上 下
11 / 101
早くも離婚!?

早くも離婚!?⑧

しおりを挟む
「で、でも……、私が大公に離縁状を送ったとしても、何の意味もないのですわ。同盟を向こうから破棄させる事なんか出来ない」

 歩くのが速いハイネに付いていくには、必死に足を動かさなければならず、ジルは呼吸がきつくなる。

「いーや、大公の正妃という事は、国を代表する事でもある。そんな女を他国に取られたら、国民感情が揺さぶられる。その声に背く事は出来ない」

「それを言うなら、もし侵略に成功しても、その憎しみは全部貴方に向くんじゃないですの?」

「俺はただ一言、ハーターシュタイン出身のアンタを愛してるから欲しくなったと、そう言えば済む話なんだけど」

「そ、そんな嘘を……!」

「嘘になるか本当になるかはアンタしだいでしょ。それとさ、なーんか誤解してるみたいだから、訂正しておこうかな」

 エントランスで急に立ち止まったハイネにぶつかりそうになる。
 ハイネは慌てて距離を取るジルに対して可哀そうなモノでもみるかのような表情をした。

「アンタさっき、バカンス地目的でブラウベルク帝国はハーターシュタインに戦争を仕掛けるって言ってたよな?」

「バカンス地云々はハイネ様がおっしゃったのですわ!」

「あれ? こ、細かい事はどうでもいいんだよ!」

「はぁ……」

「公国内で伝わる歴史は一部歪められてるんじゃないかと思ったんだ。アンタは公爵家の令嬢なんだから、それなりの教育を受けてると思うけど、過去何度かあったブラウベルク帝国とハーターシュタイン公国の戦争のうち4回は公国側から仕掛けているって事を知ってるか?」

「え……、初耳ですわ。7回戦争していますけど、その話が本当でしたら、私の国から仕掛けた事が多い事になるのでは?」

「やっぱり、歴史が改ざんされてんだな。ブラウベルク南端の村フリュセンは山があるんだけど、そこにはハーターシュタイン公国に流れる大河の水源がある。大河の水を生活水とするハーターシュタインは、昔からブラウベルクから仕込まれるかもしれない毒に怯えながら生きてきたわけ。だから、あいつ等は隙あらばブラウベルク帝国からフリュセンを奪おうと考えている。だから今回も――」

「私が奪われたという理由を付けて、公国側から戦争を仕掛ける可能性もあるという事ですの?」

「そういう事。ウチから攻めるか、向うから攻めて来るか……どちらにしても負けるつもりなんてない。親父か俺、どちらにしても必ずこの大陸を統合して一つの国家にする。アンタは使い勝手のいい最高の火種なんだよ」

 開け放した扉から差し込む日差しを背に立つハイネは、その瞳をギラギラと輝かせる。
 ジルは彼の苛烈な野心に焼かれ、その場で消し炭になってしまいそうな感覚になった。


 馬に向かって歩くハイネは「あっ!」と振り返った。

「そーだ。弟の事だけど、開戦時には公国の間者にでも生け捕りにするよう頼むんだ」

「生け捕り……」

「アンタの心配する事じゃないって事。はー、喋りすぎて舌が凝った。じゃーなジル。後は俺達に全て任せて昼寝でもしててくれ」

 ハイネはヒラリと手をふり、去って行った。

「何て人なの……。でも弟君の事は助けるおつもりなのね……」

 ジルがサロンに戻ると、離宮の使用人達は、顔を強張らせて出て行く。
 恐らくハイネとのやり取りを聞き、面倒事に巻き込まれたくないと思ったに違いない。

(今は1人になりたいから、ちょうどいいかもしれないわ……)

 しかしハイネとの話に疲弊しきったジルは、一人になっても昼食に手を付ける気になれなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

処理中です...