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褒美として与えられた自由
褒美として与えられた自由②
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「何と!? 未来の皇后陛下が既に決まっておられたとは! ハッ! 部屋は同室の方がいいとはおっしゃいませんよね!? 残念ながらここは厳しい戒律があるので、男女で別れて宿泊してもらわないといけません!! ですがどうしてもとおっしゃるなら――」
「別でいい」
恐らくハイネから出来るだけ多額の寄進を集めようという意図があるのだろう。
揉み手で媚びる修道士に、ハイネは冷たい視線を向けていた。
同室という言葉に内心大いに慌てたジルは、ハイネの否定にホッとした。
(ハイネ様が大公と違って常識のある方で良かったわ。まぁ、ただ私を庇う為だけに結婚すると言っているだけだし、同室になったからといって何もないとは思うけれど……)
「ではハイネ様達と他の男性は私めが案内しましょう! 女性陣は今から来るシスターに案内させますので!」
ジルが心を落ち着かせている間に、ハイネと修道士達の間では話が済んだらしい。
「じゃあまた夕食時に」
「ええ、また後でお会いしましょう」
先に立ち去るハイネ達に手を振るジルに、マルゴットが近寄って来る。
「ジル様、長い一日でしたね。お疲れではありませんか?」
「ちょっと腰が痛むけど、大丈夫よ! ええと、シスターさんは……」
敷地内を見回すと、修道服姿の女性が建物からこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
ジル達の案内人と見て間違いなさそうだ。
「この修道院のシスター、ゾフィーと申します。短い間ではございますが、お世話をさせていただきます」
ジルの近くまで来たシスターは40代くらいの楚々とした女性だった。先程の騒々しい修道士とは対照的だ。
「私はジル・クライネルトと申しますわ。この子は侍女のマルゴット。宜しくお願いしますね」
「マルゴットです。宜しくお願いしますです」
ジルとマルゴットが名乗ると、ゾフィーと名乗る女性は優し気な笑みを浮かべた。
その笑顔に、長旅の疲れが少し癒される様だ。
「お部屋までご案内しますので、お越しくださいませ」
「あの……待ってください」
ゾフィーが2人の先に立って歩き出そうとすると、何故かマルゴットが小声で呼び止めた。
(どうしたのかしら?)
彼女の表情をチラリとみたジルはハッとした。不穏な笑みを浮かべている。こういう笑顔を浮かべている時のマルゴットには注意が必要なのだ。
マルゴットは手に持っていた麻袋に手を突っ込み、ガサゴソと何かを探っている。
「マルゴットさん、どういたしましたか?」
「これを夕食に……」
「まぁ!?」
麻袋から取り出されたのは、絞めたガチョウだった。血抜きしていないのか赤黒い血が鳥の身体を伝い、修道院の敷地を汚す。
(そ、そういえばさっき休憩で立ち寄った公園でマルゴットとバシリーさんが言い争いをしていたわ……。それに鳥が騒ぐ様な鳴き声も……。その原因てもしかして、マルゴットがガチョウを捕まえたからなんじゃ……!?)
一日の最後の光を投げかける夕陽をバックに、ガチョウの首を掴み、可愛らしく微笑むマルゴットは悪魔じみていて恐ろしい。
彼女は時々儀式の為に子羊を生贄にしている。だからこのガチョウを使って何かやらかすつもりなんじゃないかと、ジルは勘繰ってしまった。
ゾフィーは胸の前で何度も十字をきり、何やらかを早口で呟き続ける。
とんでもない光景を前に、ジルはアワワと口を抑える。しかし先に仕掛けたのは自分の侍女だ。自分が何とかする責任があるだろう。
「ガ……ガチョウなんて久し振りだわ!! この修道院には調理出来る者はいらっしゃるかしら!? あ!! そういえばここって、肉は食べれないんでしたわね!! 忘れてたわ! ね、マルゴット!」
ジルが出来るだけ明るく、そして早口で喋り切ると、ゾフィーは顔を顰めた。
「そこの悪……失礼、侍女の方が持って来た死骸は私が預かり、聖水をかけてから処分しますわ」
ゾフィーはマルゴットの手からガチョウと、不自然に膨らむ麻袋を奪い取ってしまった。マルゴットは横暴なゾフィーの行動に腹を立てたらしく、口をへの字に曲げた。
「私のガチョウが……」
「仕方ないわ。マルゴット。ガチョウは諦めましょう」
「はい……」
不貞腐れた表情のマルゴットの頭を撫でているうちにゾフィーが建物に入ってしまった。置いて行かれては困るため、ジルはマルゴットの腕を引き、彼女を追いかける。
修道院の内部は石造りで、幾つもの石柱が立ち並ぶ。夕方で、まだ燭台に火が灯らないこの時間は周囲を見渡し辛い程暗い。細い階段を3階まで上ると、ゾフィーは1つの部屋の前で立ち止まった。
「ジル様の部屋はこちらで、マルゴットさんの部屋は隣です。もうじき夕食ですので、30分後に呼びに来ます。くれぐれも室内では生き物を殺生するような行いはやめてくださいませ」
最後の言葉はきっとマルゴットに向けたものだろうと、彼女を見てみると、立ち去るゾフィーの背に向かって「殺生以外なら許されるの?」等と呟いている。彼女の目的はハッキリした。この修道院という神聖な場所を出来るだけ汚して帰ろうと考えているのだ。
「マルゴットはこの修道院が気に入らないみたいね」
「えぇ……。バザルの村で魔女狩りを煽り、処刑するように仕向けたのはこの修道院の者なんです。ここに滞在するのも何かの縁なので、何らかの爪痕を残します」
マルゴットの言葉は聞き捨てならないものだった。本来であれば、修道士はこの世界の平和の為に祈りを捧げる存在のはずだ。
「なぜそのような事を……?」
「この辺りの村々は信仰の対象を持たない者が割と多いみたいなんです。魔女狩りのお陰で神を信仰するようになった村人もいるかもしれませんね」
(つ、つまり信徒を増やす為って事なの??私達、この修道院に泊まらない方が良かったんじゃないかしら……?)
◇
「別でいい」
恐らくハイネから出来るだけ多額の寄進を集めようという意図があるのだろう。
揉み手で媚びる修道士に、ハイネは冷たい視線を向けていた。
同室という言葉に内心大いに慌てたジルは、ハイネの否定にホッとした。
(ハイネ様が大公と違って常識のある方で良かったわ。まぁ、ただ私を庇う為だけに結婚すると言っているだけだし、同室になったからといって何もないとは思うけれど……)
「ではハイネ様達と他の男性は私めが案内しましょう! 女性陣は今から来るシスターに案内させますので!」
ジルが心を落ち着かせている間に、ハイネと修道士達の間では話が済んだらしい。
「じゃあまた夕食時に」
「ええ、また後でお会いしましょう」
先に立ち去るハイネ達に手を振るジルに、マルゴットが近寄って来る。
「ジル様、長い一日でしたね。お疲れではありませんか?」
「ちょっと腰が痛むけど、大丈夫よ! ええと、シスターさんは……」
敷地内を見回すと、修道服姿の女性が建物からこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
ジル達の案内人と見て間違いなさそうだ。
「この修道院のシスター、ゾフィーと申します。短い間ではございますが、お世話をさせていただきます」
ジルの近くまで来たシスターは40代くらいの楚々とした女性だった。先程の騒々しい修道士とは対照的だ。
「私はジル・クライネルトと申しますわ。この子は侍女のマルゴット。宜しくお願いしますね」
「マルゴットです。宜しくお願いしますです」
ジルとマルゴットが名乗ると、ゾフィーと名乗る女性は優し気な笑みを浮かべた。
その笑顔に、長旅の疲れが少し癒される様だ。
「お部屋までご案内しますので、お越しくださいませ」
「あの……待ってください」
ゾフィーが2人の先に立って歩き出そうとすると、何故かマルゴットが小声で呼び止めた。
(どうしたのかしら?)
