8 / 89
フラーゼ家のタウンハウス
フラーゼ家のタウンハウス⑥
しおりを挟む
桶の中のワインは先程よりも明らかに濃い色になっているので、これなら味に満足してもらえるかもしれない。
「これでワインの濃度は上がったと思われます! 試しに飲んでみてください」
店主とロンのために、ステラは場所を譲る。
彼等は先程いがみ合っていたのを忘れたのか、顔を見合わせて頷き合った。
「まずはロンが飲んでみてくれ」
店主は桶の中からワインを汲み、ロンに渡す。
恐る恐るといった感じに口に含んだロンは、目を見開き、ステラの方を向いた。
「凄いな嬢ちゃん! 本当に濃くなってる!」
「うへへ……」
会って間もない人に手放しで褒められると少々照れ臭い。
やや気が進まない様子だった店主の方も試飲し、驚愕している。
「これは!! 通常のワインとほぼ同じと言っていい! いや、もっと美味いかもしれない!」
「大した事してないですよ。単に水分を抜いただけですから」
スキルを使用したら何も苦労せずに出来てしまうので、大袈裟に驚かれるとやや居心地が悪い。
しかもこのスキルは、幼い時から危険視されてきたため尚更なのである。
「いや、大した事あると思うぞ! 俺達がワインの濃度を濃くするには蒸留するか、煮詰めるかの二択。しかもその二つの方法は、時間がかかったり、アルコール分が抜けちまう! しかし今飲んだコイツはどうだ! アルコールがバッチリ残っている!」
「いやぁ、いい物を見せてもらった! スキル保持者ってのは、嫌味な奴ばかりだと思ってたが、嬢ちゃんは違うな! お陰でなんだか毒気を抜けちまったよ。おい店主! 今回の事は嬢ちゃんに免じて許してやらぁ!」
ロンは気のいい笑顔を浮かべ、桶の中のワインを樽の中にザバザバと戻す。
「いいのか? 脱水したから量的には減っているぞ」
「あ……」
店主に言われてステラはようやくヤバさに気がついた。
量が減れば、当初ロンが支払っただけの金額の価値は無いのだ。やる前に気がつくべきだったと、今更後悔してしまう。
しかし、指摘を受けてもロンは笑顔のままだ。
「またこの店に来るから、そん時に何かオマケを付けてくれ」
「ロン、今回は本当に悪い事をした! 原因については調べておく!」
「それがいい! じゃーな!」
「迷惑かけたな、修道女様」
ロンを見送った店主は、照れ臭そうにステラの方を向いた。
「そんな事もないですよっ。人助けっていいもんですね」
「ロンは王都の中でも人気の飲み屋を経営してるんだ。だからアイツに悪評を広められたら商売上がったりだったんだよ。あ、そうだ、ちょっと待っててくれ。お礼に俺がドラゴンスレイヤーをやってた時に得た物をアンタにあげよう」
「むむ……なんでしょう」
再び店の奥へと行った店主は、茶色の小石を持って戻って来た。
見たところ何の変哲も無い路端の石なのだが、まさかそれがお礼の品だとでもいうのだろうか?
「これはドラゴン族の結石だ。高く売れるから金に困ったらあてにするといい」
「ドドドドラゴン!?」
この世界にドラゴンが居るというのは知っているのだが、修道院に引き篭もっていたので勿論実物を見たことはない。
結石というのは、体の中の臓器に出来る石の様なものだ。これの場合、手の平の半分程のサイズではあるが、削り取られた跡があるので、本来であればもっと大きいのだろう。
大した事をしていないにも関わらず高価な物を貰ってしまうのに恐縮してしまい、ステラは何度か断ってみたが、店主は頑として返品拒否するのだった。
◇
ドラゴンの結石を貰った後、店内に戻って来たジョシュアと一緒にブランデーの香りを嗅ぎ比べ、修道院で作られていた物と似た種類を購入した。その後、何軒かの店を回って着替え用の服等を買い揃えたりしたので、帰路につくのは夕暮れ時になってしまっていた。
(最初はどうなる事かと思ったけど、結構楽しかったかも)
修道院から出るのが、こんなに爽快で、楽しいものだと知ってしまうと、戻った時に落差で困ってしまいそうだ。
「店主にドラゴンの結石を貰ったって言ってたっけ?」
感傷的な気分のところ、声をかけられビクリとする。
「言いました」
「その素材、何か変わった使われ方をしていたはずなんだよね。さっきからずっと考えてるんだけど思いだせないんだよ」
「ジョシュアは何歳なんですか?」
「18! 思い出せないだけで、老人扱いしないでくれるかな」
「別にしてませんけど……」
午後ずっと一緒に行動していたので、ジョシュアとも少しだけ打ち解ける事が出来た気がする。
でも誘拐された事実は変わらないので、警戒しておくにこした事はない。
「ドラゴンの結石について思い出した。それ確か大昔に媚薬として使われていた素材だ。臭いを嗅ぐと官能的な気分になるとかなんとか……。まぁただの気のせいだと思うけど」
「媚薬って何ですか?」
「あ……そういえば君、修道女だったね。はぁ……。ちょっと教えられないかな」
「そういうものですか……」
有耶無耶になってしまったが、何だか気になって仕方がない。
どういう効果があるのだろうか?
