13 / 89
呪われた猫
呪われた猫①
しおりを挟む
昨日、くだんの酒屋にドラゴンの結石の事を尋ねに行くと、元ドラゴンスレーヤーの店主がそれを獲得するに至った経緯について教えてくれた。
結石は店主が引退する原因になった邪竜アジ・ダハーカ戦で獲得したものだそうで、当初は二倍程のサイズで、彼の仲間と獲得品の分割をする際にそれを二分の一にしたらしい。店主の仲間だった人が持って行った方については何処かで使われたという情報は得ていないらしく、効果は不明。
だが、アジ・ダハーカというドラゴンとの戦闘内容からちょっとした予想はしていた。
そのドラゴンは幻影を操り、自らの影で対戦相手を撹乱したという事から、結石の効果も現実と異なる物を他の人間に見せるのではないかと_____。
「幻影かぁ……。不穏だな……」
ステラは午前中までに全種類のエッセンシャルオイルの抽出を終え、残りの一つであるドラゴンの結石に取り掛かっている。
ポピー用の香水に使えるかどうかは不明だが、取り敢えずどの様な効果が現れるのか興味があるので、アルコールに溶かしてみる事にしたのだ。
ジョシュアに紹介してもらった本によると、まず結石自体を粉々にする必要がある。
多目的ルームの床に叩きつけるとこの家自体に損害を与えてしまうだろうから、ステラは今、侯爵邸の前庭に来ている。
小道の上でしゃがみ、レンガに結石を叩き付けているのだが、なかなか上手くいかない。
__ゴッ……! ゴッ……!
結石を握り、叩きつける事十回目程で、腕が痛くなってきた。
昨日聞いた話から考えるに、生前のアジ・ダハーカがあまりに強かったため、結石自体の硬度も相当高くなっているようだ。
しかしこれだけで諦めるステラではない。
次は邸宅の外壁に向かって結石を投げつけてみる。
コンッ……、と弾かれたそれはやはり割れることなく、低木が幾つも植わっている場所に落ちてしまった。
「わわわ!!」
落ちたところら辺に駆け寄って漁るが、スンナリ出てこない。
この辺に落ちたのは確かなので、時間をかけて探せば出てくるだろうけど、低木の枝で皮膚が切り傷だらけになるのでかなりの苦行だ。
「次はハンマーを借りて、それで叩いてみようかな」
痛む右手を振り、独り言を呟くと、隣の低木が唐突にガサガサと鳴った。
驚いて尻餅をついたステラが見たのは、一匹の黒猫。咥えていた結石をステラに向けて、ペッと吐き出す。
「オイ……。結石をもっと丁寧に扱え」
「ヒ……」
一瞬この猫が喋ったと思ったのだが、どこをどう見ても普通のモフモフなので、人語を話すわけがない。
恐る恐るその猫の頭に手を伸ばし、擦ってみる。
「……えーと、拾ってくれて助かりました。猫さんの毛、少々ごわついていますね」
「なんだその撫で方は。奉仕の心が足らんぞ」
「ふぁ……!?」
今、確かにこの猫の口が動いた。
もう一度周りを見ても、かなり遠くに庭師の老人が居るだけだ。
(やっぱり、この猫が喋った!!)
あまりに不気味なので、サッと手を離したステラの顔を、猫は不満気に見つめる。
「首を撫でてくれ」
「あの……、撫でるとか撫でないとかの前に、一言いいですか? 人間以外の生き物が喋るだなんて非常識だと思いません? なんなんですか? 貴方」
猫相手に喋っている現場を見られたくないので、その小さな耳に顔を寄せて小声で苦情を言う。
「人間だけが喋れると思うなよ。小娘」
「……むむ。人間と、猫と……他に何が喋れるんです?」
「竜族と神、悪魔、天使、下等生物である人間だ」
「貴方はそれらのどれでもないんですけどぉ……」
「儂はドラゴンである。何故分からん?」
この喋べれる猫は、自分をドラゴンだと勘違いしているらしい。ステラは半眼で猫を観察する。
やはりどこからどう見ても、ただの猫。
取り敢えず、石を拾ってくれたお礼にクッキーでも与え、お帰りいただこうと、ポケットを探るっていると__。
「__お前、そんな所に蹲って何をしておるのだ?」
上方からポピーの声が聞こえてきた。
見上げると、相変わらず凄い髪型をした立派な体格の婦人がコチラを見下ろしている。
この場所は、ちょうどポピーの部屋の真下だったようだ。
「ポピー様! 実は割りたい石があって、外壁に投げてみてたんです!」
「ふん……造作もないことだ」
そう言ったポピーは、手に持つ扇子を閉じてブンッとコチラに投げつけた。
__パァン!!
唖然とするステラの目の前で、結石が砕け散る。
「わぁ!! 凄いぃ!!」
どういう力の加わり方をしたのか、ドラゴンの結石は細かい粒子にまで粉砕されてしまっている。
これ程細かいならアルコールに漬けても、問題ないんじゃないだろうか?
ポピーに礼を言い、結石の粉をハンカチの上に拾い集めた。
(あれ? 猫さんは……?)
ゴチャゴチャやっている間に、先ほどの黒い猫はどこかに姿を消してしまっていた。
(結局、あの猫さんはなんだったんだろ? この邸宅で飼っているならまた会えるのかな?)
