42 / 101
謎解きは食卓の上で!
謎解きは食卓の上で!⑥
しおりを挟む
「ハイネ様から聞いたお話ですと、フリュセンでブラウベルクの兵士達の中に、仲間の姿がハーターシュタインの兵士や、獣に見えてしまう症状を訴える者達が出たという事でしたわよね?」
「あぁ」
「バシリーさんから炊事兵の日報をお借りして、兵士達が状態異常になった日の献立だけをまとめてみたんです」
「まぁ、その辺は日報を書いていた炊事兵もやってたな」
ハイネは丸ごと持ってこられたリンゴの皮を剥きながら、ジルの話に相槌を打つ。
「だいたい毎日の様にパン、芋料理、豆のスープ、ザワークラウトは食べていたみたいでしたわね」
「一般兵は保存が利いて、調理が楽なメニューにしているそうだ」
ハイネの他人事の様な話しかたに、ジルは首を傾げた。
「あら? ハイネ様は別メニューですの?」
「俺や、騎士達の中でも部隊長クラスの奴等は村の名士の家を借りて、宮殿から連れて行った料理人の料理を食ってたな」
その回答に、ジルはなるほどと頷く。
「ハイネ様達に出されていたのは白パン等の小麦粉だけで作られた、上流階級用のパンではありませんでした?」
「良く分かったな」
「そして部隊長クラスの方々には幻覚症状は出なかったのですわよね?」
「出てないな。アンタこれ食べるか?」
ハイネはジルの話を聞いたからなのか、微妙な表情をする。でもリンゴとクリームチーズを乗せたライ麦パンのオープンサンドを渡してくれるので、その心情は分かりづらい。
「まぁ! 有難うございます」
さっそく一口齧ってみると、リンゴの甘味と、まったりとしたクリームチーズ、素朴なライ麦の風味が合わさって、幸せな気分になる。
「美味しいですわ。ハイネ様は料理上手なのですわね」
ジルが微笑むと、少し嬉しそうな顔でハイネは自分用のオープンサンドを作り始めた。
「こんなの別に料理の範疇じゃないだろ……。まぁ、そんな事はいいや。話ぶった切って悪かったな。アンタの話をまとめると、白パンを食べ続けてた俺達は、幻覚症状を起こさずに済んだってとこか?」
「ええ。兵士達に出されていたのは長期間保存が効くライ麦比率の高いパンでしたわよね?」
「あれだけの人数全員分のパンを現地で焼くのは不可能だからな。ていうか、……アンタもしかしてその違いだけで幻覚症状の原因がライ麦パンにあると決めつけたわけじゃないよな?」
ハイネにそう言われてしまうと、話を続けようかどうか迷いが生じる。ハイネの様な高貴な人物に、とりとめもないような事を話し続けてもいいのだろうか?
