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入試と体形変化
入試と体形変化⑧
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テオドール大公と結婚してからというもの、ブチギレそうな感覚を味わうのは、これで何度目なのか分からない。
オイゲンの居たたまれないような様子をみて、ジルは余計に感情が制御できなくなってしまう。
「もう……もう、本当に腹が立ってしまいますわ! 今すぐに離縁したくなります!」
「ジル様、テオドール大公の手紙を貸してください。悪魔の火にくべ、呪詛をかけます」
いつのまにやら戻っていたマルゴットがジルの前にティーカップを置き、手紙を受取ろうと手を差し出した。
「マルゴット、私……、あの人を許さないわ……!」
「ジル様……、ようやく決意なさったんですね。その言葉を待っていたんです。私もお手伝いします。まずはその手紙をお渡しください」
ジルはマルゴットとしっかり手を握り合うように、大公の手紙を渡した。
「頼んだわよ!」
「この時まで練り上げた取って置きの術があります。任せてください」
ジルとマルゴットは、目を白黒させるオイゲンの前で邪悪な笑みを浮かべた。
自分の持てる力で、テオドール大公を追い詰めてやりたいと思う。
その為にはこの国になる事をするのが有効なのではないだろうか? つまりブラウベルク帝国の国力を上げる助力をして、間接的に復讐するのだ。
しかし、今のジルでは微力すぎる。
(やっぱり私大学院に行かないといけないわ……。そこで専門的に学び、この国の弱さを植物学の点から強化したい)
実家の両親の事を、考えないわけではなかった。でもジルがブラウベルク帝国に送られてから一度も手紙を送ってこないというのは――捨てられたという事なんだろう。
気持ちを切り替える時がきたのだ。
時間がかかるかもしれない。でも自分を助けてくれたハイネへの恩返しと、テオドールに対して自分のやり方で追い詰めてやろうという決意を固めるのだった。
◇
「我が国では風土的に長い不作に陥る事が多かった。その為、つい100年程前までは我が子を捨てたり、老いた実の親を捨てる等の悲劇もあった……。我々はその様な歴史を繰り返さぬため、日々研究に励まなければならないのだよ」
4月にジルは大学院に編入し、植物学を研究するフェーベル教授のゼミで研究を行える様になった。『小麦の収量増大』について現在論文を執筆中のフェーベル教授は30代で、精悍な顔立ちに灰色の髪、ガッシリとした体つきの男性だ。
大学院で学ぶために学部で備えておかなければならなかった基礎的な知識を、事前に教授に聞きに行き、ジルは勧められた専門書を読み込んでいた。
マルゴットも同じゼミに入る事になったのだが、彼女は入試の時にも言っていた黒魔術サークルに興味津々の様で、挨拶のために特別棟地下に行ってしまい、ジルは一人で研究棟に来ていた。
胡散臭い道具や、資料で溢れかえっているこの研究室はただ居るだけでも楽しい。
「やはりこの国は場所的に食物に厳しい土地なのですわね。飢饉による子捨てに関してはブラウベルクの童話としてハーターシュタイン公国にも伝わっていますわ」
「生きて行くだけでも厳しい我が国の状況が童話として世界中に伝わるのは、国の基盤が弱いという事を知らしめているわけだから、上の人間はあまり望ましいと思っていないだろうな」
「この国にはこの国独自の良さがあると思うんです。生き辛い環境ならそれを変えていけばいいのですわ」
「その通りだね。いきなりで悪いんだけど、君にはこの各地から送られてきた昨年の小麦の収穫量の記録をまとめてもらおうか。地名と収穫量をtトンで表を作ってくれたまえ」
フェーベル教授が研究室の隅を指さす。
そこには一抱えもある木箱が山の様に積まれていた。
「お、多いですわね……」
「3日間くらいで頼むよ!」
「了解いたしましたわ」
