4 / 89
フラーゼ家のタウンハウス
フラーゼ家のタウンハウス②
しおりを挟む
料理が乗ったワゴンを押して来たジョシュアを見て、女性達は慌てたようだ。
「申し訳ありません、ジョシュア様!!」
「その様な仕事は使用人に頼んで下さい」
「料理くらいオレにでも運べる。というか、君達に用はないから出て行ってくれる? シスターステラと二人で話がしたい」
明朗ながらも、有無を言わせない口調だ。女性達は丁寧にお辞儀し、しずしずと部屋を去って行った。
彼女達は明らかにジョシュアを敬う対象として振る舞っていたが、使用人の中にも序列があるからなのだろうか?
フラーゼ家の使用人達の不思議なやり取りについてステラが考えを巡らせている間に、ジョシュアはテーブルの上に料理を並べてくれていた。
「身体の具合はどう?」
加害者がそれを聞くのかと腹が立ち、ステラの返事はトゲトゲしくなった。
「頭が痛いです。……こんな風に無理矢理連れて来るだなんて、軽蔑しちゃいました!」
「ごめんね! でもオレも大変なんだよ。横暴な雇い主に絶対に君を連れて来いと命じれられていたから! 手ぶらで戻ったらクビになるのかなって思ったら、ああゆう方法を取らざるをえなかったんだ」
「だとしても誘拐だなんて、有り得ないです。死んだら地獄行きです!」
「地獄に落ちる覚悟はとっくに出来ているから、気にしないかな」
「むぅ……」
価値観が合わない人とは話辛い。
ひたすらに非難し続けても何も得る物が無さそうだ。
だけどこの少年は誘拐犯であると同時に、現状最も情報を持っている人物でもある。
黙っていては勿体無いので、探りを入れてみた方がいいだろう。
「あの……。修道院で貴方は、侯爵家のお母様について何かおっしゃっていましたよね?」
「うん。言った。頼み事があると」
「それを叶えたら、修道院に戻ってもいいですか?」
「君の働きから侯爵とポピー様が判断なさると思うよ。昼ごはんを食べたら、ポピー様の部屋に案内するから話してみて」
フラーゼ侯爵の母君の為にシッカリ働いたら、帰れる見込みがあるという事なのだろうか。体力面で問題があるステラは、自力で逃亡するのが難しいだけに、少々安堵する。
頼み事というのも、『聖ヴェロニカの涙』に関するものだと予想出来るので、あまり抵抗を感じない。
「分かりました。まずはポピー様の為に働いてみます」
「ステラはいい子だな。取り敢えず腹ごしらえしよう。お腹減っただろ?」
コクリと頷くと、人好きのする笑顔を向けられる。
ジョシュアに促されるままにイスに座る。
テーブルの上には始めてみる料理ばかり並んでいた。色とりどりの素材が使われており、修道院の粗食に慣れきっているステラは、本当に自分が食べていいのかと戸惑うばかりだ。
「これ、私の分なんですか?」
「そうだよ。足りないならオレのを__」
「足りています! 充分すぎです!」
ジョシュアは皿に乗った肉をステラの皿の上に移そうとするので、慌てる。
これ以上盛られてしまっては、食べ切れる自信がない。
「遠慮しなくてもいいのに……」
残念そうなジョシュアを無視し、ステラは食前の祈りを神に捧げる事にした。
「主よ。貴方の慈しみに感謝して食事します。皿の上に祝福し、心と身体を支える糧としてください」
「お祈りかぁ。もう随分長い事してないな」
「生き物の命をいただく事に感謝しませんと」
「そうだね。君の言う通りだ」
ジョシュアは深く頷き、籠の中からパンを三つステラの皿の上に置いてくれた。
礼を言ってから一口齧る。
(わぁ! 美味しい!)
サクッとした歯応えで、生地自体に甘みがある。
野菜が沢山入ったスープも、ソテーされた白身魚の肉も全部美味しくて、ステラは夢中で口に運んだ。
「それだけ旨そうに食べてくれたら、食材も嬉しいだろうね」
「はい! あ……」
料理が美味しすぎて、ついついジョシュアに気を許しかけてしまった。
これではいけないと慌てて気を引き締める。
「ここは、どこなんですか?」
「フラーゼ侯爵が王都に構える邸宅だよ」
「えぇ!? 王都なんですか!? そんな遠くに……」
先程考えた通り、一日程経過してしてしまったようだ。記憶が定かなら、確か聖ヴェロニカ修道院から王都までは馬の足で一日程かかったはずだからだ。眠らされていた間に随分遠方まで運ばれてしまった。その間、修道院で捜索が行われ続けていたのかと思うと、血の気が引く。
「あ、あの……。手紙を書かせて下さい。皆心配していると思うので」
「心配いらないよ。使いの者を使ってあの修道院へと手紙を運ばせているから」
「そうですか……」
どういう内容なのか気になる。
食事を共にしてしまった事で、若干気を抜いてしまったが、彼は自分を攫った人物なので信用出来ないのだ。
ステラは急に味がしなくなった料理をノロノロとお腹に収めた。
「申し訳ありません、ジョシュア様!!」
「その様な仕事は使用人に頼んで下さい」
「料理くらいオレにでも運べる。というか、君達に用はないから出て行ってくれる? シスターステラと二人で話がしたい」
明朗ながらも、有無を言わせない口調だ。女性達は丁寧にお辞儀し、しずしずと部屋を去って行った。
彼女達は明らかにジョシュアを敬う対象として振る舞っていたが、使用人の中にも序列があるからなのだろうか?
