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道中は危険に溢れている!
道中は危険に溢れている!⑤
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アジ・ダハーカの後について林の中を歩く。
木々はどれも弱々しく、近々枯れてしまうのではないかと思う程だ。
「ここを見ろ」
黒猫がフワフワの手で指し示す方を見ると、木の幹に丸いマークが刻み込まれていた。
それを見たステラはギクリとする。
円の中に一斤のパンの様な絵と文字が描かれていて、シトリーの印とよく似ている。
「悪魔の印に似てないですか?」
側にいるレイチェルに話しかけると、彼女は腕を組んで頷く。
「そうだね! 名前部分は薄れちゃって良く見えないけど、『B』から始まる名前の悪魔……。バルバトスだったらヤッバイ!」
「もしかして、高位の悪魔とかなんですかね?」
「そうなの! 早めにずらかろう!」
彼女の慌てようを見ると、従った方が無難だろう。
しかし……。
「“聖水Ex”は効くのかな? ちょっと取って来ます! レイチェルさん、目印としてここに居て下さい!」
「えぇー!?」
悪態をつくレイチェルを放置して、ステラは馬車へと走り、トランクの中からクチナシの香りのフレグランスを取り出す。“聖水Ex”が含まれた特別な香りなら、金木犀の幹に刻まれた悪魔の印をどうにか出来るかもしれない。
問題の木へと戻り、フレグランスをジャバジャバとかけてみる。
いい香りが周囲に立ちこめ、目の前の印が徐々に薄れゆく。
その様子にレイチェルは拍手してくれた。
「効果的面だね! さっすがー!」
「えへへ。元気になるといいな!」
ニンマリと笑いながら、気になる事をアジ・ダハーカに問いかける。
「何でこんな所に悪魔は印を残して行ったんですかね?」
「ここで何か一仕事したんじゃないか? 木々が弱っているのは、その影響だろう」
「なんと……」
ステラはイメージする。
悪魔がやる事といったら、人間の命を刈り取る等の悪行だ。
もしかしたら、ここで誰かが死んでしまったのかもしれない。急に不吉な感じがしてきて、ブルリと身体を震わせる。
薄暗い話とは裏腹に、目の前の木はその内側からオレンジ色に発光し、不思議な事に枝から次々に葉が飛び出す。
モリモリと生茂る様は、まるで生命の息吹を吹き込まれたかのよう。
「何が起きてるんですか!?」
「アタシ達は植物系のスキルを使えないし、別の理由があるんかな~」
二人と一匹で唖然と見ているうちに、手品のような鮮やかな変貌は、他の木にも移り、林全体が葉っぱでこんもりした。お陰で太陽の光が遮断される。
「おい、花が咲いたぞ」
「あ、本当ですね」
葉っぱの間から破裂するがごとくに咲くのはオレンジ色の小さな花。
ボール状に集まっているせいで、大きな一つの花の様に見えている。
香りは、甘くもどこか切なくて、レイチェルが気にいってしまうのが良く分かる。
(いいなぁ、この香り。でも折角咲いた花を摘み取ったら悪いよね)
金木犀がこれ程変化したのは悪魔の印を消したという理由が大きいだろうが、不用意な事をして再び弱らせてしまうのも悪い。ここだけで花を愛でて立ち去るのが無難だろう。
ひとまず先程のラグを敷いた所に戻ってみると、小さな生き物が座り、バケットを丸噛りしていた。
「モッ……モッ……モッ」
「うわっ!? 昼飯泥棒!?」
赤ちゃんの様な見た目をしているのに、レイチェルの大声に動じない。
それどころか、フラフワした緑色の髪を乱しながら、こちらに向かって手を振る。
「置き去りにされた赤ちゃん……うっ……」
自分も赤子の時、聖ヴェロニカ修道院に捨てられた存在だったと思いだし、妙に落ち着かなくなる。
その気配を察したのか、足元を歩いていたアジ・ダハーカがスルリと身体を擦り付けてきた。
「アレはドラアドだ」
「ドライアドって、樹木の精霊なんでしたっけ?」
「そうだ」
もしかすると、金木犀に宿った精霊なのかもしれない。
悪魔の印を刻み込まれ、かなり迷惑していただろう。
「樹木の精霊!! アタシ精霊なんて初めて見たかも! ドライアドちゃーん!!」
レイチェルがはしゃいだ様子でドライアドに絡みに行くと、その子は「ブー! ブー!」と嫌がる。
豚っぽい鳴き声に、少しばかり吹き出した。あまり怖がらなくてよさそうだ。
ステラもドライアドの側に腰を下ろしてみると、その子は枝の様な形状の細長い指を伸ばしてきた。
「どうしたんです?」
「ピ! ピー!」
「んう?」
ドライアドは楽し気に自らの手を指差し、両手を合わせて深皿の様な形にする。
何度も何度もそのジェスチャーを繰り返しているところをみると、どうやら『同じ様にしろ』という事のようだ。
精霊の目の前に、ステラが両手を合わせて置いてみると、満足気に頷かれる。
「ドライアドはお主にお礼したいようだな」
ドライアドの身体の臭いを嗅ぎ周っていたアジ・ダハーカが、ステラを安心させるように頷く。
彼がそういうのなら、このまま大人しくしておいても大丈夫だろう。
これから何が起こるのかと固唾を飲んで見守る。
緑色の髪に金木犀の花がポポポと生えた。
呆気にとられているうちに、ドライアドの指先からステラの手の平に冷たい液体が流し込まれる。