だけど、ハイネの器がどれ程のものなのかを測ってみたいとも思ってしまうジルは、割と性根が悪いのかもしれない。
軽く深呼吸してから口を開く。
「正直なところ、具体的に何が作用してその症状が現れた……とハッキリとした説明は出来ないのですわ。植物図鑑に答えが載っているわけではありませんでしたし……」
「へぇー」
「でも、似た様な現象から類推を重ねていく事は無駄じゃないと思うのです。そこから何か見えてくる事もあるのではないかしら?」
ハイネはテーブルに肘をつき、ジッとジルの話を聞いている。
原因と結果が明確になる様な因果関係を示せない話は彼にとって聞く価値がないのだろうか? 変にドキドキしながら、ハイネの反応を待つ。
「……世の中には、まだ説明が不可能な未知の事象が溢れている。今回の件もそうだな。こういうのを普通の人間は簡単に原因が判明しないからと、放り投げる。だけどそれを、ただの勘レベルでも、原因らしき物を推測して対処する事はこの国を強国にするための道を作る……んだろうな。だからアンタの気概は大事にしたい……かも」
「はい……」
視線は明後日の方向を向いているし、手に持つナイフはリンゴを突き刺したまま止まっている。
でも彼の言葉はたどたどしいながらも、キチンとジルに向き合おうとしている。
ジルはハイネの受け入れてくれる姿勢を信じる事にした。
「あの、ハイネ様、バシリーさんに預けた手紙はもうご覧になりました?」
「……読んだけど。魔女狩りだったか?」
急に話を変えられたと思ったからなのか、ハイネの眉間に皺が寄る。
「えぇ。私の侍女がその村に私用で行ったのですけど、彼女の話によれば、魔女として拘束されている女性が作った料理を食べた者が、悪魔に連れ去られ、業火でその身を焼かれたみたいなのです」
「……幻覚と焼ける様な痛み……」
「ライ麦を多く生産する村で、原因となる物を食べ続けた結果、体内に多く蓄積されて、フリュセンの兵士達よりも重い症状が出た可能性もあるのかもしれませんわ」
「アンタの話、飛び飛びでイラつくけど、つまり2つの事例はどちらもライ麦から引き起こされたと言いたいわけだ?」
自分の話し方でハイネをイラつかせていたのかと、ジルは反省しながら頷いた。
「炊事兵の方に、戦争時に食料をどのようなルートで集めるのか聞いてみようかと思います。もしかしたら魔女狩りが行われている村『バザル』に繋がるかもしれないので」
「なるほどな。バシリー辺りまでなら下資料として食料の収集ルートに関する資料が来てるかもしれないけど……。炊事兵に聞いた方がアレコレ他の事も聞けて楽しめるかもな」
「そう思いますわ!」
「もし炊事兵の裏付けがとれたら、一緒にバザルに行こう」
ハイネの急な提案に、ジルは目を白黒させた。
「私、帝都から出てもいいんですか?」
「俺がついてるから大丈夫だろ。バザルに行って、俺が直接行政指導してやるよ」
ハイネはナイフに突き刺したリンゴを持ち上げ、ニヤニヤしている。あまり碌な事を考えてなさそうだ。
◇
「あぁ」
「バシリーさんから炊事兵の日報をお借りして、兵士達が状態異常になった日の献立だけをまとめてみたんです」
「まぁ、その辺は日報を書いていた炊事兵もやってたな」
ハイネは丸ごと持ってこられたリンゴの皮を剥きながら、ジルの話に相槌を打つ。
「だいたい毎日の様にパン、芋料理、豆のスープ、ザワークラウトは食べていたみたいでしたわね」
「一般兵は保存が利いて、調理が楽なメニューにしているそうだ」
ハイネの他人事の様な話しかたに、ジルは首を傾げた。
「あら? ハイネ様は別メニューですの?」
「俺や、騎士達の中でも部隊長クラスの奴等は村の名士の家を借りて、宮殿から連れて行った料理人の料理を食ってたな」
その回答に、ジルはなるほどと頷く。
「ハイネ様達に出されていたのは白パン等の小麦粉だけで作られた、上流階級用のパンではありませんでした?」
「良く分かったな」
「そして部隊長クラスの方々には幻覚症状は出なかったのですわよね?」
「出てないな。アンタこれ食べるか?」
ハイネはジルの話を聞いたからなのか、微妙な表情をする。でもリンゴとクリームチーズを乗せたライ麦パンのオープンサンドを渡してくれるので、その心情は分かりづらい。
「まぁ! 有難うございます」
さっそく一口齧ってみると、リンゴの甘味と、まったりとしたクリームチーズ、素朴なライ麦の風味が合わさって、幸せな気分になる。
「美味しいですわ。ハイネ様は料理上手なのですわね」
ジルが微笑むと、少し嬉しそうな顔でハイネは自分用のオープンサンドを作り始めた。
「こんなの別に料理の範疇じゃないだろ……。まぁ、そんな事はいいや。話ぶった切って悪かったな。アンタの話をまとめると、白パンを食べ続けてた俺達は、幻覚症状を起こさずに済んだってとこか?」
「ええ。兵士達に出されていたのは長期間保存が効くライ麦比率の高いパンでしたわよね?」
「あれだけの人数全員分のパンを現地で焼くのは不可能だからな。ていうか、……アンタもしかしてその違いだけで幻覚症状の原因がライ麦パンにあると決めつけたわけじゃないよな?」
ハイネにそう言われてしまうと、話を続けようかどうか迷いが生じる。ハイネの様な高貴な人物に、とりとめもないような事を話し続けてもいいのだろうか?
