学野さんは学校にいたくない

まなびと緊張した教室

　まなびが振り返った瞬間、教室の空気が緊張して一気に張り詰めたものとなる。



　そこにいたのは朝も注目を集めていたイケメン、家野くんだった。

　そのさらに向こうでは家野くんの友人たちがこちらの動向を窺うように、チラチラとまなびの方を見ている。



　家野くんがこちらに来たのは、きっと彼らの差し金だろう――瞬時にそう悟ったまなびは自分でも驚くほど冷え切った声で返事をする。

「……何」

「あ、いや、その……俺にもビスケット、一つくれないかな……？」

　その言葉が教室に響いた瞬間、その場にいた女子たちの突き刺すような視線が家野くんに注がれる。

　何かと思えばおねだり、たかり。脈絡のないそれに、良い印象を持つ人間なんて多くないだろう。

　しかも――おそらく家野くんの本当の狙いは、「ビスケットがほしい」という単純なそれではない。

　男子はまなびたちほど、甘いものが好きというわけではない。にも関わらず、わざわざまなびに話しかけてきたその真意。下心を感じるな、という方が難しいだろう……まなびは口を開こうとするが、そこに割って入る声がある。



「――家野くん！　次の授業でちょっと教えてほしいことがあるの！」



　言いながら、家野くんの袖をしっかりと握り微笑んでみせるその少女は朝のあの可愛らしい少女だった。