(ポピー様のフレグランスに入れる時に混ぜてみようかな? 高価な物らしいし、きっと喜んでくれるよね)
ステラは明日からの作業が楽しみになってきた。
「これでワインの濃度は上がったと思われます! 試しに飲んでみてください」
店主とロンのために、ステラは場所を譲る。
彼等は先程いがみ合っていたのを忘れたのか、顔を見合わせて頷き合った。
「まずはロンが飲んでみてくれ」
店主は桶の中からワインを汲み、ロンに渡す。
恐る恐るといった感じに口に含んだロンは、目を見開き、ステラの方を向いた。
「凄いな嬢ちゃん! 本当に濃くなってる!」
「うへへ……」
会って間もない人に手放しで褒められると少々照れ臭い。
やや気が進まない様子だった店主の方も試飲し、驚愕している。
「これは!! 通常のワインとほぼ同じと言っていい! いや、もっと美味いかもしれない!」
「大した事してないですよ。単に水分を抜いただけですから」
スキルを使用したら何も苦労せずに出来てしまうので、大袈裟に驚かれるとやや居心地が悪い。
しかもこのスキルは、幼い時から危険視されてきたため尚更なのである。
「いや、大した事あると思うぞ! 俺達がワインの濃度を濃くするには蒸留するか、煮詰めるかの二択。しかもその二つの方法は、時間がかかったり、アルコール分が抜けちまう! しかし今飲んだコイツはどうだ! アルコールがバッチリ残っている!」
「いやぁ、いい物を見せてもらった! スキル保持者ってのは、嫌味な奴ばかりだと思ってたが、嬢ちゃんは違うな! お陰でなんだか毒気を抜けちまったよ。おい店主! 今回の事は嬢ちゃんに免じて許してやらぁ!」
ロンは気のいい笑顔を浮かべ、桶の中のワインを樽の中にザバザバと戻す。
「いいのか? 脱水したから量的には減っているぞ」
「あ……」
店主に言われてステラはようやくヤバさに気がついた。
量が減れば、当初ロンが支払っただけの金額の価値は無いのだ。やる前に気がつくべきだったと、今更後悔してしまう。
しかし、指摘を受けてもロンは笑顔のままだ。
「またこの店に来るから、そん時に何かオマケを付けてくれ」
「ロン、今回は本当に悪い事をした! 原因については調べておく!」
「それがいい! じゃーな!」
「迷惑かけたな、修道女様」
ロンを見送った店主は、照れ臭そうにステラの方を向いた。
「そんな事もないですよっ。人助けっていいもんですね」
「ロンは王都の中でも人気の飲み屋を経営してるんだ。だからアイツに悪評を広められたら商売上がったりだったんだよ。あ、そうだ、ちょっと待っててくれ。お礼に俺がドラゴンスレイヤーをやってた時に得た物をアンタにあげよう」
「むむ……なんでしょう」
再び店の奥へと行った店主は、茶色の小石を持って戻って来た。
見たところ何の変哲も無い路端の石なのだが、まさかそれがお礼の品だとでもいうのだろうか?
「これはドラゴン族の結石だ。高く売れるから金に困ったらあてにするといい」
「ドドドドラゴン!?」
この世界にドラゴンが居るというのは知っているのだが、修道院に引き篭もっていたので勿論実物を見たことはない。
結石というのは、体の中の臓器に出来る石の様なものだ。これの場合、手の平の半分程のサイズではあるが、削り取られた跡があるので、本来であればもっと大きいのだろう。
大した事をしていないにも関わらず高価な物を貰ってしまうのに恐縮してしまい、ステラは何度か断ってみたが、店主は頑として返品拒否するのだった。
◇
ドラゴンの結石を貰った後、店内に戻って来たジョシュアと一緒にブランデーの香りを嗅ぎ比べ、修道院で作られていた物と似た種類を購入した。その後、何軒かの店を回って着替え用の服等を買い揃えたりしたので、帰路につくのは夕暮れ時になってしまっていた。
(最初はどうなる事かと思ったけど、結構楽しかったかも)
修道院から出るのが、こんなに爽快で、楽しいものだと知ってしまうと、戻った時に落差で困ってしまいそうだ。
「店主にドラゴンの結石を貰ったって言ってたっけ?」
感傷的な気分のところ、声をかけられビクリとする。
「言いました」
「その素材、何か変わった使われ方をしていたはずなんだよね。さっきからずっと考えてるんだけど思いだせないんだよ」
「ジョシュアは何歳なんですか?」
「18! 思い出せないだけで、老人扱いしないでくれるかな」
「別にしてませんけど……」
午後ずっと一緒に行動していたので、ジョシュアとも少しだけ打ち解ける事が出来た気がする。
でも誘拐された事実は変わらないので、警戒しておくにこした事はない。
「ドラゴンの結石について思い出した。それ確か大昔に媚薬として使われていた素材だ。臭いを嗅ぐと官能的な気分になるとかなんとか……。まぁただの気のせいだと思うけど」
「媚薬って何ですか?」
「あ……そういえば君、修道女だったね。はぁ……。ちょっと教えられないかな」
「そういうものですか……」
有耶無耶になってしまったが、何だか気になって仕方がない。
どういう効果があるのだろうか?
(ポピー様のフレグランスに入れる時に混ぜてみようかな? 高価な物らしいし、きっと喜んでくれるよね)
ステラは明日からの作業が楽しみになってきた。
0
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる