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試供品は退魔のフレグランス
試供品は退魔のフレグランス⑧
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「レイチェルさんは、シトリーという悪魔を知っていますか?」
ステラが問いかけると、木陰に胡座をかいたレイチェルはギョッとした顔をした。
手招きする意味は、隣に座れという意味だろうか。
ノロノロとした動きで彼女に並び、三角座りする。
「上級の……というか高位の悪魔の話題は慎重に扱わないと! どういう経路で悪魔の耳に入るか分かったもんじゃなよ」
その指が差すのは、先程彼女が呼び出したインプだ。
ステラ達の話に興味があるのか、抜け目の無い目つきでこちらを見ている。
(告げ口とかするつもりなのかな!?)
インプは契約時間が過ぎたら勝手に帰るとの事だったので油断していたが、悪意が消えても、こちらの味方になったわけではない。
変に刺激しないように、暫く二人で他愛無いお喋りをして時間を潰す。
二十分程後に漸くインプの姿がかき消え、話はステラが投げかけた質問に戻った。
「シトリーは現在確認されている悪魔の中でも、ランクが十二位の強力な存在だよ。アタシが知る限りだと、過去にソレを召喚した者は、国内随一の召喚士で、対価としてこの国の王女様の魂を差し出したんだとか!」
「えぇ!? 王族の魂を!? ゆ、許されるんです? そんなこと……」
「許されるもなにも、そもそもその召喚士に悪魔召喚を依頼したのが王女様だったらしいんだよね。自分が死んじゃうのは、承知の上だったんじゃない?」
ゾッとする話だ。
他人を害する為に自分の命を差し出すだなんて、彼女は当時よっぽど酷い精神状態だったのではと想像してしまう。
人はその心の中に、どこまで恨みを募らせられるのか……。
一瞬ステラは自分を捨てた実の両親を考えたが、直ぐに頭を振った。
(顔も知らない人達だから、恨む気持ちも起きないんだよなぁ……)
それに今はネイック家の養女になったのだから、他に両親が居ると考える事自体が失礼だろう。
ステラがモヤモヤしている間にも、レイチェルの話は続く。
「その王女様はとある騎士様と恋仲にあってー、他国に嫁に出される際に、騎士様が暗殺されちゃったもんだから、関わったであろう全員を葬り去ったみたいだよ。こういう人が出ちゃってたって知ると、王族も厄介な存在に思えるよね」
「ふーむ。その口ぶりだと、まるで王族が悪魔と関わり深いみたいに聞こえます」
「関わりが有るっちゃある! 無いっちゃない! 実はさ、あんまり大きな声で言えないんだけど、高位の悪魔を呼び出すには、特別な魂を捧げる必要があんの。願いを叶え終わった後に、悪魔に魂を差し出さないとなんだよね。シトリークラスなら、王族じゃないとダメかも」
「!!」
教えられた事実に、ステラは少なからぬ衝撃を受けた。
今シトリーがこの地に現れているのは、王室のどなたかの意思によるのではないかと思ったからだ。
だとしたら誰にもやめさせられないし、調べられもしない。
(今犠牲になっているのは貴族の若い人ばかり……。王室と貴族の間に何か問題でもあるのかな?)
混乱が酷いが、二つだけ確信がもてた。
一つは、首謀者がターゲットにしている者達全員が死んだなら、シトリーは特別な魂を持ち去るので、この事件の黒幕の名がわかるだろう事。
もう一つは、シトリーを召喚した術者は特定可能な事だ。
ステラはレイチェルの顔を覗き込む。
「な、なんなの?」
「レイチェルさんは、シトリーを呼び出せるそうな方に心当たりがあるんじゃないですか?」
「はぁ? アンタねぇ……。微妙に気になる質問ばっかしないで、全部筋道立てて説明しなさいよ! これだからガキは嫌なんだよ」
「ガキではないです! でも、確かに知識ばかり求めるのは失礼だったかもです。実は__」
ステラはこれまでのシトリーとのやり取りや、新聞に載っていた内容を出来るだけ詳しく説明した。
シトリーが関わる事件はウィローの兄の件からになるので、それなりの時間を要したが、レイチェルの巧みな相槌のお陰でノリノリで話す事が出来た。
「大変な事になってるじゃん!」
話を聞き終えたレイチェルはストレートに驚き、直ぐに気まずそうな顔で空を仰いだ。
「一人、高位の悪魔を召喚出来る人を知ってる」
「本当ですか!?」
「アタシの師匠みたいな人なんだけどね。でもさー、庇うわけじゃないけど、王室関連の仕事はしないと思うよ。今は辺境の町で隠居中だから!」
「その町の名前を教えて下さい!」
「ルフテック。ガラス工芸がそこそこ盛んな所だったかな」
「ルフテック……」
ガラス工芸が盛んな町の話は、今朝ジョシュアとしたばかりだ。
香水瓶選びを理由に足を運んでみてもいいかもしれないという気持ちになる。
だけど、とりあえずはレイチェルに頼んで、彼女の師匠様にあれこれ質問してもらうのが筋だろう。
「レイチェルさん! お願いがありますです!」
「次は何ー?」
「貴女の師匠さんに、シトリーを召喚したかとか、王族の誰かと接触したか聞いてみてもらえませんか? 弟子のよしみで教えてくれるかもしれませんよね!?」
「首を突っ込みたい性分みたいだね。いいよ、アタシも興味あるし」
レイチェルの快い返事を貰えて、ステラはホッとした。それから、彼女は召喚の代金の代わりに”聖水Ex"を求め、今日判明したのの他に、新たな効果を発見したら教えてくれると約束してくれた。
ステラが問いかけると、木陰に胡座をかいたレイチェルはギョッとした顔をした。
手招きする意味は、隣に座れという意味だろうか。
ノロノロとした動きで彼女に並び、三角座りする。
「上級の……というか高位の悪魔の話題は慎重に扱わないと! どういう経路で悪魔の耳に入るか分かったもんじゃなよ」
その指が差すのは、先程彼女が呼び出したインプだ。
ステラ達の話に興味があるのか、抜け目の無い目つきでこちらを見ている。
(告げ口とかするつもりなのかな!?)
