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勇者もどき追放作戦
勇者もどき追放作戦⑩
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多種多様な野菜や果物に目を奪われる。ニンジンやタマネギの様な、元の世界でもお馴染みの野菜が揃っているみたいに見えるし、何やらクネクネとした植物の根っこ等も売られている。そういう生きた食材は、口らしき箇所に布を巻き、トドメを刺して、輪切りにしてから客に渡してくれているようだ。
試食してみたかったのだが、有毒だと言われ、断念した。
「有毒って……、買って行った人は何に使うのって感じなんだけど……」
「魔法薬の作成ですかねぇ」
セバスちゃんと二人、レアネーラズベリーのジュースを飲みながら歩く。気になる物や、ニューヨークでもお馴染みの野菜を買いまくっているので、いつのまにやらセバスちゃんが持つ籠は溢れそうになっている。
「不穏だなぁ。知らない食材を購入する時は店主にちゃんと成分的なのを質問してからじゃないと、コロッと死んじゃいそう」
「ですねぇ……。でもこのジュースに使われてるラズベリーはかなり美味しいし、疲労回復に高い効果があるらしいので、安心していただけますね」
「まとめ買いしたし、後でジャムにでもしてみようかな。それより肉コーナー行ってみない? さっき公爵からモンスターの肉を貰ったけど、この世界でどうやって食べられてるのか気になる」
「先程から、肉を焼くいい香りが……。たまりません」
マーケットの奥の方に行くと、ピンク色の肉が店頭に並べられてたテナントが複数あった。腸詰は一つ一つが切り離されず、繋がった状態のまま紐でぶら下げられ、燻された巨大な肉も目の入る。氷漬けになっているのは、生肉なのだろうか? 霜の降り方や、肉の色、様々な生き物のものが並べられている。
「ここでモンスターの肉って食べられる?」
マリの質問に、ガチムキの店主はニカリと笑った。
「何の肉をお望みだ?」
「えーと……。ゴブリンかオーク?」
モンスターの種類に詳しくないマリは、この世界に来てから耳にした個体を挙げてみる。
「ゴブリンは不味いから、食用じゃねーな! オークは美味い。調理してやろう」
「二人分でお願い」
「あいよ! ちょっと待ってな」
「ゴブリンって、あのエイリアンみたいな奴ですよね。見た目に反せず不味いんですねぇ……」
「肌の色緑だし、カエルみたいな感じだと思ったんだけどなぁ」
「食べた事あるんですか!?」
「ふふん! 当然! 鶏肉に近い味だよ!」
マリとセバスちゃとの適当な会話に、店主は豪快な笑い声をあげながら作業する。一際大きな氷漬けの肉塊を巨大な包丁でザクリと切り離し、脂身部分を除く。肉を小さめに切り分け、金属の棒に突き刺した後、岩塩をハンマーで叩いて肉の上にふった。竃か何かに入れて焼くのかと想像したのに、店主は袖を捲り、イキナリ手の平の上に炎を発生させた。
「え!? もしかしてそれで肉を焼くつもりなの!?」
「なんてワイルドな……」
「俺の体内で練りに練った魔力を使った炎で焼くんだ。美味く仕上がるぜぇ!」
「うわ……」
何だか微妙に嫌な表現である。魔力とは何か分らないが、小汚いオッサンの身体から出てくる燃料と思えば、顔が引き攣る。
マリの心境を他所に、店主は手に産み出した炎で肉を焼いた。
焼かれていく肉は、ジワジワと油が滲み出て、所々黒く焦げめがつき、漂ってくるこうばしい匂いにお腹が減る。オヤジの汚い魔力云々はどうでも良くなってしまった。マリの中に半分流れる日本人の血が、白米を求める。タッパーに入れて持って来なかったのが悔しい。
「豪快な調理法ですが、美味そうです。偶にはこういうのも有りですね」
「だね」
店主に多めに代金を支払い、焼肉の串を貰う。その場でパクリと齧ると、こうばしさと優しい甘みが感じられた。豚の味に近いかもしれない。
「うん。この肉、かなり味がいい!」
「味は思いっきり豚ですね。美味しいです。モンスターって肉食のイメージですが、草食動物みたいな味なんですね。意外です」
「オークは、植物系のモンスターを好んで食べてるからな。気に入ったんなら、今日の夕飯用にもっと買って行かないか?」
店主の申し出に、マリは首を捻った。こういう軽食は、現地で食べるから美味しいのだ。
日本の祖母の元に遊びに行った時にお祭りを体験した事があるのだが、そこで買ったリンゴ飴もタコ焼きも、沢山の人々に混じって食べた時の方が、家に持ち帰って食べるよりも美味しく感じられた。人の味覚は不思議なもので、同じ物を食べるとしても、楽しいという感情で食べる方が、優れているように思えるみたいなのだ。
だから、マリは店主に首を振った。
「いらない。調理してくれたアンタの前で食べてるから美味しいんだと思うし、良いイメージを壊したくないから」
店主は、キョトンとしたが、すぐに豪快に笑った。マリなりの誠意が伝わったようだ。
その後もセバスちゃんと二人で食べ歩き、キャンプカーに辿り着いたのは十四時を回った頃だった。
車体は何故か所々凹んでいた。巨大な生き物が引っ掻いた様な傷跡もある。
「モンスターから襲撃されたみたいですね」
「うわ……。ここ結構危険なのか」
レアネー市からさほど離れていないのだが、モンスターが徘徊する場所だったらしい。
