聖女適正ゼロの修道女は邪竜素材で大儲け~特殊スキルを利用して香水屋さんを始めてみました~

だるま 

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香料準備フェーズ

香料準備フェーズ②

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「エタノールが足りなくなりましたら、この家の使用人か、ジョシュア様に追加分を頼んで下さい。僕に伝わったら直ぐに持って来ます」

「助かりますっ」

 タイラーの言葉に引っかかるものを感じつつも、ステラは返事をした。

(『この家の使用人かジョシュア様』?)

 まるでジョシュアがこの家の使用人ではないみたいな言い方だ。
 意図的な言葉の選び方だったのかどうかを聞いてみようかと口を開きかけたものの、彼が棚の前に立って実験器具の説明を開始してしまったため、タイミングを逃してしまった。



 だいたい五十分程で、タイラーの説明は終わった。
 ステラは実験器具の名称と使い方をメモした用紙を胸に抱え、部屋の扉までタイラーを見送る。

「タイラーさん、大変助かりました! あの、よかったらお土産にオレンジを持っていきませんか? こんなにいっぱい要りませんので」

「結構です。先程チラリと拝見したら、ラベルの所に栽培スキルで成長させたオレンジだと書いてありました。旬を過ぎた果物をスキルを利用して実らせた場合、その果物はかなり高価になりますので、自分には不相応です」

「そうなのですか……」

 興味深い話だと、ステラは思った。
 修道院で暮らしていたから知らなかったが、この世の中にはスキルを活用した物品が結構身近に出回っているのかもしれない。

「シスターステラはどの様なスキルを使用出来るんです?」

「え!?」

 何故決めつける様な言い方をするのだろうか。
 彼の前では一切スキルを使っていないし、それっぽい言動もとっていない。
 不信感から、正直に伝える気にならず、ズレた回答で誤魔化す事にした。

「私は単にポピー様の為にフレグランスを作る為にここに居るので、それだけやればいいと思っています」

 こう言ってしまえば、タイラーは呆れてたち去ってくれるだろう。
 ステラの言葉を聞いた後、彼は多目的ルームの中をグルリと見回して首を傾げてみせたが、それ以上は何も聞いてくることはなかった。
 お辞儀をして扉から出て行く姿にステラはホッとする。

「不思議な人だったな。何を見ていたんだろう? この部屋に何か気になる物でもあるのかな?」

 自分が見ても、不自然な箇所はないので疑問が深まる。
 彼は半端じゃない洞察力を持っているのかもしれない。今後の関わり方を気をつけるべきだろう。

(さてさて! マーガレットさんがお菓子を持ってきてくれるまでの間に、フレッシュハーブからオイルを取り出しておこうかな)

 ステラは『ペパーミント』用の小瓶を手にとり、フレッシュハーブの木箱が並んだ場所まで行く。
 タイラーから実験器具の説明を受けている間に、ペパーミントの葉から新鮮さが失われるんじゃないかと心配していたが、木箱の中身をみると、全然大丈夫だった。

 左手に小瓶、そして右手にペパーミントの葉を持つ。

 ステラが葉の中のオイルだけを指定し、物質運動スキルを使用すると、僅かな蒸気が立ち上がる。
 スキルにより、オイルだけが気体になったのだ。
 ペパーミントの葉を作業台の上に置き、オイルのじょうきを逃さぬ様に手の中に集める。
 小瓶の上でスキルを再利用すると、たった一滴だけのエッセンシャルオイルがポトンと落ちた。

 普通だったらこんなに少ないオイルは役に立たない。
 しかしステラが使える三つのスキルのうちの一つ、『複製』を使えば無問題だ。

 ステラは小瓶の中のたった一滴のオイルをジッと見つめ、そのスキルを発動させる。

(スキル発動。『複製』!)

 このスキルは対象物と同じ物質、同じ量の物を作り出す。
 というか、本当に複製してしまえるのだ。
 例えば水なら水を、ワインならワインを、対象になった物の同量だけ複製出来る。
 ただ一つネックなのは、このスキルを濫用しすぎると気を失う事だ。
 どのくらいが限界なのかは一応把握しているつもりだが、こんな所で倒れて心配をかけるのも嫌なので、控えめに使用したほうがいいだろう。

 小瓶の中の一滴のオイルを二滴に。そして三、四……と、どんどん増やす。小瓶の中でオイルの嵩が増えるごとにミント特有のツンとする香りが強く漂う。
 今使ったペパーミントの葉っぱはどうやら、尖った感じの香りを放つようだ。

(修道院のミントからとれる香料は、もっと柔らかめに香る気がするな~。でもどっちが優れてるか、とは決めつけれないかも。好みと、組み合わせる対象物との相性によるだろうし。よし、他の産地のミントからもオイルを採って、何が一番いいか吟味しちゃおう)

 ステラは小瓶にコルクをしっかりと嵌め、今使ったミントが入った木箱の隣の葉に手を伸ばした。
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