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謎解きは食卓の上で!
謎解きは食卓の上で!②
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『バザル』と書かれたページに興味を引かれ、データを見てみると、小麦の耕作地が近くの村に比べてかなり少ない事が分かる。村の面積自体が狭いのかと地図を広げてみるが、そんな事もないようだ。
(どういう事なのかしら?)
フェーベル教授に尋ねてみようと、チラリと見ると、ちょうど窓を開けようとしていた彼と目が合う。
「どうかしたか?」
「あ、えっと……。少しお聞きしたい事があるのですわ。小麦の収穫量予想の計算とは全く関係ないのですが」
「関係ない事でも構わない。何が聞きたいんだ?」
嫌味の無い教授の笑顔に遠慮する気分が薄れ、ジルは質問を口にする。
「この国では小麦の生産は南部の方が盛んですわよね? でも南部の村でありながら小麦の耕作地の比率が他の村より少ないというのは、どの様な理由があるのか教えていただけませんか?」
フェーベル教授は何故かジルをマジマジと見つめる。
おかしな質問だったかと、ジルは視線を彷徨わせた。
「ジル君は山間部の村の出身と聞いていたけど、かなりの名家に生まれたんだろうね? あまり庶民の暮らしを想像出来ていないようだ」
ジルはハーターシュタイン公国の大貴族の生まれで、大公の正妃だという情報を伏せ、ハイネに与えられた出鱈目な個人情報をヤケクソ気味に利用している。その情報について何か聞かれてもある程度答えられる様にはしていたつもりだったが、ふとした事で、世間知らずっぷりが出てしまう様だ。
「ええと……、この大学院に来るまで私は自宅警備をしていたのですわ。ですので、知らない事が多いんです」
「ああ、なるほどね。それじゃあ仕方ないか」
フェーベル教授はアッサリ納得してくれたようだが、何となくモヤモヤが残る。まぁ、仕方がない事と割り切るべきなのだろう。
「小麦の耕作地の件だけど、様々な理由があるだろう。都市部なら黙ってても様々な種類の食料が集まるから、金さえ払ったら何でも手に入るよね? だけど都市から離れた、交通の便の悪い村だと、周辺の地域だけで食う物を調達しなければならない。そうすると、全部の村で小麦を作るより、何か他の作物を作った方が他の村から金が回って来やすくなると考えるわけだよ」
「なるほど、出来るだけ収益を上げるためなのですのね」
「恐らくね。ちなみにどの村が気になるんだ? 村ごとに生産されている農産物をまとめた資料もあるけど、見るかい?」
フェーベル教授の思わぬ申し出に、ジルは身を乗り出した。ただ興味を満たす為だけに借りるのは申し訳ないとも思うが、是非読んでみたかった。
「『バザル』という村です! 資料があるなら見せていただきたいですわ」
「ああ、マルゴット君が行っていた村か。君達は本当に仲がいいな。ちょっと待ってて」
彼は本棚の中段からかなり分厚い冊子を取り出し、ジルの机に置いてくれた。
「この冊子の『B』の付箋から村を探せると思う。僕はこれから講義をしに行かないといけないんだけど、読み終わったら冊子を僕の机に置いてくれたらいいから」
冊子にはきちんとアルファベット順に付箋が貼られてあり、探しやすくなっていた。ジルはフェーベル教授に感謝してにこりと微笑む。
「有難うございます教授。行ってらっしゃいませ!」
ヒラヒラと手を振り出て行くフェーベル教授を見送り、ジルは『B』の付箋から『バザル』が載っているページを探し出す。
この冊子は村ごとに生産されている農産物の中でも、村人達だけで消費する作物は除き、商業用の作物に絞った様なまとめ方をされていた。
バザル村では、一番多く作られているのが小麦で、2番目はライ麦、3番目は大麦、と続き、エン麦、養豚等にも手を付けているのが見て取れた。他のページに載っている別の村と比べてみても、扱っている商業用の農産物の種類が多い。
(フェーベル教授は、他の村と違う作物を作る事で、交易による収益を得やすくするとおっしゃっていたけど、これだけ沢山の物を作っていると、自分の村だけで何もかも揃ってしまう村人が多くなりそうよね)
商業用の作物に加えて個人の畑で作っている作物の事も考えると、村の中だけで生活に必要なだけの食料が賄えるかもしれない。外と関わるのはごく一部の村人だけに限られるなら、閉鎖的な環境になりやすいのが、透けて見える様な気がした。
◇
マルゴットは昼になっても戻って来る事はなく、夕方頃にようやく研究室に入って来た。
「ジル様、遅くなってしまって申し訳ありません」
急いで来たらしく、彼女の薄茶色のネコッ毛がボサボサになっている。マルゴットは一生懸命前髪を整えながらジルにペコリと頭を下げた。
(どういう事なのかしら?)
