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早くも離婚!?
早くも離婚!?⑧
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「で、でも……、私が大公に離縁状を送ったとしても、何の意味もないのですわ。同盟を向こうから破棄させる事なんか出来ない」
歩くのが速いハイネに付いていくには、必死に足を動かさなければならず、ジルは呼吸がきつくなる。
「いーや、大公の正妃という事は、国を代表する事でもある。そんな女を他国に取られたら、国民感情が揺さぶられる。その声に背く事は出来ない」
「それを言うなら、もし侵略に成功しても、その憎しみは全部貴方に向くんじゃないですの?」
「俺はただ一言、ハーターシュタイン出身のアンタを愛してるから欲しくなったと、そう言えば済む話なんだけど」
「そ、そんな嘘を……!」
「嘘になるか本当になるかはアンタしだいでしょ。それとさ、なーんか誤解してるみたいだから、訂正しておこうかな」
エントランスで急に立ち止まったハイネにぶつかりそうになる。
ハイネは慌てて距離を取るジルに対して可哀そうなモノでもみるかのような表情をした。
「アンタさっき、バカンス地目的でブラウベルク帝国はハーターシュタインに戦争を仕掛けるって言ってたよな?」
「バカンス地云々はハイネ様がおっしゃったのですわ!」
「あれ? こ、細かい事はどうでもいいんだよ!」
「はぁ……」
「公国内で伝わる歴史は一部歪められてるんじゃないかと思ったんだ。アンタは公爵家の令嬢なんだから、それなりの教育を受けてると思うけど、過去何度かあったブラウベルク帝国とハーターシュタイン公国の戦争のうち4回は公国側から仕掛けているって事を知ってるか?」
「え……、初耳ですわ。7回戦争していますけど、その話が本当でしたら、私の国から仕掛けた事が多い事になるのでは?」
「やっぱり、歴史が改ざんされてんだな。ブラウベルク南端の村フリュセンは山があるんだけど、そこにはハーターシュタイン公国に流れる大河の水源がある。大河の水を生活水とするハーターシュタインは、昔からブラウベルクから仕込まれるかもしれない毒に怯えながら生きてきたわけ。だから、あいつ等は隙あらばブラウベルク帝国からフリュセンを奪おうと考えている。だから今回も――」
「私が奪われたという理由を付けて、公国側から戦争を仕掛ける可能性もあるという事ですの?」
「そういう事。ウチから攻めるか、向うから攻めて来るか……どちらにしても負けるつもりなんてない。親父か俺、どちらにしても必ずこの大陸を統合して一つの国家にする。アンタは使い勝手のいい最高の火種なんだよ」
開け放した扉から差し込む日差しを背に立つハイネは、その瞳をギラギラと輝かせる。
ジルは彼の苛烈な野心に焼かれ、その場で消し炭になってしまいそうな感覚になった。
馬に向かって歩くハイネは「あっ!」と振り返った。
「そーだ。弟の事だけど、開戦時には公国の間者にでも生け捕りにするよう頼むんだ」
「生け捕り……」
「アンタの心配する事じゃないって事。はー、喋りすぎて舌が凝った。じゃーなジル。後は俺達に全て任せて昼寝でもしててくれ」
ハイネはヒラリと手をふり、去って行った。
「何て人なの……。でも弟君の事は助けるおつもりなのね……」
ジルがサロンに戻ると、離宮の使用人達は、顔を強張らせて出て行く。
恐らくハイネとのやり取りを聞き、面倒事に巻き込まれたくないと思ったに違いない。
(今は1人になりたいから、ちょうどいいかもしれないわ……)
しかしハイネとの話に疲弊しきったジルは、一人になっても昼食に手を付ける気になれなかった。
歩くのが速いハイネに付いていくには、必死に足を動かさなければならず、ジルは呼吸がきつくなる。
「いーや、大公の正妃という事は、国を代表する事でもある。そんな女を他国に取られたら、国民感情が揺さぶられる。その声に背く事は出来ない」
「それを言うなら、もし侵略に成功しても、その憎しみは全部貴方に向くんじゃないですの?」
「俺はただ一言、ハーターシュタイン出身のアンタを愛してるから欲しくなったと、そう言えば済む話なんだけど」
「そ、そんな嘘を……!」
「嘘になるか本当になるかはアンタしだいでしょ。それとさ、なーんか誤解してるみたいだから、訂正しておこうかな」
エントランスで急に立ち止まったハイネにぶつかりそうになる。
ハイネは慌てて距離を取るジルに対して可哀そうなモノでもみるかのような表情をした。
「アンタさっき、バカンス地目的でブラウベルク帝国はハーターシュタインに戦争を仕掛けるって言ってたよな?」
「バカンス地云々はハイネ様がおっしゃったのですわ!」
「あれ? こ、細かい事はどうでもいいんだよ!」
「はぁ……」
「公国内で伝わる歴史は一部歪められてるんじゃないかと思ったんだ。アンタは公爵家の令嬢なんだから、それなりの教育を受けてると思うけど、過去何度かあったブラウベルク帝国とハーターシュタイン公国の戦争のうち4回は公国側から仕掛けているって事を知ってるか?」
「え……、初耳ですわ。7回戦争していますけど、その話が本当でしたら、私の国から仕掛けた事が多い事になるのでは?」
「やっぱり、歴史が改ざんされてんだな。ブラウベルク南端の村フリュセンは山があるんだけど、そこにはハーターシュタイン公国に流れる大河の水源がある。大河の水を生活水とするハーターシュタインは、昔からブラウベルクから仕込まれるかもしれない毒に怯えながら生きてきたわけ。だから、あいつ等は隙あらばブラウベルク帝国からフリュセンを奪おうと考えている。だから今回も――」
「私が奪われたという理由を付けて、公国側から戦争を仕掛ける可能性もあるという事ですの?」
「そういう事。ウチから攻めるか、向うから攻めて来るか……どちらにしても負けるつもりなんてない。親父か俺、どちらにしても必ずこの大陸を統合して一つの国家にする。アンタは使い勝手のいい最高の火種なんだよ」
開け放した扉から差し込む日差しを背に立つハイネは、その瞳をギラギラと輝かせる。
ジルは彼の苛烈な野心に焼かれ、その場で消し炭になってしまいそうな感覚になった。
馬に向かって歩くハイネは「あっ!」と振り返った。
「そーだ。弟の事だけど、開戦時には公国の間者にでも生け捕りにするよう頼むんだ」
「生け捕り……」
「アンタの心配する事じゃないって事。はー、喋りすぎて舌が凝った。じゃーなジル。後は俺達に全て任せて昼寝でもしててくれ」
ハイネはヒラリと手をふり、去って行った。
「何て人なの……。でも弟君の事は助けるおつもりなのね……」
ジルがサロンに戻ると、離宮の使用人達は、顔を強張らせて出て行く。
恐らくハイネとのやり取りを聞き、面倒事に巻き込まれたくないと思ったに違いない。
(今は1人になりたいから、ちょうどいいかもしれないわ……)
しかしハイネとの話に疲弊しきったジルは、一人になっても昼食に手を付ける気になれなかった。
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