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呪われた猫
呪われた猫②
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ステラは作業台横の棚から実験道具を幾つか取り出し、小皿の上に粉末状になったドラゴンの結石を入れる。
次に二つのフラスコを専用台の上に乗っけて、一方にブランデー、もう一方に無水エタノールを注ぐ。
今からドラゴンの結石をアルコールに漬けようとしているのだが、今この部屋にある二種類のうちどちらが適しているのか判断出来ないため、両方とも使ってみようと考えているのだ。
失敗して全てを失うわけにいかないので、結石の粉を全部使うわけではない。
取り敢えずひと摘みだけフラスコの中に投入してみた。
茶色の粉は、アルコールに一切溶ける事なく、サラサラと底へと沈む。
その様子をジッと観察し、ステラは「うーん……」と唸った。
なかなかに頑固な素材のようなのだ。
「熟成期間十年~五十年間って書かれてただけあるなぁ」
しかしステラは、本に書いてあった事に従順に従おうとは考えていない。
これからスキルを使用して、熟成期間を短縮するつもりだ。
無水エタノールとドラゴンの結石を入れた方のフラスコを、目の高さまで持ち上げる。
底の方でユラユラと揺れる粉をジッと見つめながらターゲットを定め、集中力を高めていく。
(スキル発動! 『融合』!)
フラスコが何度かスパークし、中の液体がブクブクと泡立つ。
ステラが保有する三つのスキルうちの最後の一つ『融合』は、異なる性質を持つ液体同士、固体同士、または液体と固体等、別々の物を混ぜ合わせる。使用の際に『強』『弱』を選べ、『強』なら複数の物質を合成して全く別の物質へと変化させる事が出来、『弱』なら複数の物質を均一に混ぜ合わせるだけに留める。
聖ヴェロニカ修道院のシスターアグネスからは、このスキルのうち『強』の使用がいかに危険であるかを口酸っぱく指摘されている。
既存の物質から、未知の『何か』を作り出す事は、この世界の在り方を変化させるかもしれないのだそうだ。
ステラからすればそれは悪い事ではなないように思えるが、『神が創造した世界を造り変える、罪深き行い』とまで言われてしまえば、使用を躊躇してしまう。
だがステラはそこまで深刻には考えていなかったりする。
このスキルを使ったとしても、事後神に謝ってしまえば許されるのではないかと考えている辺り、修道院がステラに施した教育のたかが知れるというものだ。
今、『強』は使っていない。
『弱』の方を使用し、ドラゴンの結石を液体の中に均一に溶かそうとしている。
スキル使用後のフラスコの中は、最初泥水の様に汚らしく混濁していた。
しかし連続して力を使用すると、アルコールは徐々に澄んでいく。
茶色かった色は、ジワジワと琥珀色へと変化し、それと共に、ドラゴン素材はステラの力に反発し始めた。
(むむ……。手強い……)
奥歯を噛み締めながら暫く力を加え続けると、素材からの抵抗が薄らぎ、壁の様な物を超えた感覚になった。
フラスコの中の液体は、先程のアルコールと結石の粉が完全に分離していた状態から大きく変わり、黄金色の混合液になっていた。
「これで完成したのかな? 金ピカだ……」
そうステラが呟いた時……。
__バン!!
窓の方から何かがガラスに当たった様な音が聞こえた。
驚いてそちらを見遣ると、黒猫が前脚を窓に当てて、こちらを凝視していた。
金色の目がまるで満月みたいだ。
(さっきの猫!! まだ私に用があるの?)
ステラはフラスコを専用台の上に置き、小さな来訪者の元へと向かう。
少しだけ窓の隙間を開けてやると、彼はすかさず室内に侵入してきた。
「猫さん。ここは他所の家なので、あまり汚さないでくださいね」
「儂をその辺の野良猫と一緒にするな」
「うーん……、確かに、喋るか喋らないかの差はありますけど」
声質は可愛いのだが、オッサンみたいな口調なので、なかなかに不気味だ。
「フンッ。儂の高貴さと、強大な力に気づかぬとは、哀れな奴よ」
「そう言われても……」
黒猫は作業台の上に跳び乗り、ドラゴンの結石とアルコールの混合液を観察し始めた。
「この様な色合いになるのか……。実に面白い」
「さっきもそうでしたが、妙にドラゴンの結石を気にしてますよね? というか、何故これが結石だと分かったのかも気になってます」
ステラが問いかけると、黒猫は悪そうに笑ってみせた。
笑う猫を初めて見たステラは、あんぐりと口を開ける。
「分かるに決まっている。儂の膀胱の中で丹精込めて育てた石なのだからな。死んだ後すぐにこの石の中に入り、阿保阿保ドラゴンスレイヤーに復讐する隙を伺っていたのだが、何故かお主の手へと渡ってしまった。ちょうどいい猫の身体も手に入った事だし、お主が儂の身体の一部だった物を使って何を作るか見届けさせてもらうぞ」
ここまで言われてしまえば、嫌でも察してしまう。
まさかの御本人様の登場なのだ。
「貴方って……、貴方の名前ってー!」
「漸く分かったか。儂の生前の名はアジ・ダハーカ。倒される間際は邪竜と呼ばれておったな」
「う……嘘だ……」
黒猫は二本の脚で立ち上がり、胸を張った。
次に二つのフラスコを専用台の上に乗っけて、一方にブランデー、もう一方に無水エタノールを注ぐ。
今からドラゴンの結石をアルコールに漬けようとしているのだが、今この部屋にある二種類のうちどちらが適しているのか判断出来ないため、両方とも使ってみようと考えているのだ。
失敗して全てを失うわけにいかないので、結石の粉を全部使うわけではない。
取り敢えずひと摘みだけフラスコの中に投入してみた。
茶色の粉は、アルコールに一切溶ける事なく、サラサラと底へと沈む。
その様子をジッと観察し、ステラは「うーん……」と唸った。
なかなかに頑固な素材のようなのだ。
「熟成期間十年~五十年間って書かれてただけあるなぁ」
しかしステラは、本に書いてあった事に従順に従おうとは考えていない。
これからスキルを使用して、熟成期間を短縮するつもりだ。
無水エタノールとドラゴンの結石を入れた方のフラスコを、目の高さまで持ち上げる。
底の方でユラユラと揺れる粉をジッと見つめながらターゲットを定め、集中力を高めていく。
(スキル発動! 『融合』!)
