上 下
65 / 89
一番大事な人?

一番大事な人?⑥(※ステラ視点)

しおりを挟む
 レイチェルと入れ替わるようにジョシュアがやって来て、かなり強引にフラーゼ家のタウンハウスに連れて帰られてしまった。やりたい仕事が残っていたので不満に思ったものの、問答無用とでもいいたいかのような雰囲気に圧倒された。
 何か急ぎの用があったかというと、そうでもなく。
 彼の私室のカウチに座らされ、ティーセットを挟んでお喋りというのんびりとした状況になった。
 部屋の主と香水の売上について話しているうちに陽が暮れ、話が続かなくなる。彼との間には、最近では珍しい気まずい沈黙が落ちた。

 目の前に座る男は一つ息をつき、陶器のランプに火を灯す。

(いつももっと口数多い人なのに、今日は途切れがちだなぁ。私何か悪い事したっけ?)

 怒っている素振りは無い。
 しかしこのジョシュアという人は笑顔のままキレるなど、読みずらい性格をしているので、注意が必要だ。
 先程人払いを命じていたのも気になる。

「ステラは……」

「うわ! はい!」

 漸くかけられた声に驚き、腰を少し浮かす。
 ジョシュアは目を見張ったが、直ぐにクスリと笑った。

「ごめん。考え事をしていたんだ。一つ質問してもいいかな?」

「どうぞです!」

「君ってさ、スキルをもう一つ持っていたりしないよね?」

 ハッとした。
 保有している三つのスキルのうち、二つしか伝えていないのがバレたのだろうか。
 人払いをしてまで、それについて話したい理由とは一体……。
 当惑して答えずにいると、更に言葉を付け加えられる。

「二つで間違いないなら問題ないんだよ。三つ保有してない?」

 まるでステラに三つスキルがあったら、困るかのような口振りだ。
 ここで嘘をついたなら、容易く騙せるのだろう。だけど、どういうわけか、彼に知ってほしいと思った。

「……ありますよ。私、三つスキルを使えるんです。でも、それで何に協力するかは私自身で選ぼうと思ってます」

 そう言った後のジョシュアの表情は、不気味な程静かだった。
 失望? 失笑? 悲嘆?
 どれも違っているようで、全てがこもっているようでもある。

「ピンクブロンドの髪に、空色の瞳を持つ十五歳の少女。そして保持するスキルは三つって……。まんま君じゃん」

「? そうですね」

 隠していたのを怒るでもなく、ただ『誰かが言ったであろう言葉』を復唱するだけのような彼に違和感を覚え、眉根を寄せる。本当に彼が知りたい内容は何なのか。

「出会ったばかりの頃、君は産みの親に興味を持たなかったよね。オレは調べてあげると言ったけど、拒否してた。今も変わらない?」

「脈絡の無い質問を重ねられても困るというか……」

「オレには有るから、答えて」

「えぇと……」

 わざわざこんな質問をしてくるのは、ステラの両親に心当たりがあるからなのだろう。
 だから、仕方無く真剣に考える。
 ここ三ヶ月の間にフラーゼ家やネイック家の親子を観察し、血縁関係の重要性を思わずにいられなかった。
 本当の親に会って、もし壁一つ感じないような接し方をされたら、どこか空虚な心が満たされるのかもしれない。
 そうでなくても、彼等と会う事で、別の新しい関係を構築するための区切になる可能性もある。
 答えは一つだ。

「あ……いたい……です。一度でいいから……。どんな暮らしをしているのか、気になる……」

 勇気を持ってやっと絞りだした言葉に、ジョシュアはあろうことか、弾かれた様に笑い出した。
 その様子に傷つき、じわりと目が潤む。

「酷いです! 何で笑うんですか!」

 握り拳で彼の頭や肩を思い切り叩く。
 両親と会えるかもと期待を持つステラを見て笑うなんて、どうかしている。
 神罰が下ればいい。

「アハハ……、ごめん。オレが居なかったら、全員の希望が叶うのかなって思ったら、馬鹿馬鹿しく思えて」

「意味わかんないです! くたばれジョシュア!」

 べシリと胸を打った拳は、しかし彼の手に掴まれた。

「ぐぬぬ! 離せー!」

「だけどさ、ステラ」

「許せないです! 自分は何でも持っているからって、人の心を踏みにじってもいいんですか!?」

「君と永遠に会えなくなるくらいだったら、嫌われた方がずっと良いって思えるくらいに」

「ジョシュア?」

「君が好き」

「へ……?」

 告げられた言葉をうまく飲み込めなくて、間近にある双眸をポカンと見つめる。
 スキルを聞かれ、産みの親の事で笑われ、それで「好き」とは?
 こちらに向けられている紅茶色の瞳は、赤色に近く、蠱惑的。直前まで人を馬鹿にしていたとは思えない程に真剣な面持ちである。

「たぶん、出会った時から何となく惹かれてた」

「それって、恋愛の、意味で?」

「うん」

「そうなんだ……」

 頭の中は混乱を極める。
 一つだけ確かなのは、ジョシュアの言葉が真実だということ。
 思い返せば、成る程と思える言動を、何度もとっていた。

(なんで私、違う意味でしか受け取れなかったんだろ?)

 彼の手が淡い光を放つ様を綺麗だな……と思っているうちに、抗いがたい眠気が襲いかかり、「うぅ……」と呻く。
 目の前にあるシッカリした胸に倒れ込み、その温もりを感じながら意識を手放した。

◇◇◇
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...