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甘い香りを求めて
甘い香りを求めて⑦
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「化学……?」
以前、ジョシュアから無水エタノールを提供してもらっていたため、侯爵家はアルコールについて研究しているのではないかと予想していた。
彼が今話している事は、ステラのフレグランスにそのアルコール類を積極的に使用し、外部にアピールせよという内容なのだろうか。
「ウチは化学反応を伴った生産過程から、製商品を作り出し、国内を中心に販売を行っているんだ。扱っているのは、安全な物から危険な物まで、多岐に渡る。今んとこ、後者の方がニーズが多くて……イメージがどうしてもそっちに引っ張られているんだよね」
「つ……つまり、危険な物を売りさばく家って事なんです?」
ちょうどテーブルに運ばれてきたテリーヌをフォークの先でつつきながら、適当な質問をしてみると、ジョシュアは苦笑いする。
「簡単に言うとそんな感じかなぁ。ええと……、ステラが居た聖ヴェロニカ修道院は、ウチの領地内にあるから、知っていると思うけど、本当にショボい土地なんだよね。農産物が育ち辛く、地下資源も見つからず、おまけにモンスターがやたら多い。そんな状況なもんだから侯爵家は昔は貧乏だったんだ。土地に頼らずに金を生む事業を始めたのはうちの死んだ爺ちゃんだったんだよ」
フラーゼ侯領が貧しい土地なのは、修道院でも教えられた。
土地から得られる物が乏しいために、領民の中には自らを鍛え、モンスターを狩り、その素材を売りさばいて生計を立てている者が多いのだそうだ。
そういう者達から税を取り立てるのは、容易ではないのかもしれない。
「今は戦争やモンスター討伐があるから、商売は順調なんだけど、未来はもしかしたら平和になるかもしない。それはそれでいい事ではあるけど、ウチが立ち行かなくなる。その時の為に、全く別の事業……今後うちの柱に出来るような事を始められたらって思ったんだ」
「ふむふむ……。なんだか食事に集中できなくなるくらいミッチリとした話ですね」
「そう? 別になんともないけど」
チラリと彼の皿を見ると一口分くらいしか減っていないし、それはステラも同じだ。
料理の減り具合はさておき、今の話の中で、スルーしてはいけない部分があった。
フラーゼ家が取り扱う製品の中には、戦争等で使用されるくらい危険な物があるという点だ。それを隠さず話してくれた事が少しだけ嬉しい。でも、だからこそ判断が難しい。
「侯爵の話、なんとなくは分かるんですが、フレグランスに利用できるものは限られているような……。今のところ無水エタノールくらいです」
「そうなのかな。ここ二、三日くらい考えてみたんだけど、香水と同じ匂いの石鹸やキャンドルがあったら人気が出そうだと思う。石鹸の材料の中には水酸化ナトリウム、キャンドルの材料にはパラフィン。どちらもウチが取り扱っている製品だよ。考えたら、もっと色々あると思うんだよね」
「侯爵もそういうのが欲しいんですか?」
「君が作ってくれるんなら、有難く使わせてもらおうかな!」
ジョシュアの嬉し気な表情からは嘘や誤魔化しは見つけられない。プレゼントしたら普通に喜んでくれるかもしれない。ちょうどマーガレットに何かあげられないかと考えていたところでもあるので、彼の話を興味深く聞ける。
「石鹸やキャンドルだと、香水をもっと気軽に楽しめるかもしれないですね……」
「うんうん。ステラがオレと組んでくれるんなら、店舗と資金の用意、衣食住の世話、そしてマーガレットを補佐につけてあげる」
「マーガレットさんも!?」
「仲良くやってそうだしね。彼女はなかなか優秀だから、君の力になってくれるはずだよ。公私問わずね」
「グヌヌ……」
ジョシュアの話の中での懸念点は、王都でたった一人で暮らし、商売するところにあったが、マーガレットも一緒なら心強い。彼女は姉の様な存在になってきているし、今後も共に働きたい。
それに、自分のスキルを活かしながら生活する事は、小さな頃からの願望の一つだったので、だいぶグラついてきている。
「……今の話、前向きに考えてみます。でも、修道院には一度ちゃんと帰って話をしないと」
「ウィロー嬢の件が終わったら、オレが連れて行く。ステラの力を借りる事を修道院長に説明するよ」
「そこまでしてくれるんですか?」
「するよ」
「ちょっと意外かもです。侯爵は自分の家の利益だけ考えて、都合の良い様に利用するつもりなのかと思ってました。でもちゃんと私の今後の暮らしとかも考えてくれてる。変なプレゼントとかをくれるから、適当に丸め込んで、妻とかにさせられるのかと思いましたけど、違ったみたいで良かったです」
ステラが言い終わると、ジョシュアは盛大にむせた。
顔が赤くなっているので、だいぶ苦しそうに見える。
「ゲホ……。まーお互いを知るのが先かなーとは思った。君が喜ぶのが、甘い物だと知ったのも二日前だったくらいだし」
「ん? そうなんですね」
不思議な回答ではあるが、彼がステラと、一人の人間として向き合うつもりなのは伝わった。