だけど、ハイネの器がどれ程のものなのかを測ってみたいとも思ってしまうジルは、割と性根が悪いのかもしれない。
軽く深呼吸してから口を開く。
「正直なところ、具体的に何が作用してその症状が現れた……とハッキリとした説明は出来ないのですわ。植物図鑑に答えが載っているわけではありませんでしたし……」
「へぇー」
「でも、似た様な現象から類推を重ねていく事は無駄じゃないと思うのです。そこから何か見えてくる事もあるのではないかしら?」
ハイネはテーブルに肘をつき、ジッとジルの話を聞いている。
原因と結果が明確になる様な因果関係を示せない話は彼にとって聞く価値がないのだろうか? 変にドキドキしながら、ハイネの反応を待つ。
「……世の中には、まだ説明が不可能な未知の事象が溢れている。今回の件もそうだな。こういうのを普通の人間は簡単に原因が判明しないからと、放り投げる。だけどそれを、ただの勘レベルでも、原因らしき物を推測して対処する事はこの国を強国にするための道を作る……んだろうな。だからアンタの気概は大事にしたい……かも」
「はい……」
視線は明後日の方向を向いているし、手に持つナイフはリンゴを突き刺したまま止まっている。
でも彼の言葉はたどたどしいながらも、キチンとジルに向き合おうとしている。
ジルはハイネの受け入れてくれる姿勢を信じる事にした。
「あの、ハイネ様、バシリーさんに預けた手紙はもうご覧になりました?」
「……読んだけど。魔女狩りだったか?」
急に話を変えられたと思ったからなのか、ハイネの眉間に皺が寄る。
「えぇ。私の侍女がその村に私用で行ったのですけど、彼女の話によれば、魔女として拘束されている女性が作った料理を食べた者が、悪魔に連れ去られ、業火でその身を焼かれたみたいなのです」
「……幻覚と焼ける様な痛み……」
「ライ麦を多く生産する村で、原因となる物を食べ続けた結果、体内に多く蓄積されて、フリュセンの兵士達よりも重い症状が出た可能性もあるのかもしれませんわ」
「アンタの話、飛び飛びでイラつくけど、つまり2つの事例はどちらもライ麦から引き起こされたと言いたいわけだ?」
自分の話し方でハイネをイラつかせていたのかと、ジルは反省しながら頷いた。
「炊事兵の方に、戦争時に食料をどのようなルートで集めるのか聞いてみようかと思います。もしかしたら魔女狩りが行われている村『バザル』に繋がるかもしれないので」
「なるほどな。バシリー辺りまでなら下資料として食料の収集ルートに関する資料が来てるかもしれないけど……。炊事兵に聞いた方がアレコレ他の事も聞けて楽しめるかもな」
「そう思いますわ!」
「もし炊事兵の裏付けがとれたら、一緒にバザルに行こう」
ハイネの急な提案に、ジルは目を白黒させた。
「私、帝都から出てもいいんですか?」
「俺がついてるから大丈夫だろ。バザルに行って、俺が直接行政指導してやるよ」
ハイネはナイフに突き刺したリンゴを持ち上げ、ニヤニヤしている。あまり碌な事を考えてなさそうだ。
◇
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる