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試供品は退魔のフレグランス
試供品は退魔のフレグランス④
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自らの甥をサキュバスの餌にすると言い出したポピーは、執事を呼びつけ、召喚士を連れてくるようにと命じた。
「畏まりました。ディナーが終わる頃には到着させるようにいたします」
「頼んだぞ」
彼等のやり取りに動揺し、ステラは腰を浮かせる。
何日か後にでも“聖水Ex”の効果を試させるつもりなんだろうと思っていたのに、どうやら今日これからやってしまうらしい。
「だ、だめですよ! ルークさんは私のお兄様ですし、危険な目にはあわせられません!」
「フン……。ルークよ。妹が上級の悪魔の手から逃れる事が出来たというのに、まさか下級悪魔を相手にする自信が無いとは言わぬよな?」
ステラを手で制したポピーは、ルークに好戦的な視線を投げかける。
対するルークは、静かに嘆息し、居ずまいを正した。
「叔母上は私に身体を張って、ステラの兄としての覚悟を見せよとおっしゃりたいようですね」
「その通り。一肌脱ぎ、兄妹の絆を深めるのだ」
無言でこちらを見るルークが何を考えているのか全く分からないが、このまま話を進めさせられない。
「他に試す方法があるかもしれませんし、この話は無しに__」
「やりましょう」
「__えぇ!?」
まさかの返事だ。
愕然とするステラを他所に、兄は爽やかな笑みを浮かべ、ポピーへと向き直った。
「折角可愛い妹が出来たのに、茶会の件で疎遠になるのは惜しい。今恩を売り、今後も親しく付き合いたいですね」
「自らの欲望を優先させるか。ルークよ、実にネイック家らしい男に育ったではないか」
「お褒めいただき、光栄です」
(もう決定しちゃったの!? どうしよ!?)
自分のフレグランス造りの為に他人を犠牲にすべきではないし、元修道女としては悪魔降ろしに加担しべきではないのだが、ポピーもルークも既に平然とした様子で食事を再開させてしまっている。
これ以上何を言っても、サキュバス降ろしが覆る事はないだろう。
◇
夕食後、ダイニングルームに連れて来られたのは、藤色の縦巻きロールが印象的な少女だった。
非常に丈の短いドレスにトンガリ帽子。大都会である王都ですら珍しいくらいに個性的な服装の彼女はレイチェルと名乗り、悪魔降ろしの準備をテキパキとした。
彼女の指示で、室内の家具が廊下に出され、無数の蝋燭が並べられる。
一気に幻想的な雰囲気になった室空間の中央部に、レイチェルは生き物の血で六芒星を描き、その上にルークが座らされる。
何故か上着を脱がされ、シャツを肌蹴られた姿は、あまりに無防備で目に毒だ。
(見てはいけない光景を見ているような……。男性の身体ってそういう……、ハッ!? 私ダメな事考えてた!)
一人で顔を赤くしたり、青くしたりするステラである。
レイチェルと言葉を交わすポピーはこの状況に動じるどころか、楽しんですらいるようで、ユッタリとワイングラスを傾ける。余興かなにかだとでも思っていそうだ。
「ポピー様! 急な呼び出しに応えてあげたんだから、お代は弾んで下さいよ!」
「よかろう。期待しておけ」
「あの、本当にやっちゃうんですか?」
おどおどと質問するステラに、ポピーは鼻を鳴らした。
「これから行われる儀式をしかと目に刻め、そして“聖水Ex”とやらを試すのだ」
「はい……」
手に持った“聖水Ex”の蓋を手で弄る。
もしサキュバスにこれが効かなかったら、どうなるのだろうか。
ルークに危険が及ぶのだと思うと、プレッシャーで胸の中がザワザワと落ち着かなくなる。
「なーんて顔してんの?」
心配が顔に出てしまっていたようで、レイチェルにケタケタと笑われた。
「ポピー様の話だと、アンタ悪魔に対抗出来る強力なアイテムを開発したらしいじゃん! すっごーい! アタシにもその効果を見せてよね。あ、言っとくけど、失敗したらこの色男はサキュパスにいっぱいエッチな事されて過労死するから! ま、それを観るのも楽しいっちゃ楽しい!」
「過労死!?」
『エッチな事』が具体的に何なのかは知らないが、“聖水Ex”の効果がイマイチだった場合、ルークが危機的状況に陥るのは間違いないなさそうだ。ブルブル震えながら兄の顔を見ると、これから過酷な状況に追いやられる者とは思えぬ程に穏やかな表情をしていた。
「ステラ、何が起きても自分を責めるな。というか私はサキュバスに何をされても平静でいられる自信がある」
「ルークお兄様……、必ず助けますから!」
「余裕かましてられるのは今のうちだけだと思うけど! まー、男としては幸せな死に方かー! さーて、召喚のおっ時間ー」
室内に居る者達全てが固唾を飲んで見守る中、レイチェルは魔法陣の中に踏み入り、ルークの真後ろに立つ。
「レイチェル・オルコットが命ずる! 暗き深淵より出よ夢魔! 餌はとびきり上等な色男だよ!」
彼女が元気良く呪文を唱えると、魔法陣の中央部からピンク色の煙がモウモウと立ち上がり、その中から赤い翼が飛び出した。
続いて、輝くブロンドの頭部と殆ど裸と言っていい程に露出の激しい肢体。胸やお尻が特盛だ。
サキュバスはとてつもないインパクトの美女だったのである。
(ふぁぁ……!? 布地の面積が少ない!)
ステラはサキュバスの外見に感心し、じっとりと眺めた。
「畏まりました。ディナーが終わる頃には到着させるようにいたします」
「頼んだぞ」
彼等のやり取りに動揺し、ステラは腰を浮かせる。
何日か後にでも“聖水Ex”の効果を試させるつもりなんだろうと思っていたのに、どうやら今日これからやってしまうらしい。
「だ、だめですよ! ルークさんは私のお兄様ですし、危険な目にはあわせられません!」
「フン……。ルークよ。妹が上級の悪魔の手から逃れる事が出来たというのに、まさか下級悪魔を相手にする自信が無いとは言わぬよな?」
ステラを手で制したポピーは、ルークに好戦的な視線を投げかける。
対するルークは、静かに嘆息し、居ずまいを正した。
「叔母上は私に身体を張って、ステラの兄としての覚悟を見せよとおっしゃりたいようですね」
「その通り。一肌脱ぎ、兄妹の絆を深めるのだ」
無言でこちらを見るルークが何を考えているのか全く分からないが、このまま話を進めさせられない。
「他に試す方法があるかもしれませんし、この話は無しに__」
「やりましょう」
「__えぇ!?」
まさかの返事だ。
愕然とするステラを他所に、兄は爽やかな笑みを浮かべ、ポピーへと向き直った。
「折角可愛い妹が出来たのに、茶会の件で疎遠になるのは惜しい。今恩を売り、今後も親しく付き合いたいですね」
「自らの欲望を優先させるか。ルークよ、実にネイック家らしい男に育ったではないか」
「お褒めいただき、光栄です」
(もう決定しちゃったの!? どうしよ!?)
自分のフレグランス造りの為に他人を犠牲にすべきではないし、元修道女としては悪魔降ろしに加担しべきではないのだが、ポピーもルークも既に平然とした様子で食事を再開させてしまっている。
これ以上何を言っても、サキュバス降ろしが覆る事はないだろう。
◇
夕食後、ダイニングルームに連れて来られたのは、藤色の縦巻きロールが印象的な少女だった。
非常に丈の短いドレスにトンガリ帽子。大都会である王都ですら珍しいくらいに個性的な服装の彼女はレイチェルと名乗り、悪魔降ろしの準備をテキパキとした。
彼女の指示で、室内の家具が廊下に出され、無数の蝋燭が並べられる。
一気に幻想的な雰囲気になった室空間の中央部に、レイチェルは生き物の血で六芒星を描き、その上にルークが座らされる。
何故か上着を脱がされ、シャツを肌蹴られた姿は、あまりに無防備で目に毒だ。
(見てはいけない光景を見ているような……。男性の身体ってそういう……、ハッ!? 私ダメな事考えてた!)
一人で顔を赤くしたり、青くしたりするステラである。
レイチェルと言葉を交わすポピーはこの状況に動じるどころか、楽しんですらいるようで、ユッタリとワイングラスを傾ける。余興かなにかだとでも思っていそうだ。
「ポピー様! 急な呼び出しに応えてあげたんだから、お代は弾んで下さいよ!」
「よかろう。期待しておけ」
「あの、本当にやっちゃうんですか?」
おどおどと質問するステラに、ポピーは鼻を鳴らした。
「これから行われる儀式をしかと目に刻め、そして“聖水Ex”とやらを試すのだ」
「はい……」
手に持った“聖水Ex”の蓋を手で弄る。
もしサキュバスにこれが効かなかったら、どうなるのだろうか。
ルークに危険が及ぶのだと思うと、プレッシャーで胸の中がザワザワと落ち着かなくなる。
「なーんて顔してんの?」
心配が顔に出てしまっていたようで、レイチェルにケタケタと笑われた。
「ポピー様の話だと、アンタ悪魔に対抗出来る強力なアイテムを開発したらしいじゃん! すっごーい! アタシにもその効果を見せてよね。あ、言っとくけど、失敗したらこの色男はサキュパスにいっぱいエッチな事されて過労死するから! ま、それを観るのも楽しいっちゃ楽しい!」
「過労死!?」
『エッチな事』が具体的に何なのかは知らないが、“聖水Ex”の効果がイマイチだった場合、ルークが危機的状況に陥るのは間違いないなさそうだ。ブルブル震えながら兄の顔を見ると、これから過酷な状況に追いやられる者とは思えぬ程に穏やかな表情をしていた。
「ステラ、何が起きても自分を責めるな。というか私はサキュバスに何をされても平静でいられる自信がある」
「ルークお兄様……、必ず助けますから!」
「余裕かましてられるのは今のうちだけだと思うけど! まー、男としては幸せな死に方かー! さーて、召喚のおっ時間ー」
室内に居る者達全てが固唾を飲んで見守る中、レイチェルは魔法陣の中に踏み入り、ルークの真後ろに立つ。
「レイチェル・オルコットが命ずる! 暗き深淵より出よ夢魔! 餌はとびきり上等な色男だよ!」
彼女が元気良く呪文を唱えると、魔法陣の中央部からピンク色の煙がモウモウと立ち上がり、その中から赤い翼が飛び出した。
続いて、輝くブロンドの頭部と殆ど裸と言っていい程に露出の激しい肢体。胸やお尻が特盛だ。
サキュバスはとてつもないインパクトの美女だったのである。
(ふぁぁ……!? 布地の面積が少ない!)
ステラはサキュバスの外見に感心し、じっとりと眺めた。
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