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歌姫と自然の摂理

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 ハンスはちらりと、自分が仕留めたウサギを確認して小さなウサギを一瞥する。ウサギ――母ウサギを失った子ウサギはそんなハンスとエリーゼの元からさっと逃げ去っていった。その後ろ姿を見つめるエリーゼは、しばらく丸い尻尾を目で追いかけていたが――ふいに、「ねぇ、ハンちゃん」と声をかける。

「今の子ウサギ……ハンちゃんが獲ったウサギの、子どもなのかな」

「……そう、だな」

 ウサギがいなくなった場所に目をやったまま、静かな声音で問いかけるエリーゼ。それにハンスは、少なからず戸惑った様子で答える。



「狩りだ!」とはしゃいでいた彼女も、目の前のウサギに家族がいたことを知って残酷と感じたのだろうか。美しく、無邪気だが何を考えているのかわからず、ただひたすらにハンスを翻弄するエリーゼ。その彼女も、目の前で「動物とはいえ家族を奪われた者を生み出してしまったこと」にショックを受けてしまったのか。そう、考えたハンスだったが――別に、それを「申し訳ない」とか「気の毒」とか感じることはなかった。



 ハンスにとって「狩猟」とはそういうものである。自ら誰かの命を奪い、その命によって自らの生活を成り立たせ、それの繰り返しで生きていく……この狭いコミュニティで、他人に関わる機会も少ないまま生きてきたハンスにとってその全ては自分自身でしなければならないことだった。



 だから、もしエリーゼがそれを詰るようだったら――いくらでもエリーゼに言い返す言葉が思いついた。

 生きるためには仕方ない。自然の摂理とはそういうものだ。植物にも動物にも命はある、それをいちいち「可哀想」だなんて言っていたら人間は生きていけない――そう身構えるハンスに投げかけられたのは、意外な言葉だった。



「ねぇ……ハンちゃんには、家族いるの?」
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