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顔も忘れてきた頃合いだというのに、今更夫ヅラされても……
顔も忘れてきた頃合いだというのに、今更夫ヅラされても……⑥
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オイゲンは無事なんだろうか? ジルが来る前に他の女性とエンカウントして変態扱いされてないだろうか? ビクビクしながら化粧室のドアを開ける。
目に入ってきたのは、大柄な男性。間違いなくオイゲンだった。彼の無事な姿を見て、ジルは安堵し、止めていた息を吐いた。
「ジル様! 思ったより早かったですね!」
「大公が踊っている最中にホールを出てきたのですわ」
「なるほど。退路は確保しておりますので、そこの窓から逃げましょう!」
「はい!」
オイゲンに急かされ、ジルは奥側の窓に向かう。
しかし、窓枠に手をかけると同時に、化粧室のドアが乱暴に開いた。
「ジル様! お待ちください!」
心臓が縮む様な感覚に耐えながら振り返ると、この宮殿でジルの世話をしていた侍女達がドアの向う側に立っていた。
「先ほどからジル様の行動に違和感があったので、見張らせていただいていました。その男は一体誰なのです? 先程も変な場所に立っていましたが……まさか間者を手引きなさったのですか? もうすぐ近衛も来ます。今私達に付いて来ていただけるなら大事にはしません。ですからお戻りください!」
「そ、それは……」
大公がああだから宮殿の人間全員を舐めていたかもしれない。しかし抜けている人間だけで、宮殿の管理を回していけるわけないのだ。侍女達を侮った事を内心謝罪する。でも今は彼女達の事より、逃げる事を優先したい。
「ジル様! ここは自分に任せてお逃げ下さい! ここからずっと南に行くと、跳ね橋があります。そこに先輩がいるはずなので、合流できるはずです」
「でも、オイゲンさんは……?」
「自分は大丈夫です。単独ならいくらでも逃げられます!」
オイゲンはジルに力強く頷く。その目は早く行けと伝えている。
「分かりましたわ! どうかご無事で!」
侍女たちにモップで攻撃されるオイゲンに心の中で謝りつつも、ジルは窓から飛び降りる。
オイゲンに言われた通りの場所に向かっている途中で、宮殿の方から男達の騒がしい声が聞こえてきた。ジルが逃げ出した事が大公にバレてしまったのかもしれない。
ちゃんと逃げ出せるのか? オイゲンは無事なのか? 雑念が頭の中を巡り、足がもつれ、転びそうになる。
捻った足を引きずる様にして跳ね橋に向かうと、スラリとした人影が立っていた。
衛兵なのだろうか? 息を飲んで立ち止まる。
踵を返して逃げようとするジルの元にその人物は手を振り、駆け寄って来た。
(手を振ってるわ……。あら?)
「ジル様ー! バシリーですー! ついて来てください!」
「バシリーさん!」
「あ~、足くじいちゃたんですね。もうちょっと我慢してもらえます? 宮殿から少し離れた所に馬車を停めてるので」
ブラウベルク帝国では、付き合いづらいタイプに思えた彼だが、今そのひょうひょうとした姿を見て、ホッとして座り込みそうになった。だが、まだ宮殿の中、休むわけにはいかない。
「はい!」
彼と共に跳ね橋を渡る。城門付近には、衛兵らしき者達が6人倒れていた。全てバシリーがやったのだろうか? 彼の顔を見上げると、緩いながらも、どこか殺気を感じさせた。
宮殿から200m程走ったところで、バシリーが「お待ちください」とジルを静止させた。
(え……? どうしたの?)
