聖女適正ゼロの修道女は邪竜素材で大儲け~特殊スキルを利用して香水屋さんを始めてみました~

だるま 

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選択の時

選択の時①

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 朝の一件の後、ステラはもう一度例のフレグランスを調香し、午後までにその効用を調べあげてみた。
 判明した内容は以下の通りだ。

1.フレグランスの溶液が付着してしまうと、人間だけでなく、生きた物であれば何でも姿が変わって見える。
2.付着した量次第で、変化の度合いが異なる。例えば、量が多ければ多い程美形な人間の姿に、少なければ肌質がよくなったり、少々痩せて見えたりする程度。
3.ドラゴン素材に由来する効果は、フレグランスの持続時間に依存する。(だいたい半日)
4.自分につけたフレグランスには、惑わされない。(ステラが付けてみても、鏡に映る自分の姿に変化はなかった)

 アジ・ダハーカの話によれば、生前の彼の血肉とは若干効果が異なっているらしい。美しく変化する様になってしまったのは、ステラの『魔改造』なのだそうだが、何が何やらサッパリ分からない。複数のエッセンシャルオイルを混ぜたからなのだろうか?

 取りあえず分かった事項をポピーに報告し、それでも必要かどうか聞いてみると、怖がられるどころか面白がられてしまった。早速今夜彼女が出席する夜会に付けて行きたいとの事だったので、複製した液体を遮光瓶に入れて渡したのだが、夜会会場がパニックになっているのではないかと思うと、生きた心地がしない。


 夕食後、今日分かった事をメモ用紙にまとめていると、扉がノックされた。

「はい。どうぞです」

「失礼するよ」

 中に入って来たのは、ジョシュアだった。

「どうかしましたか?」

「聖ヴェロニカ修道院から手紙が送られてきたから、君に渡そうと思って。読むだろ?」

 マーガレットに手紙を託しておいていたのだが、その返事なのだろうか? ステラが数日前に書いた内容は、フレグランス作りを頼まれてしまった事と、安全面は何も問題無い事くらいなのだが、何と返されてきたのか。

「私宛の手紙でしたら、読みたいです」

「どうぞ」

 手紙をスンナリ手渡され、ステラは小声で礼を言う。
 実のところ、ジョシュアに修道院との連絡が阻まれてしまうんじゃないかと思っていただけに、少々意外だったりする。
 作業台の上で、ペーパーナイフを使って封蝋を砕き、中から便せんを取り出す。
 送り主はシスターアグネスだった。

”侯爵家の使いの方から、貴女が王都に行く事を伝え聞きいていましたが、事実だったのですね。あまりにも急なので、修道院の者達は貴女がかどわかされてしまったのではないかと心配しています。直ぐにでも戻って来て、元気な顔を見せるべきです。しかし、貴女の親代わりだった立場で言葉を伝えるのが許されるなら、今一度、修道院で再び暮らす事が貴女にとってどういう意味を持つのか、もしくは持たないのか、考えてもいいと思っています”

(シスターアグネスが、本当にこんな手紙を私に……?)

 小さな時から彼女に厳しく躾けられ、修道院で暮らす事の必要性を説かれていただけに、手紙の内容がスンナリと頭に入ってこない。本当に彼女が書いたのだろうか。

「手紙を取り換えてはいませんよね?」

「あのね。オレがそんな下品な事をするわけないでしょ?」

「以前私を攫ったくせに、良く言えますね」

「はぁ……。で、何て書いてあったの?」

「正直、よく分からないんです。『修道院で暮らす事を一度良く考えてみたらいい』と書いてあるんですけど、シスターアグネスがそんな事を伝えると思えなくて……。これだと、もし私が帰らないと言っても許されそうじゃないですか」

「そう言いたいんじゃないかな? ポピー様はスッカリ君を気に入ったみたいだし、残ればいいじゃない。君への待遇が良くなるよう、オレの方からも頼んでみるからさ」

「うーん……。ちょっと悩んでしまいます」

 物心付く頃からずっと修道院で暮らしていただけに、生活の場を他に移すのに抵抗を感じる。
 かといって、また修道院で掃除ばかりの日々を過ごすのも、今となってはかなり厳しい。

「もう一、二日程悩んでみようと思います」

「君も色々あるんだろうし、良く考えたらいいよ」

 ニコニコと笑うジョシュアの顔を見ているうちに、今朝のポピーの姿を思い出した。
 彼と良く似ていたので、今日一日ずっと気になっていたのだ。

「ジョシュアはポピー様と血縁関係があるんですか?」

「は!? えぇ!? なんだよ、急に!!」

 ステラの質問はジョシュアを大いに慌てさせたようだ。
 余りにも似ていたため、もしかすると遠縁なのかもしれないと思ったのだが、今の彼の様子を見ると、もっと近しい関係にあるのだろうか。

「どうしてそう思うの!?」

「似ているからですね!!」

 フレグランス云々の部分を端折って告げたからなのか、ジョシュアは微妙に嫌そうな表情をした。
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