結婚した次の日に同盟国の人質にされました!

だるま 

文字の大きさ
上 下
49 / 101
褒美として与えられた自由

褒美として与えられた自由⑦

しおりを挟む
「在る物全部!? ここに在るうちの半分、明日売る予定になってるだよ」

「あら、まぁ……。どうしましょう」

 ジルはキョロキョロと室内の麻袋を見て回る。すると、パンパンに膨らんだ袋にインクで何か記号の様な物が描かれていた。全部の袋にその様な物が描かれているのだが、ジルには心当たりがないため、首を傾げる。

「ラーレ、この記号は何かしら?」

「それはどこの畑で作られた物かってのを示すもんだべ」

「この記号を見たら誰が作ったライ麦なのか分かるという事ね?」

「ああ、一度村で買い取って、行商人に売りつける事になってんだけど、村人の中には適当に干し草なんかを入れて誤魔化すアホがいるもんだからさ、おかしなモンが混ざってたら、誰が作ったか分かる様にこうやって描いておくのさ」

 ジルはラーレの説明に感心して頷いた。

「なるほど、良い方法だわ! じゃあ、このライ麦を生産者ごとに1袋ずつ売ってもらえるかしら?」

「いいよ。ほんじゃあ明日売る予定分の麻袋も調べて、なるべく多くの村人が作ったライ麦をアンタに売る事にするか。ちょっと待ってな」

 ラーレの物わかりの良さに、ジルは嬉しくなり微笑む。村長はたぶんラーレの様な出来る娘を持ったから、この村をまとめていけているのだろう。

「有難う。私に手伝える事はあるかしら?」

「高貴なお育ちのお嬢様に出来る事なんかなんもねーべ。外で待ってな!」

「あら……」

「自分は力に自信があるので手伝いますよ」

「一人で充分だ。邪魔だからアンタも外へ出てくれ」

 オイゲンと2人外に出されてしまい、ジルはしょんぼりした。ハイネにも村長の家から追い出されたから、本日2度目だ。

(私、もっと鍛えた方がいいのかしら……?)

 太っていた時と比べ、弱々しく見えるのかもしれないと、ジルはオイゲンに気付かれないように二の腕に力を入れてみたりして、肩を落とした。
 小屋の中は、ラーレのテキパキとした働きにより、あっと言う間に3つの麻袋の山が出来た。作業を終えた彼女は粉塵防御用に巻いていたらしいスカーフを口から引き下げ、ジル達を手招きする。
 2人で入ると、彼女は真ん中の麻袋の山を指さす。全部で8袋有った。

「これらがアンタに売るライ麦だ」

「有難う。助かるわ!」

「それと製粉だったか」

「ええ!」

「となりの部屋に行くべ」

 麻袋を1つ担いだラーレに付いて行くと、隣の部屋には随分大きな軸木が水車から伸びており、クルクルと回っていた。
 ラーレは麻袋を床にドサリと投げ、エプロンのポケットに入れていたナイフで切り裂く。彼女はもう一度袋を持ち上げると、碾臼ひきうすの上部にライ麦を入れていった。

 その作業の様子がとても興味深く、ジルは臼に近寄ってマジマジと観察する。
 臼の下から粉がどんどん出てくる様子が楽しい。
 ジルが腰を低くして、臼に張り付いている様子がおかしかったのか、ラーレに少し笑われる。

「後は待つだけだべ!」

「どのくらい待てばいいのかしら?」

「10キロで4時間かかるね」

「まぁ、そんなに!?」

 確かに臼から出てくる粉の量から考えると、かなり時間がかかりそうであり、ジルは顎を指に当てて悩む。買い取る分全部製粉するのは厳しいかもしれない。

「1袋50キロと考えると、6日~7日間程かかりますかね……」

 オイゲンがジルの方を困った顔を向ける。

「ちょっと時間がかかりすぎるかもしれませんわね」

「はぁ……、お貴族様ってなんでこぅ……いいんだけどさ。全種類3キロずつ製粉して、全部区別した状態でアンタに届けてあげるべ。それなら今日中に作業が終わる。全部使いたいわけじゃないならそれでいいだろ?」

「それはいいわね!」

「製粉しない分の料金も払ってくれるんだろね?」

「勿論ですわ!」

 ジルは、ラーレの柔軟な対応に感謝した。

 明日の朝にジル達が宿泊する修道院まで製粉済のライ麦粉を運んでもらう事にし、受取完了で現物代と製粉代、運搬代を支払うと約束してから、ジルはオイゲンと共に小屋を出た。

「ラーレさんが出来る女性で助かりましたね」

「ええ、本当に! この村にとって彼女は宝物ですわね!」

 オイゲンと話しながら村長の家まで戻ると、何故か人だかりが出来ていた。修道院からは騎士達も来ていて、かなりの人数がこの場に居る。
 そしてどこからか叫び声が聞こえてくる。

 村人達からやや離れて立つハイネの元に駆けよると、彼は半笑いで、屋根の上を指さす。

「え……? 何を……って、キャー!!!?」

 何と屋根には、足を縄で縛られた村長が煙突に吊るされていた。頭に血が集まっているのか、怒りからなのか、顔を真っ赤にした彼は「助けてくれー!」と叫んでいた。
 彼の傍にはバシリーが長い足を組んで座っている。

 その様子を見て、ジルはゾッとした。

「ハイネ様が命じたんですの!?」

「アイツはちょっと懲らしめる必要があるからな」

 ハイネの灰色の瞳がいつもに増して酷薄に見えて、怯みそうになるのを堪えながら、何とか訴える。

「それでも、こんな体罰を加えなくても!」

「アンタ、自分が危害を加えられそうになった事忘れたの?」

「忘れてないですけど……、ハイネ様にこんな事してほしくないんです。貴方の事、嫌いになりそうです!」

 幼稚な事しか言えない自分に嫌気が差す。でもどうにか止めたくて、ジルはハイネを見上げながらポロポロと涙を流してしまう。

(ハイネ様はこの国の皇帝になる方だから、彼のやる事を咎めるなんて、するべきじゃないのに……)

 ジルを見下ろす灰色の瞳が動揺したように揺らめき、眇められた。

「チッ……。オイゲン! あと5分経ったらバシリーと協力して村長を下ろしてやれ」

「は! 了解いたしました!」

 ハイネはオイゲンに命じた後、ジルの手首を掴み、村人の集団から離れる様に引っ張る。

「ハイネ様?」

「アンタは人前で泣き顔を見せるな」

「だって、ハイネ様が……」

「ライ麦の事は調査に協力する責任があるのにしなかった。あれでも充分寛大な措置だ!」

「寛大じゃないですわ! ハイネ様はもしかしたら優しい人かもって思ったから、私結婚すると言われてもそこまで嫌じゃなかったのに……。また心無い人と結婚するなんて……ふぁ!?」

 強引に引き寄せられ、思いっきり硬い物に顔をぶつける。目を開くと、ハイネが着ていた黒い上着の色が広がる。

「優しさだけで、舐められた状態で、どうやって国を治めるんだよ! 俺がやる事を受け入れられないなら、アンタはこうして見なければいいだろ!」

 背中に腕を回され、ジルはパニックになる。

(だからって……別に抱きしめる必要は無いのでは!?)
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

処理中です...