18 / 89
選択の時
選択の時②
しおりを挟む
「この際だから白状するよ。オレはポピー様の実子なんだ」
ジョシュアによって、衝撃の真実が告げられた。
ほんのちょっと血の繋がりがあるのかもしれないと思っていただけなのに、親子関係にあるらしい。
ステラは口をパクパクとさせながら、目の前に立つ少年の顔を凝視する。
「え……と。じゃ、じゃあ。もしかしなくても、貴方は侯爵様なのですか!?」
「そうそう」
「どうして身分を偽ったりするんです!?」
「だってさ、修道院でフラーゼ侯爵だと名乗ったら、もてなしの名の元で帰るまで隔離されるだろ? だから適当に放置されたくて、従者を名乗ったんだよ。そしたら案の定、話し合いが終わった後に見送られる事も無く、その辺の修道女を買収して情報を引き出し放題! ステラの情報をたくさん教えてもらっちゃった」
お金が好きな修道女を何人か知っているだけに、あり得そうだと思ってしまう。
清貧をうたう聖ヴェロニカ修道院は、一枚皮を剥がせば、ボロなんて幾らでも出て来るのだ。
「例えそうだとしても、この邸宅で直ぐに身分を明かせばよかったじゃないですか」
「従者という立場の方が、君と話をする機会を作りやすいし、ちょうど良かったんだよ」
彼はステラが保有するスキルを探る事を意図していたのだろう。
思い返してみると、香料の抽出の時に話すまで彼はステラのスキルの詳細を知らなかったようだから、修道女達は最重要事項まで漏らしはしなかったのかもしれない。
それにしても、嘘をつくのを何とも思っていないようなこの性格は如何なものか。
「あの……、申し訳ないのですが、ハッキリ言って腹が立ってきました。暫く私に会いに来ないでくださいっ」
「えー、折角これから君に色々お願いしようと思ってたのになぁ」
「そんなの知らないですっ。というか、夜中にレディーの部屋を訪れるなんてゲスゲスな行動なんです! 出て行けです!」
「君どう見ても幼女だけどね……」
なおもグダグダと言い続ける少年の背を押して部屋の外へと追い払い、バタンと扉を閉める。
姿が見えなくなった事にホッとし、ステラは重い溜息をついた。
(修道院の外ってやっぱり危険なんだなぁ……)
朝から晩まで色んな出来事があり、心が疲れてしまった。
扉に背を預け、グッタリと座り込む。
「お休み、ステラ! 君の機嫌が直った頃にまた来るね!」
「ふん!」
扉の向こうからジョシュアの笑い混じりの声が聞こえ、ステラはまたもやムカムカしてきたのだった。
◇
あくる朝、ノロノロと食事を終えたステラの元に、フラーゼ家の執事が訪れた。
一応顔見知りではあるが、殆ど話した事が無いため、少々緊張する。
「おはようございます。シスターステラ」
「おはようございます」
「ポピー様より、フレグランスの報酬を預かってまいりました」
ニコニコとした笑顔で差し出されたのは、金ぴかのトレーに盛られた金貨だ。
その眩さに圧倒され、ステラは激しく瞬きせざるをえない。
一応お金の概念は習ってはいるが、これ程大量だと枚数を数えるのを放棄してしまう。
だが、黙っているわけにもいかず、必死に返事をひねり出す。
「えぇと……、フレグランス一瓶にこれだけの価値はないような気がしますが……」
「そんな事はありませんよ。王都の有名調香師であれば、オリジナルの香水に金貨一五枚はふっかけております。ですので、ポピー様は貴女の為に、元々金貨一五枚分は用意してらっしゃったのです。それに加え、貴女の香水にはドラゴン素材が入っておいででしたので、報酬は倍額になった次第でございます」
ステラが数えるのを放棄した報酬の山は、三十枚分あるようだ。
シスターアグネスから習ったお金の概念を思い出すと、金貨一枚あれば、修道院周辺の集落では人間一人余裕で一週間暮らせるらしいので、三十枚分なら七カ月から八カ月はいけるだろう。
その金額の大きさを思うと、変な汗が出てくる。
「受け取れません!!」
「ポピー様に気を遣っておいでなのでしたら、それには及びません。貴族の方々は、高質でユニークな物を好んでいらっしゃいます。それに見合った対価を支払い、身に着けたいとお考えなのですよ」
「……とても不思議な考え方です」
「貴方は修道院で慎ましく暮らして来たでしょうから、そうなのかもしれませんね」
貴族の価値観とやらに気後れしてしまうが、受け取る事が義務であるかのように言われると断りづらい。
そうこうしている間にテーブルの上に静かにトレーを置かれててしまい、礼を言うしかなくなった。
「……有難うございます」
「私などではなく、ポピー様に直接お伝えになるといいでしょう。あ、シスターステラ。午後から予定を開けておいていただけませんか?」
「何故ですか?」
「昨晩ポピー様がくだんの香水を付けて夜会へ参加した際、興味を持ったご婦人がいらっしゃったようで、是非とも貴女に会いたいそうですよ」
「そ、そうなのですか……。午後からは何も予定はないですが」
「ではまた午後にお迎えにあがりますね」
「はい……」
ジョシュアによって、衝撃の真実が告げられた。
ほんのちょっと血の繋がりがあるのかもしれないと思っていただけなのに、親子関係にあるらしい。
ステラは口をパクパクとさせながら、目の前に立つ少年の顔を凝視する。
「え……と。じゃ、じゃあ。もしかしなくても、貴方は侯爵様なのですか!?」
「そうそう」
「どうして身分を偽ったりするんです!?」
「だってさ、修道院でフラーゼ侯爵だと名乗ったら、もてなしの名の元で帰るまで隔離されるだろ? だから適当に放置されたくて、従者を名乗ったんだよ。そしたら案の定、話し合いが終わった後に見送られる事も無く、その辺の修道女を買収して情報を引き出し放題! ステラの情報をたくさん教えてもらっちゃった」
お金が好きな修道女を何人か知っているだけに、あり得そうだと思ってしまう。
清貧をうたう聖ヴェロニカ修道院は、一枚皮を剥がせば、ボロなんて幾らでも出て来るのだ。
「例えそうだとしても、この邸宅で直ぐに身分を明かせばよかったじゃないですか」
「従者という立場の方が、君と話をする機会を作りやすいし、ちょうど良かったんだよ」
彼はステラが保有するスキルを探る事を意図していたのだろう。
思い返してみると、香料の抽出の時に話すまで彼はステラのスキルの詳細を知らなかったようだから、修道女達は最重要事項まで漏らしはしなかったのかもしれない。
それにしても、嘘をつくのを何とも思っていないようなこの性格は如何なものか。
「あの……、申し訳ないのですが、ハッキリ言って腹が立ってきました。暫く私に会いに来ないでくださいっ」
「えー、折角これから君に色々お願いしようと思ってたのになぁ」
「そんなの知らないですっ。というか、夜中にレディーの部屋を訪れるなんてゲスゲスな行動なんです! 出て行けです!」
「君どう見ても幼女だけどね……」
なおもグダグダと言い続ける少年の背を押して部屋の外へと追い払い、バタンと扉を閉める。
姿が見えなくなった事にホッとし、ステラは重い溜息をついた。
(修道院の外ってやっぱり危険なんだなぁ……)
朝から晩まで色んな出来事があり、心が疲れてしまった。
扉に背を預け、グッタリと座り込む。
「お休み、ステラ! 君の機嫌が直った頃にまた来るね!」
「ふん!」
扉の向こうからジョシュアの笑い混じりの声が聞こえ、ステラはまたもやムカムカしてきたのだった。
◇
あくる朝、ノロノロと食事を終えたステラの元に、フラーゼ家の執事が訪れた。
一応顔見知りではあるが、殆ど話した事が無いため、少々緊張する。
「おはようございます。シスターステラ」
「おはようございます」
「ポピー様より、フレグランスの報酬を預かってまいりました」
ニコニコとした笑顔で差し出されたのは、金ぴかのトレーに盛られた金貨だ。
その眩さに圧倒され、ステラは激しく瞬きせざるをえない。
一応お金の概念は習ってはいるが、これ程大量だと枚数を数えるのを放棄してしまう。
だが、黙っているわけにもいかず、必死に返事をひねり出す。
「えぇと……、フレグランス一瓶にこれだけの価値はないような気がしますが……」
「そんな事はありませんよ。王都の有名調香師であれば、オリジナルの香水に金貨一五枚はふっかけております。ですので、ポピー様は貴女の為に、元々金貨一五枚分は用意してらっしゃったのです。それに加え、貴女の香水にはドラゴン素材が入っておいででしたので、報酬は倍額になった次第でございます」
ステラが数えるのを放棄した報酬の山は、三十枚分あるようだ。
シスターアグネスから習ったお金の概念を思い出すと、金貨一枚あれば、修道院周辺の集落では人間一人余裕で一週間暮らせるらしいので、三十枚分なら七カ月から八カ月はいけるだろう。
その金額の大きさを思うと、変な汗が出てくる。
「受け取れません!!」
「ポピー様に気を遣っておいでなのでしたら、それには及びません。貴族の方々は、高質でユニークな物を好んでいらっしゃいます。それに見合った対価を支払い、身に着けたいとお考えなのですよ」
「……とても不思議な考え方です」
「貴方は修道院で慎ましく暮らして来たでしょうから、そうなのかもしれませんね」
貴族の価値観とやらに気後れしてしまうが、受け取る事が義務であるかのように言われると断りづらい。
そうこうしている間にテーブルの上に静かにトレーを置かれててしまい、礼を言うしかなくなった。
「……有難うございます」
「私などではなく、ポピー様に直接お伝えになるといいでしょう。あ、シスターステラ。午後から予定を開けておいていただけませんか?」
「何故ですか?」
「昨晩ポピー様がくだんの香水を付けて夜会へ参加した際、興味を持ったご婦人がいらっしゃったようで、是非とも貴女に会いたいそうですよ」
「そ、そうなのですか……。午後からは何も予定はないですが」
「ではまた午後にお迎えにあがりますね」
「はい……」
0
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる