邪悪な力を持つ義妹に、どうやら王都一強くされてしまったらしい

だるま 

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継承誤認?

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 黒い球体が吸い込まれた辺りから何者かが出現した。

「潰れなさい!」

 低い女の声と共に、十字型の何かが複数個放られる。

「やばい!」

 僕は腰から短刀を抜き、それらを全て叩き落した。
 家や学校で戦闘訓練を積んでいるというに、結構ギリギリ。この人は結構なやり手なのかもしれない。

 白い床に落ちたブツを素早く観察してみると、随分珍しい武器だった。
 手裏剣という名前だったかな? 東方のジョブ――ニンジャが投げて使う物だと記憶している。

 僕等に奇襲した女は猫の様に身軽に降り立つと、コチラを鋭く睨みつける。
 
「貴方達はさっきの……」

 声で何となく察していたけど、来訪者は今日何度か遭遇したニンジャ、シオン・イオリだった。先ほどは淡泊な印象だったのに、今の彼女は怒りを露わにしている。

 怒りたいのはこっちだっての。

「出会いがしらに攻撃するだなんて、随分な挨拶だね」
「勝手に割り込んだ曲者《くせもの》には容赦しないわ」
「割り込んだ? 僕達が?」
「そうよ」

 何を言っているんだろう? もしかしてダンジョン入口前でのこと?
 それだったら、この女の方が前に並んでたんだから問題ないはずだよ。
 僕自身が若年性健忘症にかかっているかもしれないので、念のためアジ殿を見てみると、人間には不可能なほどに首を傾げている。

 良かった。変なのはこの女の方だ。
 自信を持って向き合おうじゃないか。

「考え違いをしていると思うよ。さっき僕達は君の後ろに並んでいた。どう割り込んだっていうのさ」
「それは問題じゃない。ただ、ダンジョンに入る前に、貴方達は何かしたんでしょう? じゃなかったら、私が表のダンジョンに行き、貴方達がここ――裏側に来るはずないもの」

 話の内容が意味不明だね。
 今聞いた事から頑張って想像してみると、①シオン・イオリはテンプテッドフォレストの裏側に何らかの方法で入ろうとした ②しかし僕等に謎の現象が起こり、優先して入れた ③今はシオン・イオリも入れるようになった。
 こういう流れだったりするのかな?

 僕等からすると、無駄足を踏まされて腹立たしいだけなんだけどね。

 でも、ここは寛大な心で接して、正規のダンジョンに戻してもらうのが得策じゃないかな。僕等にとって裏側は意味のない場所だし。

 アレコレ計算する僕の胸の内を知ってか知らずか、ステラがシオン・イオリと交流を試みている。

「お姉さんっ! ここから出してほしいです。黒いボールが、兄ちゃんを痛めつけて消えたったし、デンジャラスなんです!!」
「黒いボールってまさか、黒い太陽のこと? 儀式が完了してしまったという意味? そこの子供にアビリティを奪われた?」
「う? 何のことか分かんない。でも兄ちゃんいっぱい強くなったかもです~」
「……」

 シオン・イオリのアイスブルーの瞳が、信じられないようなものを見るかのように僕を凝視する。

「アレに入っていたのは、死んだ父が私の為に遺してくれたアビリティだったのよ! 返して!」
「アビリティが遺産……?」
「それはあり得ぬことだ」

 大人しく成り行きを見守っていたアジ殿が神妙に口を挟んできた。

「人間風情がアビリティを管理し、次世代に受け継ぐだと? 何か勘違いしておるのではないか?」
「勘違いではないわ。遺してくれたのはテンプテッドフォレスト裏側へのゲートを開く方法。情報だって充分な遺産よ。ドラゴン風情が口を挟まないでね」
「ドラゴン風情だと!?」
「まぁまぁ君達、お互い様なんだし……」

 シオン・イオリの言い分は理解出来なくもない。
 実際僕もご先祖様の日記だよりにダンジョンを攻略するつもりだったしね。
 だけど、僕がアビリティを返す相手はこの女じゃなくて、ステラちゃんの方じゃないか?
 あの黒い物体は僕じゃなくてステラちゃんを認めていたんだからさ。
 っていうか、そもそも返し方が分からないんだよ。
 諦めてもらうしかない。

「アビリティは君の物ではないよね。他のを探せばいいんじゃないかな?」
「これ以上話しても無駄なようね。だったら……貴方を殺して、アビリティを“黒い太陽“の中に戻せばいいわ。【刹那】!!」

 スキル名らしき言葉を口にするやいやな、シオン・イオリの姿が消えた。
 いや、違う。あのスキルはスピード上昇効果があるんだ!
 上か!!

 空気の流れの変化から敵対者の動きを察知する能力。それは13年間の訓練で培われた。
 あの女の移動で巻き起こった風は明らかに上方に向かってる。

 頭上でクロスした短刀で、女の刀を受け止める。
 雷撃の一つも喰らわせたいところだったのに、さすがはニンジャ。身軽な動きで僕の後方に降り立つ。

 あ、後ろもまずい……。
 頚椎を切られたら、即死するし!
 ヒヤリとした僕は身体の向きをずらす。
 間髪入れず刀が切った位置はまさに僕の首の辺り。

 本当に殺しにきてるみたいだねっ!

 スピードにはスピードで対抗しよう。
 風の攻撃魔法の一つ【疾風】を行使し、【属性付与】というアビリティで肉体と短刀を強化する。これで速さで負けるってことは無くなりそう。
 僕だけはね……。
 気がかりなのはステラちゃんの方。

「アジ殿! ステラちゃんを収納して!」
「う、うむ」

 風の力を得た四肢はさっきとは比べ物にならないほど良く動く。
 あとはシオン・イオリの動きを目で追いかけきれるかどうかだ。
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