それから香るのは、金木犀の芳香。
「え!? これって……」
ドライアドのお礼の品は、金木犀のエッセンシャルオイルなのだろうか。
木々はどれも弱々しく、近々枯れてしまうのではないかと思う程だ。
「ここを見ろ」
黒猫がフワフワの手で指し示す方を見ると、木の幹に丸いマークが刻み込まれていた。
それを見たステラはギクリとする。
円の中に一斤のパンの様な絵と文字が描かれていて、シトリーの印とよく似ている。
「悪魔の印に似てないですか?」
側にいるレイチェルに話しかけると、彼女は腕を組んで頷く。
「そうだね! 名前部分は薄れちゃって良く見えないけど、『B』から始まる名前の悪魔……。バルバトスだったらヤッバイ!」
「もしかして、高位の悪魔とかなんですかね?」
「そうなの! 早めにずらかろう!」
彼女の慌てようを見ると、従った方が無難だろう。
しかし……。
「“聖水Ex”は効くのかな? ちょっと取って来ます! レイチェルさん、目印としてここに居て下さい!」
「えぇー!?」
悪態をつくレイチェルを放置して、ステラは馬車へと走り、トランクの中からクチナシの香りのフレグランスを取り出す。“聖水Ex”が含まれた特別な香りなら、金木犀の幹に刻まれた悪魔の印をどうにか出来るかもしれない。
問題の木へと戻り、フレグランスをジャバジャバとかけてみる。
いい香りが周囲に立ちこめ、目の前の印が徐々に薄れゆく。
その様子にレイチェルは拍手してくれた。
「効果的面だね! さっすがー!」
「えへへ。元気になるといいな!」
ニンマリと笑いながら、気になる事をアジ・ダハーカに問いかける。
「何でこんな所に悪魔は印を残して行ったんですかね?」
「ここで何か一仕事したんじゃないか? 木々が弱っているのは、その影響だろう」
「なんと……」
ステラはイメージする。
悪魔がやる事といったら、人間の命を刈り取る等の悪行だ。
もしかしたら、ここで誰かが死んでしまったのかもしれない。急に不吉な感じがしてきて、ブルリと身体を震わせる。
薄暗い話とは裏腹に、目の前の木はその内側からオレンジ色に発光し、不思議な事に枝から次々に葉が飛び出す。
モリモリと生茂る様は、まるで生命の息吹を吹き込まれたかのよう。
「何が起きてるんですか!?」
「アタシ達は植物系のスキルを使えないし、別の理由があるんかな~」
二人と一匹で唖然と見ているうちに、手品のような鮮やかな変貌は、他の木にも移り、林全体が葉っぱでこんもりした。お陰で太陽の光が遮断される。
「おい、花が咲いたぞ」
「あ、本当ですね」
葉っぱの間から破裂するがごとくに咲くのはオレンジ色の小さな花。
ボール状に集まっているせいで、大きな一つの花の様に見えている。
香りは、甘くもどこか切なくて、レイチェルが気にいってしまうのが良く分かる。
(いいなぁ、この香り。でも折角咲いた花を摘み取ったら悪いよね)
金木犀がこれ程変化したのは悪魔の印を消したという理由が大きいだろうが、不用意な事をして再び弱らせてしまうのも悪い。ここだけで花を愛でて立ち去るのが無難だろう。
ひとまず先程のラグを敷いた所に戻ってみると、小さな生き物が座り、バケットを丸噛りしていた。
「モッ……モッ……モッ」
「うわっ!? 昼飯泥棒!?」
赤ちゃんの様な見た目をしているのに、レイチェルの大声に動じない。
それどころか、フラフワした緑色の髪を乱しながら、こちらに向かって手を振る。
「置き去りにされた赤ちゃん……うっ……」
自分も赤子の時、聖ヴェロニカ修道院に捨てられた存在だったと思いだし、妙に落ち着かなくなる。
その気配を察したのか、足元を歩いていたアジ・ダハーカがスルリと身体を擦り付けてきた。
「アレはドラアドだ」
「ドライアドって、樹木の精霊なんでしたっけ?」
「そうだ」
もしかすると、金木犀に宿った精霊なのかもしれない。
悪魔の印を刻み込まれ、かなり迷惑していただろう。
「樹木の精霊!! アタシ精霊なんて初めて見たかも! ドライアドちゃーん!!」
レイチェルがはしゃいだ様子でドライアドに絡みに行くと、その子は「ブー! ブー!」と嫌がる。
豚っぽい鳴き声に、少しばかり吹き出した。あまり怖がらなくてよさそうだ。
ステラもドライアドの側に腰を下ろしてみると、その子は枝の様な形状の細長い指を伸ばしてきた。
「どうしたんです?」
「ピ! ピー!」
「んう?」
ドライアドは楽し気に自らの手を指差し、両手を合わせて深皿の様な形にする。
何度も何度もそのジェスチャーを繰り返しているところをみると、どうやら『同じ様にしろ』という事のようだ。
精霊の目の前に、ステラが両手を合わせて置いてみると、満足気に頷かれる。
「ドライアドはお主にお礼したいようだな」
ドライアドの身体の臭いを嗅ぎ周っていたアジ・ダハーカが、ステラを安心させるように頷く。
彼がそういうのなら、このまま大人しくしておいても大丈夫だろう。
これから何が起こるのかと固唾を飲んで見守る。
緑色の髪に金木犀の花がポポポと生えた。
呆気にとられているうちに、ドライアドの指先からステラの手の平に冷たい液体が流し込まれる。
それから香るのは、金木犀の芳香。
「え!? これって……」
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