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事件の真相
事件の真相③
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フラーゼ侯爵家の別宅に戻ってからすぐに、ステラは先程の庭師を探した。
鈴蘭に惹かれ、欲しいと頼んだのは自分だったけれど、庭師であるなら、その危険性は把握していただろう。それでも手渡した事に、少しばかり苦情を入れたい。
しかし庭師の姿はどこにもなく、それどころか花壇の中から鈴蘭の花も消え去っていた。
先程まで鈴蘭が植っていた場所には全く別の品種と思わしき植物が生い茂っている。植え替えられた形跡もない。
(記憶違い……? ていうか、庭師さんの顔ってどんなだっけ?)
美しかったのか? 醜かったのか?
若かったか? 老いていたか?
そもそも男だったか、女だったかすらもボヤけている。
流石にこんなのは初めてなので混乱する。何故何も思い出せないのか。
(そもそも、人間……だったのかな?)
暗闇から吹いてくる風は、初夏に吹くには暖かすぎる。
随分前にシスターアグネスから聞いた話を思い出す。
悪魔は人間の中に紛れ、活動しているらしい。
知らぬ間に関わりを持ち、悪夢を見せられるなんて事は幾らでもあるのだそうだ。
今回もそうだったのだろうか。気味が悪い。
ステラは胸に下げた十字架を握りしめ、神に祈りを捧げた。
◇◇◇
あくる日の朝、邸宅のダイニングルームには、関係者が全員集められた。
ステラ、ジョシュア、彼の従者、ウィローと彼女の母、早朝やってきたフレディ、そしてウィローの兄の元恋人エイダ。
七人それぞれが、感情を露わにして、またはそれを出来る限り抑え込んで、席に座っている。
昨日よく眠れなかったステラは、ジョシュアの隣でボンヤリしていたが、人が集まるにつれて室内が異様な雰囲気に包まれ、七人が揃う頃には完全に眠気が吹き飛んだ。
話の口火を切ったのはフレディだった。
ジョシュアによって呼ばれたらしいのだが、この状況に戸惑いを隠せないでいる。
「__侯爵、何故私はここに呼ばれたのですか?」
「貴方がこれ以上、散財しなくても良くなくなるようにと、気を遣ったんですよ」
「は、はぁ……。そうですか」
彼は落ち着かな気にエイダを見遣りながら、軽く貧乏揺すりした。
「まず最初に、カントス夫人に一年前までの伯爵家の状況をお尋ねしますか。貴女には子供が二人いますが、幼少の頃から、兄のダドリーではなく、妹のウィローを厳しく躾けていましたよね? 彼女に家を継がせるために」
「えぇ、ダドリーは何のスキルも持たずに生まれてきてしまったから、コネを利用して王城で働かせ、スキルを保有するウィローを後継者として育てていましたの」
「オレは一応彼の友人だったので、悩みをずっと聞いていました。ダドリーは伯爵家を継げない事を恥じ、そして外交官として共に働くフレディ卿が上官に気に入られ、重用される事にも妬み……、次第に追い詰められていっていましたね。陥れてやろうと考えるようになるくらいまで……。そうだよね? エイダさん」
一同の視線は、ダドリーの元恋人だったエイダに集まる。
彼女はジョシュアの従者によってここに連れて来られた後、ずっと小刻みに震えていた。
ちゃんと話が出来るのだろうかと心配になる。
しかし、彼女は全てを打ち明ける気になっているのか、懸命に言葉を紡ぐ。
「わた……私は……、ダドリー様からフレディ卿を誑かす様に命じられていました」
「何を言うの!? 息子がそんな事を命じるはずないでしょう!? 伯爵家を愚弄するつもり!?」
「本当です! フレディ卿と親密な関係になってから、『実家が借金で首が回らないから、肩代わりしてほしい』と泣きつきました! 全てダドリー様の思いつきです!」
「嘘よ! 私の息子がそんな事で他人を嵌めようとするはずが__」
「そうでしょうか? ダドリーは昔からオレの悪友で、非常にずる賢い考えをする人でしたけどね」
ジョシュアは激昂しかけるカントス夫人を鼻で笑う。
夫人の知らない顔を、ダドリーは持っているらしい。
「フレディ卿。金で困る貴方にダドリーは囁きかけたんじゃないですか? 『簡単に金を入手する方法があると』」
「その通りです。私はダドリーに、『機密費』を使ったらばれないと助言を受けて実行し、エイダに大金を渡しました。で、ですが、後から彼女はその金を返してくれたので、私は上司に罪を告白して、金は寄付という形で国庫に返却したんです!」
鈴蘭に惹かれ、欲しいと頼んだのは自分だったけれど、庭師であるなら、その危険性は把握していただろう。それでも手渡した事に、少しばかり苦情を入れたい。
しかし庭師の姿はどこにもなく、それどころか花壇の中から鈴蘭の花も消え去っていた。
先程まで鈴蘭が植っていた場所には全く別の品種と思わしき植物が生い茂っている。植え替えられた形跡もない。
(記憶違い……? ていうか、庭師さんの顔ってどんなだっけ?)