「待ち伏せですか? 気配的に一匹みたいですけど、不意打ちしなきゃ負ける程度の腕前なんでしょうかね?」
裁判所の手前に止められている2頭立ての馬車に向かい、バシリーは挑発する。
「誰かいるのですか?」
ジルも恐々と声をかけてみると、馬車の影から近衛兵の制服を着た大男がノソリと出て来た。
「!!」
「不審な馬車があると聞いてここに来たんです。貴女は大公妃ですよね? その男とこんな夜更けにどこへ出かけるんですか?」
「出かけるというか……、もう戻る事はないのですわ」
ジルの言葉に、バシリーは「だそうですよ?」と近衛を笑った。
「アンタが唆したのか? 悪いが、始末させてもらう」
レイピアを構えた近衛兵は、大柄のわりに素早い身のこなしで、バシリーに切りかかった。それをバシリーは腰から抜いたレイピアで受け流す。反応速度が速すぎる。
「ジル様は馬車に乗っててもらえます? 剣が当たっちゃいそうで邪魔です」
「わ、分かりました……」
彼等から出来るだけ離れながら、馬車へと向かう。その間、激しい金属音が絶えず聞こえてきて、改めて自分達が命の危険がある逃走行為をしているのだと認識してしまう。
馬車のドアを開け、チラリとバシリーの方を向くと、ちょうど彼が左手に持つギザギザの短刀で、相手のレイピアを折ったところだった。
折れた刀身は月光の光を反射し、ジルの足元に落ちてきた。それを茫然と眺め、再び2人に視線を戻すと、近衛の首から激しく血が噴き出していた。
バシリーにレイピアを破壊され、なすすべもなくトドメを刺されたのだ。
「バシリーさん……」
知人の凄惨な殺人現場を目撃してしまい、ジルはガタガタ震える。振り返ったバシリーは返り血で染まっていたが、いつも通りの胡散臭い笑顔だった。
「つい手が滑って殺してしまいました。さて、あとは港まで馬車で向かうだけです。さぁ乗ってください」
オイゲンを置いて行くのかと聞きたかったのだが、今のバシリーが怖すぎてあまり話しかけたくない。
自分を助けに来てくれた、いわば仲間に恐怖するという謎の事態だ。
御者台に座ったバシリーが、馬を走らせたので、客車の後ろについている窓から見える宮殿はだんだん遠ざかっていく。
(逃げ出せちゃったわ……。これからどうするのかしら?)
バシリーは先ほど港に行くと言っていただろうか? ブラウベルク帝国とハーターシュタイン公国は戦争中なので、陸路での国境越えは困難なのかもしれない。
そのような事をつらつらと考えながら後方を見ていると、宮殿の方から多くの明かりが出て来た。
(あれって、もしかして全部私達を追って来ているの!?)
ジルはバシリーへの抵抗感をひとまず脇に置いて、彼に話しかける。
「バシリーさん! 追手が付いて来ていますわ!」
「ボケた国のクセに意外と早く行動しますね。……はぁ。この馬車の馬とろくて嫌になりますよ」
他国だし、恐らく密入国してきたバシリーは馬を吟味出来なかったのだろう。ノロノロと走る馬に、後方から追手がグングンと近づいて来る。もう肉眼で顔を確認出来そうな程に近い近衛兵もいる。
馬車の中にジルがいるのが分かるからなのか、彼等は飛び道具を使ってこない。
(港までは、まだ距離があるわ。その間に……というか、すぐにでも追いつかれそう)
遅すぎる馬の走りに、ジルの胃がキリキリと痛む。
心配は現実になり、馬に跨る近衛の一人がジルが座る席の窓のそばを通りすぎて行く。
「バシリーさん! 1人そちらに行ったわ! 危ない!」
叫びながらも、残酷な現場を見たくなくてジルが目を瞑ると、ドフッと鈍い音が地面の方から聞こえた。
(え……?)
