10 / 89
香料準備フェーズ
香料準備フェーズ②
しおりを挟む
「エタノールが足りなくなりましたら、この家の使用人か、ジョシュア様に追加分を頼んで下さい。僕に伝わったら直ぐに持って来ます」
「助かりますっ」
タイラーの言葉に引っかかるものを感じつつも、ステラは返事をした。
(『この家の使用人かジョシュア様』?)
まるでジョシュアがこの家の使用人ではないみたいな言い方だ。
意図的な言葉の選び方だったのかどうかを聞いてみようかと口を開きかけたものの、彼が棚の前に立って実験器具の説明を開始してしまったため、タイミングを逃してしまった。
◇
だいたい五十分程で、タイラーの説明は終わった。
ステラは実験器具の名称と使い方をメモした用紙を胸に抱え、部屋の扉までタイラーを見送る。
「タイラーさん、大変助かりました! あの、よかったらお土産にオレンジを持っていきませんか? こんなにいっぱい要りませんので」
「結構です。先程チラリと拝見したら、ラベルの所に栽培スキルで成長させたオレンジだと書いてありました。旬を過ぎた果物をスキルを利用して実らせた場合、その果物はかなり高価になりますので、自分には不相応です」
「そうなのですか……」
興味深い話だと、ステラは思った。
修道院で暮らしていたから知らなかったが、この世の中にはスキルを活用した物品が結構身近に出回っているのかもしれない。
「シスターステラはどの様なスキルを使用出来るんです?」
「え!?」
何故決めつける様な言い方をするのだろうか。
彼の前では一切スキルを使っていないし、それっぽい言動もとっていない。
不信感から、正直に伝える気にならず、ズレた回答で誤魔化す事にした。
「私は単にポピー様の為にフレグランスを作る為にここに居るので、それだけやればいいと思っています」
こう言ってしまえば、タイラーは呆れてたち去ってくれるだろう。
ステラの言葉を聞いた後、彼は多目的ルームの中をグルリと見回して首を傾げてみせたが、それ以上は何も聞いてくることはなかった。
お辞儀をして扉から出て行く姿にステラはホッとする。
「不思議な人だったな。何を見ていたんだろう? この部屋に何か気になる物でもあるのかな?」
自分が見ても、不自然な箇所はないので疑問が深まる。
彼は半端じゃない洞察力を持っているのかもしれない。今後の関わり方を気をつけるべきだろう。
(さてさて! マーガレットさんがお菓子を持ってきてくれるまでの間に、フレッシュハーブからオイルを取り出しておこうかな)
ステラは『ペパーミント』用の小瓶を手にとり、フレッシュハーブの木箱が並んだ場所まで行く。
タイラーから実験器具の説明を受けている間に、ペパーミントの葉から新鮮さが失われるんじゃないかと心配していたが、木箱の中身をみると、全然大丈夫だった。
左手に小瓶、そして右手にペパーミントの葉を持つ。
ステラが葉の中のオイルだけを指定し、物質運動スキルを使用すると、僅かな蒸気が立ち上がる。
スキルにより、オイルだけが気体になったのだ。
ペパーミントの葉を作業台の上に置き、オイルのじょうきを逃さぬ様に手の中に集める。
小瓶の上でスキルを再利用すると、たった一滴だけのエッセンシャルオイルがポトンと落ちた。
普通だったらこんなに少ないオイルは役に立たない。
しかしステラが使える三つのスキルのうちの一つ、『複製』を使えば無問題だ。
ステラは小瓶の中のたった一滴のオイルをジッと見つめ、そのスキルを発動させる。
(スキル発動。『複製』!)
このスキルは対象物と同じ物質、同じ量の物を作り出す。
というか、本当に複製してしまえるのだ。
例えば水なら水を、ワインならワインを、対象になった物の同量だけ複製出来る。
ただ一つネックなのは、このスキルを濫用しすぎると気を失う事だ。
どのくらいが限界なのかは一応把握しているつもりだが、こんな所で倒れて心配をかけるのも嫌なので、控えめに使用したほうがいいだろう。
小瓶の中の一滴のオイルを二滴に。そして三、四……と、どんどん増やす。小瓶の中でオイルの嵩が増えるごとにミント特有のツンとする香りが強く漂う。
今使ったペパーミントの葉っぱはどうやら、尖った感じの香りを放つようだ。
(修道院のミントからとれる香料は、もっと柔らかめに香る気がするな~。でもどっちが優れてるか、とは決めつけれないかも。好みと、組み合わせる対象物との相性によるだろうし。よし、他の産地のミントからもオイルを採って、何が一番いいか吟味しちゃおう)
ステラは小瓶にコルクをしっかりと嵌め、今使ったミントが入った木箱の隣の葉に手を伸ばした。
「助かりますっ」
タイラーの言葉に引っかかるものを感じつつも、ステラは返事をした。
(『この家の使用人かジョシュア様』?)
