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早くも離婚!?
早くも離婚!?⑤
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「ハイネ様は次期皇帝として甘やかされて育ってきたんです! なのに、昨日の貴女ときたら……。可哀そうだと思いませんか!? コルト様の事だって、ハイネ様は本当は胸を痛めていたのにっ!」
翌日朝早くに離宮を訪れたバシリーは顔を真っ赤にしてジルを非難する。
「あの様に酷い言葉をかけられたのに、黙っているべきだったとおっしゃるのですか?」
「その通りです。ご自分の立場を考えてください。というか、ハイネ様と貴女の結婚は、あの方のご温情なのですよ。皇帝は貴女を切り捨てよと命じられたのに、代替案を出されたのはハイネ様だったんです。なのに貴女ときたら!」
「嘘……、私殺される予定でしたの?」
「もう分かりましたね? 大人しくここで離縁状にサインしてください」
バシリーは苛立った様にジルに書類を突き付けてきた。
改めて人質という立場の危うさを思い、ジルの胸は不安で押しつぶされそうになる。
(どうしよう……、この人が言うように離縁状を書いたら、戦争が始まる? そうしたら公国内はまた荒れてしまうわ。それにお父様は……)
大公にジルを売った父も、アレはアレで優しい部分はあったし、面白い人だった。
ジルが帝国に寝返ったと知れたら、父はただでは済まないだろう。
「ハイネ様の事を考慮しなくても、すぐに書ける程軽い内容ではないですわ……」
震える声を振り絞って告げたジルに、バシリーは呆れたようだ。
「ご自分の事を第一にお考えになったほうがいいですよ。下手な事を言えば貴女の命はすぐに吹き飛んでしまうんですからね。それに離縁状だって、代筆可能ですので」
「……」
「ハイネ様は優秀ですし、決断力もあります。将来必ずこの大陸を制覇するお方ですよ。妃になれる事をお喜びくださいませ!」
「でも私……バツイチになる覚悟もしなければいけませんし」
「そんな事些細な事ですよね! 話にならない。この書類は置いて行くので、次に私が来るまでにサインしておいてくださいね」
バシリーはジルに苛立ちをぶつけ、さっさと立ち去ってしまった。
彼の置いて行った書類を見ると、内容は大公と離縁する意志を表明するもので、一番下にジルがサインすればいい様だ。
「なかなか厄介な事になってますね……」
マルゴットがジルのカップにお茶を注ぎ、心配そうに声をかけてくれる。
「また戦争がはじまると思うと、簡単に決断できないわ。どうしたらいいのかしら……。とは言っても私に選択肢なんかないのだけど」
「ハイネ様を呪い殺しますか?」
「駄目よ! あなたが捕まってしまう事になるわ!」
「そうですか?」
マルゴットは残念そうに舌打ちした。
◇
バシリーの訪問に精神をすり減らしたジルだったが、この日はこれだけで終わらなかった。
昼食を用意される時間の少し前に現れた人物に、離宮は大騒ぎになった。
「よぉ、昨日ぶりだな」
「ハ、ハイネ様!?」
離宮の使用人に連れて来られたサロンのカウチにふんぞり返っていたのはハイネ・クロイツァーだった。今日のハイネはやや影があり、ちょうどいい塩梅に繊細な美少年に見える。
彼の姿を見たジルは回れ右して、逃げ出したが、悲しい程に足が遅く、追いかけて来たハイネに捕らわれてしまう。
「昨日の仕返しにいらっしゃったのですか?」
「仕返し?」
「私が頬を摘まみ上げたから……」
「っ!! 俺が女に一度や二度頬を虐げられたからといって、仕返しするような男に見えるのか!?」
「は、はい!」
「なに!?」
驚いた顔をしたハイネの隙をつき、ジルは掴まれていた手を引き抜き、再び逃げようとする。
「逃げるな! お前と話をしに来たんだ」
「暴力は振るいませんか?」
「ああ、俺はお前みたいな野蛮人ではないから理不尽な暴力は振るわない」