フェーベル教授に尋ねてみようと、チラリと見ると、ちょうど窓を開けようとしていた彼と目が合う。
「どうかしたか?」
「あ、えっと……。少しお聞きしたい事があるのですわ。小麦の収穫量予想の計算とは全く関係ないのですが」
「関係ない事でも構わない。何が聞きたいんだ?」
嫌味の無い教授の笑顔に遠慮する気分が薄れ、ジルは質問を口にする。
「この国では小麦の生産は南部の方が盛んですわよね? でも南部の村でありながら小麦の耕作地の比率が他の村より少ないというのは、どの様な理由があるのか教えていただけませんか?」
フェーベル教授は何故かジルをマジマジと見つめる。
おかしな質問だったかと、ジルは視線を彷徨わせた。
「ジル君は山間部の村の出身と聞いていたけど、かなりの名家に生まれたんだろうね? あまり庶民の暮らしを想像出来ていないようだ」
ジルはハーターシュタイン公国の大貴族の生まれで、大公の正妃だという情報を伏せ、ハイネに与えられた出鱈目な個人情報をヤケクソ気味に利用している。その情報について何か聞かれてもある程度答えられる様にはしていたつもりだったが、ふとした事で、世間知らずっぷりが出てしまう様だ。
「ええと……、この大学院に来るまで私は自宅警備をしていたのですわ。ですので、知らない事が多いんです」
「ああ、なるほどね。それじゃあ仕方ないか」
フェーベル教授はアッサリ納得してくれたようだが、何となくモヤモヤが残る。まぁ、仕方がない事と割り切るべきなのだろう。
「小麦の耕作地の件だけど、様々な理由があるだろう。都市部なら黙ってても様々な種類の食料が集まるから、金さえ払ったら何でも手に入るよね? だけど都市から離れた、交通の便の悪い村だと、周辺の地域だけで食う物を調達しなければならない。そうすると、全部の村で小麦を作るより、何か他の作物を作った方が他の村から金が回って来やすくなると考えるわけだよ」
「なるほど、出来るだけ収益を上げるためなのですのね」
「恐らくね。ちなみにどの村が気になるんだ? 村ごとに生産されている農産物をまとめた資料もあるけど、見るかい?」
フェーベル教授の思わぬ申し出に、ジルは身を乗り出した。ただ興味を満たす為だけに借りるのは申し訳ないとも思うが、是非読んでみたかった。
「『バザル』という村です! 資料があるなら見せていただきたいですわ」
「ああ、マルゴット君が行っていた村か。君達は本当に仲がいいな。ちょっと待ってて」
彼は本棚の中段からかなり分厚い冊子を取り出し、ジルの机に置いてくれた。
「この冊子の『B』の付箋から村を探せると思う。僕はこれから講義をしに行かないといけないんだけど、読み終わったら冊子を僕の机に置いてくれたらいいから」
冊子にはきちんとアルファベット順に付箋が貼られてあり、探しやすくなっていた。ジルはフェーベル教授に感謝してにこりと微笑む。
「有難うございます教授。行ってらっしゃいませ!」
ヒラヒラと手を振り出て行くフェーベル教授を見送り、ジルは『B』の付箋から『バザル』が載っているページを探し出す。
この冊子は村ごとに生産されている農産物の中でも、村人達だけで消費する作物は除き、商業用の作物に絞った様なまとめ方をされていた。
バザル村では、一番多く作られているのが小麦で、2番目はライ麦、3番目は大麦、と続き、エン麦、養豚等にも手を付けているのが見て取れた。他のページに載っている別の村と比べてみても、扱っている商業用の農産物の種類が多い。
(フェーベル教授は、他の村と違う作物を作る事で、交易による収益を得やすくするとおっしゃっていたけど、これだけ沢山の物を作っていると、自分の村だけで何もかも揃ってしまう村人が多くなりそうよね)
商業用の作物に加えて個人の畑で作っている作物の事も考えると、村の中だけで生活に必要なだけの食料が賄えるかもしれない。外と関わるのはごく一部の村人だけに限られるなら、閉鎖的な環境になりやすいのが、透けて見える様な気がした。
◇
マルゴットは昼になっても戻って来る事はなく、夕方頃にようやく研究室に入って来た。
「ジル様、遅くなってしまって申し訳ありません」
急いで来たらしく、彼女の薄茶色のネコッ毛がボサボサになっている。マルゴットは一生懸命前髪を整えながらジルにペコリと頭を下げた。
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