上 下
5 / 101
早くも離婚!?

早くも離婚!?②

しおりを挟む
「もう終わってしまったわ」

「助かりましたぜ」

 トレイに整然と並ぶ薔薇の枝を見ると多少の満足感があるし、これから根づくのも楽しみだ。でも作業が簡単すぎて、これから1日どうやって過ごそうかとジルはため息を吐く。

「ジル様、先程おっしゃっていた事をお願いしてみては?」

「あ! そうだったわ。良く思い出してくれたわね」

 マルゴットに促され、ジルはモリッツへの頼み事を思い出した。

「ねぇ、モリッツ。私も何か植えてみてもいいかしら? 人質としてこの国に来た身なのに厚かましいのだけど」

「勿論構いませんよ」

「まぁ! 嬉しいわ。有難う!」

「植える物の種類は決まっているので?」

「決まってはいないわ。う~ん……。何がいいのかしら」

「ユックリ悩んだらいいですよ。必要な種が決まれば俺が取り寄せますからね」

「本当に有難う。考えてみるわね!」

――コンコンコン

 温室のドアをノックする音が響く。

「お、誰だ? ちょっと出てきますんで」

「ええ」

 使用人の誰かだろうかと様子を伺ってみると、役人の制服を着た男が立っていた。

「ここにジル様はいるか?」

「へぇ……いますが……」

 モリッツが顔を強張らせてジルの方を振り返る。

(もしかしたら、温室に通っている事を咎められるのかしら?)

「私に何か御用ですの?」

 楽しみを取り上げられるのだろうかと、不安になりながらもジルは役人に近付く。

「ええ、第1皇子ハイネ様が貴女をお呼びするようにと」

「ハイネ様が? 一体どうして……」

「そのままの服装でよろしいので、私に付いて来てください」

「はい……」

 口答え出来る様な立場でもないため、ジルは頷くしかない。
 というか、この国の最も高貴な血筋の者と会うというのに、作業用のドレスで行かなければならないという事に憂鬱になる。

「モリッツ、有難う。また来るわね」

「お待ちしてますよ」

 優しいモリッツに見送られながら庭園を後にし、ジルとマルゴットは、役人に馬車に乗るよう指示される。

(一体何の用なのかしら? 温室への出入りを禁ずるためだけにわざわざ皇子が呼びつけるとも思えないし)

 ジルは、帝国に人質として連れて来られた日のハイネの態度を思い出し、暗澹たる気分になる。

(私の脂肪を切り刻みがいが有りそうと言っていたわよね……。まさか実行する気なんじゃ!?)

「マルゴット、どうしよう。ハイネ様は私の腹を切るつもりかもしれないわ」

「ジル様の内臓が見られるのですね……」

「!? 怖い事言わないでちょうだい!」

 恍惚とした表情のマルゴットに恐れを抱く。

「申し訳ありません。もし良かったら、私の蔵書を腹に仕込んでくださいませ」

 どこに隠し持っていたのか、マルゴットは黒い表紙の本を差し出してきた。よく見ると骸骨のマークが印刷されている。

「これは一体……?」

「黒魔術の本ですわ。それを腹に仕込み、切らせる。相手は本の呪いで死ぬ。これでいきましょう」

「何を言っているの!? それじゃあ暗殺じゃない! 返すわ!」

「いい機会だから試してほしいのです!」

「そんな事出来るわけないじゃない!」

 本を返そうとするジルと、押し戻そうとするマルゴットの間で本はピョンと飛び跳ね、顔を青くする役人の膝の上に落ちてしまった。

「ヒイイイイイ!?」

 役人は叫び、本を窓の外に投げ捨ててしまった。

「ああ!? 私の宝物が!」

 馬車の外に飛び出ようとするマルゴットをジルは必死に止める。デブのジルにとって、針金の様なマルゴットを力づくで止めるのは容易だ。

「思いとどまってちょうだい! 後で拾いに行きましょう!」

 2人の攻防を見ていたからなのか、役人は「ハーターシュタインの女は恐ろしい」等と呟いている。これから会うハイネにある事ない事吹き込まれてしまいそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...