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フラーゼ家のタウンハウス
フラーゼ家のタウンハウス⑥
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桶の中のワインは先程よりも明らかに濃い色になっているので、これなら味に満足してもらえるかもしれない。
「これでワインの濃度は上がったと思われます! 試しに飲んでみてください」
店主とロンのために、ステラは場所を譲る。
彼等は先程いがみ合っていたのを忘れたのか、顔を見合わせて頷き合った。
「まずはロンが飲んでみてくれ」
店主は桶の中からワインを汲み、ロンに渡す。
恐る恐るといった感じに口に含んだロンは、目を見開き、ステラの方を向いた。
「凄いな嬢ちゃん! 本当に濃くなってる!」
「うへへ……」
会って間もない人に手放しで褒められると少々照れ臭い。
やや気が進まない様子だった店主の方も試飲し、驚愕している。
「これは!! 通常のワインとほぼ同じと言っていい! いや、もっと美味いかもしれない!」
「大した事してないですよ。単に水分を抜いただけですから」
スキルを使用したら何も苦労せずに出来てしまうので、大袈裟に驚かれるとやや居心地が悪い。
しかもこのスキルは、幼い時から危険視されてきたため尚更なのである。
「いや、大した事あると思うぞ! 俺達がワインの濃度を濃くするには蒸留するか、煮詰めるかの二択。しかもその二つの方法は、時間がかかったり、アルコール分が抜けちまう! しかし今飲んだコイツはどうだ! アルコールがバッチリ残っている!」
「いやぁ、いい物を見せてもらった! スキル保持者ってのは、嫌味な奴ばかりだと思ってたが、嬢ちゃんは違うな! お陰でなんだか毒気を抜けちまったよ。おい店主! 今回の事は嬢ちゃんに免じて許してやらぁ!」
ロンは気のいい笑顔を浮かべ、桶の中のワインを樽の中にザバザバと戻す。
「いいのか? 脱水したから量的には減っているぞ」
「あ……」
店主に言われてステラはようやくヤバさに気がついた。
量が減れば、当初ロンが支払っただけの金額の価値は無いのだ。やる前に気がつくべきだったと、今更後悔してしまう。
しかし、指摘を受けてもロンは笑顔のままだ。
「またこの店に来るから、そん時に何かオマケを付けてくれ」
「ロン、今回は本当に悪い事をした! 原因については調べておく!」
「それがいい! じゃーな!」
「迷惑かけたな、修道女様」
ロンを見送った店主は、照れ臭そうにステラの方を向いた。
「そんな事もないですよっ。人助けっていいもんですね」
「ロンは王都の中でも人気の飲み屋を経営してるんだ。だからアイツに悪評を広められたら商売上がったりだったんだよ。あ、そうだ、ちょっと待っててくれ。お礼に俺がドラゴンスレイヤーをやってた時に得た物をアンタにあげよう」
「むむ……なんでしょう」
再び店の奥へと行った店主は、茶色の小石を持って戻って来た。
見たところ何の変哲も無い路端の石なのだが、まさかそれがお礼の品だとでもいうのだろうか?
「これはドラゴン族の結石だ。高く売れるから金に困ったらあてにするといい」
「ドドドドラゴン!?」
この世界にドラゴンが居るというのは知っているのだが、修道院に引き篭もっていたので勿論実物を見たことはない。
結石というのは、体の中の臓器に出来る石の様なものだ。これの場合、手の平の半分程のサイズではあるが、削り取られた跡があるので、本来であればもっと大きいのだろう。
大した事をしていないにも関わらず高価な物を貰ってしまうのに恐縮してしまい、ステラは何度か断ってみたが、店主は頑として返品拒否するのだった。
◇
ドラゴンの結石を貰った後、店内に戻って来たジョシュアと一緒にブランデーの香りを嗅ぎ比べ、修道院で作られていた物と似た種類を購入した。その後、何軒かの店を回って着替え用の服等を買い揃えたりしたので、帰路につくのは夕暮れ時になってしまっていた。
(最初はどうなる事かと思ったけど、結構楽しかったかも)
修道院から出るのが、こんなに爽快で、楽しいものだと知ってしまうと、戻った時に落差で困ってしまいそうだ。
「店主にドラゴンの結石を貰ったって言ってたっけ?」
感傷的な気分のところ、声をかけられビクリとする。
「言いました」
「その素材、何か変わった使われ方をしていたはずなんだよね。さっきからずっと考えてるんだけど思いだせないんだよ」
「ジョシュアは何歳なんですか?」
「18! 思い出せないだけで、老人扱いしないでくれるかな」
「別にしてませんけど……」
午後ずっと一緒に行動していたので、ジョシュアとも少しだけ打ち解ける事が出来た気がする。
でも誘拐された事実は変わらないので、警戒しておくにこした事はない。
「ドラゴンの結石について思い出した。それ確か大昔に媚薬として使われていた素材だ。臭いを嗅ぐと官能的な気分になるとかなんとか……。まぁただの気のせいだと思うけど」
「媚薬って何ですか?」
「あ……そういえば君、修道女だったね。はぁ……。ちょっと教えられないかな」
「そういうものですか……」
有耶無耶になってしまったが、何だか気になって仕方がない。
どういう効果があるのだろうか?
