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選択の時
選択の時②
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「この際だから白状するよ。オレはポピー様の実子なんだ」
ジョシュアによって、衝撃の真実が告げられた。
ほんのちょっと血の繋がりがあるのかもしれないと思っていただけなのに、親子関係にあるらしい。
ステラは口をパクパクとさせながら、目の前に立つ少年の顔を凝視する。
「え……と。じゃ、じゃあ。もしかしなくても、貴方は侯爵様なのですか!?」
「そうそう」
「どうして身分を偽ったりするんです!?」
「だってさ、修道院でフラーゼ侯爵だと名乗ったら、もてなしの名の元で帰るまで隔離されるだろ? だから適当に放置されたくて、従者を名乗ったんだよ。そしたら案の定、話し合いが終わった後に見送られる事も無く、その辺の修道女を買収して情報を引き出し放題! ステラの情報をたくさん教えてもらっちゃった」
お金が好きな修道女を何人か知っているだけに、あり得そうだと思ってしまう。
清貧をうたう聖ヴェロニカ修道院は、一枚皮を剥がせば、ボロなんて幾らでも出て来るのだ。
「例えそうだとしても、この邸宅で直ぐに身分を明かせばよかったじゃないですか」
「従者という立場の方が、君と話をする機会を作りやすいし、ちょうど良かったんだよ」
彼はステラが保有するスキルを探る事を意図していたのだろう。
思い返してみると、香料の抽出の時に話すまで彼はステラのスキルの詳細を知らなかったようだから、修道女達は最重要事項まで漏らしはしなかったのかもしれない。
それにしても、嘘をつくのを何とも思っていないようなこの性格は如何なものか。
「あの……、申し訳ないのですが、ハッキリ言って腹が立ってきました。暫く私に会いに来ないでくださいっ」
「えー、折角これから君に色々お願いしようと思ってたのになぁ」
「そんなの知らないですっ。というか、夜中にレディーの部屋を訪れるなんてゲスゲスな行動なんです! 出て行けです!」
「君どう見ても幼女だけどね……」
なおもグダグダと言い続ける少年の背を押して部屋の外へと追い払い、バタンと扉を閉める。
姿が見えなくなった事にホッとし、ステラは重い溜息をついた。
(修道院の外ってやっぱり危険なんだなぁ……)
朝から晩まで色んな出来事があり、心が疲れてしまった。
扉に背を預け、グッタリと座り込む。
「お休み、ステラ! 君の機嫌が直った頃にまた来るね!」
「ふん!」
扉の向こうからジョシュアの笑い混じりの声が聞こえ、ステラはまたもやムカムカしてきたのだった。
◇
あくる朝、ノロノロと食事を終えたステラの元に、フラーゼ家の執事が訪れた。
一応顔見知りではあるが、殆ど話した事が無いため、少々緊張する。
「おはようございます。シスターステラ」
「おはようございます」
「ポピー様より、フレグランスの報酬を預かってまいりました」
ニコニコとした笑顔で差し出されたのは、金ぴかのトレーに盛られた金貨だ。
その眩さに圧倒され、ステラは激しく瞬きせざるをえない。
一応お金の概念は習ってはいるが、これ程大量だと枚数を数えるのを放棄してしまう。
だが、黙っているわけにもいかず、必死に返事をひねり出す。
「えぇと……、フレグランス一瓶にこれだけの価値はないような気がしますが……」
「そんな事はありませんよ。王都の有名調香師であれば、オリジナルの香水に金貨一五枚はふっかけております。ですので、ポピー様は貴女の為に、元々金貨一五枚分は用意してらっしゃったのです。それに加え、貴女の香水にはドラゴン素材が入っておいででしたので、報酬は倍額になった次第でございます」
ステラが数えるのを放棄した報酬の山は、三十枚分あるようだ。
シスターアグネスから習ったお金の概念を思い出すと、金貨一枚あれば、修道院周辺の集落では人間一人余裕で一週間暮らせるらしいので、三十枚分なら七カ月から八カ月はいけるだろう。
その金額の大きさを思うと、変な汗が出てくる。
「受け取れません!!」
「ポピー様に気を遣っておいでなのでしたら、それには及びません。貴族の方々は、高質でユニークな物を好んでいらっしゃいます。それに見合った対価を支払い、身に着けたいとお考えなのですよ」
「……とても不思議な考え方です」
「貴方は修道院で慎ましく暮らして来たでしょうから、そうなのかもしれませんね」
貴族の価値観とやらに気後れしてしまうが、受け取る事が義務であるかのように言われると断りづらい。
そうこうしている間にテーブルの上に静かにトレーを置かれててしまい、礼を言うしかなくなった。
「……有難うございます」
「私などではなく、ポピー様に直接お伝えになるといいでしょう。あ、シスターステラ。午後から予定を開けておいていただけませんか?」
「何故ですか?」
「昨晩ポピー様がくだんの香水を付けて夜会へ参加した際、興味を持ったご婦人がいらっしゃったようで、是非とも貴女に会いたいそうですよ」