中は大丈夫なのか気になり、ドアに手をかけると、先程落書きの様に浮かび上がったマリの名前がスッと消えた。
(そういえばあの白髪頭の男、この落書きをみて『封印』って言ってたね)
今朝離別した少年の顔を思い出し、ちょっとだけ苦い気持ちになる。
試食してみたかったのだが、有毒だと言われ、断念した。
「有毒って……、買って行った人は何に使うのって感じなんだけど……」
「魔法薬の作成ですかねぇ」
セバスちゃんと二人、レアネーラズベリーのジュースを飲みながら歩く。気になる物や、ニューヨークでもお馴染みの野菜を買いまくっているので、いつのまにやらセバスちゃんが持つ籠は溢れそうになっている。
「不穏だなぁ。知らない食材を購入する時は店主にちゃんと成分的なのを質問してからじゃないと、コロッと死んじゃいそう」
「ですねぇ……。でもこのジュースに使われてるラズベリーはかなり美味しいし、疲労回復に高い効果があるらしいので、安心していただけますね」
「まとめ買いしたし、後でジャムにでもしてみようかな。それより肉コーナー行ってみない? さっき公爵からモンスターの肉を貰ったけど、この世界でどうやって食べられてるのか気になる」
「先程から、肉を焼くいい香りが……。たまりません」
マーケットの奥の方に行くと、ピンク色の肉が店頭に並べられてたテナントが複数あった。腸詰は一つ一つが切り離されず、繋がった状態のまま紐でぶら下げられ、燻された巨大な肉も目の入る。氷漬けになっているのは、生肉なのだろうか? 霜の降り方や、肉の色、様々な生き物のものが並べられている。
「ここでモンスターの肉って食べられる?」
マリの質問に、ガチムキの店主はニカリと笑った。
「何の肉をお望みだ?」
「えーと……。ゴブリンかオーク?」
モンスターの種類に詳しくないマリは、この世界に来てから耳にした個体を挙げてみる。
「ゴブリンは不味いから、食用じゃねーな! オークは美味い。調理してやろう」
「二人分でお願い」
「あいよ! ちょっと待ってな」
「ゴブリンって、あのエイリアンみたいな奴ですよね。見た目に反せず不味いんですねぇ……」
「肌の色緑だし、カエルみたいな感じだと思ったんだけどなぁ」
「食べた事あるんですか!?」
「ふふん! 当然! 鶏肉に近い味だよ!」
マリとセバスちゃとの適当な会話に、店主は豪快な笑い声をあげながら作業する。一際大きな氷漬けの肉塊を巨大な包丁でザクリと切り離し、脂身部分を除く。肉を小さめに切り分け、金属の棒に突き刺した後、岩塩をハンマーで叩いて肉の上にふった。竃か何かに入れて焼くのかと想像したのに、店主は袖を捲り、イキナリ手の平の上に炎を発生させた。
「え!? もしかしてそれで肉を焼くつもりなの!?」
「なんてワイルドな……」
「俺の体内で練りに練った魔力を使った炎で焼くんだ。美味く仕上がるぜぇ!」
「うわ……」
何だか微妙に嫌な表現である。魔力とは何か分らないが、小汚いオッサンの身体から出てくる燃料と思えば、顔が引き攣る。
マリの心境を他所に、店主は手に産み出した炎で肉を焼いた。
焼かれていく肉は、ジワジワと油が滲み出て、所々黒く焦げめがつき、漂ってくるこうばしい匂いにお腹が減る。オヤジの汚い魔力云々はどうでも良くなってしまった。マリの中に半分流れる日本人の血が、白米を求める。タッパーに入れて持って来なかったのが悔しい。
「豪快な調理法ですが、美味そうです。偶にはこういうのも有りですね」
「だね」
店主に多めに代金を支払い、焼肉の串を貰う。その場でパクリと齧ると、こうばしさと優しい甘みが感じられた。豚の味に近いかもしれない。
「うん。この肉、かなり味がいい!」
「味は思いっきり豚ですね。美味しいです。モンスターって肉食のイメージですが、草食動物みたいな味なんですね。意外です」
「オークは、植物系のモンスターを好んで食べてるからな。気に入ったんなら、今日の夕飯用にもっと買って行かないか?」
店主の申し出に、マリは首を捻った。こういう軽食は、現地で食べるから美味しいのだ。
日本の祖母の元に遊びに行った時にお祭りを体験した事があるのだが、そこで買ったリンゴ飴もタコ焼きも、沢山の人々に混じって食べた時の方が、家に持ち帰って食べるよりも美味しく感じられた。人の味覚は不思議なもので、同じ物を食べるとしても、楽しいという感情で食べる方が、優れているように思えるみたいなのだ。
だから、マリは店主に首を振った。
「いらない。調理してくれたアンタの前で食べてるから美味しいんだと思うし、良いイメージを壊したくないから」
店主は、キョトンとしたが、すぐに豪快に笑った。マリなりの誠意が伝わったようだ。
その後もセバスちゃんと二人で食べ歩き、キャンプカーに辿り着いたのは十四時を回った頃だった。
車体は何故か所々凹んでいた。巨大な生き物が引っ掻いた様な傷跡もある。
「モンスターから襲撃されたみたいですね」
「うわ……。ここ結構危険なのか」
レアネー市からさほど離れていないのだが、モンスターが徘徊する場所だったらしい。
中は大丈夫なのか気になり、ドアに手をかけると、先程落書きの様に浮かび上がったマリの名前がスッと消えた。
(そういえばあの白髪頭の男、この落書きをみて『封印』って言ってたね)
今朝離別した少年の顔を思い出し、ちょっとだけ苦い気持ちになる。
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