ステラはやや釈然としない思いを抱きつつも、多目的ルームへと戻っていった。
結石は店主が引退する原因になった邪竜アジ・ダハーカ戦で獲得したものだそうで、当初は二倍程のサイズで、彼の仲間と獲得品の分割をする際にそれを二分の一にしたらしい。店主の仲間だった人が持って行った方については何処かで使われたという情報は得ていないらしく、効果は不明。
だが、アジ・ダハーカというドラゴンとの戦闘内容からちょっとした予想はしていた。
そのドラゴンは幻影を操り、自らの影で対戦相手を撹乱したという事から、結石の効果も現実と異なる物を他の人間に見せるのではないかと_____。
「幻影かぁ……。不穏だな……」
ステラは午前中までに全種類のエッセンシャルオイルの抽出を終え、残りの一つであるドラゴンの結石に取り掛かっている。
ポピー用の香水に使えるかどうかは不明だが、取り敢えずどの様な効果が現れるのか興味があるので、アルコールに溶かしてみる事にしたのだ。
ジョシュアに紹介してもらった本によると、まず結石自体を粉々にする必要がある。
多目的ルームの床に叩きつけるとこの家自体に損害を与えてしまうだろうから、ステラは今、侯爵邸の前庭に来ている。
小道の上でしゃがみ、レンガに結石を叩き付けているのだが、なかなか上手くいかない。
__ゴッ……! ゴッ……!
結石を握り、叩きつける事十回目程で、腕が痛くなってきた。
昨日聞いた話から考えるに、生前のアジ・ダハーカがあまりに強かったため、結石自体の硬度も相当高くなっているようだ。
しかしこれだけで諦めるステラではない。
次は邸宅の外壁に向かって結石を投げつけてみる。
コンッ……、と弾かれたそれはやはり割れることなく、低木が幾つも植わっている場所に落ちてしまった。
「わわわ!!」
落ちたところら辺に駆け寄って漁るが、スンナリ出てこない。
この辺に落ちたのは確かなので、時間をかけて探せば出てくるだろうけど、低木の枝で皮膚が切り傷だらけになるのでかなりの苦行だ。
「次はハンマーを借りて、それで叩いてみようかな」
痛む右手を振り、独り言を呟くと、隣の低木が唐突にガサガサと鳴った。
驚いて尻餅をついたステラが見たのは、一匹の黒猫。咥えていた結石をステラに向けて、ペッと吐き出す。
「オイ……。結石をもっと丁寧に扱え」
「ヒ……」
一瞬この猫が喋ったと思ったのだが、どこをどう見ても普通のモフモフなので、人語を話すわけがない。
恐る恐るその猫の頭に手を伸ばし、擦ってみる。
「……えーと、拾ってくれて助かりました。猫さんの毛、少々ごわついていますね」
「なんだその撫で方は。奉仕の心が足らんぞ」
「ふぁ……!?」
今、確かにこの猫の口が動いた。
もう一度周りを見ても、かなり遠くに庭師の老人が居るだけだ。
(やっぱり、この猫が喋った!!)
あまりに不気味なので、サッと手を離したステラの顔を、猫は不満気に見つめる。
「首を撫でてくれ」
「あの……、撫でるとか撫でないとかの前に、一言いいですか? 人間以外の生き物が喋るだなんて非常識だと思いません? なんなんですか? 貴方」
猫相手に喋っている現場を見られたくないので、その小さな耳に顔を寄せて小声で苦情を言う。
「人間だけが喋れると思うなよ。小娘」
「……むむ。人間と、猫と……他に何が喋れるんです?」
「竜族と神、悪魔、天使、下等生物である人間だ」
「貴方はそれらのどれでもないんですけどぉ……」
「儂はドラゴンである。何故分からん?」
この喋べれる猫は、自分をドラゴンだと勘違いしているらしい。ステラは半眼で猫を観察する。
やはりどこからどう見ても、ただの猫。
取り敢えず、石を拾ってくれたお礼にクッキーでも与え、お帰りいただこうと、ポケットを探るっていると__。
「__お前、そんな所に蹲って何をしておるのだ?」
上方からポピーの声が聞こえてきた。
見上げると、相変わらず凄い髪型をした立派な体格の婦人がコチラを見下ろしている。
この場所は、ちょうどポピーの部屋の真下だったようだ。
「ポピー様! 実は割りたい石があって、外壁に投げてみてたんです!」
「ふん……造作もないことだ」
そう言ったポピーは、手に持つ扇子を閉じてブンッとコチラに投げつけた。
__パァン!!
唖然とするステラの目の前で、結石が砕け散る。
「わぁ!! 凄いぃ!!」
どういう力の加わり方をしたのか、ドラゴンの結石は細かい粒子にまで粉砕されてしまっている。
これ程細かいならアルコールに漬けても、問題ないんじゃないだろうか?
ポピーに礼を言い、結石の粉をハンカチの上に拾い集めた。
(あれ? 猫さんは……?)
ゴチャゴチャやっている間に、先ほどの黒い猫はどこかに姿を消してしまっていた。
(結局、あの猫さんはなんだったんだろ? この邸宅で飼っているならまた会えるのかな?)
ステラはやや釈然としない思いを抱きつつも、多目的ルームへと戻っていった。
0
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる