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呪われた猫
呪われた猫①
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昨日、くだんの酒屋にドラゴンの結石の事を尋ねに行くと、元ドラゴンスレーヤーの店主がそれを獲得するに至った経緯について教えてくれた。
結石は店主が引退する原因になった邪竜アジ・ダハーカ戦で獲得したものだそうで、当初は二倍程のサイズで、彼の仲間と獲得品の分割をする際にそれを二分の一にしたらしい。店主の仲間だった人が持って行った方については何処かで使われたという情報は得ていないらしく、効果は不明。
だが、アジ・ダハーカというドラゴンとの戦闘内容からちょっとした予想はしていた。
そのドラゴンは幻影を操り、自らの影で対戦相手を撹乱したという事から、結石の効果も現実と異なる物を他の人間に見せるのではないかと_____。
「幻影かぁ……。不穏だな……」
ステラは午前中までに全種類のエッセンシャルオイルの抽出を終え、残りの一つであるドラゴンの結石に取り掛かっている。
ポピー用の香水に使えるかどうかは不明だが、取り敢えずどの様な効果が現れるのか興味があるので、アルコールに溶かしてみる事にしたのだ。
ジョシュアに紹介してもらった本によると、まず結石自体を粉々にする必要がある。
多目的ルームの床に叩きつけるとこの家自体に損害を与えてしまうだろうから、ステラは今、侯爵邸の前庭に来ている。
小道の上でしゃがみ、レンガに結石を叩き付けているのだが、なかなか上手くいかない。
__ゴッ……! ゴッ……!
結石を握り、叩きつける事十回目程で、腕が痛くなってきた。
昨日聞いた話から考えるに、生前のアジ・ダハーカがあまりに強かったため、結石自体の硬度も相当高くなっているようだ。
しかしこれだけで諦めるステラではない。
次は邸宅の外壁に向かって結石を投げつけてみる。
コンッ……、と弾かれたそれはやはり割れることなく、低木が幾つも植わっている場所に落ちてしまった。
「わわわ!!」
落ちたところら辺に駆け寄って漁るが、スンナリ出てこない。
この辺に落ちたのは確かなので、時間をかけて探せば出てくるだろうけど、低木の枝で皮膚が切り傷だらけになるのでかなりの苦行だ。
「次はハンマーを借りて、それで叩いてみようかな」
痛む右手を振り、独り言を呟くと、隣の低木が唐突にガサガサと鳴った。
驚いて尻餅をついたステラが見たのは、一匹の黒猫。咥えていた結石をステラに向けて、ペッと吐き出す。
「オイ……。結石をもっと丁寧に扱え」
「ヒ……」
一瞬この猫が喋ったと思ったのだが、どこをどう見ても普通のモフモフなので、人語を話すわけがない。
恐る恐るその猫の頭に手を伸ばし、擦ってみる。
「……えーと、拾ってくれて助かりました。猫さんの毛、少々ごわついていますね」
「なんだその撫で方は。奉仕の心が足らんぞ」
「ふぁ……!?」
今、確かにこの猫の口が動いた。
もう一度周りを見ても、かなり遠くに庭師の老人が居るだけだ。
(やっぱり、この猫が喋った!!)
あまりに不気味なので、サッと手を離したステラの顔を、猫は不満気に見つめる。
「首を撫でてくれ」
「あの……、撫でるとか撫でないとかの前に、一言いいですか? 人間以外の生き物が喋るだなんて非常識だと思いません? なんなんですか? 貴方」
猫相手に喋っている現場を見られたくないので、その小さな耳に顔を寄せて小声で苦情を言う。
「人間だけが喋れると思うなよ。小娘」
「……むむ。人間と、猫と……他に何が喋れるんです?」
「竜族と神、悪魔、天使、下等生物である人間だ」
「貴方はそれらのどれでもないんですけどぉ……」
「儂はドラゴンである。何故分からん?」
この喋べれる猫は、自分をドラゴンだと勘違いしているらしい。ステラは半眼で猫を観察する。
やはりどこからどう見ても、ただの猫。
取り敢えず、石を拾ってくれたお礼にクッキーでも与え、お帰りいただこうと、ポケットを探るっていると__。
「__お前、そんな所に蹲って何をしておるのだ?」
上方からポピーの声が聞こえてきた。
見上げると、相変わらず凄い髪型をした立派な体格の婦人がコチラを見下ろしている。
この場所は、ちょうどポピーの部屋の真下だったようだ。
「ポピー様! 実は割りたい石があって、外壁に投げてみてたんです!」
「ふん……造作もないことだ」
そう言ったポピーは、手に持つ扇子を閉じてブンッとコチラに投げつけた。
__パァン!!
唖然とするステラの目の前で、結石が砕け散る。
「わぁ!! 凄いぃ!!」
どういう力の加わり方をしたのか、ドラゴンの結石は細かい粒子にまで粉砕されてしまっている。
これ程細かいならアルコールに漬けても、問題ないんじゃないだろうか?
ポピーに礼を言い、結石の粉をハンカチの上に拾い集めた。
(あれ? 猫さんは……?)
ゴチャゴチャやっている間に、先ほどの黒い猫はどこかに姿を消してしまっていた。
(結局、あの猫さんはなんだったんだろ? この邸宅で飼っているならまた会えるのかな?)
ステラはやや釈然としない思いを抱きつつも、多目的ルームへと戻っていった。
結石は店主が引退する原因になった邪竜アジ・ダハーカ戦で獲得したものだそうで、当初は二倍程のサイズで、彼の仲間と獲得品の分割をする際にそれを二分の一にしたらしい。店主の仲間だった人が持って行った方については何処かで使われたという情報は得ていないらしく、効果は不明。
だが、アジ・ダハーカというドラゴンとの戦闘内容からちょっとした予想はしていた。
そのドラゴンは幻影を操り、自らの影で対戦相手を撹乱したという事から、結石の効果も現実と異なる物を他の人間に見せるのではないかと_____。
「幻影かぁ……。不穏だな……」
ステラは午前中までに全種類のエッセンシャルオイルの抽出を終え、残りの一つであるドラゴンの結石に取り掛かっている。
ポピー用の香水に使えるかどうかは不明だが、取り敢えずどの様な効果が現れるのか興味があるので、アルコールに溶かしてみる事にしたのだ。
ジョシュアに紹介してもらった本によると、まず結石自体を粉々にする必要がある。
多目的ルームの床に叩きつけるとこの家自体に損害を与えてしまうだろうから、ステラは今、侯爵邸の前庭に来ている。
小道の上でしゃがみ、レンガに結石を叩き付けているのだが、なかなか上手くいかない。
__ゴッ……! ゴッ……!
結石を握り、叩きつける事十回目程で、腕が痛くなってきた。
昨日聞いた話から考えるに、生前のアジ・ダハーカがあまりに強かったため、結石自体の硬度も相当高くなっているようだ。
しかしこれだけで諦めるステラではない。
次は邸宅の外壁に向かって結石を投げつけてみる。
コンッ……、と弾かれたそれはやはり割れることなく、低木が幾つも植わっている場所に落ちてしまった。
「わわわ!!」
落ちたところら辺に駆け寄って漁るが、スンナリ出てこない。
この辺に落ちたのは確かなので、時間をかけて探せば出てくるだろうけど、低木の枝で皮膚が切り傷だらけになるのでかなりの苦行だ。
「次はハンマーを借りて、それで叩いてみようかな」
痛む右手を振り、独り言を呟くと、隣の低木が唐突にガサガサと鳴った。
驚いて尻餅をついたステラが見たのは、一匹の黒猫。咥えていた結石をステラに向けて、ペッと吐き出す。
「オイ……。結石をもっと丁寧に扱え」
「ヒ……」
一瞬この猫が喋ったと思ったのだが、どこをどう見ても普通のモフモフなので、人語を話すわけがない。
恐る恐るその猫の頭に手を伸ばし、擦ってみる。
「……えーと、拾ってくれて助かりました。猫さんの毛、少々ごわついていますね」
「なんだその撫で方は。奉仕の心が足らんぞ」
「ふぁ……!?」
今、確かにこの猫の口が動いた。
もう一度周りを見ても、かなり遠くに庭師の老人が居るだけだ。
(やっぱり、この猫が喋った!!)
あまりに不気味なので、サッと手を離したステラの顔を、猫は不満気に見つめる。
「首を撫でてくれ」
「あの……、撫でるとか撫でないとかの前に、一言いいですか? 人間以外の生き物が喋るだなんて非常識だと思いません? なんなんですか? 貴方」
猫相手に喋っている現場を見られたくないので、その小さな耳に顔を寄せて小声で苦情を言う。
「人間だけが喋れると思うなよ。小娘」
「……むむ。人間と、猫と……他に何が喋れるんです?」
「竜族と神、悪魔、天使、下等生物である人間だ」
「貴方はそれらのどれでもないんですけどぉ……」
「儂はドラゴンである。何故分からん?」
この喋べれる猫は、自分をドラゴンだと勘違いしているらしい。ステラは半眼で猫を観察する。
やはりどこからどう見ても、ただの猫。
取り敢えず、石を拾ってくれたお礼にクッキーでも与え、お帰りいただこうと、ポケットを探るっていると__。
「__お前、そんな所に蹲って何をしておるのだ?」
上方からポピーの声が聞こえてきた。
見上げると、相変わらず凄い髪型をした立派な体格の婦人がコチラを見下ろしている。
この場所は、ちょうどポピーの部屋の真下だったようだ。
「ポピー様! 実は割りたい石があって、外壁に投げてみてたんです!」
「ふん……造作もないことだ」
そう言ったポピーは、手に持つ扇子を閉じてブンッとコチラに投げつけた。
__パァン!!
唖然とするステラの目の前で、結石が砕け散る。
「わぁ!! 凄いぃ!!」
どういう力の加わり方をしたのか、ドラゴンの結石は細かい粒子にまで粉砕されてしまっている。
これ程細かいならアルコールに漬けても、問題ないんじゃないだろうか?
ポピーに礼を言い、結石の粉をハンカチの上に拾い集めた。
(あれ? 猫さんは……?)
ゴチャゴチャやっている間に、先ほどの黒い猫はどこかに姿を消してしまっていた。
(結局、あの猫さんはなんだったんだろ? この邸宅で飼っているならまた会えるのかな?)
ステラはやや釈然としない思いを抱きつつも、多目的ルームへと戻っていった。
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