後部の窓を振り返ると、近衛の制服を着た者が地面に倒れ、遠ざかる。
「僕が反撃するって思わなかったんですかね? 隙だらけで申し訳ない気分になりました」
バシリーの呆れ声が何故かとなりの方から聞こえる。前方を見ると、御者台が空になっていた。
「え!? バシリーさん!?」
近衛が乗っていた馬を奪ったのか、バシリーはジルが乗る馬車に並走していた。
「このままじゃ2人とも捕まっちゃいますから、僕が奴等を足止めしますよ。死んだら、年一回は墓参りしに来てくださいね?」
「そ、そんな! 駄目ですわ!」
「ハイネ様は貴女が必要なんだと思います。あの方を支えてやってください」
「でも……!」
後方には10ではきかない数の明かりが見える。あれだけの人数をたった一人で相手するなんて、無茶にも程がある。
バシリーを止めなければならないと思うのに、彼が何かしたからなのか、馬車の馬達がいきなりガムシャラに走りだし、速度を上げ、バシリーを引き離して行く。
「港までは一本道ですので! それでは良い旅を!」
「バシリーさん!!」
御者台に人がいないまま走る馬車に乗る事も、置いて来る事になったハイネの侍従2人の事を考えるのも怖くて、ジルは顔を覆った。
(私、守ってもらうだけで、何も出来ない……。暴走する馬車から飛び降りて、バシリーさん達の所に戻る? 骨折して歩く事も出来なくなるかもしれないのに?)
無力感に涙を流し、何分走っただろうか? 隣から、明らかに馬車に繋がれているのとは別の馬の足音が聞こえていた。
(え? バシリーさんが戻って来た?)
目を開いて確認すると、バシリーではない誰かが並走していた。その人物は、馬から馬車の御者台に乗り込む。顔が見えないが、姿が良く知る者と似通っている気がした。
「ハ……ハイネ様?」
「大丈夫か? 泣いてた?」
振り返るハイネの顔を、暗いのにちゃんと確認出来た。初めて見るくらい心配そうな表情。彼を無鉄砲すぎると、怒るべきなのかもしれない。でも、二度と会えないだろうと思っていたその姿に、再び涙が零れた。
「私のせいで、オイゲンさんと、バシリーさんが危険な目に合ってしまって……」
ハイネに会ったのが嬉しかったとは、言い辛く、もう一つの涙の理由だけ伝える。
「アイツ等は、帝国で特殊訓練受けてるし、大丈夫だろ……」
目に入ってきたのは、大柄な男性。間違いなくオイゲンだった。彼の無事な姿を見て、ジルは安堵し、止めていた息を吐いた。
「ジル様! 思ったより早かったですね!」
「大公が踊っている最中にホールを出てきたのですわ」
「なるほど。退路は確保しておりますので、そこの窓から逃げましょう!」
「はい!」
オイゲンに急かされ、ジルは奥側の窓に向かう。
しかし、窓枠に手をかけると同時に、化粧室のドアが乱暴に開いた。
「ジル様! お待ちください!」
心臓が縮む様な感覚に耐えながら振り返ると、この宮殿でジルの世話をしていた侍女達がドアの向う側に立っていた。
「先ほどからジル様の行動に違和感があったので、見張らせていただいていました。その男は一体誰なのです? 先程も変な場所に立っていましたが……まさか間者を手引きなさったのですか? もうすぐ近衛も来ます。今私達に付いて来ていただけるなら大事にはしません。ですからお戻りください!」
「そ、それは……」
大公がああだから宮殿の人間全員を舐めていたかもしれない。しかし抜けている人間だけで、宮殿の管理を回していけるわけないのだ。侍女達を侮った事を内心謝罪する。でも今は彼女達の事より、逃げる事を優先したい。
「ジル様! ここは自分に任せてお逃げ下さい! ここからずっと南に行くと、跳ね橋があります。そこに先輩がいるはずなので、合流できるはずです」
「でも、オイゲンさんは……?」
「自分は大丈夫です。単独ならいくらでも逃げられます!」
オイゲンはジルに力強く頷く。その目は早く行けと伝えている。
「分かりましたわ! どうかご無事で!」
侍女たちにモップで攻撃されるオイゲンに心の中で謝りつつも、ジルは窓から飛び降りる。
オイゲンに言われた通りの場所に向かっている途中で、宮殿の方から男達の騒がしい声が聞こえてきた。ジルが逃げ出した事が大公にバレてしまったのかもしれない。
ちゃんと逃げ出せるのか? オイゲンは無事なのか? 雑念が頭の中を巡り、足がもつれ、転びそうになる。
捻った足を引きずる様にして跳ね橋に向かうと、スラリとした人影が立っていた。
衛兵なのだろうか? 息を飲んで立ち止まる。
踵を返して逃げようとするジルの元にその人物は手を振り、駆け寄って来た。
(手を振ってるわ……。あら?)
「ジル様ー! バシリーですー! ついて来てください!」
「バシリーさん!」
「あ~、足くじいちゃたんですね。もうちょっと我慢してもらえます? 宮殿から少し離れた所に馬車を停めてるので」
ブラウベルク帝国では、付き合いづらいタイプに思えた彼だが、今そのひょうひょうとした姿を見て、ホッとして座り込みそうになった。だが、まだ宮殿の中、休むわけにはいかない。
「はい!」
彼と共に跳ね橋を渡る。城門付近には、衛兵らしき者達が6人倒れていた。全てバシリーがやったのだろうか? 彼の顔を見上げると、緩いながらも、どこか殺気を感じさせた。
宮殿から200m程走ったところで、バシリーが「お待ちください」とジルを静止させた。
(え……? どうしたの?)
「待ち伏せですか? 気配的に一匹みたいですけど、不意打ちしなきゃ負ける程度の腕前なんでしょうかね?」
裁判所の手前に止められている2頭立ての馬車に向かい、バシリーは挑発する。
「誰かいるのですか?」
ジルも恐々と声をかけてみると、馬車の影から近衛兵の制服を着た大男がノソリと出て来た。
「!!」
「不審な馬車があると聞いてここに来たんです。貴女は大公妃ですよね? その男とこんな夜更けにどこへ出かけるんですか?」
「出かけるというか……、もう戻る事はないのですわ」
ジルの言葉に、バシリーは「だそうですよ?」と近衛を笑った。
「アンタが唆したのか? 悪いが、始末させてもらう」
レイピアを構えた近衛兵は、大柄のわりに素早い身のこなしで、バシリーに切りかかった。それをバシリーは腰から抜いたレイピアで受け流す。反応速度が速すぎる。
「ジル様は馬車に乗っててもらえます? 剣が当たっちゃいそうで邪魔です」
「わ、分かりました……」
彼等から出来るだけ離れながら、馬車へと向かう。その間、激しい金属音が絶えず聞こえてきて、改めて自分達が命の危険がある逃走行為をしているのだと認識してしまう。
馬車のドアを開け、チラリとバシリーの方を向くと、ちょうど彼が左手に持つギザギザの短刀で、相手のレイピアを折ったところだった。
折れた刀身は月光の光を反射し、ジルの足元に落ちてきた。それを茫然と眺め、再び2人に視線を戻すと、近衛の首から激しく血が噴き出していた。
バシリーにレイピアを破壊され、なすすべもなくトドメを刺されたのだ。
「バシリーさん……」
知人の凄惨な殺人現場を目撃してしまい、ジルはガタガタ震える。振り返ったバシリーは返り血で染まっていたが、いつも通りの胡散臭い笑顔だった。
「つい手が滑って殺してしまいました。さて、あとは港まで馬車で向かうだけです。さぁ乗ってください」
オイゲンを置いて行くのかと聞きたかったのだが、今のバシリーが怖すぎてあまり話しかけたくない。
自分を助けに来てくれた、いわば仲間に恐怖するという謎の事態だ。
御者台に座ったバシリーが、馬を走らせたので、客車の後ろについている窓から見える宮殿はだんだん遠ざかっていく。
(逃げ出せちゃったわ……。これからどうするのかしら?)
バシリーは先ほど港に行くと言っていただろうか? ブラウベルク帝国とハーターシュタイン公国は戦争中なので、陸路での国境越えは困難なのかもしれない。
そのような事をつらつらと考えながら後方を見ていると、宮殿の方から多くの明かりが出て来た。
(あれって、もしかして全部私達を追って来ているの!?)
ジルはバシリーへの抵抗感をひとまず脇に置いて、彼に話しかける。
「バシリーさん! 追手が付いて来ていますわ!」
「ボケた国のクセに意外と早く行動しますね。……はぁ。この馬車の馬とろくて嫌になりますよ」
他国だし、恐らく密入国してきたバシリーは馬を吟味出来なかったのだろう。ノロノロと走る馬に、後方から追手がグングンと近づいて来る。もう肉眼で顔を確認出来そうな程に近い近衛兵もいる。
馬車の中にジルがいるのが分かるからなのか、彼等は飛び道具を使ってこない。
(港までは、まだ距離があるわ。その間に……というか、すぐにでも追いつかれそう)
遅すぎる馬の走りに、ジルの胃がキリキリと痛む。
心配は現実になり、馬に跨る近衛の一人がジルが座る席の窓のそばを通りすぎて行く。
「バシリーさん! 1人そちらに行ったわ! 危ない!」
叫びながらも、残酷な現場を見たくなくてジルが目を瞑ると、ドフッと鈍い音が地面の方から聞こえた。
(え……?)
後部の窓を振り返ると、近衛の制服を着た者が地面に倒れ、遠ざかる。
「僕が反撃するって思わなかったんですかね? 隙だらけで申し訳ない気分になりました」
バシリーの呆れ声が何故かとなりの方から聞こえる。前方を見ると、御者台が空になっていた。
「え!? バシリーさん!?」
近衛が乗っていた馬を奪ったのか、バシリーはジルが乗る馬車に並走していた。
「このままじゃ2人とも捕まっちゃいますから、僕が奴等を足止めしますよ。死んだら、年一回は墓参りしに来てくださいね?」
「そ、そんな! 駄目ですわ!」
「ハイネ様は貴女が必要なんだと思います。あの方を支えてやってください」
「でも……!」
後方には10ではきかない数の明かりが見える。あれだけの人数をたった一人で相手するなんて、無茶にも程がある。
バシリーを止めなければならないと思うのに、彼が何かしたからなのか、馬車の馬達がいきなりガムシャラに走りだし、速度を上げ、バシリーを引き離して行く。
「港までは一本道ですので! それでは良い旅を!」
「バシリーさん!!」
御者台に人がいないまま走る馬車に乗る事も、置いて来る事になったハイネの侍従2人の事を考えるのも怖くて、ジルは顔を覆った。
(私、守ってもらうだけで、何も出来ない……。暴走する馬車から飛び降りて、バシリーさん達の所に戻る? 骨折して歩く事も出来なくなるかもしれないのに?)
無力感に涙を流し、何分走っただろうか? 隣から、明らかに馬車に繋がれているのとは別の馬の足音が聞こえていた。
(え? バシリーさんが戻って来た?)
目を開いて確認すると、バシリーではない誰かが並走していた。その人物は、馬から馬車の御者台に乗り込む。顔が見えないが、姿が良く知る者と似通っている気がした。
「ハ……ハイネ様?」
「大丈夫か? 泣いてた?」
振り返るハイネの顔を、暗いのにちゃんと確認出来た。初めて見るくらい心配そうな表情。彼を無鉄砲すぎると、怒るべきなのかもしれない。でも、二度と会えないだろうと思っていたその姿に、再び涙が零れた。
「私のせいで、オイゲンさんと、バシリーさんが危険な目に合ってしまって……」
ハイネに会ったのが嬉しかったとは、言い辛く、もう一つの涙の理由だけ伝える。
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