彼女の表情をチラリとみたジルはハッとした。不穏な笑みを浮かべている。こういう笑顔を浮かべている時のマルゴットには注意が必要なのだ。
マルゴットは手に持っていた麻袋に手を突っ込み、ガサゴソと何かを探っている。
「マルゴットさん、どういたしましたか?」
「これを夕食に……」
「まぁ!?」
麻袋から取り出されたのは、絞めたガチョウだった。血抜きしていないのか赤黒い血が鳥の身体を伝い、修道院の敷地を汚す。
(そ、そういえばさっき休憩で立ち寄った公園でマルゴットとバシリーさんが言い争いをしていたわ……。それに鳥が騒ぐ様な鳴き声も……。その原因てもしかして、マルゴットがガチョウを捕まえたからなんじゃ……!?)
一日の最後の光を投げかける夕陽をバックに、ガチョウの首を掴み、可愛らしく微笑むマルゴットは悪魔じみていて恐ろしい。
彼女は時々儀式の為に子羊を生贄にしている。だからこのガチョウを使って何かやらかすつもりなんじゃないかと、ジルは勘繰ってしまった。
ゾフィーは胸の前で何度も十字をきり、何やらかを早口で呟き続ける。
とんでもない光景を前に、ジルはアワワと口を抑える。しかし先に仕掛けたのは自分の侍女だ。自分が何とかする責任があるだろう。
「ガ……ガチョウなんて久し振りだわ!! この修道院には調理出来る者はいらっしゃるかしら!? あ!! そういえばここって、肉は食べれないんでしたわね!! 忘れてたわ! ね、マルゴット!」
ジルが出来るだけ明るく、そして早口で喋り切ると、ゾフィーは顔を顰めた。
「そこの悪……失礼、侍女の方が持って来た死骸は私が預かり、聖水をかけてから処分しますわ」
ゾフィーはマルゴットの手からガチョウと、不自然に膨らむ麻袋を奪い取ってしまった。マルゴットは横暴なゾフィーの行動に腹を立てたらしく、口をへの字に曲げた。
「私のガチョウが……」
「仕方ないわ。マルゴット。ガチョウは諦めましょう」
「はい……」
不貞腐れた表情のマルゴットの頭を撫でているうちにゾフィーが建物に入ってしまった。置いて行かれては困るため、ジルはマルゴットの腕を引き、彼女を追いかける。
修道院の内部は石造りで、幾つもの石柱が立ち並ぶ。夕方で、まだ燭台に火が灯らないこの時間は周囲を見渡し辛い程暗い。細い階段を3階まで上ると、ゾフィーは1つの部屋の前で立ち止まった。
「ジル様の部屋はこちらで、マルゴットさんの部屋は隣です。もうじき夕食ですので、30分後に呼びに来ます。くれぐれも室内では生き物を殺生するような行いはやめてくださいませ」
最後の言葉はきっとマルゴットに向けたものだろうと、彼女を見てみると、立ち去るゾフィーの背に向かって「殺生以外なら許されるの?」等と呟いている。彼女の目的はハッキリした。この修道院という神聖な場所を出来るだけ汚して帰ろうと考えているのだ。
「マルゴットはこの修道院が気に入らないみたいね」
「えぇ……。バザルの村で魔女狩りを煽り、処刑するように仕向けたのはこの修道院の者なんです。ここに滞在するのも何かの縁なので、何らかの爪痕を残します」
マルゴットの言葉は聞き捨てならないものだった。本来であれば、修道士はこの世界の平和の為に祈りを捧げる存在のはずだ。
「なぜそのような事を……?」
「この辺りの村々は信仰の対象を持たない者が割と多いみたいなんです。魔女狩りのお陰で神を信仰するようになった村人もいるかもしれませんね」
(つ、つまり信徒を増やす為って事なの??私達、この修道院に泊まらない方が良かったんじゃないかしら……?)
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