(ポピー様のフレグランスに入れる時に混ぜてみようかな? 高価な物らしいし、きっと喜んでくれるよね)
ステラは明日からの作業が楽しみになってきた。
「これでワインの濃度は上がったと思われます! 試しに飲んでみてください」
店主とロンのために、ステラは場所を譲る。
彼等は先程いがみ合っていたのを忘れたのか、顔を見合わせて頷き合った。
「まずはロンが飲んでみてくれ」
店主は桶の中からワインを汲み、ロンに渡す。
恐る恐るといった感じに口に含んだロンは、目を見開き、ステラの方を向いた。
「凄いな嬢ちゃん! 本当に濃くなってる!」
「うへへ……」
会って間もない人に手放しで褒められると少々照れ臭い。
やや気が進まない様子だった店主の方も試飲し、驚愕している。
「これは!! 通常のワインとほぼ同じと言っていい! いや、もっと美味いかもしれない!」
「大した事してないですよ。単に水分を抜いただけですから」
スキルを使用したら何も苦労せずに出来てしまうので、大袈裟に驚かれるとやや居心地が悪い。
しかもこのスキルは、幼い時から危険視されてきたため尚更なのである。
「いや、大した事あると思うぞ! 俺達がワインの濃度を濃くするには蒸留するか、煮詰めるかの二択。しかもその二つの方法は、時間がかかったり、アルコール分が抜けちまう! しかし今飲んだコイツはどうだ! アルコールがバッチリ残っている!」
「いやぁ、いい物を見せてもらった! スキル保持者ってのは、嫌味な奴ばかりだと思ってたが、嬢ちゃんは違うな! お陰でなんだか毒気を抜けちまったよ。おい店主! 今回の事は嬢ちゃんに免じて許してやらぁ!」
ロンは気のいい笑顔を浮かべ、桶の中のワインを樽の中にザバザバと戻す。
「いいのか? 脱水したから量的には減っているぞ」
「あ……」
店主に言われてステラはようやくヤバさに気がついた。
量が減れば、当初ロンが支払っただけの金額の価値は無いのだ。やる前に気がつくべきだったと、今更後悔してしまう。
しかし、指摘を受けてもロンは笑顔のままだ。
「またこの店に来るから、そん時に何かオマケを付けてくれ」
「ロン、今回は本当に悪い事をした! 原因については調べておく!」
「それがいい! じゃーな!」
「迷惑かけたな、修道女様」
ロンを見送った店主は、照れ臭そうにステラの方を向いた。
「そんな事もないですよっ。人助けっていいもんですね」
「ロンは王都の中でも人気の飲み屋を経営してるんだ。だからアイツに悪評を広められたら商売上がったりだったんだよ。あ、そうだ、ちょっと待っててくれ。お礼に俺がドラゴンスレイヤーをやってた時に得た物をアンタにあげよう」
「むむ……なんでしょう」
再び店の奥へと行った店主は、茶色の小石を持って戻って来た。
見たところ何の変哲も無い路端の石なのだが、まさかそれがお礼の品だとでもいうのだろうか?
「これはドラゴン族の結石だ。高く売れるから金に困ったらあてにするといい」
「ドドドドラゴン!?」
この世界にドラゴンが居るというのは知っているのだが、修道院に引き篭もっていたので勿論実物を見たことはない。
結石というのは、体の中の臓器に出来る石の様なものだ。これの場合、手の平の半分程のサイズではあるが、削り取られた跡があるので、本来であればもっと大きいのだろう。
大した事をしていないにも関わらず高価な物を貰ってしまうのに恐縮してしまい、ステラは何度か断ってみたが、店主は頑として返品拒否するのだった。
◇
ドラゴンの結石を貰った後、店内に戻って来たジョシュアと一緒にブランデーの香りを嗅ぎ比べ、修道院で作られていた物と似た種類を購入した。その後、何軒かの店を回って着替え用の服等を買い揃えたりしたので、帰路につくのは夕暮れ時になってしまっていた。
(最初はどうなる事かと思ったけど、結構楽しかったかも)
修道院から出るのが、こんなに爽快で、楽しいものだと知ってしまうと、戻った時に落差で困ってしまいそうだ。
「店主にドラゴンの結石を貰ったって言ってたっけ?」
感傷的な気分のところ、声をかけられビクリとする。
「言いました」
「その素材、何か変わった使われ方をしていたはずなんだよね。さっきからずっと考えてるんだけど思いだせないんだよ」
「ジョシュアは何歳なんですか?」
「18! 思い出せないだけで、老人扱いしないでくれるかな」
「別にしてませんけど……」
午後ずっと一緒に行動していたので、ジョシュアとも少しだけ打ち解ける事が出来た気がする。
でも誘拐された事実は変わらないので、警戒しておくにこした事はない。
「ドラゴンの結石について思い出した。それ確か大昔に媚薬として使われていた素材だ。臭いを嗅ぐと官能的な気分になるとかなんとか……。まぁただの気のせいだと思うけど」
「媚薬って何ですか?」
「あ……そういえば君、修道女だったね。はぁ……。ちょっと教えられないかな」
「そういうものですか……」
有耶無耶になってしまったが、何だか気になって仕方がない。
どういう効果があるのだろうか?
(ポピー様のフレグランスに入れる時に混ぜてみようかな? 高価な物らしいし、きっと喜んでくれるよね)
ステラは明日からの作業が楽しみになってきた。
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