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香料準備フェーズ
香料準備フェーズ④
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ステラはジョシュアに対し、二種類のスキルを利用したエッセンシャルオイルの抽出方法を説明した。
実はもう一種類使えるスキルがあるのだが、聖ヴェロニカ修道院のシスターアグネスに「最も目を付けられやすいスキルかもしれない」と言われているので、それについては黙っておくことにした。
一通り話し終えると、ジョシュアは満足気に頷く。
「『物体運動スキル』と『複製スキル』かぁ。くだんの『聖ヴェロニカの涙』の制作者は絶対何かしらのスキルを持っているだろうと予想してたんだけど、的中したな~」
「……む。ジョシュアは何故予想できたんです?」
「簡単な事だよ。君が作った『聖ヴェロニカの涙』は出来が良すぎたんだ。これは単に、今までのオレの経験に過ぎないんだけど、他と一線を画す程に高品質の商品を辿ると、間違いなく何らかのスキル保持者に行きつく。芸術品なら、スキルだけでなく、高いセンスも持っている場合が多いかな」
なるほど。ステラは自分自身で外部の者に、スキルに関するヒントを提示してしまったらしい。そして察しの良いジョシュアに気付かれ、自由に泳がされたあげくに白状させられる状況になったわけだ。
自分にガッカリして頬を膨らせていると、ジョシュアにクスリと笑われる。
「そんな顔しないでよ。オレは君に活躍の場をあげたいだけなんだから。オレもスキル持ちってやつだけど、事あるごとに怖がられたり、特殊扱いされるんだよね。だから、スキル保持者を支援して、世の中の人達にその能力ごと受け入れられるようにしたいって常日頃から思ってる」
これは本音なのだろうか? ジョシュアの顔を見ると、真面目な表情をしている。
「……信用してもいいんですよね? その言葉」
言った後で、ステラは猛烈に後悔した。これでは自分で何の判断も出来ない人間みたいだ。
だけど口に出さずにいられなかった。
たぶん信じたいから。
「オレは信用に足る男!」
ステラのスキルにやたら執着しているような気がしなくもないし、妙に軽いのが胡散臭いが、あんまりしつこいのも良くないので渋々頷く。
「分かってくれたのかな。良かった! そうそう。君に渡したい物があるんだ」
「何ですか? これ以上お菓子を貰っても、昼食も食べたいので、困りますねっ」
「お菓子じゃないから」
ジョシュアは一瞬呆れた表情になったがコホンと咳払いした後、ベストのポケットの中から小さく畳まれた紙を取り出し、ステラに渡してくれた。
「これは?」
「ステラは昨日酒屋の親父に貰ったドラゴンの結石を、フレグランに使いたがっていたよね? オレも協力しようと思って、あの素材についてここの図書室で調べてみた。加工法を記した書籍を見つけたから、書き写してきたんだよ」
「わぁ! 本当ですか!?」
急いで畳まれた紙を開き、中に書かれた文章を読んでみる。
”ドラゴン族の体内から稀に採れる結石は、ほんのりと甘い土の香りがする。そしてその効果は種族・個体により千差万別。加工法については国よって異なっているが、我が国の一般的な方法は、出来る限り細かく砕いた結石を蒸留酒に浸し、10年~50年程熟成させる。そうする事で様々な薬に利用しやすい溶液に出来る”
「むむ……? 何で熟成の年数にこれだけ差があるのですか?」
「注釈に書いてあった事によると、ドラゴンの個体差で熟成に必要な年数が変わるらしいよ。強いドラゴンの結石程、アルコールに溶け込み辛くなるんだとか。原本が必要なら、後でマーガレットに運ばせるけど、どうする?」
「あ、可能でしたらお願いします」
ジョシュアのメモの内容を疑うわけじゃなく、原本には他に有用な事が書いてあるかもしれないので、全体的に読んでみたいのだ。
「了解だよ。昼食はここで食べる?」
「そうします」
ジョシュアと会話を続けながらも、ステラの頭の中はドラゴンの結石の事でいっぱいになっている。
(結石の扱い、興味深いな~。アルコールに香りとかの成分を移すには、熟成期間が必要になるのか。でも期間が最短で十年間! 流石にそんなに待てないよ。私の三つのスキルでなんとか短縮出来ないかなぁ~?)
悩ましいのは熟成年数についてだけじゃない。千差万別と書かれている効果についてもだ。
昨日ジョシュアと行った酒屋の店主に、何のドラゴンの結石だったのか質問した方がいいだろう。
「ジョシュア。もし暇なら、午後のどこかで昨日の酒屋に連れて行ってくれませんか? この結石の情報をもっと欲しいです」
この部屋に閉じこもって作業を続けていると、うっかりスキルを使い過ぎてしまいそうなので、休憩がてらに外出するのはいい事の様に思えた。
「情報を聞くくらいなら、使いを出せばいいけど……。その顔は出かけたそうだね。いいよ。夕方になったら繁華街に行こっか。酒屋だけだとアレだから、外食してから帰ってくるか」
「外食! 本で読んで憧れてました!」
昨日の外出も新鮮な事の連続だったが、今日も繁華街に出られるのかと、感動する。
(自由って素晴らし……。フレグランス作りが終わった後は修道院に帰えんなきゃいけないのが、ちょっと……、うぅ……。でも自分から状況を伝えた方がいいよね。修道院の皆には散々面倒みてもらっているし。夕方までに手紙を書いて、マーガレットさんに託そう)
実はもう一種類使えるスキルがあるのだが、聖ヴェロニカ修道院のシスターアグネスに「最も目を付けられやすいスキルかもしれない」と言われているので、それについては黙っておくことにした。
一通り話し終えると、ジョシュアは満足気に頷く。
「『物体運動スキル』と『複製スキル』かぁ。くだんの『聖ヴェロニカの涙』の制作者は絶対何かしらのスキルを持っているだろうと予想してたんだけど、的中したな~」
「……む。ジョシュアは何故予想できたんです?」
「簡単な事だよ。君が作った『聖ヴェロニカの涙』は出来が良すぎたんだ。これは単に、今までのオレの経験に過ぎないんだけど、他と一線を画す程に高品質の商品を辿ると、間違いなく何らかのスキル保持者に行きつく。芸術品なら、スキルだけでなく、高いセンスも持っている場合が多いかな」
なるほど。ステラは自分自身で外部の者に、スキルに関するヒントを提示してしまったらしい。そして察しの良いジョシュアに気付かれ、自由に泳がされたあげくに白状させられる状況になったわけだ。
自分にガッカリして頬を膨らせていると、ジョシュアにクスリと笑われる。
「そんな顔しないでよ。オレは君に活躍の場をあげたいだけなんだから。オレもスキル持ちってやつだけど、事あるごとに怖がられたり、特殊扱いされるんだよね。だから、スキル保持者を支援して、世の中の人達にその能力ごと受け入れられるようにしたいって常日頃から思ってる」
これは本音なのだろうか? ジョシュアの顔を見ると、真面目な表情をしている。
「……信用してもいいんですよね? その言葉」
言った後で、ステラは猛烈に後悔した。これでは自分で何の判断も出来ない人間みたいだ。
だけど口に出さずにいられなかった。
たぶん信じたいから。
「オレは信用に足る男!」
ステラのスキルにやたら執着しているような気がしなくもないし、妙に軽いのが胡散臭いが、あんまりしつこいのも良くないので渋々頷く。
「分かってくれたのかな。良かった! そうそう。君に渡したい物があるんだ」
「何ですか? これ以上お菓子を貰っても、昼食も食べたいので、困りますねっ」
「お菓子じゃないから」
ジョシュアは一瞬呆れた表情になったがコホンと咳払いした後、ベストのポケットの中から小さく畳まれた紙を取り出し、ステラに渡してくれた。
「これは?」
「ステラは昨日酒屋の親父に貰ったドラゴンの結石を、フレグランに使いたがっていたよね? オレも協力しようと思って、あの素材についてここの図書室で調べてみた。加工法を記した書籍を見つけたから、書き写してきたんだよ」
「わぁ! 本当ですか!?」
急いで畳まれた紙を開き、中に書かれた文章を読んでみる。
”ドラゴン族の体内から稀に採れる結石は、ほんのりと甘い土の香りがする。そしてその効果は種族・個体により千差万別。加工法については国よって異なっているが、我が国の一般的な方法は、出来る限り細かく砕いた結石を蒸留酒に浸し、10年~50年程熟成させる。そうする事で様々な薬に利用しやすい溶液に出来る”
「むむ……? 何で熟成の年数にこれだけ差があるのですか?」
「注釈に書いてあった事によると、ドラゴンの個体差で熟成に必要な年数が変わるらしいよ。強いドラゴンの結石程、アルコールに溶け込み辛くなるんだとか。原本が必要なら、後でマーガレットに運ばせるけど、どうする?」
「あ、可能でしたらお願いします」
ジョシュアのメモの内容を疑うわけじゃなく、原本には他に有用な事が書いてあるかもしれないので、全体的に読んでみたいのだ。
「了解だよ。昼食はここで食べる?」
「そうします」
ジョシュアと会話を続けながらも、ステラの頭の中はドラゴンの結石の事でいっぱいになっている。
(結石の扱い、興味深いな~。アルコールに香りとかの成分を移すには、熟成期間が必要になるのか。でも期間が最短で十年間! 流石にそんなに待てないよ。私の三つのスキルでなんとか短縮出来ないかなぁ~?)
悩ましいのは熟成年数についてだけじゃない。千差万別と書かれている効果についてもだ。
昨日ジョシュアと行った酒屋の店主に、何のドラゴンの結石だったのか質問した方がいいだろう。
「ジョシュア。もし暇なら、午後のどこかで昨日の酒屋に連れて行ってくれませんか? この結石の情報をもっと欲しいです」
この部屋に閉じこもって作業を続けていると、うっかりスキルを使い過ぎてしまいそうなので、休憩がてらに外出するのはいい事の様に思えた。
「情報を聞くくらいなら、使いを出せばいいけど……。その顔は出かけたそうだね。いいよ。夕方になったら繁華街に行こっか。酒屋だけだとアレだから、外食してから帰ってくるか」
「外食! 本で読んで憧れてました!」
昨日の外出も新鮮な事の連続だったが、今日も繁華街に出られるのかと、感動する。
(自由って素晴らし……。フレグランス作りが終わった後は修道院に帰えんなきゃいけないのが、ちょっと……、うぅ……。でも自分から状況を伝えた方がいいよね。修道院の皆には散々面倒みてもらっているし。夕方までに手紙を書いて、マーガレットさんに託そう)
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