「そ、そうなのですか……。午後からは何も予定はないですが」
「ではまた午後にお迎えにあがりますね」
「はい……」
ジョシュアによって、衝撃の真実が告げられた。
ほんのちょっと血の繋がりがあるのかもしれないと思っていただけなのに、親子関係にあるらしい。
ステラは口をパクパクとさせながら、目の前に立つ少年の顔を凝視する。
「え……と。じゃ、じゃあ。もしかしなくても、貴方は侯爵様なのですか!?」
「そうそう」
「どうして身分を偽ったりするんです!?」
「だってさ、修道院でフラーゼ侯爵だと名乗ったら、もてなしの名の元で帰るまで隔離されるだろ? だから適当に放置されたくて、従者を名乗ったんだよ。そしたら案の定、話し合いが終わった後に見送られる事も無く、その辺の修道女を買収して情報を引き出し放題! ステラの情報をたくさん教えてもらっちゃった」
お金が好きな修道女を何人か知っているだけに、あり得そうだと思ってしまう。
清貧をうたう聖ヴェロニカ修道院は、一枚皮を剥がせば、ボロなんて幾らでも出て来るのだ。
「例えそうだとしても、この邸宅で直ぐに身分を明かせばよかったじゃないですか」
「従者という立場の方が、君と話をする機会を作りやすいし、ちょうど良かったんだよ」
彼はステラが保有するスキルを探る事を意図していたのだろう。
思い返してみると、香料の抽出の時に話すまで彼はステラのスキルの詳細を知らなかったようだから、修道女達は最重要事項まで漏らしはしなかったのかもしれない。
それにしても、嘘をつくのを何とも思っていないようなこの性格は如何なものか。
「あの……、申し訳ないのですが、ハッキリ言って腹が立ってきました。暫く私に会いに来ないでくださいっ」
「えー、折角これから君に色々お願いしようと思ってたのになぁ」
「そんなの知らないですっ。というか、夜中にレディーの部屋を訪れるなんてゲスゲスな行動なんです! 出て行けです!」
「君どう見ても幼女だけどね……」
なおもグダグダと言い続ける少年の背を押して部屋の外へと追い払い、バタンと扉を閉める。
姿が見えなくなった事にホッとし、ステラは重い溜息をついた。
(修道院の外ってやっぱり危険なんだなぁ……)
朝から晩まで色んな出来事があり、心が疲れてしまった。
扉に背を預け、グッタリと座り込む。
「お休み、ステラ! 君の機嫌が直った頃にまた来るね!」
「ふん!」
扉の向こうからジョシュアの笑い混じりの声が聞こえ、ステラはまたもやムカムカしてきたのだった。
◇
あくる朝、ノロノロと食事を終えたステラの元に、フラーゼ家の執事が訪れた。
一応顔見知りではあるが、殆ど話した事が無いため、少々緊張する。
「おはようございます。シスターステラ」
「おはようございます」
「ポピー様より、フレグランスの報酬を預かってまいりました」
ニコニコとした笑顔で差し出されたのは、金ぴかのトレーに盛られた金貨だ。
その眩さに圧倒され、ステラは激しく瞬きせざるをえない。
一応お金の概念は習ってはいるが、これ程大量だと枚数を数えるのを放棄してしまう。
だが、黙っているわけにもいかず、必死に返事をひねり出す。
「えぇと……、フレグランス一瓶にこれだけの価値はないような気がしますが……」
「そんな事はありませんよ。王都の有名調香師であれば、オリジナルの香水に金貨一五枚はふっかけております。ですので、ポピー様は貴女の為に、元々金貨一五枚分は用意してらっしゃったのです。それに加え、貴女の香水にはドラゴン素材が入っておいででしたので、報酬は倍額になった次第でございます」
ステラが数えるのを放棄した報酬の山は、三十枚分あるようだ。
シスターアグネスから習ったお金の概念を思い出すと、金貨一枚あれば、修道院周辺の集落では人間一人余裕で一週間暮らせるらしいので、三十枚分なら七カ月から八カ月はいけるだろう。
その金額の大きさを思うと、変な汗が出てくる。
「受け取れません!!」
「ポピー様に気を遣っておいでなのでしたら、それには及びません。貴族の方々は、高質でユニークな物を好んでいらっしゃいます。それに見合った対価を支払い、身に着けたいとお考えなのですよ」
「……とても不思議な考え方です」
「貴方は修道院で慎ましく暮らして来たでしょうから、そうなのかもしれませんね」
貴族の価値観とやらに気後れしてしまうが、受け取る事が義務であるかのように言われると断りづらい。
そうこうしている間にテーブルの上に静かにトレーを置かれててしまい、礼を言うしかなくなった。
「……有難うございます」
「私などではなく、ポピー様に直接お伝えになるといいでしょう。あ、シスターステラ。午後から予定を開けておいていただけませんか?」
「何故ですか?」
「昨晩ポピー様がくだんの香水を付けて夜会へ参加した際、興味を持ったご婦人がいらっしゃったようで、是非とも貴女に会いたいそうですよ」
「そ、そうなのですか……。午後からは何も予定はないですが」
「ではまた午後にお迎えにあがりますね」
「はい……」
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