美しかったのか? 醜かったのか?
若かったか? 老いていたか?
そもそも男だったか、女だったかすらもボヤけている。
流石にこんなのは初めてなので混乱する。何故何も思い出せないのか。
(そもそも、人間……だったのかな?)
暗闇から吹いてくる風は、初夏に吹くには暖かすぎる。
随分前にシスターアグネスから聞いた話を思い出す。
悪魔は人間の中に紛れ、活動しているらしい。
知らぬ間に関わりを持ち、悪夢を見せられるなんて事は幾らでもあるのだそうだ。
今回もそうだったのだろうか。気味が悪い。
ステラは胸に下げた十字架を握りしめ、神に祈りを捧げた。
◇◇◇
あくる日の朝、邸宅のダイニングルームには、関係者が全員集められた。
ステラ、ジョシュア、彼の従者、ウィローと彼女の母、早朝やってきたフレディ、そしてウィローの兄の元恋人エイダ。
七人それぞれが、感情を露わにして、またはそれを出来る限り抑え込んで、席に座っている。
昨日よく眠れなかったステラは、ジョシュアの隣でボンヤリしていたが、人が集まるにつれて室内が異様な雰囲気に包まれ、七人が揃う頃には完全に眠気が吹き飛んだ。
話の口火を切ったのはフレディだった。
ジョシュアによって呼ばれたらしいのだが、この状況に戸惑いを隠せないでいる。
「__侯爵、何故私はここに呼ばれたのですか?」
「貴方がこれ以上、散財しなくても良くなくなるようにと、気を遣ったんですよ」
「は、はぁ……。そうですか」
彼は落ち着かな気にエイダを見遣りながら、軽く貧乏揺すりした。
「まず最初に、カントス夫人に一年前までの伯爵家の状況をお尋ねしますか。貴女には子供が二人いますが、幼少の頃から、兄のダドリーではなく、妹のウィローを厳しく躾けていましたよね? 彼女に家を継がせるために」
「えぇ、ダドリーは何のスキルも持たずに生まれてきてしまったから、コネを利用して王城で働かせ、スキルを保有するウィローを後継者として育てていましたの」
「オレは一応彼の友人だったので、悩みをずっと聞いていました。ダドリーは伯爵家を継げない事を恥じ、そして外交官として共に働くフレディ卿が上官に気に入られ、重用される事にも妬み……、次第に追い詰められていっていましたね。陥れてやろうと考えるようになるくらいまで……。そうだよね? エイダさん」
一同の視線は、ダドリーの元恋人だったエイダに集まる。
彼女はジョシュアの従者によってここに連れて来られた後、ずっと小刻みに震えていた。
ちゃんと話が出来るのだろうかと心配になる。
しかし、彼女は全てを打ち明ける気になっているのか、懸命に言葉を紡ぐ。
「わた……私は……、ダドリー様からフレディ卿を誑かす様に命じられていました」
「何を言うの!? 息子がそんな事を命じるはずないでしょう!? 伯爵家を愚弄するつもり!?」
「本当です! フレディ卿と親密な関係になってから、『実家が借金で首が回らないから、肩代わりしてほしい』と泣きつきました! 全てダドリー様の思いつきです!」
「嘘よ! 私の息子がそんな事で他人を嵌めようとするはずが__」
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