私は神に愛された歌姫だった

尾形モモ

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歌姫と子ウサギ

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 思わず「あっ」と声を出してしまいそうになったエリーゼは、そんな自分の口を慌てて塞いだ。一方のハンスはもう手馴れているのか、すぐに短剣の狙いを定める。



 それから右手を一振りすれば――次の瞬間にはもう、それがウサギの首元に深々と突き刺さっていた。



「っやった! ハンちゃん、すごい!!」

 思わず飛び上がるエリーゼをよそに、ハンスは顔色一つ変えない。ハンスにとってはこれぐらい当たり前のことなのだ。だからいちいち喜びもしないし、それを褒められることなんてないと思っている、だがそんなハンスに、自分の喜びを押し付けるかの如くエリーゼは何度も話しかける。

「すごい、たった一回でゲットしちゃうなんてハンちゃん本当にすごい! やっぱりハンちゃんの短剣裁きは最高ね、世界一だわ!」

「……うるせぇな」

 ハイテンションのエリーゼを相手に、ハンスは素っ気ない言葉を返す。



 ハンスはこうやって、狩猟をすることも実際に獲物を手にすることも珍しいことではない。むしろ、先ほどのエリーゼの歌声の方がよほど「すごい」と思ったが――興奮し、頬を赤らめ喜ぶエリーゼの姿を見るのも決して悪い気分ではなかった。



 最初は疎ましいとさえ思っていたエリーゼが、いつの間にか心に安らぎを与える存在となっている……その事実から逃げ出すように、ハンスは仕留めたウサギの回収に向かう。

 ウサギは首から真っ赤な地を流しているが、苦しんだ様子はない。幼いながら卓越したハンスの腕で、一切の苦痛なく仕留めることができたのだ。それを背後から寄り添い、追いかけるエリーゼはまた「あっ」と声を上げる。

「見て、ハンちゃん! あっちにも、小さいウサギがいるわ!」

 エリーゼが指さす先を見れば、言葉通りハンスが刺し殺したばかりのそれと似たようなウサギがいる。やや小さめの、それを一瞥するとハンスは自分が殺したウサギを持ち上げた。

「――あれ、コイツの子どもだな」
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