フラーゼ家の使用人達の不思議なやり取りについてステラが考えを巡らせている間に、ジョシュアはテーブルの上に料理を並べてくれていた。
「身体の具合はどう?」
加害者がそれを聞くのかと腹が立ち、ステラの返事はトゲトゲしくなった。
「頭が痛いです。……こんな風に無理矢理連れて来るだなんて、軽蔑しちゃいました!」
「ごめんね! でもオレも大変なんだよ。横暴な雇い主に絶対に君を連れて来いと命じれられていたから! 手ぶらで戻ったらクビになるのかなって思ったら、ああゆう方法を取らざるをえなかったんだ」
「だとしても誘拐だなんて、有り得ないです。死んだら地獄行きです!」
「地獄に落ちる覚悟はとっくに出来ているから、気にしないかな」
「むぅ……」
価値観が合わない人とは話辛い。
ひたすらに非難し続けても何も得る物が無さそうだ。
だけどこの少年は誘拐犯であると同時に、現状最も情報を持っている人物でもある。
黙っていては勿体無いので、探りを入れてみた方がいいだろう。
「あの……。修道院で貴方は、侯爵家のお母様について何かおっしゃっていましたよね?」
「うん。言った。頼み事があると」
「それを叶えたら、修道院に戻ってもいいですか?」
「君の働きから侯爵とポピー様が判断なさると思うよ。昼ごはんを食べたら、ポピー様の部屋に案内するから話してみて」
フラーゼ侯爵の母君の為にシッカリ働いたら、帰れる見込みがあるという事なのだろうか。体力面で問題があるステラは、自力で逃亡するのが難しいだけに、少々安堵する。
頼み事というのも、『聖ヴェロニカの涙』に関するものだと予想出来るので、あまり抵抗を感じない。
「分かりました。まずはポピー様の為に働いてみます」
「ステラはいい子だな。取り敢えず腹ごしらえしよう。お腹減っただろ?」
コクリと頷くと、人好きのする笑顔を向けられる。
ジョシュアに促されるままにイスに座る。
テーブルの上には始めてみる料理ばかり並んでいた。色とりどりの素材が使われており、修道院の粗食に慣れきっているステラは、本当に自分が食べていいのかと戸惑うばかりだ。
「これ、私の分なんですか?」
「そうだよ。足りないならオレのを__」
「足りています! 充分すぎです!」
ジョシュアは皿に乗った肉をステラの皿の上に移そうとするので、慌てる。
これ以上盛られてしまっては、食べ切れる自信がない。
「遠慮しなくてもいいのに……」
残念そうなジョシュアを無視し、ステラは食前の祈りを神に捧げる事にした。
「主よ。貴方の慈しみに感謝して食事します。皿の上に祝福し、心と身体を支える糧としてください」
「お祈りかぁ。もう随分長い事してないな」
「生き物の命をいただく事に感謝しませんと」
「そうだね。君の言う通りだ」
ジョシュアは深く頷き、籠の中からパンを三つステラの皿の上に置いてくれた。
礼を言ってから一口齧る。
(わぁ! 美味しい!)
サクッとした歯応えで、生地自体に甘みがある。
野菜が沢山入ったスープも、ソテーされた白身魚の肉も全部美味しくて、ステラは夢中で口に運んだ。
「それだけ旨そうに食べてくれたら、食材も嬉しいだろうね」
「はい! あ……」
料理が美味しすぎて、ついついジョシュアに気を許しかけてしまった。
これではいけないと慌てて気を引き締める。
「ここは、どこなんですか?」
「フラーゼ侯爵が王都に構える邸宅だよ」
「えぇ!? 王都なんですか!? そんな遠くに……」
先程考えた通り、一日程経過してしてしまったようだ。記憶が定かなら、確か聖ヴェロニカ修道院から王都までは馬の足で一日程かかったはずだからだ。眠らされていた間に随分遠方まで運ばれてしまった。その間、修道院で捜索が行われ続けていたのかと思うと、血の気が引く。
「あ、あの……。手紙を書かせて下さい。皆心配していると思うので」
「心配いらないよ。使いの者を使ってあの修道院へと手紙を運ばせているから」
「そうですか……」
どういう内容なのか気になる。
食事を共にしてしまった事で、若干気を抜いてしまったが、彼は自分を攫った人物なので信用出来ないのだ。
ステラは急に味がしなくなった料理をノロノロとお腹に収めた。
0
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
死にかけ令嬢の逆転
ぽんぽこ狸
恋愛
難しい顔をしたお医者様に今年も余命一年と宣告され、私はその言葉にも慣れてしまい何も思わずに、彼を見送る。
部屋に戻ってきた侍女には、昨年も、一昨年も余命一年と判断されて死にかけているのにどうしてまだ生きているのかと問われて返す言葉も見つからない。
しかしそれでも、私は必死に生きていて将来を誓っている婚約者のアレクシスもいるし、仕事もしている。
だからこそ生きられるだけ生きなければと気持ちを切り替えた。
けれどもそんな矢先、アレクシスから呼び出され、私の体を理由に婚約破棄を言い渡される。すでに新しい相手は決まっているらしく、それは美しく健康な王女リオノーラだった。
彼女に勝てる要素が一つもない私はそのまま追い出され、実家からも見捨てられ、どうしようもない状況に心が折れかけていると、見覚えのある男性が現れ「私を手助けしたい」と言ったのだった。
こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。
[完結連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ/ちゃんこまめ・エブリスタ投
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる