炎で肉を焼いた。

 焼かれていく肉は、ジワジワと油が滲み出て、所々黒く焦げめがつき、漂ってくるこうばしい匂いにお腹が減る。オヤジの汚い魔力云々はどうでも良くなってしまった。マリの中に半分流れる日本人の血が、白米を求める。タッパーに入れて持って来なかったのが悔しい。

「豪快な調理法ですが、美味そうです。偶にはこういうのも有りですね」

「だね」

 店主に多めに代金を支払い、焼肉の串を貰う。その場でパクリと齧ると、こうばしさと優しい甘みが感じられた。豚の味に近いかもしれない。

「うん。この肉、かなり味がいい!」

「味は思いっきり豚ですね。美味しいです。モンスターって肉食のイメージですが、草食動物みたいな味なんですね。意外です」

「オークは、植物系のモンスターを好んで食べてるからな。気に入ったんなら、今日の夕飯用にもっと買って行かないか?」

 店主の申し出に、マリは首を捻った。こういう軽食は、現地で食べるから美味しいのだ。
 日本の祖母の元に遊びに行った時にお祭りを体験した事があるのだが、そこで買ったリンゴ飴もタコ焼きも、沢山の人々に混じって食べた時の方が、家に持ち帰って食べるよりも美味しく感じられた。人の味覚は不思議なもので、同じ物を食べるとしても、楽しいという感情で食べる方が、優れているように思えるみたいなのだ。
 だから、マリは店主に首を振った。

「いらない。調理してくれたアンタの前で食べてるから美味しいんだと思うし、良いイメージを壊したくないから」

 店主は、キョトンとしたが、すぐに豪快に笑った。マリなりの誠意が伝わったようだ。

 その後もセバスちゃんと二人で食べ歩き、キャンプカーに辿り着いたのは十四時を回った頃だった。

 車体は何故か所々凹んでいた。巨大な生き物が引っ掻いた様な傷跡もある。

「モンスターから襲撃されたみたいですね」

「うわ……。ここ結構危険なのか」

 レアネー市からさほど離れていないのだが、モンスターが徘徊する場所だったらしい。
 中は大丈夫なのか気になり、ドアに手をかけると、先程落書きの様に浮かび上がったマリの名前がスッと消えた。

(そういえばあの白髪頭の男、この落書きをみて『封印』って言ってたね)

 今朝離別した少年の顔を思い出し、ちょっとだけ苦い気持ちになる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...