インプは契約時間が過ぎたら勝手に帰るとの事だったので油断していたが、悪意が消えても、こちらの味方になったわけではない。
変に刺激しないように、暫く二人で他愛無いお喋りをして時間を潰す。
二十分程後に漸くインプの姿がかき消え、話はステラが投げかけた質問に戻った。
「シトリーは現在確認されている悪魔の中でも、ランクが十二位の強力な存在だよ。アタシが知る限りだと、過去にソレを召喚した者は、国内随一の召喚士で、対価としてこの国の王女様の魂を差し出したんだとか!」
「えぇ!? 王族の魂を!? ゆ、許されるんです? そんなこと……」
「許されるもなにも、そもそもその召喚士に悪魔召喚を依頼したのが王女様だったらしいんだよね。自分が死んじゃうのは、承知の上だったんじゃない?」
ゾッとする話だ。
他人を害する為に自分の命を差し出すだなんて、彼女は当時よっぽど酷い精神状態だったのではと想像してしまう。
人はその心の中に、どこまで恨みを募らせられるのか……。
一瞬ステラは自分を捨てた実の両親を考えたが、直ぐに頭を振った。
(顔も知らない人達だから、恨む気持ちも起きないんだよなぁ……)
それに今はネイック家の養女になったのだから、他に両親が居ると考える事自体が失礼だろう。
ステラがモヤモヤしている間にも、レイチェルの話は続く。
「その王女様はとある騎士様と恋仲にあってー、他国に嫁に出される際に、騎士様が暗殺されちゃったもんだから、関わったであろう全員を葬り去ったみたいだよ。こういう人が出ちゃってたって知ると、王族も厄介な存在に思えるよね」
「ふーむ。その口ぶりだと、まるで王族が悪魔と関わり深いみたいに聞こえます」
「関わりが有るっちゃある! 無いっちゃない! 実はさ、あんまり大きな声で言えないんだけど、高位の悪魔を呼び出すには、特別な魂を捧げる必要があんの。願いを叶え終わった後に、悪魔に魂を差し出さないとなんだよね。シトリークラスなら、王族じゃないとダメかも」
「!!」
教えられた事実に、ステラは少なからぬ衝撃を受けた。
今シトリーがこの地に現れているのは、王室のどなたかの意思によるのではないかと思ったからだ。
だとしたら誰にもやめさせられないし、調べられもしない。
(今犠牲になっているのは貴族の若い人ばかり……。王室と貴族の間に何か問題でもあるのかな?)
混乱が酷いが、二つだけ確信がもてた。
一つは、首謀者がターゲットにしている者達全員が死んだなら、シトリーは特別な魂を持ち去るので、この事件の黒幕の名がわかるだろう事。
もう一つは、シトリーを召喚した術者は特定可能な事だ。
ステラはレイチェルの顔を覗き込む。
「な、なんなの?」
「レイチェルさんは、シトリーを呼び出せるそうな方に心当たりがあるんじゃないですか?」
「はぁ? アンタねぇ……。微妙に気になる質問ばっかしないで、全部筋道立てて説明しなさいよ! これだからガキは嫌なんだよ」
「ガキではないです! でも、確かに知識ばかり求めるのは失礼だったかもです。実は__」
ステラはこれまでのシトリーとのやり取りや、新聞に載っていた内容を出来るだけ詳しく説明した。
シトリーが関わる事件はウィローの兄の件からになるので、それなりの時間を要したが、レイチェルの巧みな相槌のお陰でノリノリで話す事が出来た。
「大変な事になってるじゃん!」
話を聞き終えたレイチェルはストレートに驚き、直ぐに気まずそうな顔で空を仰いだ。
「一人、高位の悪魔を召喚出来る人を知ってる」
「本当ですか!?」
「アタシの師匠みたいな人なんだけどね。でもさー、庇うわけじゃないけど、王室関連の仕事はしないと思うよ。今は辺境の町で隠居中だから!」
「その町の名前を教えて下さい!」
「ルフテック。ガラス工芸がそこそこ盛んな所だったかな」
「ルフテック……」
ガラス工芸が盛んな町の話は、今朝ジョシュアとしたばかりだ。
香水瓶選びを理由に足を運んでみてもいいかもしれないという気持ちになる。
だけど、とりあえずはレイチェルに頼んで、彼女の師匠様にあれこれ質問してもらうのが筋だろう。
「レイチェルさん! お願いがありますです!」
「次は何ー?」
「貴女の師匠さんに、シトリーを召喚したかとか、王族の誰かと接触したか聞いてみてもらえませんか? 弟子のよしみで教えてくれるかもしれませんよね!?」
「首を突っ込みたい性分みたいだね。いいよ、アタシも興味あるし」
レイチェルの快い返事を貰えて、ステラはホッとした。それから、彼女は召喚の代金の代わりに”聖水Ex"を求め、今日判明したのの他に、新たな効果を発見したら教えてくれると約束してくれた。
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