フラスコが何度かスパークし、中の液体がブクブクと泡立つ。
ステラが保有する三つのスキルうちの最後の一つ『融合』は、異なる性質を持つ液体同士、固体同士、または液体と固体等、別々の物を混ぜ合わせる。使用の際に『強』『弱』を選べ、『強』なら複数の物質を合成して全く別の物質へと変化させる事が出来、『弱』なら複数の物質を均一に混ぜ合わせるだけに留める。
聖ヴェロニカ修道院のシスターアグネスからは、このスキルのうち『強』の使用がいかに危険であるかを口酸っぱく指摘されている。
既存の物質から、未知の『何か』を作り出す事は、この世界の在り方を変化させるかもしれないのだそうだ。
ステラからすればそれは悪い事ではなないように思えるが、『神が創造した世界を造り変える、罪深き行い』とまで言われてしまえば、使用を躊躇してしまう。
だがステラはそこまで深刻には考えていなかったりする。
このスキルを使ったとしても、事後神に謝ってしまえば許されるのではないかと考えている辺り、修道院がステラに施した教育のたかが知れるというものだ。
今、『強』は使っていない。
『弱』の方を使用し、ドラゴンの結石を液体の中に均一に溶かそうとしている。
スキル使用後のフラスコの中は、最初泥水の様に汚らしく混濁していた。
しかし連続して力を使用すると、アルコールは徐々に澄んでいく。
茶色かった色は、ジワジワと琥珀色へと変化し、それと共に、ドラゴン素材はステラの力に反発し始めた。
(むむ……。手強い……)
奥歯を噛み締めながら暫く力を加え続けると、素材からの抵抗が薄らぎ、壁の様な物を超えた感覚になった。
フラスコの中の液体は、先程のアルコールと結石の粉が完全に分離していた状態から大きく変わり、黄金色の混合液になっていた。
「これで完成したのかな? 金ピカだ……」
そうステラが呟いた時……。
__バン!!
窓の方から何かがガラスに当たった様な音が聞こえた。
驚いてそちらを見遣ると、黒猫が前脚を窓に当てて、こちらを凝視していた。
金色の目がまるで満月みたいだ。
(さっきの猫!! まだ私に用があるの?)
ステラはフラスコを専用台の上に置き、小さな来訪者の元へと向かう。
少しだけ窓の隙間を開けてやると、彼はすかさず室内に侵入してきた。
「猫さん。ここは他所の家なので、あまり汚さないでくださいね」
「儂をその辺の野良猫と一緒にするな」
「うーん……、確かに、喋るか喋らないかの差はありますけど」
声質は可愛いのだが、オッサンみたいな口調なので、なかなかに不気味だ。
「フンッ。儂の高貴さと、強大な力に気づかぬとは、哀れな奴よ」
「そう言われても……」
黒猫は作業台の上に跳び乗り、ドラゴンの結石とアルコールの混合液を観察し始めた。
「この様な色合いになるのか……。実に面白い」
「さっきもそうでしたが、妙にドラゴンの結石を気にしてますよね? というか、何故これが結石だと分かったのかも気になってます」
ステラが問いかけると、黒猫は悪そうに笑ってみせた。
笑う猫を初めて見たステラは、あんぐりと口を開ける。
「分かるに決まっている。儂の膀胱の中で丹精込めて育てた石なのだからな。死んだ後すぐにこの石の中に入り、阿保阿保ドラゴンスレイヤーに復讐する隙を伺っていたのだが、何故かお主の手へと渡ってしまった。ちょうどいい猫の身体も手に入った事だし、お主が儂の身体の一部だった物を使って何を作るか見届けさせてもらうぞ」
ここまで言われてしまえば、嫌でも察してしまう。
まさかの御本人様の登場なのだ。
「貴方って……、貴方の名前ってー!」
「漸く分かったか。儂の生前の名はアジ・ダハーカ。倒される間際は邪竜と呼ばれておったな」
「う……嘘だ……」
黒猫は二本の脚で立ち上がり、胸を張った。
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