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店舗準備

店舗準備④

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 行く手を阻むのならば、強行突破するのみ。
 ジョシュアの真っ直ぐな背中をベシベシと叩く。

「痛いよ、ステラ!」

「侯爵のアンポンタン! 今日はネイック家の者だと認知される日なんだから、もっと祝福してください!」

「祝福なんてするわけない! 便宜上コイツの家の養女にしただけで、本当の兄妹になってほしいわけじゃないよ」

「私は兄がほしいです! ジョシュアはなってくれなかったんだから、もうゴタゴタ言うなです!」

「兄と妹は結婚出来ないんだから、仕方ないだろ!?」

「そんなの知ってます! 今言う事なんですか?」

 この話の流れで持ち出す話なのかと疑問に思うが、ジョシュアはステラの回答に失望したようで、天を仰いで「勘弁してよ」とか何とか言っている。本当に謎な思考の持ち主だ。

「ステラ、そんな奴は放っておこう。そろそろ出発しないと、だいぶ遅れてしまう」

「あ、はーい!」

 ジョシュアの身体を脇に押しやり、先を行くルークの後を追う。

「ちょ!? まだ許したわけじゃ__」

「グッバイなのです、侯爵。これ以上行く手を阻むんならもうこの家には戻りませんから!」

 扉を出て行く時に振り返り、悔しげな少年に舌を出すのを忘れない。
 しかし、彼は明後日の方向から攻撃を仕掛けてきた。

「後何年待ったら、ちゃんと向き合ってくれる?」

 ボソリと投げられた言葉にドキリとし、慌てて扉を閉じる。
 これだから嫌なのだ。よく分からない事を言い、ステラを悩ませる。
 だけど、ほんの僅かに心の奥底が揺れた気がして、落ち着かなくなった。



 立派な馬で連れて来られたのはネイック家のタウンハウス。
 フラーゼ家の邸宅が近代的なのに対し、こちらは歴史を感じる佇まいで、所々に生茂る蔦が涼し気だ。
 敷地内には既に多くの馬車や、最近王都に出回り始めた蒸気自動車とかいう乗り物が停められている。

 ルークに抱えられて馬を下りたステラは、すぐさま蒸気自動車に駆け寄り、車輪や煙突をジロジロと観察する。

「興味があるのか?」

「はいっ! これって、馬に頼らなくても走れるんですよね? 凄いです」

「物知りなんだな。これは元帥閣下が所有する蒸気自動車だ。茶会の席で閣下に色々質問してみるといい」

「元帥という称号は、軍内で一番階級が上の人なんでしたっけ?」

「そうだ。失礼のないようにな」

「わわっ! 了解であります!」

 そんな偉い人まで来ているのかと驚く。
 この日の為に軽く礼儀作法を学んだものの、付け焼き刃なので、ボロが出てしまうかもしれない。
 つい不安が顔に出てしまったようで、隣を歩くルークに噴き出される。

「何かあればフォローするから、出来るだけ楽しんでほしい」

「あ、はい! すいませんです!」

 ルークと共に、広い庭を横切り、蔓薔薇のアーチを通り抜ける。
 青々とした芝生の上に幾つもの白いパラソルが広げられ、その下で、黒い軍服姿の男性達や、色とりどりなドレス姿の貴婦人達が談笑を交わしていた。

 その光景を目にし、ステラは一気に緊張してきた。

 フレディの一件でウィローと共に社交スラブを経験していたので、今回も何とかなるだろうと、少し侮ってしまっていたかもしれない。
 しかしこちらの方がずっと格調が高い様に感じられ、クラリとする。

「立ちくらみか? ええと……、母さんは見当たらないな。少しそこの日陰に入って待っててくれ。飲み物を取ってくる」

「ごめんなさい」

 楓の木の下に一人取り残され、嘆息する。

(私、謝ってばかりだな。シッカリしないと……)

 ハンカチを取り出して、額に滲む汗を抑えていると、少し離れた所に座る少女と目が合った。

 フワフワなプラチナブロンドの可憐な容姿の彼女は、ステラに対しておっとりとした微笑みを浮かべた。
 それだけで終わらず、彼女は日傘を広げ、椅子からヒラリと立ち上がる。
 ゆっくりとこちらに近寄って来るのは、何故なのか。

 彼女を取り囲んでいた軍人達も興味深そうに、その動向を観察している。

(誰かな? 私に用がある?)

 どこか楽し気な足取りは、宙を舞う蝶を思わせ、
 クルリ、クルリ、と回る日傘は白い花。
 この世のどこかに居る天使様は、彼女の様な容姿をしているかもしれない。

 年の頃はステラよりも一つか、二つ上だろうか。
 目の前に立たれると、聖書一冊分の厚み程上に、桃色の唇がある。

 浮世離れした美しさに見惚れ、ボンヤリとしてしまっていたが、これではいけない。
 ぎこちなく令嬢風のお辞儀をする。

「ご機嫌ようなのです」

「うふふ……。可愛ぃ。小さな妖精さん。あなたのお名前は、何て言うのぉ?」

 鈴を転がす様な声で、独特に間延びした話し方をする。

(なんて可愛い人なんだろ!)

 あまりの美少女っぷりに、すっかり心奪われたステラだったが、彼女が放つ香りにハッと我に返った。
 何故かあの危険な鈴蘭の香りがするのだ。
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