ブラウベルク帝国の為に植物学を研究しようと思ったのだが、今は下積みを頑張るしかなさそうだ。ジルは気合を入れ直して木箱の中身と格闘を始めた。
オイゲンの居たたまれないような様子をみて、ジルは余計に感情が制御できなくなってしまう。
「もう……もう、本当に腹が立ってしまいますわ! 今すぐに離縁したくなります!」
「ジル様、テオドール大公の手紙を貸してください。悪魔の火にくべ、呪詛をかけます」
いつのまにやら戻っていたマルゴットがジルの前にティーカップを置き、手紙を受取ろうと手を差し出した。
「マルゴット、私……、あの人を許さないわ……!」
「ジル様……、ようやく決意なさったんですね。その言葉を待っていたんです。私もお手伝いします。まずはその手紙をお渡しください」
ジルはマルゴットとしっかり手を握り合うように、大公の手紙を渡した。
「頼んだわよ!」
「この時まで練り上げた取って置きの術があります。任せてください」
ジルとマルゴットは、目を白黒させるオイゲンの前で邪悪な笑みを浮かべた。
自分の持てる力で、テオドール大公を追い詰めてやりたいと思う。
その為にはこの国になる事をするのが有効なのではないだろうか? つまりブラウベルク帝国の国力を上げる助力をして、間接的に復讐するのだ。
しかし、今のジルでは微力すぎる。
(やっぱり私大学院に行かないといけないわ……。そこで専門的に学び、この国の弱さを植物学の点から強化したい)
実家の両親の事を、考えないわけではなかった。でもジルがブラウベルク帝国に送られてから一度も手紙を送ってこないというのは――捨てられたという事なんだろう。
気持ちを切り替える時がきたのだ。
時間がかかるかもしれない。でも自分を助けてくれたハイネへの恩返しと、テオドールに対して自分のやり方で追い詰めてやろうという決意を固めるのだった。
◇
「我が国では風土的に長い不作に陥る事が多かった。その為、つい100年程前までは我が子を捨てたり、老いた実の親を捨てる等の悲劇もあった……。我々はその様な歴史を繰り返さぬため、日々研究に励まなければならないのだよ」
4月にジルは大学院に編入し、植物学を研究するフェーベル教授のゼミで研究を行える様になった。『小麦の収量増大』について現在論文を執筆中のフェーベル教授は30代で、精悍な顔立ちに灰色の髪、ガッシリとした体つきの男性だ。
大学院で学ぶために学部で備えておかなければならなかった基礎的な知識を、事前に教授に聞きに行き、ジルは勧められた専門書を読み込んでいた。
マルゴットも同じゼミに入る事になったのだが、彼女は入試の時にも言っていた黒魔術サークルに興味津々の様で、挨拶のために特別棟地下に行ってしまい、ジルは一人で研究棟に来ていた。
胡散臭い道具や、資料で溢れかえっているこの研究室はただ居るだけでも楽しい。
「やはりこの国は場所的に食物に厳しい土地なのですわね。飢饉による子捨てに関してはブラウベルクの童話としてハーターシュタイン公国にも伝わっていますわ」
「生きて行くだけでも厳しい我が国の状況が童話として世界中に伝わるのは、国の基盤が弱いという事を知らしめているわけだから、上の人間はあまり望ましいと思っていないだろうな」
「この国にはこの国独自の良さがあると思うんです。生き辛い環境ならそれを変えていけばいいのですわ」
「その通りだね。いきなりで悪いんだけど、君にはこの各地から送られてきた昨年の小麦の収穫量の記録をまとめてもらおうか。地名と収穫量をtトンで表を作ってくれたまえ」
フェーベル教授が研究室の隅を指さす。
そこには一抱えもある木箱が山の様に積まれていた。
「お、多いですわね……」
「3日間くらいで頼むよ!」
「了解いたしましたわ」
ブラウベルク帝国の為に植物学を研究しようと思ったのだが、今は下積みを頑張るしかなさそうだ。ジルは気合を入れ直して木箱の中身と格闘を始めた。
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