まるでジョシュアがこの家の使用人ではないみたいな言い方だ。
意図的な言葉の選び方だったのかどうかを聞いてみようかと口を開きかけたものの、彼が棚の前に立って実験器具の説明を開始してしまったため、タイミングを逃してしまった。
◇
だいたい五十分程で、タイラーの説明は終わった。
ステラは実験器具の名称と使い方をメモした用紙を胸に抱え、部屋の扉までタイラーを見送る。
「タイラーさん、大変助かりました! あの、よかったらお土産にオレンジを持っていきませんか? こんなにいっぱい要りませんので」
「結構です。先程チラリと拝見したら、ラベルの所に栽培スキルで成長させたオレンジだと書いてありました。旬を過ぎた果物をスキルを利用して実らせた場合、その果物はかなり高価になりますので、自分には不相応です」
「そうなのですか……」
興味深い話だと、ステラは思った。
修道院で暮らしていたから知らなかったが、この世の中にはスキルを活用した物品が結構身近に出回っているのかもしれない。
「シスターステラはどの様なスキルを使用出来るんです?」
「え!?」
何故決めつける様な言い方をするのだろうか。
彼の前では一切スキルを使っていないし、それっぽい言動もとっていない。
不信感から、正直に伝える気にならず、ズレた回答で誤魔化す事にした。
「私は単にポピー様の為にフレグランスを作る為にここに居るので、それだけやればいいと思っています」
こう言ってしまえば、タイラーは呆れてたち去ってくれるだろう。
ステラの言葉を聞いた後、彼は多目的ルームの中をグルリと見回して首を傾げてみせたが、それ以上は何も聞いてくることはなかった。
お辞儀をして扉から出て行く姿にステラはホッとする。
「不思議な人だったな。何を見ていたんだろう? この部屋に何か気になる物でもあるのかな?」
自分が見ても、不自然な箇所はないので疑問が深まる。
彼は半端じゃない洞察力を持っているのかもしれない。今後の関わり方を気をつけるべきだろう。
(さてさて! マーガレットさんがお菓子を持ってきてくれるまでの間に、フレッシュハーブからオイルを取り出しておこうかな)
ステラは『ペパーミント』用の小瓶を手にとり、フレッシュハーブの木箱が並んだ場所まで行く。
タイラーから実験器具の説明を受けている間に、ペパーミントの葉から新鮮さが失われるんじゃないかと心配していたが、木箱の中身をみると、全然大丈夫だった。
左手に小瓶、そして右手にペパーミントの葉を持つ。
ステラが葉の中のオイルだけを指定し、物質運動スキルを使用すると、僅かな蒸気が立ち上がる。
スキルにより、オイルだけが気体になったのだ。
ペパーミントの葉を作業台の上に置き、オイルのじょうきを逃さぬ様に手の中に集める。
小瓶の上でスキルを再利用すると、たった一滴だけのエッセンシャルオイルがポトンと落ちた。
普通だったらこんなに少ないオイルは役に立たない。
しかしステラが使える三つのスキルのうちの一つ、『複製』を使えば無問題だ。
ステラは小瓶の中のたった一滴のオイルをジッと見つめ、そのスキルを発動させる。
(スキル発動。『複製』!)
このスキルは対象物と同じ物質、同じ量の物を作り出す。
というか、本当に複製してしまえるのだ。
例えば水なら水を、ワインならワインを、対象になった物の同量だけ複製出来る。
ただ一つネックなのは、このスキルを濫用しすぎると気を失う事だ。
どのくらいが限界なのかは一応把握しているつもりだが、こんな所で倒れて心配をかけるのも嫌なので、控えめに使用したほうがいいだろう。
小瓶の中の一滴のオイルを二滴に。そして三、四……と、どんどん増やす。小瓶の中でオイルの嵩が増えるごとにミント特有のツンとする香りが強く漂う。
今使ったペパーミントの葉っぱはどうやら、尖った感じの香りを放つようだ。
(修道院のミントからとれる香料は、もっと柔らかめに香る気がするな~。でもどっちが優れてるか、とは決めつけれないかも。好みと、組み合わせる対象物との相性によるだろうし。よし、他の産地のミントからもオイルを採って、何が一番いいか吟味しちゃおう)
ステラは小瓶にコルクをしっかりと嵌め、今使ったミントが入った木箱の隣の葉に手を伸ばした。
0
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる