学野さんは学校にいたくない

まなびと家野くん

　まなびの周りにいたクラスメートが、心なしかざわついたようだ。



　それは優しく、人当たりのいいまなびが現れた時の喜ばしいものではない。

　例えるなら美しい花園にうねうねと動く毛虫が現れたような、美味しい食事をしている時に髪の毛が入っているのを見つけてしまったような感覚。中には侵入者を拒むような、敵意を見せる級友すらいた。その射殺すような視線に釣られる形で、まなびはその声を発した人物に目を向けてしまう。



　まなびと違い、うっすらと赤みのかかった癖っ毛をボブヘアーにした少女。

　背が低く、まなびのような目を見張る美貌はないが可愛らしいタイプの女子だった。その彼女が上目遣いに、「家野くん」と呼ぶ男子生徒へ纏わりついている。

「あぁ、おはよう」

「ねぇ家野くん、聞いて聞いて！　昨日は弟たちがご馳走をいっぱい作ってほしいっていうから、私が夕飯をいっぱい作ったの！　そしたら『明日も食べたい』って言うから、今日は弁当に入れてあげて……」

　自慢げに、しかし甘えるような口調で彼女は家野くんとやらに語り続ける。



　家野くんは見た目も良く、女子生徒にも人気の出そうな見た目であるがその少女に困っている様子はない。

　ベタベタ、馴れ馴れしいとも言えるほどの距離なのに彼はそれを拒むつもりはないようだ。教室の空気が白けたものになっていることを知らず、二人は好きなように会話を続けている。

「嫌だね、あれ。朝からうざいよ」

　言いながら、まなびを取り囲んでいた女子がチラチラとまなびの様子を窺う。



　まなびと家野くんは一瞬、目線を交わしたが――すぐに、ばつが悪そうに目を逸らした。