学野さんは学校にいたくない

まなびと落書き

　朝から嫌な思いをしたまなびは、授業が始まるとすぐに別のことを考えた。



　ノートを開き、適当なタイミングで教師の目を見て、それからテストで成績を残せば「きちんと授業を受けている」と判断される。先生によっては面白い雑学や小ネタを挟んでくれるので、それをメモすることもあるが他の話はほどほどに聞き流すことにしている。それがまなびの授業中のスタイルだ。

　通常の授業ノートに隠した、自分ノートにまなびは落書きを始める。まなびは美術の成績も悪くないが、好きなのはイラストだ。漫画のキャラの模写やデフォルメ、オリキャラや動物などゆるキャラっぽい絵を描くのも面白い。最近、まなびがよく描いているのは羊の絵だ。



　丸を描いて、ぐるぐるっとした耳をつけて、それからふわふわの毛を描く。色んな表情をさせたり、同じような羊をたくさん描くのも面白い。

（基本、動物の絵は丸が描けたらOKだよね）

　三角の耳をつければ猫、長い耳をつければウサギ、丸い耳をつければ熊。アレンジが簡単だ。



　――だけど、綺麗な円を描くのは結構難しい。

　とある有名な漫画家はフリーハンドで、正円にも近い美しい丸を描けたという。さすがにそこまで上手に描くことはできないが、左右がアンバランスにならないようにしたり繋ぎ目を目立たないようにしたりして「より綺麗な丸」を目指すことはできる。

　ノートにシャーペンを走らせるまなびは、真剣に丸を描く。何回も消しゴムをかけ、綺麗にできればそこに目鼻をくっつける。この目鼻のバランスも、絵としての全体的な可愛さに関わるので気が抜けない。これが一番、完璧だと思えるパースで羊の顔を描く。



「――次、学野」



　真剣に落書きを描いていたまなびを、はっきりした口調で呼ぶ者がいる。それまで一方的に喋っていた先生が、いきなりまなびを当てたのだ。

　まなびはそれに臆することなく、「はい！」と元気よく返事をした。