そう言われてしまうと、黙り込むしかない。昨日の行動はけして褒められた事ではないのだから……。
「今日は俺もここで昼食をとる。サロンに戻るぞ」
「はい……」
翌日朝早くに離宮を訪れたバシリーは顔を真っ赤にしてジルを非難する。
「あの様に酷い言葉をかけられたのに、黙っているべきだったとおっしゃるのですか?」
「その通りです。ご自分の立場を考えてください。というか、ハイネ様と貴女の結婚は、あの方のご温情なのですよ。皇帝は貴女を切り捨てよと命じられたのに、代替案を出されたのはハイネ様だったんです。なのに貴女ときたら!」
「嘘……、私殺される予定でしたの?」
「もう分かりましたね? 大人しくここで離縁状にサインしてください」
バシリーは苛立った様にジルに書類を突き付けてきた。
改めて人質という立場の危うさを思い、ジルの胸は不安で押しつぶされそうになる。
(どうしよう……、この人が言うように離縁状を書いたら、戦争が始まる? そうしたら公国内はまた荒れてしまうわ。それにお父様は……)
大公にジルを売った父も、アレはアレで優しい部分はあったし、面白い人だった。
ジルが帝国に寝返ったと知れたら、父はただでは済まないだろう。
「ハイネ様の事を考慮しなくても、すぐに書ける程軽い内容ではないですわ……」
震える声を振り絞って告げたジルに、バシリーは呆れたようだ。
「ご自分の事を第一にお考えになったほうがいいですよ。下手な事を言えば貴女の命はすぐに吹き飛んでしまうんですからね。それに離縁状だって、代筆可能ですので」
「……」
「ハイネ様は優秀ですし、決断力もあります。将来必ずこの大陸を制覇するお方ですよ。妃になれる事をお喜びくださいませ!」
「でも私……バツイチになる覚悟もしなければいけませんし」
「そんな事些細な事ですよね! 話にならない。この書類は置いて行くので、次に私が来るまでにサインしておいてくださいね」
バシリーはジルに苛立ちをぶつけ、さっさと立ち去ってしまった。
彼の置いて行った書類を見ると、内容は大公と離縁する意志を表明するもので、一番下にジルがサインすればいい様だ。
「なかなか厄介な事になってますね……」
マルゴットがジルのカップにお茶を注ぎ、心配そうに声をかけてくれる。
「また戦争がはじまると思うと、簡単に決断できないわ。どうしたらいいのかしら……。とは言っても私に選択肢なんかないのだけど」
「ハイネ様を呪い殺しますか?」
「駄目よ! あなたが捕まってしまう事になるわ!」
「そうですか?」
マルゴットは残念そうに舌打ちした。
◇
バシリーの訪問に精神をすり減らしたジルだったが、この日はこれだけで終わらなかった。
昼食を用意される時間の少し前に現れた人物に、離宮は大騒ぎになった。
「よぉ、昨日ぶりだな」
「ハ、ハイネ様!?」
離宮の使用人に連れて来られたサロンのカウチにふんぞり返っていたのはハイネ・クロイツァーだった。今日のハイネはやや影があり、ちょうどいい塩梅に繊細な美少年に見える。
彼の姿を見たジルは回れ右して、逃げ出したが、悲しい程に足が遅く、追いかけて来たハイネに捕らわれてしまう。
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「っ!! 俺が女に一度や二度頬を虐げられたからといって、仕返しするような男に見えるのか!?」
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「暴力は振るいませんか?」
「ああ、俺はお前みたいな野蛮人ではないから理不尽な暴力は振るわない」
そう言われてしまうと、黙り込むしかない。昨日の行動はけして褒められた事ではないのだから……。
「今日は俺もここで昼食をとる。サロンに戻るぞ」
「はい……」
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