今までモヤモヤしていた事が消え、食欲が戻ってきた。チョコレートタルトが出て来るのはまだまだ先だろうが、この分だと問題なく食べれそうである。
以前、ジョシュアから無水エタノールを提供してもらっていたため、侯爵家はアルコールについて研究しているのではないかと予想していた。
彼が今話している事は、ステラのフレグランスにそのアルコール類を積極的に使用し、外部にアピールせよという内容なのだろうか。
「ウチは化学反応を伴った生産過程から、製商品を作り出し、国内を中心に販売を行っているんだ。扱っているのは、安全な物から危険な物まで、多岐に渡る。今んとこ、後者の方がニーズが多くて……イメージがどうしてもそっちに引っ張られているんだよね」
「つ……つまり、危険な物を売りさばく家って事なんです?」
ちょうどテーブルに運ばれてきたテリーヌをフォークの先でつつきながら、適当な質問をしてみると、ジョシュアは苦笑いする。
「簡単に言うとそんな感じかなぁ。ええと……、ステラが居た聖ヴェロニカ修道院は、ウチの領地内にあるから、知っていると思うけど、本当にショボい土地なんだよね。農産物が育ち辛く、地下資源も見つからず、おまけにモンスターがやたら多い。そんな状況なもんだから侯爵家は昔は貧乏だったんだ。土地に頼らずに金を生む事業を始めたのはうちの死んだ爺ちゃんだったんだよ」
フラーゼ侯領が貧しい土地なのは、修道院でも教えられた。
土地から得られる物が乏しいために、領民の中には自らを鍛え、モンスターを狩り、その素材を売りさばいて生計を立てている者が多いのだそうだ。
そういう者達から税を取り立てるのは、容易ではないのかもしれない。
「今は戦争やモンスター討伐があるから、商売は順調なんだけど、未来はもしかしたら平和になるかもしない。それはそれでいい事ではあるけど、ウチが立ち行かなくなる。その時の為に、全く別の事業……今後うちの柱に出来るような事を始められたらって思ったんだ」
「ふむふむ……。なんだか食事に集中できなくなるくらいミッチリとした話ですね」
「そう? 別になんともないけど」
チラリと彼の皿を見ると一口分くらいしか減っていないし、それはステラも同じだ。
料理の減り具合はさておき、今の話の中で、スルーしてはいけない部分があった。
フラーゼ家が取り扱う製品の中には、戦争等で使用されるくらい危険な物があるという点だ。それを隠さず話してくれた事が少しだけ嬉しい。でも、だからこそ判断が難しい。
「侯爵の話、なんとなくは分かるんですが、フレグランスに利用できるものは限られているような……。今のところ無水エタノールくらいです」
「そうなのかな。ここ二、三日くらい考えてみたんだけど、香水と同じ匂いの石鹸やキャンドルがあったら人気が出そうだと思う。石鹸の材料の中には水酸化ナトリウム、キャンドルの材料にはパラフィン。どちらもウチが取り扱っている製品だよ。考えたら、もっと色々あると思うんだよね」
「侯爵もそういうのが欲しいんですか?」
「君が作ってくれるんなら、有難く使わせてもらおうかな!」
ジョシュアの嬉し気な表情からは嘘や誤魔化しは見つけられない。プレゼントしたら普通に喜んでくれるかもしれない。ちょうどマーガレットに何かあげられないかと考えていたところでもあるので、彼の話を興味深く聞ける。
「石鹸やキャンドルだと、香水をもっと気軽に楽しめるかもしれないですね……」
「うんうん。ステラがオレと組んでくれるんなら、店舗と資金の用意、衣食住の世話、そしてマーガレットを補佐につけてあげる」
「マーガレットさんも!?」
「仲良くやってそうだしね。彼女はなかなか優秀だから、君の力になってくれるはずだよ。公私問わずね」
「グヌヌ……」
ジョシュアの話の中での懸念点は、王都でたった一人で暮らし、商売するところにあったが、マーガレットも一緒なら心強い。彼女は姉の様な存在になってきているし、今後も共に働きたい。
それに、自分のスキルを活かしながら生活する事は、小さな頃からの願望の一つだったので、だいぶグラついてきている。
「……今の話、前向きに考えてみます。でも、修道院には一度ちゃんと帰って話をしないと」
「ウィロー嬢の件が終わったら、オレが連れて行く。ステラの力を借りる事を修道院長に説明するよ」
「そこまでしてくれるんですか?」
「するよ」
「ちょっと意外かもです。侯爵は自分の家の利益だけ考えて、都合の良い様に利用するつもりなのかと思ってました。でもちゃんと私の今後の暮らしとかも考えてくれてる。変なプレゼントとかをくれるから、適当に丸め込んで、妻とかにさせられるのかと思いましたけど、違ったみたいで良かったです」
ステラが言い終わると、ジョシュアは盛大にむせた。
顔が赤くなっているので、だいぶ苦しそうに見える。
「ゲホ……。まーお互いを知るのが先かなーとは思った。君が喜ぶのが、甘い物だと知ったのも二日前だったくらいだし」
「ん? そうなんですね」
不思議な回答ではあるが、彼がステラと、一人の人間として向き合うつもりなのは伝わった。
今までモヤモヤしていた事が消え、食欲が戻ってきた。チョコレートタルトが出て来るのはまだまだ先だろうが、この分だと問題なく食べれそうである。
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