聖女適正ゼロの修道女は邪竜素材で大儲け~特殊スキルを利用して香水屋さんを始めてみました~

だるま 

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それぞれの思惑

それぞれの思惑②

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 まるで宗教施設のように荘厳な雰囲気の通路に衛兵達が立ち並ぶ。彼等の側をステラが通り過ぎると、驚愕の表情を浮かべる者がチラホラと見受けられた。おそらく、ステラの容姿がナターリア皇女に良く似ているからだろう。
 このまま進んでも大丈夫だろうかと不安に思いながら、目の前の真っ直ぐな背中を見つめる。

 その視線に気付いたからなのか、ジョシュアが振り返り、手を差し伸べてくれた。

「ステラ、手を繋ごうか?」

「い、いえ……。大丈夫なのです」

 ステラは自分の手を後ろに隠し、首を振る。
 足が進まなくなったわけでも、前を向けなくなったわけでもない。
 自分の意思でここに居るのだと、ちゃんと示したいのだ。

 ジョシュアはそれ以上何も言わず、隣に並んで歩いてくれた。
 そうこうしているうちに、謁見の間の扉の前にたどり着く。

「ルフロス王国外務大臣御一行様、ヴァレルリー・フォルセル・ミクトラン皇帝陛下に御謁見でございます!!」

 開かれた扉の向こうに玉座が見える。
 そこに脚を組んで座る男性が、このミクトラン帝国の皇帝、ヴァレルリー・フォルセル・ミクトランなのだろう。
 彼は、ぎこちなく足を運ぶステラに目を留め、自らの顎を撫でた。

「お初にお目にかかります。皇帝陛下。私、外務大臣の任に就く____」

 ルフロス王国側の人間がそれぞれ名乗っていき、最後にステラの番が回ってきた。
 胃が迫り上がるような緊張感に耐えながら、必死に声を上げる。

「ステラ・グリフィスと申します。こたびは皇帝陛下並びに、ナターリア皇女殿下に献上したい物があり、拝謁いたします」

 ジョシュアと何度も練習した甲斐あり、なんとか言い切った。
 何か反応があるかもしれないとの期待に反し、皇帝は軽く頷いただけだ。それに少しばかり失望し、こっそりため息をつく。

 謁見の間に居る女性は、官僚らしき者と、女官くらい。おそらくナターリアはこの場に来ていないのだ。
 皇帝が興味を示さないのだとしたら、もう会う機会がないように思われる。

 ステラの内心の葛藤を他所に、会談が始まる。
 ルフロス王国側の外務大臣や外交官達が、帝国側の工作活動の数々を列挙し、糾弾した。

「____これら全てを、御国からの敵対行動と見做し、我が国に滞在する帝国民全てを強制排除いたします。また、交易品全五十品目に対して、関税を二十五%を課し、御国からの輸入を制限させていただきます」

 外務大臣に続き、ジョシュアが話し始める。

「御国内の企業とルフロス王国の企業との間の技術提携契約を、解消に向けて動かせていただくつもりです。その際、過去の機密事項の流出に関して国際法に基づき、訴訟を起こさせていただく事もございます」

 フレディが書面を宰相に対して差し出す。
 おそらくそれらに書かれているのは、関税対象にされた品目のリストや、関連する企業名等だろう。

 帝国側の宰相はメガネを押し上げて、書面に目を通した後、鼻で笑い飛ばした。

「いきなり乗り込んで来たかと思えば、随分な挨拶ですねぇ。ルフロス王国内での工作活動等初耳ですよ。帝国の名を語る第三者の仕業だとはお考えにならないのですか?」

「一度や、二度だけであればそういう場合もあるでしょうが、ここ一年間だけで百件以上もあるのです。御国の関与が濃厚と考えるのが普通ですよ」

 お仕事モードのジョシュアが反論するものの、帝国側の宰相はノラリクラリと対応するのみ。このままだと適当な感じでお開きになりそうである。

 ステラはその様子を、頬を膨らませて眺める。
 以前悪魔シトリーと会った時、彼女は、自らの召喚の代償として、帝国の皇族の魂を貰い受けると言っていた。その事からも、皇室に近しい者が、その悪しき関わり合いを知らないとは思えない。
 しかし、残念ながらそれを裏付ける事の出来る証拠はないのだ。

 だったら、彼等から不審な反応を引き出してしまえばいいのではないだろうか。

 意を決して立ち上がる。

御国おんこくはっ! 制御し難い存在にお困りになっておりませんか!?」

 ステラに大勢の人間の視線が集まる。
 帝国側の官僚達がヒソヒソと何事かを囁き合っているのが見えるが、気にしたら負けだ。レイフに持ってもらっていた香水瓶を黄金色のトレーごと受け取り、皇帝の御前に進み出た。
 衛兵達が慌てた様子で、こちらに駆け寄って来るものの、何故か皇帝が手で制してくれた。

「興味深い話だ。聞かせてもらえるか?」

「はい! ミクトラン帝国の皇室は、悪魔に害されているとの噂を耳にしました。ですから、心安らかに暮らせるようにと、私が調香した香水をお持ちしました。これは、退魔のフレグランスなんです!」

 ステラは跪き、黄金のトレーを差し出す。
 乗っているのは、流れる様なフォルムを描くクリスタルガラスの小瓶。
 下にいく程に濃い青に染まるそれは、献上品として十分なくらいに美しい。

 近寄って来た皇帝の顔は、どこか繊細な雰囲気であり、実年齢よりも十は若く見える。

「そなたは我輩の娘に良く似ておる」

「……そうですか」

 ナターリア皇女に似ているお陰なのか、皇帝は怪しむことなく香水瓶の蓋を開けた。
 すると、どこまでも優美なクチナシの香りが広がる。
 
 異変は直ぐに起きた。
 目の前に居る皇帝が顔色を変え、グラリとその身体が揺らいだのだ。

(あれ……?)

 彼の額から、大粒の汗が流れ落ちる。
 ヨロヨロと、ステラから距離を取る様は、まるで毒ガスでも食らったかのようだ。

「すまない。香水の香りにあてられたようだ」

 侍従達の付き添われ、立ち去る弱々しい後ろ姿に、ステラは内心焦りまくる。
 これではまるで、何か良くない物を持ち込み、皇帝を害したみたいじゃないか。

(一応、昨日成分は帝国の官吏に調べてもらったけど、大丈夫なのかな!?)
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